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SUPER GT 2015年 第8戦(最終戦)もてぎ エンジニアレポート

ピットで作業するLEXUS GAZOO Racingの各チーム

37号車がポール・トゥ・ウインで今季2勝目
年間ランキングでは4位が最上位と悔しい結果に
トヨタテクノクラフト株式会社
TRDモータースポーツ開発室・エンジングループ 佐々木 孝博エンジニア

2015年シーズンのSUPER GTもいよいよ最終戦。舞台となるツインリンクもてぎは、短いストレートを小さく回り込んだコーナーで繋ぐ、ストップ&ゴーと呼ばれるセクションの多いことで知られるサーキットです。SUPER GTの特徴でもあるウェイトハンディも、レギュレーションによって最終戦ではGT500クラスの全車が0kgとなっていて、より激しいバトルが繰り広げられました。LEXUS RC F勢ではポールポジションからスタートした37号車が、一度はライバルに抜かれたものの再度抜き返し、開幕戦以来となるシーズン2勝目を挙げました。逆転チャンピオンの可能性を残して最終戦に臨んだ38号車と36号車は、それぞれ5位とリタイアで、チャンピオンを逃すという悔しい結果で終わりました。このシリーズ最終戦を、TRD(トヨタテクノクラフト株式会社 TRD)の佐々木孝博エンジニアに振り返っていただきます。

タフな戦いとなった最終戦

TRDモータースポーツ開発室・エンジングループ 佐々木 孝博エンジニア
TRDモータースポーツ開発室・エンジングループ
佐々木 孝博エンジニア
 今年も毎戦のようにLEXUS RC Fに熱いご声援をいただき、ありがとうございます。シリーズ最終戦となった今回は、38号車と36号車に逆転チャンピオンの期待が掛かる大事なレースとなりました。公式予選が雨に見舞われ、決勝はウエットからコースが次第に乾いていくと言う難しいコンディションとなりました。ポールからスタートした37号車が激しいバトルを展開した末に優勝を飾りました。しかし、38号車と36号車は苦戦を強いられ、結果的にタイトルを逃してしまいました。今回は、ツインリンクもてぎで行われた最終戦に加えて今シーズンの戦い分析と、来季への取り組みついて、車両開発やチームサポートを行っているTRDの佐々木が分析してみました。

 今回の最終戦は、ノーハンディ戦(※1)と言うことで予選から厳しい戦いが続きました。路面のコンディションとしては予選が雨で、レースはダンプ(※2)からドライと変わってきましたが、3メーカーの車両には性能差はほとんどなく、週末を通じて「タフな戦いが展開されたなぁ」という印象ですね。タイヤも違えばドライバーも違うし、もちろんチームによってセッティングも同じではないから、セクタータイム(※3)では優劣がつくところもありましたが、1周回ってくるとほぼタイム差がない、ということで接戦になったのでしょう。

※1「ノーハンディ戦」 SUPER GTのウェイトハンディの規定では、第2戦から参戦6戦目までは獲得ポイント×2kg、参戦7戦目には獲得ポイント×1kgのウェイトを搭載します。参戦8戦目には獲得ポイントに関わらずウェイトハンディは0kgになります。GT500クラスの15台は全車が全戦に参戦したので、ノーハンディ戦となりました。
※2「ダンプ」 路面がウエットからドライに変わって行く途中に、まだ水で濡れている部分があるけれども乾いた部分も出あるという状況を"ダンプ"と言います。
※3「セクタータイム」 サーキットでは1周のラップタイム以外に、コースを3または4分割した区間(セクター)ごとのタイムも提供しています。スタートラインから最初の区間を第1セクターと呼び、以降が第2、第3となっています。長い直線があるセクターは高速重視の車両が速く、テクニカルなコーナー続くセクターは旋回性の良い車両が速いなど、セクターのタイムは車輌セッティングの目安にもなっています。

