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SUPER GT 2015年 第4戦 富士 エンジニアレポート

ZENT CERUMO RC F

パワーアップに主眼を置いた今季2基目のエンジンで
公式練習からLEXUS勢の速さがさく裂!
トヨタテクノクラフト株式会社
TRDモータースポーツ開発室・エンジングループ 佐々木孝博エンジニア

2015年シーズンも中盤を迎えたSUPER GT。第4戦となる今回からは、シーズン2基目のエンジンが投入されています。前回までの1基目のエンジンから、どのような進化を遂げたのか? さらに今後に向けて、どのような展開となって行くのか? このシーズン2基目のエンジンを軸に、シリーズ第4戦をTRD(TOYOTA RACING DEVELOPMENT)の佐々木孝博エンジニアに振り返っていただきました。

パワーアップの効果が明らか
38号車が公式練習から公式予選まで全セッションでトップに


TRDモータースポーツ開発室・エンジングループ
佐々木孝博エンジニア
 いつもLEXUS RC Fに熱いご声援をいただき、ありがとうございます。SUPER GTも第4戦を迎え、GT500クラスに供給するLEXUS RC Fは、今季2基目のエンジンを搭載してレースに臨みました。主にエンジンの開発・チームサポートを行っているTRDの佐々木が、第4戦の戦い方をお話しいたします。
 総括して言うなら、やってきたことが結果に結び付かなかった。具体的にはエンジンが(今季)2基目と言うことで性能、パフォーマンス的に大幅にアップしたものを用意してきたのですが、予選では見事なパフォーマンスを発揮できましたがレースでは期待した結果(優勝)を残せなかった、ということになります。
 我々にとってのホームコースである富士スピードウェイでのレース、今回から2基目のエンジンになる(※1)ということでタイミングを合わせて様々なアイテム(※2)を入れ込んできました。ドライバーからもストレートのトップスピードや加速において「あきらかな性能向上が確認できた」と高評価をもらいました。これまでライバル車両に負けていた部分、勝てていなかった部分で大きく進歩した手応えがありました。それが予選結果に繋がったのだろうと思っています。
 公式練習ではトップ4をLEXUS RC Fが独占する格好となりました。これを見るとほぼウェイトハンディの搭載が少ない順で、その意味からも各車そろって(新らたな)エンジンのパフォーマンスを引き出していたと判断しています。公式練習から公式予選に向けても各車順調にタイムアップを果たすのが通例ですが、Q2に進出した3台のLEXUS RC Fは、ちゃんとタイムアップを果たしています。これもまた予想通りの展開でしたね。

※1「2基目のエンジンになる」 SUPER GTではエンジンの使用を年間3基までに制限しています。開幕戦で1基目を使用した後、2基目、3基目のエンジンをどこで投入するかは自由ですが、4基目からは投入の度にペナルティが課せられます。
※2「様々なアイテム」 性能向上のために新技術や新しいパーツのことです。アイデアを具現化し、設計・開発からテストを経て実戦に投入されます。前回、第3戦のエンジニアレポートにある"タマを入れる"も同様の意味合いがあります。

