WRC復帰2戦目での勝利で見えた希望と今後の課題
「もっといいクルマづくり」はまだ始まったばかり
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フィンランドに開発拠点を置くTOYOTA GAZOO Racing WRTにとって、ラリー・スウェーデンは第2のホームイベントといえるラリーである。ただ単にフィンランドとスウェーデンが国境を接しているからという理由ではなく、ラリーが開催されるエリアの地形が良く似ており、季節が冬と夏と正反対であることを除けば、両国のラリーコースには共通点が多いからだ。緩やかなコーナーが連続する森の中のハイスピードコースでは、マシンのスタビリティ、エンジンパフォーマンス、そしてドライバーのスキルと度胸が求められる。
TOYOTA GAZOO Racing WRTのドライバー、ヤリ- マティ・ラトバラは、過去にこのラリー・スウェーデンを3回制している。そして、チーム代表であるトミ・マキネンもWRCキャリア24勝のうち、3勝をスウェーデンでおさめている。彼ら“フライングフィン”にとって、ラリー・スウェーデンは、母国ラリーと並ぶフェーバリットイベントなのだ。
今年のラリー・スウェーデンを迎えるにあたり、ラトバラとユホ・ハンニネンは、フィンランドで数日間の開発テストを行なった。スノーロードでのヤリスWRCは、氷上のスケーターのごとく軽快に動き、両ドライバーはラリー本番への自信を深めた。しかし、ヤリスWRCは依然として開発途上にあるマシンであるため、まだ過度な期待をかける時期ではない。チームは開幕戦ラリー・モンテカルロと同様慎重なアプローチでラリーを戦うことを決め、ラトバラは5位以内に入ることを具体的な目標に置いた。
ラリーは2月9日(木)に開幕し、カールスタードの競馬場でオープニングのスーパーSSが行なわれた。硬い氷で覆われたコースは非常に滑りやすく、すぐ近くにコンクリート製のブロックが迫るため、ミスは一切許されない。そのためラトバラは慎重に最初のステージに臨んだが、フィニッシュしてみればSSベストタイムを記録していた。それはトヨタにとって、18年ぶりとなるステージウイン。距離が短いショートステージではあったが、ヤリスWRCが氷上でも十分な戦闘力を備えていることが、まずは証明された。
翌日のデイ2よりラリーは森林ステージに舞台を移し、スウェーデンと隣国のノルウェーの両国でSSが行なわれた。コースは硬く締まった氷雪路の上に、柔らかいフレッシュスノーが積もるコンディション。2番手スタートのラトバラには、やや不利な走行条件となった。しかしラトバラは、いくつかのステージでトップ3以内のタイムを刻み、SS4では2度目のステージベストを記録。しかし、遅い出走順により良好なコース条件で走行したティエリー・ヌービルのペースにはやや劣り、トップと28.1秒差の2位でデイ2を終えた。また、チームメイトのハンニネンは落ち着いてステージを走行していたが、SS5でマシンのコントロールを失い立ち木にクラッシュ。前戦に続き、デイからリタイアすることになってしまった。
デイ3がスタートすると、ラトバラはスタッドタイヤの摩耗を考慮し、2本のスペアタイヤを搭載して午前中のステージに臨んだ。しかし、結果的にスタッドは十分に持ち、ラトバラはスペアタイヤを1本しか積まなかったライバルよりも重いマシンで戦うことになり、少なからずタイムロスをしてしまった。午後のSSではスペアタイヤを1本に減らしハンディは解消されたが、挽回を狙うラトバラのアグレッシブなアタックによってスタッドの摩耗が進み、背後に迫るオット・タナクとの差は3.8秒にまで詰まってしまった。しかし、トップを走行していたヌービルが、1日の最後のスーパーSSでクラッシュにより大きく遅れた結果、ラトバラは図らずもトップに立つことになった。
非常に速いペースで走行していたヌービルに、今回ラトバラはなかなか迫ることができなかった。「ヌービルはとても良い走りをしていた。あのような事になってしまって残念だ。自分も同じような経験をしたことがあるから、彼の辛い気持ちは良くわかる」と、ラトバラは自分がトップに立った事をことさら喜ぶのではなく、健闘していたライバルのアクシデントに同情の気持ちを示した。
