TOYOTA C-HR Racing、LEXUS RC Fが完走
人とクルマを鍛える挑戦は続く

天候、トラブルに翻弄された2016年のニュル24時間。しかし、「人」も「クルマ」も大きく成長した。

10年前と変わらぬニュル24時間参戦の意義

 「技術を伝承し、人材を育成する場としてレースは最高の舞台。大事なことは言葉やデータでクルマ作りを議論するのではなく、実際にモノを置いて手で触れ、目で議論すること」、マスターテストドライバーの成瀬弘とモリゾウが活動を始めた“いいクルマづくり”の一環であるニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦が、今年で10年を迎えた。

 振り返れば、2007年はレースも知らない素人の中古車による挑戦、2008、2009年は未発売の開発車両「LEXUS LF-A」をレースで鍛える挑戦、2010年は初のクラス優勝を獲得、2011年は速さの証明である「ブルーライト」の獲得、2012年はLEXUS LFAに加えてTOYOTA 86の参戦、2013年は悪天候の中での人の強さを実感、2014年はGAZOO Racing初となる参戦3クラス制覇、2015年は新たな開発車両により参戦と、常に挑戦を続けてきた。その挑戦に応えるかのように、ニュルブルクリンクは様々なドラマや課題をチームに与えた。長いようであっという間に過ぎ去った10年だったが、「人とクルマを鍛える」と言う目的は、参戦開始以来全くブレていない。

 5月28日、11時30分からピット内で写真撮影の後、11時50分に行なわれたドライバー、メカニック、チーム関係者全員が参加する決勝前の全体ミーティングで、チーム代表である豊田章男社長は、「2007年、成瀬さん以外はレースと言うことを知らない素人集団がニュルに来てレースに参戦させていただきました。そのメンバーは今も数名残っていますが、そのメンバーと共に新たなメンバーも加えて10年です。レースと言うと『自分が勝てばいい』と言う中で、『チームのために自分が出来る事が何なのか?』と言うことを考えることを、全ての人ができるチームに育っていると思います。このプロジェクトは1人の力ではできません。1人1人の想い、情熱、ガッツが10年経ってTOYOTA GAZOO Racingらしい“色”や“味”になっているのでしょう。みんなに感謝したいです。決勝では何が起きるか解りませんが、何があっても最後まで決して気を抜かず。TOYOTA GAZOO Racingらしく明るく“心ひとつ”に頑張ってほしい。目標はトムスがシングル、トヨタは去年よりも多くの距離、周回数を走れるように」とエールを送った。

  • チーム代表から全員にエールを送る
    チーム代表から全員にエールを送る
  • 最後まで心ひとつにゴールを目指す
    最後まで心ひとつにゴールを目指す

2016年のニュル24時間は「大荒れの天気」と「トラブル」に悩まされる

 13時30分、決勝スタートの2時間前くらいからスタート進行となり158台のマシンと多くのチーム関係者、ニュル24時間ファンでグリッドはごった返している。片岡選手と共に今年からTOYOTA GAZOO Racingに加入の土屋武士選手は、「とにかくドライバーとしてシッカリと自分の置かれた仕事をこなしたいと思っています。1人のレースオタクとしては、物凄い歴史のあるニュルを噛みしめている感じです。それと同時に自分の高揚感も上がっているのでいい緊張感ですよ」と語ってくれた。

  • ニュル24時間ファンでごった返すグリッド
    ニュル24時間ファンでごった返すグリッド
  • 今年からTOYOTA GAZOO Racingに加入の土屋選手と片岡選手
    今年からTOYOTA GAZOO Racingに加入の土屋選手と片岡選手

 スタートドライバーはTOYOTA C-HR Racingが影山正彦選手、LEXUS RCは木下隆之選手、LEXUS RC Fは大嶋和也選手がステアリングを握る。
 スタート直後はドライだったが約40分後に天候は一転、アーデナウ付近で雹が混じるゲリラ豪雨に見舞われると言う悪天候に。ほとんどのマシンがスリックタイヤを履いていたこともあり、コース上はスピンやコースアウトが続出し、赤旗中断となるほど混乱した。TOYOTA GAZOO Racingの3台のマシンは接触もなくコース上に残ったが、LEXUS RCはピットに戻る際に駆動系のトラブルが発生。しかし、約3時間のレース中断時間を使って対策を行なえたため、タイムロスにはならなかった。

  • 雹が混じるゲリラ豪雨という悪天候に見舞われる
    雹が混じるゲリラ豪雨という悪天候に見舞われる
  • ピットに戻る際に駆動系のトラブルが発生したLEXUS RC
    ピットに戻る際に駆動系のトラブルが発生したLEXUS RC

 19時20分からリスタート。3周もセーフティカーランとなる程の雨だったが、3台は順調に走行を続けた。22時くらいから日が落ちてナイトセッションへ。路面はほぼドライとなり3台はルーティンのピットインのタイミングでスリックタイヤへと交換を行なった。
しかし、夜も更けた24時前後に、LEXUS RCが緊急ピットイン。トラブルシュートを行なったが、具体的な不具合を特定することができず、車両をピット裏にあるチームテントに運び、メカニックは夜を徹しての作業が始まった。

