Round7
全日本ラリー選手権 第7戦 北海道
レポート
全日本ラリー 2017年 第7戦 北海道 レポート

クラストップに躍り出た後コースアウトでリタイアとなるも
夜を徹した修復作業で再出走、最後まで走りきる

 2017年シーズンの全日本ラリー選手権第7戦「ラリー北海道」が、9月15日(金)~17日(日)に開催され、TOYOTA GAZOO Racingが投入する TGR Vitz CVT(大倉聡/豊田耕司組)はコースアウトでリタイアしたものの再出走し、ラリーを走りきった。
 前戦「ラリー洞爺」ではSS(スペシャルステージ・タイムアタック区間)ベストタイムを6回記録するなど、シーズン最初のグラベル(未舗装路)ラリーで、高い戦闘力と可能性を示したTGR Vitz CVT。2カ月半という長いインターバルを使い、チームは各パーツの状態を確認して、イチから組み上げるレベルの整備を敢行した。「距離も長く、スピード域も高いラリー北海道は、車両にどのような負荷がかかるか読めないラリーです。昨年も参戦していますが、何があってもしっかり対応できるように準備してきました」と、チーフメカニックの宮本昌司は語る。

修復した車両で懸命に走行を続けた大倉選手。路面には深い轍が刻まれている箇所もあり、ドライビングミスを誘う。油断は禁物だ。
一時はクラストップに立った大倉選手。路面は所々、轍やギャップ(路面の起伏)が刻まれている箇所があり、ドライビングミスを誘う。油断は禁物だ。

 CVTは洞爺での好結果を踏まえて、さらに乗りやすさを向上させるべく変速制御を改良。チームに帯同するCVT担当エンジニアの夏賀悠二は、「クルーからの要望もあり、より変速レスポンスを高めることで、最適なパワーバンドを常に使えるよう制御を突き詰めてきました」と、今回の改良点を明かす。一方、チーム監督の豊岡悟志は、「前回のラリーからずいぶん間が空いているので、実戦での感覚を取り戻すのが重要」と指摘。ドライバーの大倉聡選手も「自分のラリー勘をすぐに取り戻せるかが鍵になります。CVTの制御がかなり変更されているので、SSでその効果を試したいです」と語った。

修復した車両で懸命に走行を続けた大倉選手。路面には深い轍が刻まれている箇所もあり、ドライビングミスを誘う。油断は禁物だ。
一時はクラストップに立った大倉選手。路面は所々、轍やギャップ(路面の起伏)が刻まれている箇所があり、ドライビングミスを誘う。油断は禁物だ。

 3日間で192.28kmものSSを走行するラリー北海道は、金曜日に帯広市の北愛国サービスパーク近隣に設定された短いスーパーSSで幕を開けた。翌土曜日から本格的な林道での走行がスタート。大倉選手はSS4で2番手に10秒以上の大差をつけるSSベストタイムを記録し、JN3クラストップに躍り出た。ところが、順調なペースで走行していた大倉選手だったが、SS8でコースオフを喫してしまう。クルマのボディ前部に大きなダメージを負った結果、走行不能となり、ラリー続行を諦めることになった。
 そのままリタイアで戦線離脱する選択肢もあったが、チームは翌日の再出走を目指し、ラリーカーの修復を決定。夜を徹した作業で再び走行可能な状態に戻し、大倉選手を翌日のSSに送り出すことに成功した。「チームがこれだけ大変な思いをして修理してくれた以上、なんとしてでもフィニッシュまでラリーカーを運ばなければならないと思いました」と語った大倉選手は、最終日のSSもすべて走りきり、チームに貴重なデータを持ち帰った。順位こそ残らなかったが、「不測の事態への対応であらためてチームの成長を実感しました。それこそ、『もう私は必要ないかも』と、思ったほどです」と、豊岡監督はチームメンバーの成長に目を細めていた。

※2017年全日本ラリー選手権統一規則第13章第16条により、リタイア車両の再出走が認められている。この場合、順位やクラス別ポイントは獲得できず、デイ別得点のみ獲得可能とされる。

めざせ凄腕メカニック 2017 Vol.06
~結果に一喜一憂することなく集中して“前進”する~

◆豊岡悟志(チーム監督)
参戦テーマ:「自分自身で『気づき』を見つけ、“前進”する」
「今回の深夜におよぶ修復作業では、それぞれのスタッフが自分自身だけでなく、人の作業にまで気を配り、集中力を持って取り組んでいました。修復を進める中で、状況に合わせた臨機応変な対応を、宮本のリーダーシップのもと、適切に行っていたと思います。まだまだ“凄腕”という名前には及んではいませんが、間違いなく前進していると確信しています。このプログラムに携われていることの有難さに応えられるよう、更に前進してゆきたいと思います。」

