ダカールラリー2012

2号車が戦列から去り、1号車の孤独な戦いが始まる

孤独な戦いとなったものの、気持ちを切り替えて新たなステージに挑む1号車

孤独な戦いとなったものの、気持ちを切り替えて新たなステージに挑む1号車

サポート役であった2号車がいなくなってしまい、1号車(三橋ドライバー/ゲネックナビ)の孤独な戦いがここから始まる。同じ車両で部品の共有ができ、同じ構造の車両を知っているメンバー2人が戦列から外れてしまったのは大きい。だが、チームは気持ちを切り替えて、その後の競技に望んだ。

1号車は、第4ステージ以降もリズムが上がらないものの、堅実な走りで市販部車門首位をキープする。ただし、2位以下を大きく引き離せない。
市販車部門での最大のライバルは、スペイントヨタがサポート、X・フォジ選手が運転するランドクルーザー・プラドだ。

車両の特性上、TLCのランドクルーザーは、堅牢であるため、長距離の競技になればなるほど有利に働くが、今回のラリーのSS(競技区間)では距離が例年より約1000km短く、これも2位以下を引き離せない一つの要因でもある。

難易度の高いコースを順調に進み、前半戦の最終行程を市販車部門トップタイムで終了した1号車

難易度の高いコースを順調に進み、前半戦の最終行程を市販車部門トップタイムで終了した1号車

第6ステージは、アルゼンチンからチリの国境を超えるコースを予定していたが、積雪のためレースがキャンセルされ、さらに総走行距離が短縮された。当日は、別ルートで山脈を越え、チリのコピアポへ入る600kmの移動日となり、アルゼンチンを後にした。この時点では、2位との累積タイム差は20分弱と、トラブルに見舞われるとすぐに逆転される僅差であった。

第7ステージ(1月7日)からはチリでの戦いが始まった。
8日の休息日を挟み、第9ステージ(1月10日)までの間、砂丘、フェシュフェシュというパウダー状の砂、標高2,000m超の丘陵と難所が続く中、1号車はスタックするなど細々としたトラブルには見舞われるものの、ようやく調子を取り戻してきた。2位のX・フォジ組(トヨタ・ランドクルーザー・プラド)が大きく遅れをとったこともあり、累積タイム差は1時間43分まで広げた。

だが、昨年の大会では第9ステージ終了後には約13時間の差を広げている。大きな差をつけられないことが、ラリー終盤に差し掛かるにつれTLCに大きく響いてくることとなる。

終盤、相次ぐトラブルに見舞われ冷静さを失いミスを誘発

硬いグラベル(砂利)、フェシュフェシュ(パウダー状の砂)、砂丘と続くコースの抜け方を冷静に見据えながら走行する1号車

硬いグラベル(砂利)、フェシュフェシュ(パウダー状の砂)、砂丘と続くコースの抜け方を冷静に見据えながら走行する1号車

第10ステージ(1月11日)はチリでの最終ステージとなる。硬いグラベル(砂利)、フェシュフェシュ、砂丘と続く。
ここで1号車は大幅なタイムロスを発生してしまう。
砂丘区間の中にある台地で痛恨のミスコース。多くの車両がルートを見失って右往左往する中、元のコースに戻るのに約40分をロスしてしまった。これはトップを走る車両の宿命のようなものである。というのは、トップを走る車両は道の無い砂丘に、最初に道を描く役割もあるからだ。後続車は、トップの車両が描いた道(轍)をガイドに走っていける。改造車部門の車両が先行してはいるものの市販車部門の車両は、動力性能の面からも同じルートでは走しりきれない。

さらに、砂丘エリアを走行中に水温計の温度が異常に上昇しだす。点検したところラジエーターより、冷却水が漏れるトラブルが発生していた。ステージ毎にスタートしてからゴールするまでの間に起きたクルマの故障は、ドライバーとナビゲーターで修理しなければならない。三橋ドライバーとゲネックナビはその場でラジエーターを外して漏れ止めの応急措置を行い、走行を再開したが、ここでも大幅なタイムロスが発生してしまった。
チリの最終ステージを終えた時点では、市販車部門首位は維持したものの、2位との累計タイム差が59分に縮まっていた。

エンジン周りの点検を進める阪本歓喜メカニック

エンジン周りの点検を進める阪本歓喜メカニック

森達人監督にステージの状況を説明する三橋淳ドライバー

森達人監督にステージの状況を説明する三橋淳ドライバー

第11ステージ(1月12日)からは、いよいよ終盤に入り、今年から加わったペルーでの戦いに移った。ここも砂地、砂丘と難所の連続となるコース。
第11ステージは手堅い走りで終えたが、第12ステージでは再度、ラジエーターに穴が開くトラブルに見舞われ、大幅なタイムロスを余儀なくされた。砂丘走行中に、ラジエーターに穴が開くというトラブルは、これまで長年ダカールラリーを戦ってきた中ではじめて起きたトラブルで、抜本的な対策は打てなかったが、ラジエーターを丸ごと新しいものに交換して、レースに臨んでいた。にもかかわらず、トラブルが再発してしまった。

