Round9
全日本ラリー選手権 第9戦 新城
レポート
全日本ラリー 2017年 第9戦 新城 レポート

“地元”でファンに感謝を込めた走りを見せ
JN3クラス2位獲得

 2017年シーズンの全日本ラリー選手権第9戦「新城ラリー2017」が、11月3日(金)~5日(日)に開催され、TOYOTA GAZOO Racingチームが投入するTGR Vitz CVT(大倉聡/豊田耕司組)が、JN3クラス2位を獲得した。
 久々の舗装路ラリーとなった前戦「M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズ」では2位表彰台を獲得。昨年の新城ラリーで初めて全日本ラリー選手権に投入されたCVT車両に対し、チームでは2017年シーズンを通して制御面・ハード面と絶え間ない改善を重ねてきた。さらにこの最終戦の新城ラリーに向けては、舗装路での競技力向上を進めた。一方で、車体の下部を路面との干渉から守るパーツを小型化するなどして、4〜5kgの軽量化に成功。ドライバーの大倉聡選手は「舗装路では車重が軽いことは大きなアドバンテージになります」と、チームの努力に頭を下げた。
 長いシーズンを締めくくる最終戦に向けて、チーム監督の豊岡悟志は「新城ラリーはとても華やかなラリーですし、チームとしても浮き足立ってしまう局面があります。だからこそ、しっかりと地に足をつけて戦いたいです」と、表情を引き締める。チーフメカニックの宮本昌司も「ここは我々にとってホームラリーですし、会社の仲間や家族も応援に来てくれます。日頃の成果や、“チーム”として頑張っている姿も見ていただきたいですね」と、意気込みを語った。
 ラリーは3日(金)に新城文化会館で行われたセレモニアルスタートで幕を開け、翌4日(土)から新城市周辺の林道SS(スペシャルステージ・タイムアタック区間でありタイムが計測されるコース)へと向かう。天候は雲ひとつない秋晴れとなったものの、前週の台風の影響もあり、SSの路面は濡れている箇所もある。今回、新城ラリー初挑戦となる大倉選手は「新城ラリーはオフィシャル(大会運営のスタッフ)経験が長いので、勝手知ったるラリーではありますが、選手として出場するのは初めてです。ウェット区間は細心の注意が必要になるでしょうね」と、慎重に言葉を選んだ。

天候に恵まれた今年の新城ラリー。ラリーパーク内にもSSが設けられ、迫力のあるラリーカーの走りを間近に観戦することができた。詰めかけた多くの観客も大興奮した様子。
天候に恵まれた今年の新城ラリー。ラリーパーク内にもSSが設けられ、迫力のあるラリーカーの走りを間近に観戦することができた。詰めかけた多くの観客も大興奮した様子。

 序盤こそ抑えたペースでの走行となったものの、大倉選手はSS5で今回初となるSSベストタイムを記録。それ以降のSSもミスなく走りきり、クラス2番手で初日を折り返した。前日に引き続き、爽やかな快晴となったラリー2日目、大観衆が集まった新城総合公園でのSSをミスなく切り抜けた大倉選手だったが、続くSS10のスタートから1km地点で、右リヤホイールをコースサイドの縁石にヒットさせてしまう。
 右リヤサスペンションにダメージを負ったものの、リタイアすることなくタイムロスを最小限にとどめ、なんとかサービスまでクルマを持ち帰る。メカニックは45分という限られた時間でリヤサスペンションを交換。ペナルティを受けることなく、午後のSSへと送り出した。「しっかりと直してくれたチームには感謝しかありません。絶対に直してくれると信頼していました」と、語った大倉選手は、残されたSSを危なげなく走行し、クラス2位でフィニッシュを果たした。

天候に恵まれた今年の新城ラリー。ラリーパーク内にもSSが設けられ、迫力のあるラリーカーの走りを間近に観戦することができた。詰めかけた多くの観客も大興奮した様子。
天候に恵まれた今年の新城ラリー。ラリーパーク内にもSSが設けられ、迫力のあるラリーカーの走りを間近に観戦することができた。詰めかけた多くの観客も大興奮した様子。

 最終日にアクシデントはあったものの、順位を落とすことなくラリーを走りきったことに対し、「最終戦のクラス2位はチームにとっても大きな励みになりました。CVT車両をラリーに投入するという新たなチャレンジでしたが、実戦でしか得られない貴重なデータを得られたと思っています」と、豊岡は今シーズンの挑戦を振り返った。