  • 安定した走りで周回を重ねるC-HR Racing
    安定した走りで周回を重ねるC-HR Racing
  • 夜を徹して作業を行うLEXUS RCのメカニックたち
    夜を徹して作業を行うLEXUS RCのメカニックたち

 TOYOTA C-HR RacingとLEXUS RC Fは安定した走行を続け、朝日が見え始める6時30分頃には、TOYOTA C-HR Racingはクラス2位まで浮上。チーフメカニックの大阪晃弘は「実はスタートドライバーの影山選手は途中の赤旗中断を含めて8時間も乗ってもらいましたが『全然疲れない上に乗りやすいので、まだまだ乗れるよ』と高い評価でした」と語る。
 LEXUS RC Fは優勝争いを繰り広げるSP9クラスの間に入り込み総合20位までジャンプアップしたが、6時45分過ぎにドライブ中に土屋武士選手から「リアにガタを感じる」と言う無線連絡。チームはすぐにピットインさせ不具合箇所の交換、そしてブレーキの交換も一気に実施。
プロフェッショナルなTOM’Sのメカニックは、迅速かつ正確な作業はもちろん、各々の連携も的確なため、これらの作業を僅か30分ほどで完了。プロの仕事を間近で見た社員メカニックにとってはいい刺激になり、勉強になっていたようだ。

  • 安定した走行を続ける LEXUS RC F
    安定した走行を続ける LEXUS RC F
  • 緊急ピットインするLEXUS RC F
    緊急ピットインするLEXUS RC F

 10時半、これまで晴れていたコース上に雨が降り始める。これまで唯一ノントラブルで順調に周回を重ねていたTOYOTA C-HR Racingだったが、Daenens選手の走行時に「エンジンが停止してストップしてしまった」との無線連絡が入る。マシンは自力で戻る事ができないため、トラックに運ばれてピットに戻ってくることに。チームはエンジン交換など最悪の事態も覚悟したが、車両が戻ってきてから各部の確認と燃料補給を行なうと、エンジンは何事もなく始動。エンジン停止の原因は燃費に対して周回数をギリギリまで攻めたためのガス欠。約1時間のロスタイムとなったが、その間に佐藤久実選手に交代してピットアウト。その後は先ほどのトラブルが嘘のように快調に走行。しかし、チーフメカニックの大阪は、単純なミスでドライバーに迷惑をかけたことに対し悔し涙を流した。

  • トラックに運ばれピットに戻ってくるTOYOTA C-HR Racing
    トラックに運ばれピットに戻ってくるTOYOTA C-HR Racing
  • 悔し涙を流すチーフメカニック
    悔し涙を流すチーフメカニック

 ゴールまで残り3時間を切った12時頃、メカニックの夜を徹した作業でLEXUS RCの交換作業が完了。木下選手のドライブで戦線復帰し、約12時間ぶりに3台がコース上を走行することができた。ピットは一時的に安堵に包まれたものの、ゴールまで残り1時間30分、LEXUS RCに再びトラブルが発生、ピットインしメカニックは最後の最後まで修復を試みたものの、コースへ復帰させることはできずリタイヤを選択。メカニック、エンジニアの悔し涙は、今後のいいクルマづくりへと間違いなく活かされるはずだ。

  • 最後の最後まで修復を試みる
    最後の最後まで修復を試みる
  • リタイアを選択し、悔し涙を流すメカニック、エンジニア
    リタイアを選択し、悔し涙を流すメカニック、エンジニア

 残りの2台は、最終ドライバーへとドライバーチェンジ。TOYOTA C-HR Racingが影山正彦選手、LEXUS RC Fは井口卓人選手がステアリングを握った。ゴール直前、TOYOTA C-HR RacingにLEXUS RC Fが近づくと、2台はランデブー走行でコース上の観客の前をゆっくりと通過し、15時30分のチェッカーフラッグを潜りぬけた。
 結果はTOYOTA C-HR Racingが総合84位でSP2Tクラス3位、LEXUS RC Fは総合24位までジャンプアップしSP-PROクラス1位を獲得した。

ランデブー走行で観客の前を通過するTOYOTA C-HR RacingにLEXUS RC F
ランデブー走行で観客の前を通過するTOYOTA C-HR RacingにLEXUS RC F

 ゴール後パルクフェルメでドライバーを待った豊田章男は「久々にニュルらしいレースができたかなと思っています。我々のチャレンジも10年目を迎え、改めてニュルの現実を物凄く思い起こさせてくれた24時間レースでした。天候やクルマの状態など、もっといいクルマ作りと人材育成には色々な課題を残しましたし、いくつか悔し涙も見られました。しかし、我々はレースに勝つ事が目的にではなく、その結果をバネにいいクルマ作りをする事がユーザーへの一番の恩返しです。そういう意味では、私流に言うと、『多くの人がバッターボックスに立つ機会を与えられ、各々がナイススイングをしてくれたようなニュル24時間だったと思います』と語った。