大きなダメージを受けて自走不能になったTGR Vitz CVTがサービスに戻ってきたのは夜。破損箇所のチェックが念入りに行われる。
大きなダメージを受けて自走不能になったTGR Vitz CVTがサービスに戻ってきたのは夜。破損箇所のチェックが念入りに行われる。
想定外の作業にも冷静に対応した凄腕技能養成部のメカニックたち。各自の担当内容を確認し合い、効率的な修復作業が行われた。
想定外の作業にも冷静に対応した凄腕技能養成部のメカニックたち。各自の担当内容を確認し合い、効率的な修復作業が行われた。

◆宮本昌司(チーフメカニック)
参戦テーマ:「結果に一喜一憂せず、緊張感をしっかりと維持する」
「今回は久々のラリーで 又天候が目まぐるしく変わるウェットコンディションでスタートした事もあり、立ち上がりはチームとしても緊張感を持ってラリーに入っていけました。しかし、アイテナリーが進み、落ち着いてきた時トラブルが起こりました。その際の『空気の変わり目』に“気付けなかった”事を反省し、次に活かしていきたいと思っています。トラブルへの対応に関しては、メカニック全員の中に『諦める』という選択肢はなく、『直すぞ』という強い思いがありましたし自信もありました。そして、以前は外部関係者との調整や部品の手配などサポートを受けてやっていた部分もチームで動けるようになった点もチームの成長を感じました。いろいろあったラリーですが“やれたこと”“やれなかった”を整理し、必ず次への成長につなげていきます。」

◆夏賀悠二(CVT担当エンジニア)
参戦テーマ:「ドライバーからの要望に応え、CVTの制御改良を行う」
「前回の洞爺後、エンジン回転の挙動を安定させ、うまくパワーバンドに乗せて走行できるよう、CVTの変速制御を改良しました。これにより、コントロール性が上がり、速度もでていたはずです。それが実際のタイムにも反映されていました。大倉選手からも『かなり乗りやすく、パワーが出ている』とコメントをもらえたので、狙ったところはクリアできたと思っています。以前のラリー経験を踏まえて、その場で制御ソフトを変更する用意をしてきたのですが、大倉選手からは『このままで十分良いので、自分が頑張る』と言ってもらえました。ただ、データを見ていると、まだできることはあると感じています。95%で満足することなく、100%、それ以上を目指したいです」

◆豊田耕司(コ・ドライバー)
参戦テーマ:「ハードやソフトの改良を確認し、チームに的確なフィードバックを行う」
「コースアウトしてしまいましたが、車両はCVTの制御をメインに、かなり進化していました。これまで感じていた違和感がほとんどなくなっています。クルー側から洞爺後に上げていたテーマを、ほぼ解決してくれた印象です。それもあって、エンジニアへのフィードバックも、ポジティブな内容となりました。クルマは確実に良い方向に向かっているので、課題の量は減っているということですね」

大きなダメージを受けて自走不能になったTGR Vitz CVTがサービスに戻ってきたのは夜。破損箇所のチェックが念入りに行われる。
大きなダメージを受けて自走不能になったTGR Vitz CVTがサービスに戻ってきたのは夜。破損箇所のチェックが念入りに行われる。
想定外の作業にも冷静に対応した凄腕技能養成部のメカニックたち。各自の担当内容を確認し合い、効率的な修復作業が行われた。
想定外の作業にも冷静に対応した凄腕技能養成部のメカニックたち。各自の担当内容を確認し合い、効率的な修復作業が行われた。

PICK UP
豊富な海外ラリー経験を活かす、南野保&唐釜真一郎
(エムスポーツ YH SHAF デミオ)

 2017年シーズン、マツダ・デミオでJN3クラスに参戦するエムスポーツ。チームを率いる南野保選手は自身もドライバーとしてラリーに参戦。今回のラリー北海道は現行型デミオを南野選手が、先代デミオを唐釜真一郎選手がドライブしている。
 南野選手は学生時代にラリーチームを設立し、国際ラリーへの参戦経験も数多い。「10数年前からオーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、インドネシアなどの海外ラリーにも積極的に参戦しています。その経験が、ラリー北海道のような距離が長くハイスピードなラリーで活きていますね」と、南野選手。唐釜選手も「ラリー北海道のようにタフなラリーでは、『攻める』『守る』のメリハリが求められます。そう言った意味でも海外を走った経験が役立っていますね」と語る。