めざせ凄腕メカニック 2017 Vol.08
~チームワーク、謙虚・感謝~

◆豊岡悟志(チーム監督)
参戦テーマ:応援も多く浮き足立つ環境のなか、地に足をつけて“愚直”に作業を行う
「昨年の新城ラリーはCVT車両のデビュー、最終戦、地元イベントということが重なり、“特別なイベント”という雰囲気がチームにありました。特別な一戦だからと、チーム全員が浮き足立っていた印象です。その反省を活かそうと、今シーズンはこの課題を挙げました。最終戦と言っても、我々がやるべきことはいつもと変わりません。今回に関してはそれぞれのスタッフが、その意識を十分に理解して作業できていました。でも、観客の皆さんに囲まれた環境の中での作業は、明らかに緊張が見て取れましたね。あらためて、『自分たちもまだまだだ』と思ったはずです。あとは、アクシデントが起こった後の対処も含めて、大倉選手とも信頼関係がしっかり生まれたと思っています」

サービスに訪れた多くのファンや観客からの熱視線に、メカニックたちも少々緊張気味。平常心で作業を行うことも凄腕メカニックへの大事なトレーニングのひとつ。
サービスに訪れた多くのファンや観客からの熱視線に、メカニックたちも少々緊張気味。平常心で作業を行うことも凄腕メカニックへの大事なトレーニングのひとつ。
チームメカニックの宮本昌司から作業の進捗具合などの説明を受けるドライバーの大倉聡選手とコ・ドライバーの豊田耕司選手。一戦一戦、ドライバーとメカニックの信頼が深まっていくのを感じられた一年だった。
チームメカニックの宮本昌司から作業の進捗具合などの説明を受けるドライバーの大倉聡選手とコ・ドライバーの豊田耕司選手。一戦一戦、ドライバーとメカニックの信頼が深まっていくのを感じられた一年だった。

◆宮本昌司(チーフメカニック)
参戦テーマ:昨年のCVT車両の走行データと比較し、現状の実力・進化度合いを明確にする
「同じレイアウト・距離のSSで比較すると、昨年のCVT車両と比較して5秒ほどタイムが向上していました。あらためて、CVTの制御面における進化を実感できました。また、ハードの耐久性に関しては、今回のラリーを通して余裕を持って走れていましたし、完成度が上がった印象を持ちました。第4戦の若狭で一度CVTが壊れたことで、限界を知ることができた点が大きかったです。負荷をかけた状態で走ることは、この全日本ラリー選手権を走る意義だと思っています。それも含めて、手強いライバルがいてくれることが大きかった。強敵に対抗しようと、我々も目標に頑張ることができました」

◆児島星(CVT担当エンジニア)
参戦テーマ:少しでもCVTへの負荷を減らしタイムアップを図るべく、油圧低減制御を織り込む
「最終日の昼間サービスで、今回のデータを踏まえて、制御のソフトを変更しました。実はもう少し早い段階で変更したかったのですが、解析に時間がかかってしまいました。CVT投入当初は、大倉選手からたくさんの課題を指摘されました。まずはCVTの信頼性を上げることに集中して、改良した変速制御をラリー北海道で投入以降、大倉選手からもとてもいいフィードバックをいただいて、最終的には満足のいくレベルになりました。でも、それだけ変わったということは、これまでできていなかったということの裏返しでもあります。シーズンを通して、若いエンジニアも色々な学びがあり、ラリーの現場で自主的に対策するなど、本当に貴重な経験ができたと思います」

◆豊田耕司(コ・ドライバー)
参戦テーマ:低速、高速と様々な性格を持つSSで、有益なデータを持ち帰る
「新城ラリーは、低速SSでも林道によって路面状況が全く異なり、ドライバーにとってもCVTにとっても厳しいSSが多かったと思います。それでもJN3クラスのベストタイムを1回獲得することができましたし、CVTに関する有効なデータを持ち帰ることがと思います。僕にとっては『CVTとは何か?』というところからシーズンが始まりましたが、1年間エンジニアやメカニックと試行錯誤を続けることで、スポーツ走行に適したCVTになりました。乗っていても本当に楽しいですし、完成度も高いと胸を張れます」

サービスに訪れた多くのファンや観客からの熱視線に、メカニックたちも少々緊張気味。平常心で作業を行うことも凄腕メカニックへの大事なトレーニングのひとつ。
サービスに訪れた多くのファンや観客からの熱視線に、メカニックたちも少々緊張気味。平常心で作業を行うことも凄腕メカニックへの大事なトレーニングのひとつ。
チームメカニックの宮本昌司から作業の進捗具合などの説明を受けるドライバーの大倉聡選手とコ・ドライバーの豊田耕司選手。一戦一戦、ドライバーとメカニックの信頼が深まっていくのを感じられた一年だった。
チームメカニックの宮本昌司から作業の進捗具合などの説明を受けるドライバーの大倉聡選手とコ・ドライバーの豊田耕司選手。一戦一戦、ドライバーとメカニックの信頼が深まっていくのを感じられた一年だった。