終盤、3ステージしか残されていない時点での大幅なタイムロスに、三橋ドライバーにあせりがでる。各ステージ、スタートしてしまうとゴールするまで、ライバルチームとのタイム差が分からない。もしかしたら逆転されたのではないか、挽回するチャンスも残り少ない、との思いから、リスクのあるルートに果敢にチャレンジしてしまった。その結果、スタックを喫し、さらにタイムロスを負うことになる。
三橋ドライバーをその時の心境を語る。
「これまで起きたことの無いラジエーターのトラブルが発生した。それも1度ならず2度起きました。この時ばかりは冷静になれなかった。」

第12ステージを終わった時点で、首位を譲り2位に後退。しかもこの時点で累計タイム差1時間11分の遅れをとってしまった。

市販車部門2位でフィニッシュ、前人未踏の市販車部門7連覇ならず

市販車部門2位でフィニッシュしゴールセレモニーに臨む1号車

市販車部門2位でフィニッシュしゴールセレモニーに臨む1号車

残されたのは第13ステージと最終ステージ(第14ステージ)のみ。1号車はあきらめずに走り続け連日SS(競技区間)トップでゴールした。首位とのタイムを縮めるものの、追いつくことはできず、1月15日、ペルーのリマに市販車部門2位でのゴールとなった。
ダカールラリー市販車部門7連覇の夢が断たれた瞬間でもあった。

ダカールラリーは、「全ての完走者が勝者である」といわれるほど完走することが難しい。そういったことからも、ゴール地点のリマでは、観衆が完走したチーム・選手達を温かく迎える。TLCの1号車は、市販車部門準優勝ということで、ポディウム(表彰台)で表彰された。

ポディウムで声援に応えるトヨタ車体水嶋会長、TLC太田代表、選手、スタッフたち

ポディウムで声援に応えるトヨタ車体水嶋会長、TLC太田代表、選手、スタッフたち

この時の心境を森監督は語る。
「目標であった市販車部門で連覇することができなかったことは非常に残念でした。本音を言うと、ポディウムで喜んでいいものか、とも思いました。それでも1号車が準優勝し、完走できなかった2号車も含め、これまで頑張ってきたチームの今シーズンの節目として、みんなをねぎらう意味でも笑顔でポディウムに立とうと思いました。」

TLCのダカールラリー2012での戦いは幕を閉じた。
前人未踏「市販車部門7連覇」の夢は叶わなかったが、TLCのダカールラリーへの挑戦はこれからも続く。

今シーズンの戦いを終えて。そして2013年に向けて

ダカールラリー2012を終え、1月後、チームの主要メンバーを取材。
各メンバー、応援していただいた皆様への感謝のコメントをいただくとともに、今シーズンの戦いについて、コメントをいただきました。

三橋ドライバー
■三橋ドライバーからのコメント
「今回、勝てなかった理由は、簡単に言うと、新しい国、ペルーが加わったこと。同じような砂、路面に見えても、場所が違うと、クルマにでてくる症状が違った。
また、序盤からアクシデントが続きリズム的に良くなかった。今、思うと、ファラオラリーの最終日のアクシデントから引きずっていたのかもしれない。過去のダカールラリーで一度も経験をしたことの無いトラブルも起き、今回ほど運に見放されたことはなかったですね。
それでも踏ん張ってきましたが、最後にやられました。ピンチに立たされた時でも平常心でいることができなかった。ラリーの神様に『今回は優勝するのを諦めてください』と言われた気分ですね。
来シーズンにむけて、これからは、もっと神経の図太い、何事にも動じないふてぶてしいと言われるくらいの、三橋になりたいと思います。」
寺田ドライバー
■寺田ドライバーからのコメント
「2年目ということもあり、国内訓練を中心にしっかり練習をしていただき、2号車の底上げを、三橋ドライバーをはじめチーム全体でしてくれた。今回のレースでは、序盤とても良いレースができました。序盤が良かったので慢心もあり、リタイヤということになってしまったかもしれません。完走しないと2号車の意味がないということを失敗してから分かりました。次回のチャンスがあれば、是非、完走したいと思っております。」
田中ナビ
■田中ナビからのコメント
「今回は2年目ということで結果が求められ、去年より良い順位を取ることを目的としていました。初日はナビゲーターとして本調子ではなかったが、徐々に調子をあげていこうと思い頑張りました。2日目3日目と自分でもうまくナビゲーションできたと思います。リタイヤしてしまい、とても悔しいのですが、私自身はナビゲーターとして、今回が最後のダカールラリーになりますが、これからは、これまで自分が経験したことを、次に社員ナビゲーターとなる後輩に伝えることができたらいいと思います。」
森監督
■森監督からのコメント
「7連覇という皆さんの期待を背負って望んだのですが、終わってみて自らの未熟さを痛感しました。選手やスタッフ、チームのメンバーは十分に頑張ってもらったのですが、チームを優勝に導くことができませんでした。
本当に強いチームは起こりえないトラブルにも対策を打っている。だから、常に勝ち続けることができている。今回はそれができていなかった。勝ち続けていたことによる油断が招いてしまった結果だったと思います。
応援していただいた方々、トヨタ車体社内関係者、周囲の方々に、「こういうこともある、次がんばろうよ!」と温かい言葉を言っていただいたことが、とてもありがたかったです。次は一から挑戦者の気持ちで優勝目指してがんばります。」