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SUVで24時間レースに参戦!?
C-HR Racingがニュル24時間に挑む理由。

2016/05/26
  • text by 大串信
ニュルブルクリンク24時間レース

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SUVで24時間レースに参戦!?
C-HR Racingがニュル24時間に挑む理由。

  • 2016/05/26
  • text by 大串信
  • ニュルブルクリンク24時間レース
 TOYOTA GAZOO Racingは、今年のニュルブルクリンク24時間レースで新しい挑戦に踏み切る。

 すでに発表されている参戦布陣には昨年に引き続きLEXUS RC、今年度より参戦のLEXUS RCFの車名が並ぶが、今年はここに、TOYOTAが年内に発売を予定しているクロスオーバーSUV、TOYOTA C-HRをベース車両にしたC-HR Racingが新たに加わるのだ。スポーツカーが主体のレースに、車高の高いSUVカーが参戦するのは、極めて異例のことだ。

SUVのマシンでニュルを走るって???

 C-HR Racingを開発したトヨタ自動車株式会社MS製品企画・古場博之(コバ ヒロユキ)は、量産C-HR開発チーフエンジニアを務め、自らも競技車両のステアリングを握ってレースに参加する“変わり種”である。C-HR Racing開発の経緯について古場が説明する。

 「みんなに、『あれをニュルブルクリンクに持っていくの?』と言われます。確かに、レースでの順位だけを求めるならもっと背の低いクルマを持っていくべきなんでしょうが、ヨーロッパのマーケットを主眼に開発したC-HRの性能を証明し、アピールし、さらに鍛え上げて仕上げるためには、C-HR Racingで参戦するべきだと思ったんです。

 ヨーロッパの人たちは、見通しの悪い狭い道でもうまく対向車のスペースを残して走っているのでスムーズにすれ違えます。そのためには道を見極めてきっちりと走らなければなりません。C-HRはそれができるよう、しっかりとした足回りがきちんとストロークして、正確なステアリング特性を示せるようなクルマを目指して開発しました。ニュルブルクリンク24時間レース参戦を通してその成果を証明してアピールできればと思っています」

入社以前から、自分で開発したクルマのステアリングを自分で握ってレースに出たい、という夢を抱えていた古場は、今年のニュルブルクリンクにいよいよ自分で開発したC-HRを送り込む。

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レースに出れば、開発のスピードが上がる利点が。

 シェイクダウンテストはもちろん、ニュルブルクリンクで開催されたクォリファイレースでも古場はステアリングを握って走り、C-HR Racingの仕上がり具合を確かめている。

開発者自らが走ることにはそれなりに意味があると古場は言う。

「最大の利点は開発のスピードが高まることです。結果として同じ所へ行き着くにせよ、1台のクルマを仕上げる間には試行錯誤が必要で、テストドライバーの意見を聞いて考えるよりも、自分で実際にステアリングを握って感じたほうが詳細な現象がわかって、それならこうしようというアイデアがすぐに出てくることがあります。たとえばプロドライバーの影山(正彦)さんが『ちょっとリヤの安定感が足りない』と言ったとき、リヤの安定感と一口で言ってもコーナーのターンイン、ミドル、立ち上がりと状況によっても、速度域によっても、コース形状によっても意味がまったく違ってきますが、自分で乗っていれば確認のための質問もしやすく、より細かいクルマのセッティングの方向が見つけやすくなります。今の状態がどういう経緯でなり立っているのかが、自分で開発しているので、よくわかって対応もしやすいんです」

 もともとベース車両のC-HRの開発責任者であったことも良い方向で働いた。

 古場自身は以前から、C-HRでニュルブルクリンク24時間レースをはじめとするVLN(ニュルブルクリンク耐久レースシリーズ)を闘いたいと提案。昨年の夏に参戦が決定し、社内メカニックによる実際の作業が始まったのは昨年12月だったという。

実はTOYOTA 86と同じサイズ!?

 クロスオーバーSUVという性格のクルマにとって、サーキットでのレースというまったく異なる用途に向けた改造は難しく見えるが、外部から感じるほどではなかった、と古場は言う。

 C-HRはTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)のCプラットフォームを採用しているため、TNGAの部品群の中から用途に合うものを選び組み合わせることで、クロスオーバーSUVをうまくレース用に、それも短時間でアジャストしていくことに成功したのだ。

 「C-HRはクロスオーバーSUVということで背が高く、性能的にはどうしても不利なので車高を落として重心高を下げる必要がありました。ただ、C-HRは、TNGAのサスペンションメンバーにスペーサーをかませて車高を上げていましたから、それを取れば車高が下げられ、同じTNGAを使うプリウスと同サイズのタイヤが使えるようになります。

 このサイズはニュルブルクリンクのレースを闘ったことのあるTOYOTA 86と同じなので、実績ある競技用タイヤを流用できます。開発には苦労というよりおもしろさを感じました。クロスオーバーSUVでレースに出るのか、と驚かれますけど、そういう意味では作りやすかったんです」

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軽量化の果てにエンジンが残り、重量配分が前になる。

 C-HR Racingは、富士スピードウェイでシェイクダウンテストを済ませた後ヨーロッパへ送られ、4月16日に行なわれたニュルブルクリンク24時間レースに向けた6時間のQualifying Raceに出走、アクシデントに見舞われながらもSP2Tクラス2位、総合56位で完走を果たした。デビュー戦では影山正彦、佐藤久実と共に古場も2周ではありながら決勝レースを走り、仕上がりをチェックしている。

 その後、このレースで得られたデータをもとにC-HR Racingには熟成が加えられ、4月30日に行なわれたニュルブルクリンク耐久選手権・第2戦(VLN2)にも参戦(結果はリタイア)、本番のニュルブルクリンク24時間レースへの準備を整えた。

「VLN2ではトラブルが発生したものの(熟成が)良い方向へ進んだことが確かめられましたので、本番へ向けてもう少しやろうと思います。今の課題は、リヤの安定感を確保することです。クルマを軽量化していくとエンジンだけは残るので重量配分がどんどん前に寄ってしまいます。今はドライ路面でのグリップは確保できましたが、ウェット路面になると荷重移動が減ってくるのでどうしてもまだリヤの安定性が足りなくなる傾向があります。そこをもう少しなんとかしようと手を加えています」

過酷なレースを完走することで得られるものとは?

 C-HR Racingは、TOYOTA GAZOO Racingの1台として5月28-29日に行なわれるニュルブルクリンク24時間レースへの戦闘体制を整え、過酷な闘いに臨む。

「完走することが非常に難しいレースなので、順位よりもまずは完走を目指します。その過程でクルマを鍛えるための課題を見つけ出し、自分たちも成長しようと思います。完走するためには安心して走れることが重要です。安心して走れれば、周囲に注意を払って危機も回避できるようになるからです。クラス的には速いスピードの後続車を常に確認しながら走らなければいけないので、なおさら信頼して走れるクルマに仕上がっていないと完走できないと思うんです」と、古場は語る。

 ヨーロッパのあらゆる路面状況を備えるという1周約25kmのコースで、170台に及ぶ競技車両が24時間にわたって激戦を繰り広げる本番は、目前に迫っている。

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