決勝レポート

人を鍛えクルマを鍛える挑戦はクラス2位で完走。
しかし、いいクルマづくりはさらに続く。

 「いいクルマづくり」を目的として過酷なレースに参戦する、ニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦。今年は、2007年に初参戦したときのテーマである「人を鍛え、クルマを鍛える」という原点に立ち返ってドイツ・ニュルブルクリンクに臨んだ。

 レースは5月25日のフリー走行、予選1回目、5月26日の予選2回目、トップ30予選に続き、5月27日~28日に24時間の決勝レースが行なわれた。

 8時15分から1時間行なわれたフリー走行では、決勝に向けてクルマを温存するため、参加しないチームもあるなか、TOYOTA GAZOO Racingはスターティンググリッドに立つまで改善は続ける姿勢で走行を実施。決勝用に変更したアイテムとエンジン制御の煮詰めを行ない、蒲生尚弥選手が確認のために周回を重ねた。

 11時50分、このプロジェクトに関わる関係者全員で“決起会”を実施。今回この場にいる事ができなかった社長の豊田章男からのメッセージには、「今年のニュルは残念ながら皆さんと一緒の場所に立って共に戦うことができませんが、どこにいても心は一つ。昨年LEXUS RCはこの道を24時間走り切ることができず、結果は悔しいものでしたが、あの場所で流した涙が人を大きく成長させたと思います。しかし、この挑戦は24時間走り切らなくてはダメです。1周でも1mでも長く走り、もっといいクルマ作りに繋げるのがニュルの挑戦なのです。」と綴られ、ドライバー、メカニック、エンジニアが参戦の目的を再確認して決勝を迎えた。

 気温は27度と、半袖でも暑さを感じるほどの晴天のなか、昨年と同じく15時30分に決勝がスタートした。
 スタートドライバーは井口卓人選手。オープンニングラップでフロントウィンドウ左側に飛び石のダメージを受けてしまうが、それ以外は順調で2位をキープしながらの走行を行なう。しかし、例年よりも気温が27度と高いことから、車内の暑さとの戦いともなった。
 その後、予定の周回で松井孝允選手、蒲生尚弥選手、矢吹久選手とドライバーチェンジを行なうが、矢吹選手がピットインする直前のラップで他車と接触。ルーティンのピット作業を行いながら、フロントカナード交換とボディサイドの修復を行なったが、突然のトラブルにも慌てることなく、的確に対応し、わずかなロスタイムで送り出したものの、順位は一つ下がることとなった。

 22時を過ぎると日が暮れ始め、ナイトセッションが始まる。漆黒の暗闇をヘッドライトだけを頼りに走るため、接触やトラブルが増える時間であるが、井口選手の走行時に今度はフロントウィンドウ右に飛び石を受けてしまった。若干視界が悪化するも走行に支障はないとの判断し、そのまま走行。
 今年は気温の高さが起因するタイヤトラブルによるアクシデントも多く、コース上の様々な場所で速度規制が行なわれたが、決勝直前までエンジン制御の煮詰めが功を奏し、「速さ」と「燃費」のバランスが取れた走りを実現し、順調に走行。また、決勝中はドライバー交代直後に毎回エンジニア、メカニックによるヒアリングが行なわれ、出来る事はすぐにフィードバックされた。「いいクルマづくり」は決勝中もしっかりと行なわれている。

 28日に変わったばかりの0時20分に松井選手から蒲生選手にドライバーチェンジ。去年の同じ頃は緊急ピットインからトランスミッション交換を行っていたが、今年は、ピットは何もないことが怖いくらい順調で、井口選手は走行後に「マシンがよく仕上がっているので、ナイトセッションかつ飛び石で視界が悪くなっているのに、昼間と同じペースで走れます」と語った。

 ナイトセッションも何ごともなく切り抜け、日が昇り徐々に周りも明るくなってきた6時18分、蒲生選手から矢吹選手に交代の際に、フロントブレーキを交換。メカニックの迅速・正確な作業で短い作業時間でコースへと送り返した。その後、2位を走るスバルWRX STIが接触によるアクシデントでピットインしたため、2位へと浮上。

 国内テストでは反省点が多かった若手メカニックだが、ピット作業の動きなど、成長が決勝中にも感じられた。また、エンジニアも途中でエンジン制御に不安要素があった際に、ドライバーにその場でベストな解決策を提案するなど、ニュル24時間が「人を鍛える」ことを再確認できた。

 その後は順位の変動はなく13時40分に最終ドライバーの松井選手へと交代。2015年の挑戦では、残り1時間半と言うタイミングでトラブルが発生し、下位転落の経験があることから、平田チーフメカニックから「最後まで気を抜かない」、「何かあっても対処できるように」と檄が飛んだ。メカニックはそれに応え、いつもと同じように迅速・確実に作業を行ないコースへと送り出す。

 一時は1周差がついていた、トップのアウディTT RS2だが、レース終盤には背中も見え出し、その差は3分近くまで縮まった。ゴールまで残り30分を切った15時5分、これまでレースウィーク中は快晴だった天候が一転し、コース北側に雨が降り始めた。ちょうどピットイン直前のタイミングであったため、タイヤはスリックのままか、それともウエットに交換かと悩んだが、チームが出した結論はスリックタイヤのまま。しかし、誰もがすぐに止むかと思っていた雨はなかなか止まない。コース上に留まることすら難い状況で、1周で再びピットインしウエットタイヤに交換してピットアウト。無事に15時30分のチェッカーフラッグをSP3Tクラス2位で潜りぬけた。