ライバル相手に速さは見せつけたが
悔しくも決勝結果には結び付けず

前戦優勝の37号車(KeePer TOM'S RC F)は40kgのウェイトハンディが効いて6位となった
予選トップのZENT CERUMO RC F 38号車は
悔しくも決勝を2位で終えた
 決勝では、序盤は38号車が快調に飛ばしてリードを拡げる展開でした。これも(新)エンジンのパフォーマンスが引き出せた結果だと思いますが、レースになってちょっと勝手が違いました。例えば、特にこの富士ではスリップストリームを上手く使える空力性能だったりとか、タイヤに優しいと言うか、タイヤのパフォーマンスを有効かつ効率的に引き出すサスペンションだったりとか、クルマトータルのパッケージ(※3)で戦っているわけで、やはりレースはそれ(エンジンのパフォーマンス)だけじゃライバルに勝てない、ということですね。
 レース終盤、38号車と1号車が争った場面で、セクター3で追いつかれた38号車が、ストレートで1号車を引き離すシーンが繰り返されましたが、あれは1号車がリストリクターで燃料を絞られているからで(新)エンジンのパフォーマンスが上がったこととは直接関係なかったと思います。それでも「初めて(GT-Rを)抜くことができた」とコメントするLEXUS RC Fドライバーもいて"速さのアドバンテージを取り戻せたかな"とも思っています。
 あと、日曜朝のフリー走行でLEXUS RC F勢の多くが下位に沈んでいたのは何故? と聞かれる方もいましたが、あの時間帯は、燃料をどのくらい搭載して、どのくらい走ったタイヤを装着して、と決勝に向けて各チームがそれぞれの作戦に則ったメニューで走っている(※4)から、LEXUS RC Fが揃って下位に沈んでいたのは"たまたま"としか言いようがないですね。ただ、ライバルが1分31秒台のタイムを連発していることに対しては『調子がよさそうだな』と思ったのは事実です。もちろんLEXUS RC Fも、その気になれば(タイムを出しに行ったら)あのくらいは出せるだろう、とも思っていました。

※3「クルマトータルのパッケージ」 いくらエンジンからハイパワーを絞り出しても、シャシー/車体がそれを活かしきれなければ速く走ることはできません。つまりエンジンとシャシー、そしてタイヤ、もちろんドライバーも含めてトータルで速く走ることが必要です。
※4「それぞれの作戦に則ったメニューで走っている」 決勝日朝のフリー走行では各チームが、決勝での課題を確認、テストする時間に使います。例えばスタート直後の満タン重量でどこまで速く走れるか? あるいはこの気象条件での燃費やタイヤ消耗度はどうか? など決勝に直結する"テスト"をしています。このフリー走行は概ね決勝での想定タイムとなりますが、このような訳でタイムはあくまでも"参考"でしかありません。

2基目のエンジンはSUGOまで使用の予定
燃料リストリクターによって状況はどう変わるのか


今回のデータを分析し、次回の鈴鹿戦で優勝を目指す
 今季2基目のエンジンは、この後第5戦鈴鹿1000kmと、予定ではスポーツランドSUGOの第6戦にも使用することになっています。シーズン3基と言うことで開幕戦から第3戦、今回の第4戦と次回の鈴鹿1000km、そしてSUGOの第6戦から最終戦までと区切るのがマイレージ的には妥当(※5)、とする意見もありますが、3レース、3レース、2レース、と分割する方向で、マイレージも(鈴鹿の1000kmレースを入れた)3レース分をカバーできるように設定しています。マイレージだけでなく、真夏の暑い中のレースとなることで、エンジンにとっては随分タフな3レースとなるはずですが、もちろんそれは織り込み済みです。
 ここから先はリストリクターで燃料を絞られる(※6)ケースも増えてきますが、燃料(の流量)を8.5%絞られることになれば、原則的にはそれだけパワーダウンし、それに伴って燃費も良くなります。細かな数値は言えませんが実際には8.5%までのパワーダウンにはなりません。燃費が良くなることで、鈴鹿1000kmでのピットストップ回数が気になるところですが、レギュレーションで(ピットストップは)4回以上となっているから現実的には4回ストップか5回ストップのいずれか。燃料リストリクターを絞られていたら基本的には4回ストップの5スティントという作戦になると思います。

※5「マイレージ的には妥当」 通常の300kmレースだと公式練習から決勝までで合計600kmほど走行する。ところが鈴鹿1000kmでは1300km程度走り込むことになり、第4戦から第6戦まで走ると約2500kmも走ることになるからマイレージ的には1〜3戦、4〜5戦、6〜8戦と分割した方が3基それぞれ平均的になる。 ※6「リストリクターで燃料を絞られる」 SUPER GTのルールとして、第2戦から第6戦までは獲得ポイント数×2kgのウェイトハンディを搭載します。GT500に関しては、ウェイトハンディが50kgを超えると、50kg分と想定されたハンディになるよう燃料流量リストリクターを定められた流量に絞って相殺し、50kgを超えた分だけウェイトを搭載します。 例えば第4戦の37号車はウェイトハンディ60kgですが、燃料流量リストリクターを1段階絞り、実際のウェイト搭載は10kgとなります。