PICK UP
最終戦で2連覇を決めた、勝田範彦(ラックSTI 名古屋スバル DL WRX)

 JN6のポイントリーダーとして最終戦・新城ラリーに挑んだ勝田範彦選手。前戦ハイランドマスターズでは、タイトルに王手をかけながら、最終日にコースオフを喫して、大幅にタイムロス。王座決定は今戦まで持ち越されることになった。「どんな局面でも平常心を維持することが重要だとあらためて思いました」と、勝田選手は振り返る。
 愛知県出身の勝田選手は、ホームラリーともいえる新城ラリーでは、これまで圧倒的な強さを見せてきていたが、スタート直後から抜群のスピードでラリーをリードしたのは「優勝が逆転タイトルへの絶対条件」と語っていた新井敏弘選手だった。ところが、新井選手はSS6で痛恨のパンクを喫し、優勝争いから脱落することに。これで首位に立った勝田選手は、その後のSSで2位以下との差をしっかりコントロールし、トップでフィニッシュ。2年連続、8度目となる全日本ラリー選手権のタイトルを手にした。

JN6クラスで2年連続、8度目のチャンピオンを獲得した勝田範彦選手(写真左)。混戦となった今シーズンの激闘を苦しみながらも制し、セレモニアルフィニッシュでは渾身のガッツポーズ。
JN6クラスで2年連続、8度目のチャンピオンを獲得した勝田範彦選手(写真左)。混戦となった今シーズンの激闘を苦しみながらも制し、セレモニアルフィニッシュでは渾身のガッツポーズ。

「今シーズンは厳しい戦いも多く、ここまでが長かったです。しかも選手権を争う相手が新井選手ということもあり、本当に厳しい戦いになりました。今回は胸を借りるつもりで、全開で攻めました。タイトルを決めることができて、ホッとしています」と、勝田はフィニッシュ後に安堵の表情で語った。
 一方、コ・ドライバーを務める石田裕一選手にとっては2年連続2度目の全日本制覇となる。「個人的に新城ラリーは3連覇、そして全日本選手権も2連覇が達成できて、本当にうれしいです。勝田選手と組んで2年半、大きなミスもなく、しっかり仕事ができて良かったです」と、笑顔を見せた。

JN6クラスで2年連続、8度目のチャンピオンを獲得した勝田範彦選手(写真左)。混戦となった今シーズンの激闘を苦しみながらも制し、セレモニアルフィニッシュでは渾身のガッツポーズ。
JN6クラスで2年連続、8度目のチャンピオンを獲得した勝田範彦選手(写真左)。混戦となった今シーズンの激闘を苦しみながらも制し、セレモニアルフィニッシュでは渾身のガッツポーズ。

もっとラリーを楽しもう

TOYOTA GAZOO Racing PARKでは、WRC参戦車両「ヤリスWRCレプリカ」の展示(写真)やトークショーに多くの人が集まった。また、子供も参加できるイベントは家族連れからも好評を博した。
TOYOTA GAZOO Racing PARKでは、WRC参戦車両「ヤリスWRCレプリカ」の展示(写真)やトークショーに多くの人が集まった。また、子供も参加できるイベントは家族連れからも好評を博した。

 サービスパークが置かれた新城総合公園は、SS(スペシャルステージ)の一部が設定されているだけでなく、ラリーカーやダートトライアル用車両、レーシングカートなどによるデモンストレーション走行も行われました。「TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジプログラム」に参加する勝田貴元選手や、アジア・パシフィックラリー選手権王座獲得経験をもつ田口勝彦選手が華麗なテクニックを披露。さらに昨年に続いて同時開催されたTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジでは、モリゾウ選手こと豊田章男トヨタ自動車代表取締役社長がトヨタ86で、公園内の特設コースを走行した。
 またラリー北海道に続き、サービスパークに「TOYOTA GAZOO Racing PARK」が登場。モリゾウ選手も飛び入りで参加したトークショーや、トヨタ・ヤリスWRCのクラフトカー製作コーナーなど、今回も様々なアトラクションが用意され、多くの家族連れで賑わった。

TOYOTA GAZOO Racing PARKでは、WRC参戦車両「ヤリスWRCレプリカ」の展示(写真)やトークショーに多くの人が集まった。また、子供も参加できるイベントは家族連れからも好評を博した。
TOYOTA GAZOO Racing PARKでは、WRC参戦車両「ヤリスWRCレプリカ」の展示(写真)やトークショーに多くの人が集まった。また、子供も参加できるイベントは家族連れからも好評を博した。

今回のラリーをもって2017年の全日本ラリー選手権はすべての日程を終了しました。Team TOYOTA GAZOO Racingの全日本ラリー参戦活動への1年間の応援、誠にありがとうございました。