最終戦でもトラブルが発生
信頼性の部分で課題が残る

決勝でトラブルからリタイアしてしまったPETRONAS TOM'S RC F
決勝でトラブルからリタイアしてしまったPETRONAS TOM'S RC F
 今シーズンを振り返る前に、現行規定の初年度となった2014年について少し話させてください。この年はLEXUS RC F勢はリタイアがなかった。ところがGT-Rは数えたところ4件、ハードウェア(のトラブル)が原因と思われるリタイアがありました。我々の方が、ライバルに比べて信頼性が高かったから、最終戦にランキングトップで臨めるような、シーズンを通していい戦いができたのだと思っています。
 今年は、その部分(信頼性の高さ)を残しつつレベルを上げて行く、速さを追求していくことを心がけてきましたが、結果的にはそうできなかった。振り返ってみると毎戦、どこかのチームがトラブルに見舞われてしまっていました。今回もそうで、36号車が決勝でトラブルからリタイアしています。詳しい原因は分析中ですが、最初は(ギアの)シフト系に不具合が出てきたようで、おそらくは駆動系のトラブルだと思います。またこれは決勝レース中ではありませんが、6号車もオルタネーターを駆動するベルトが切れて決勝日午前のフリー走行をほとんど走れていませんでした。本件はレース中のトラブルではありませんでしたが、今年はこういった小さなトラブルも多く、中には何らかの形でレースへ影響してしまったケースも有ります。
 もう一つ大きな原因としては。レース中にGT300クラスのクルマと接触したりしてペナルティをもらってしまい、結果的に(優勝や上位入賞を)棒に振ってしまう、いわゆる取りこぼしも少なくありませんでしたね。
 それを受けて来シーズンに向けては信頼性を高めることと、ペナルティを受けないようにするのが大きな課題となってきました。38号車も第3戦タイでは優勝が狙える位置(※4)で戦っていながらブレーキのトラブルでリタイアに終わっていたし、前回のオートポリスと今回、オーバーランしてロスしてしまった。36号車も第6戦SUGOではエンジントラブルで大きく後退してしまったし、開幕戦岡山ではペナルティなどで取りこぼしてしまいました。"たら""れば"を言っても仕方ありませんが、あれがなければ、と言うことがいくつも浮かんできます。たしかに、車速も上がって来てギリギリの戦いになっているのも事実ですが、やはりペナルティを受けると取りこぼしにつながりますから。
 そしてこれは単にドライバーだけの問題ではなく、限界ギリギリまで扱いやすくすることでクルマとしてもペナルティを受けない状況をつくるように進化させようと思っています。

※4「優勝が狙える位置」 今シーズンの第3戦となった第3戦タイで38号車はポールポジションからスタートし、レース前半は激しいトップ争いを演じて2番手でピットイン。ピットアウト後の38号車はトップを追い上げていましたが、ブレーキトラブルでリタイアしてしまいました。

早くも動いている来季の開発
来年こそはタイトルの奪回を

優勝して有終の美を飾ったKeePer TOM'S RC F
KeePer TOM'S RC Fが優勝して有終の美を飾ったが、
来年こそはLEXUS勢がタイトルを奪回するために開発を進めたい
 37号車が優勝して有終の美を飾ったのは良かったのですが、やはりタイトルを逃してしまったのは悔しいですね。やはり我々はチャンピオンを目指してシーズンを戦ってきたわけですから、悔しい気持ちが先に立ちますね。
 SUPER GTではレギュレーションによって開発できる部分(※5)とできない部分があります。ですから当然、シーズンオフには可能な範囲で開発を進めることになると思いますが、そのためにも今シーズンの振り返りをちゃんとやって、もちろん今日の悔しさも糧にして、すでに立ちあがっている来年度車輌の開発プラン(※6)をもう一度見直して、来年こそはタイトルを奪回したい。そう思っています。
 繰り返しになりますが、今シーズンも、ドライバーへの応援ありがとうございました。ファンの皆さんの応援にタイトル獲得という形で答えられませんでしたが、この反省を糧に"もっといいクルマづくり"を行い、来年こそLEXUS GAZOO Racingのドライバーにチャンピオンの大杯を掲げてもらうよう、我々もがんばります。今後も、ご声援をよろしくお願いします。

※5「開発できる部分」 SUPER GTでは競技の安全性、公平性、そして開発コスト低減などを実現するため、車輌の開発に関しても様々な規定があります。その規定に添って来季の車輌を開発し、シーズン中もその範囲で開発を行うことになります。まだ一般には公表されていませんが、来シーズンは空力(パーツの)開発がさらに制限されることになっています。
※6「開発プラン」 レースの決まり文句で「最終戦が終わった時から次のシーズンが始まる」というものがありますが、実際にはもっと早い段階から来季車輌の開発計画は始まっています。すでにオフシーズンのテストの内容も決まっていたはずですが、最終戦の結果を受けて修正や新たな追加もあったようです。