  • メカニックの迅速・正確な作業でピット作業
    メカニックの迅速・正確なピット作業
  • ナイトセッションも何ごともなく切り抜けた
    ナイトセッションも何ごともなく切り抜けた
  • LEXUS RCとして最上位となる総合25位、SP3Tクラス2位を獲得
    LEXUS RCとして最上位となる総合25位、SP3Tクラス2位を獲得
  • チームが心ひとつに「もっといいクルマ作り」を実践した
    チームが心ひとつに「もっといいクルマ作り」を実践した

 結果はスタートから一度も止まることなく145周を走り切り、昨年リタイヤで完走できなかった雪辱はクリアした上に、優勝までは届かなかったが、「もっといいクルマ作り」をチームが心ひとつに実践したことにより、LEXUS RCとして最上位となる総合25位、SP3Tクラス2位を獲得することができた。
 ただし、ここがゴールではなく、ニュルへの挑戦で得た経験や知見を、自職場でのクルマ作りに活かすことが、本当の「もっといいクルマづくり」の挑戦なのである。

井口 卓人選手

 目標だった“完走”を達成したのは嬉しいですが、“勝ち”も見えていたので悔しさもあります。ただ、「また来年、勝ちに来なさい」とニュルに言われたような気がします。実はレース中にトラブル続きだったテストを思い出し、あのLEXUS RCがアウディTT RSやスバルWRX STIと戦える所に来たと実感しました。エンジニア、メカニックが頑張ってくれたので、僕らも攻めの走りができたと思います。

矢吹 久選手(トヨタ自動車社員)

 普段の車両開発業務とは違い、極限の状態で他のドライバーと競い合って走ることで、私が普段気にしている「どのような路面」、「どのような状況」、「どのような速度域」でも安心、安全に気持ち良く運転できることは、レーシングカーも量産車も同じ事が解りました。今回LEXUS RCに乗っていいクルマだと感じた部分はたくさんあります。しかしナンバー付きモデルにそのままにフィードバックするのは難しいので、市販車に落とし込んだときのアイデアを考え、トライし続ける事を、いつもの職場に戻り挑戦し続けたいです。

平田 泰男 チーフメカニック(トヨタ自動車社員)

 レース中のルーティン作業や準備は全て若手メカニックの自主性に任せました。個人個人ではまだまだ課題はありますが、みんなで協力することでパワーが引き出せ、本当によくやってくれたと思っています。ただ、彼らはこれが本業ではないので、元の職場に戻った時に、「与えられたからやる」ではなく「自分から提案してやる」と言う気持ちを持って業務を行なって欲しいです。ここでは出来ていたわけですから必ずできるはずです。

茶谷 圭祐 車両エンジニア(トヨタ自動車社員)

 24時間止まることなく走り続けたことは嬉しいですし、この活動に関わった方・応援してくれた方を含めてチームメンバーには本当に感謝しています。レース中もチーム内では作業の無駄を1秒でもなくし、1秒でも速く、1秒でも長く走るアイデアを出し合い実施していました。その結果、最後はトップに迫ることができ、最後の最後まで極限の状態を保ち、ニュルでクルマと自分達を鍛え合えることができました。今回得た経験・技術を基にメンバーの職場にいい刺激を与え、もっといいクルマづくりを加速させてくれると、信じています。

総合順位

決勝出走:160台/完走:109台/リタイヤ:51台

1位 No.29 Audi Sport Team Land/ AUDI R8 LMS(SP 9 GT3クラス 1位)
2位 No.98 Rowe Racing/BMW M6 GT3(SP 9 GT3クラス 2位)
3位 No.9 Audi Sport Team WRT/AUDI R8 LMS(SP 9 GT3クラス 3位)
4位 No.42 BMW Team Schnitzer/BMW M6 GT3(SP 9 GT3クラス 4位)
5位 No.1 Mercedes-AMG Team Black Falcon/Mercedes-AMG GT3(SP 9 GT3クラス 5位)
6位 No.31 Frikadelli Racing Team/Porsche 911 GT3 R(SP 9 GT3クラス 6位)
7位 No.22 Wochenspiegel Team Monschau/Ferrari 488 GT3(SP 9 GT3クラス 7位)
8位 No.33 Falken Motorsports/BMW M6 GT3(SP 9 GT3クラス 8位)
9位 No.8 HARIBO Racing Team Mercedes-AMG/ Mercedes-AMG GT3(SP 9 GT3クラス 9位)
10位 No.99 Rowe Racing/BMW M6 GT3(SP 9 GT3クラス 10位)
     
25位 No.170 TOYOTA GAZOO Racing/LEXUS RC(SP 3T クラス 2位)
     

SP 3Tクラス順位

1位 No.89 LMS Engineering/Audi TTRS2
2位 No.170 TOYOTA GAZOO Racing/LEXUS RC
3位 No.87 MSC Sinzig e.V. im ADAC/Audi TT

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