新旧2台のマツダ・デミオで参戦するエムスポーツ。手前左から南野選手、サント選手、唐釜選手、新井選手。南野選手はJN4クラス2位、唐釜選手は同4位。
新旧2台のマツダ・デミオで参戦するエムスポーツ。手前左から南野選手、サント選手、唐釜選手、新井選手。南野選手はJN4クラス2位、唐釜選手は同4位。

 今回、南野選手がドライブする現行型デミオは未舗装ラリー初投入ということもあり、電気系やサスペンションにトラブルが発生したものの、JN3クラスで2位表彰台を獲得。唐釜選手もJN3クラス4位でラリーを走りきった。
 全日本選手権以外にも、エムスポーツはTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジへの参戦も続けている。南野選手は、「ラリーチャレンジは各地でたいへん盛り上がっているカテゴリーですし、私自身やはりラリーが一番大好きです。全日本選手権と合わせてこれからも参戦し続けたいと考えています」と、笑顔で語っている。

新旧2台のマツダ・デミオで参戦するエムスポーツ。手前左から南野選手、サント選手、唐釜選手、新井選手。南野選手はJN4クラス2位、唐釜選手は同4位。
新旧2台のマツダ・デミオで参戦するエムスポーツ。手前左から南野選手、サント選手、唐釜選手、新井選手。南野選手はJN4クラス2位、唐釜選手は同4位。

もっとラリーを楽しもう

TOYOTA GAZOO Racing PARKでは、トヨタ・ヤリスWRCレプリカの展示のほか様々なアトラクションを用意。ドライバーとコ・ドライバーとなってラリーゲームを体験する「Rally Driveチャレンジ」も人気を博した。
TOYOTA GAZOO Racing PARKでは、トヨタ・ヤリスWRCレプリカの展示のほか様々なアトラクションを用意。ドライバーとコ・ドライバーとなってラリーゲームを体験する「Rally Driveチャレンジ」も人気を博した。

 アジア・パシフィックラリー選手権、ジャパン・スーパーラリーシリーズと併催されるラリー北海道は、全日本ラリー選手権シリーズ最大の一戦。帯広市郊外の北愛国交流広場に設置されたサービスパークには、たくさんの地元ファンが集まり、ラリーカーの整備風景を楽しんでいました。また、ラリースタート前に開催された恒例のラリーショーには、全ドライバーとコ・ドライバーが参加。ステッカーなどを配布したり、サインや記念撮影を行うなど、ファンとの交流が行われていました。
 また、「子供から大人まで、クルマを楽しめること」をコンセプトにしたイベント「TOYOTA GAZOO Racing PARK」も開催。タイヤボーリングやクラフトカー製作など様々なアトラクションだけでなく、ヤリ-マティ・ラトバラ選手らWRCドライバーを含む「TOYOTA GAZOO Racing CARD」が配布され、多くの家族連れで賑わっていました。

TOYOTA GAZOO Racing PARKでは、トヨタ・ヤリスWRCレプリカの展示のほか様々なアトラクションを用意。ドライバーとコ・ドライバーとなってラリーゲームを体験する「Rally Driveチャレンジ」も人気を博した。
TOYOTA GAZOO Racing PARKでは、トヨタ・ヤリスWRCレプリカの展示のほか様々なアトラクションを用意。ドライバーとコ・ドライバーとなってラリーゲームを体験する「Rally Driveチャレンジ」も人気を博した。

次戦予告

10月13~15日 全日本ラリー選手権 第8戦
「第45回M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズ2017 supported by Sammy」

10月13日~15日に開催される第8戦「第45回M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズ2017 supported by Sammy」は、全日本ラリー選手権で最も古い歴史を持つ伝統の一戦。拠点となるのは岐阜県高山市郊外の道の駅・モンデウス飛騨位山です。戦いの舞台は洞爺、ラリー北海道と続いたグラベル(未舗装路)ラリーから再びターマック(舗装路)ラリーへと移ります。シリーズも終盤に差し掛かり、多くの経験を積んだTOYOTA GAZOO Racingの戦いぶりにご期待ください。