わずかなアドバンテージを持ってラリー最終日に臨んだラトバラは、雑念を頭の中から追い払い、集中力を高めた。マキネン代表の「セッティングの事は忘れ、ただ速く走る事だけに集中しよう」というアドバイスにより、ラトバラはクリアな気持ちでステージをスタート。コース全体が氷に覆われたSSで、ラトバラは会心の走りを実践し4度目のベストタイムを記録した。さらに、そのSSの再走ステージでもラトバラはトップタイムをマーク。2位タナクに対するリードを20秒に広げた。マシンのパフォーマンス、ラトバラのドライビング、そしてコ・ドライバーのミーカ・アンティラのナビゲーションが完全にかみ合い、ヤリスWRCは今年もっとも質の高い走りを披露した。ラトバラはボーナスポイント加算対象となる最終のパワーステージも制し、最終日は3本すべてのSSでベストタイムを記録。2位に対するリードをさらに拡大し、TOYOTA GAZOO Racing WRTに、参戦2戦目にしてはやくも最初の勝利をもたらした。また、ハンニネンも再出走後は様々なセッティングをテストしながらヤリスWRCをフィニッシュに導き、次のイベントに向けて良い感触を得てラリーを終えた。
「ヤリスWRCはとても乗りやすく、最終日は自信を持って雪道を走ることができた。素晴らしいマシンを作ってくれたチームと、応援してくれたファンに心から感謝したい」と、ラトバラ。一方、マキネン代表は「ヤリ-マティとミーカが素晴らしい仕事をしたからこそ、ヤリスWRCは性能を存分に発揮することができた。また、リタイア後に再出走した際、いろいろなテストを受け持ってくれたユホの貢献にも感謝している。今回の優勝で開発の方向性が間違っていなかったことを確認できただけでなく、今後に向けてのヒントもいろいろ見つかった。これから『もっといいクルマ』に仕上げるため、チーム一丸となり開発をさらに加速させていく」と、決意を新たにした。
ラリー終了後のポディウムでは、優勝ドライバーであるラトバラのフィンランド国旗と共に、ウイニングマニュファクチャラーである日本の国旗も掲揚され、嵯峨宏英チーム副代表が表彰台に登壇し頭上にトロフィーを掲げた。フィンランド、日本、そして強力なエンジンを作り上げたドイツのTMG。今回の勝利は、TOYOTA GAZOO Racing WRT開発3拠点の、スタッフ全員の尽力の賜物である。
RESULT
WRC 2017年 第2戦 ラリー・スウェーデン
順位 | ドライバー | コ・ドライバー | 車両 | タイム |
---|---|---|---|---|
1 | ヤリ-マティ・ラトバラ | ミーカ・アンティラ | トヨタ ヤリス WRC | 2h36m03.6s |
2 | オット・タナック | マルティン・ヤルヴェオヤ | フォード フィエスタ WRC | +29.2s |
3 | セバスチャン・オジエ | ジュリアン・イングラシア | フォード フィエスタ WRC | +59.5s |
4 | ダニ・ソルド | マルク・マルティ | ヒュンダイ i20 クーペ WRC | +2m11.5s |
5 | クレイグ・ブリーン | スコット・マーティン | シトロエン C3 WRC | +2m51.2s |
6 | エルフィン・エバンス | ダニエル・バリット | フォード フィエスタ WRC | +5m26.6s |
7 | ヘイデン・パッドン | ジョン・ケナード | ヒュンダイ i20 クーペ WRC | +5m31.2s |
8 | ステファン・ルフェーブル | ギャバン・モロー | シトロエン DS3 WRC | +7m14.7s |
9 | ポントゥス・ティディマンド | ヨナス・アンダーソン | シュコダ ファビア R5 | +9m11.1s |
10 | テーム・スニネン | ミッコ・マルックラ | フォード フィエスタ R5 | +10m02.9s |
23 | ユホ・ハンニネン | カイ・リンドストローム | トヨタ ヤリス WRC | +23m05.6s |