 TOYOTA C-HR Racingの開発責任者である古場博之は「スタートしてからの無線連絡を全て記録していましたが、ゴール前に影山選手から『クルマはスタート時と全く変わらず絶好調!』と言われました。それは最高の褒め言葉でした」と目を潤ませながら語った。

  • みんながナイススイングをしてくれたニュル24時間だったと語る豊田社長
    みんながナイススイングをしてくれたニュル24時間だったと語る豊田社長
  • スタート時からゴールまで絶好調な走りをみせたTOYOTA C-HR Racing のチームメンバー
    スタート時からゴールまで絶好調な走りをみせたTOYOTA C-HR Racing のチームメンバー

 また、LEXUS RC Fのファイナルドライバーである井口卓人選手は「駆動系でちょっと気になる音はしていたものの、自分ができる範囲で気をつけながら走らせました。ウエットでもいいパフォーマンスを出せていて、GT3マシンも何台か抜く事もできましたが、常に安定して出しきれないと上位に行けないと思うので、改善して来年挑戦できればいいなと思っています」と語った。
 そして、惜しくも完走できなかったLEXUS RCのドライバーの1人である木下隆之選手は、「色々な意味で悔しいですよね。ただ、これも結果として受け入れる必要はあるかなと。長年やっていけばこういう年もあるだろうし、これがキッカケで来年以降いい方向に転がった時、この時の経験がシッカリと活かされると思います」と言う言葉には悔しさが溢れていた。

  • 今年の課題を改善し、来年に活かしたいと語る井口選手
    今年の課題を改善し、来年に活かしたいと語る井口選手
  • 悔しさをかみしめる木下選手
    悔しさをかみしめる木下選手

 「もっといいクルマをつくろうよ」という想いで始まったニュル24時間への挑戦。10年目となる2016年は、参戦した3台の結果が明暗を分けたのも事実である。しかし、ここがゴールではなく、「いいクルマづくり」は今後もまだまだ続いていく。

ニュル24時間レース決勝 フォト

総合順位

決勝出走:158台/完走:101台/リタイヤ:57台

1位 No.4 AMG-Team Black Falcon/Mercedes-AMG GT3(SP 9 GT3クラス 1位)
2位 No.29 AMG-Team HTP-Motorsport/Mercedes-AMG GT3(SP 9 GT3クラス 2位)
3位 No.88 HARIBO Racing Team-AMG/Mercedes-AMG GT3(SP 9 GT3クラス 3位)
4位 No.9 AMG-Team Black Falcon/Mercedes-AMG GT3(SP 9 GT3クラス 4位)
5位 No.23 ROWE Racing/BMW M6 GT3(SP 9 GT3クラス 5位)
6位 No.75 MANN-FILTER Team ZAKSPEED/Mercedes-AMG GT3(SP 9 GT3クラス 6位)
7位 No.38 Bentley Team ABT/Bentley Continental GT3(SP 9 GT3クラス 7位)
8位 No.2 Team WRT/Audi R8 LMS(SP 9 GT3クラス 8位)
9位 No.44 Falken Motorsports/Porsche 991 GT3R(SP 9 GT3クラス 9位)
10位 No.16 Twin Busch Motorsport/Audi R8 LMS(SP 9 GT3クラス 10位)
     
24位 No.36 TOYOTA GAZOO Racing with TOM'S/LEXUS RC F(SP-PRO クラス 1位)
     
84位 No.326 TOYOTA GAZOO Racing/TOYOTA C-HR Racing(SP 2T クラス 3位)
     
-位 No.188 TOYOTA GAZOO Racing/LEXUS RC(SP 3T クラス -位)

SP-PROクラス順位

1位 No.36 TOYOTA GAZOO Racing with TOM'S/LEXUS RC F

SP 3Tクラス順位

1位 No.106 SUBARU TECNICA INTERNATIONAL/SUBARU WRX STI
2位 No.105 MSC Sinzig e.V. im ADAC/Audi TT
3位 No.103 Team Mathol Racing e.V./Seat Leon Supercopa
     
-位 No.188 TOYOTA GAZOO Racing/LEXUS RC

SP 2Tクラス順位

1位 No.134 Hyundai Motor Deutschland GmbH/Hyundai Veloster 1,6T
2位 No.132 -/BMW Mini
3位 No.326 TOYOTA GAZOO Racing/TOYOTA C-HR Racing

スケジュール

第1回予選 日本時間 5/27(金) 03:00~06:00
ドイツ時間 5/26(木) 20:00~23:00
第2回予選 日本時間 5/27(金) 16:30~18:30
ドイツ時間 5/27(金) 09:30~11:30
TOP30決勝 日本時間 5/28(土) 02:50~03:30
ドイツ時間 5/27(金) 19:50~20:30
決勝 日本時間 5/28(土) 22:30~5/29(日) 22:30
ドイツ時間 5/28(土) 15:30~5/29(日) 15:30

RECOMMEND MOVIE

NEWS