WRC

WRC 2017年 第4戦ラリー・フランス (ツール・ド・コルス)

サマリーレポート

WRC Rd.4 フランス サマリーレポート

ドライバーの視点に基づくクルマの開発と改善の重要性を
コルシカ島のチャレンジングなターマックロードから学ぶ

ハイライト動画

ラリー・フランス ツール・ド・コルス。WRC開催初年度の1973年からシリーズの1戦に含まれていた伝統のラリーは、WRCを代表する、そしておそらく世界でもっとも名高いターマックラリーである。地中海に浮かぶコルシカ島は、険しい山脈が島の中央部に広がり、ツイスティなワインディングロードが、まるで血管のように島の隅々にまで広がっている。そして年に1度、ツール・ド・コルスの期間中、人々の普段の生活を支える「道」は、純粋にタイムを競うための「スペシャルステージ」へと姿を変える。

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サーキットとは大きく異なるコルシカ島のワイルドなターマックコースが、ラリーの難易度を大幅に上げる

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ツール・ド・コルスは、シーズン最初のフルターマックラリーである。コースはすべて舗装路だが、高速道路や一般国道のようなスムースな道を想像してコルシカ島の道を走ると、あまりの大きな違いに驚くだろう。舗装のタイプやコンディションは刻々と変化し、一見同じように見える路面でもタイヤのグリップレベルは大きく異なる。そして一部の老朽化した道は表面が酷く荒れていたり、大きな穴が開いていたりする。道全体が崩れた舗装の破片や、未舗装の路肩から出てきた泥や砂利で覆われているような所もあり、舗装路とは呼べないような「ダーティ」な道も少なくない。加えて、蛇のように曲がりくねる道は決して平坦ではなく、普通に走っているだけでもクルマが大きく突き上げられるようなギャップが、いたるところにある。コルシカ島の舗装路は、サーキットとは大きく異なるワイルドなキャラクターが特長であり、それがラリーの難易度を大幅に上げているのだ。



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TOYOTA GAZOO Racing WRTにとって、ツール・ド・コルスは初めて迎えるフルターマックラリーである。開幕戦のラリー・モンテカルロもコースの多くはターマックだったが、全SSが舗装路のラリーは初めての経験となる。そのためチームは、ラリーに先立ちコルシカ島の舗装路でターマック仕様のヤリスWRCを入念にテスト。ドライバーが満足できるセッティングを見つけ出し、自信を持ってラリー本番に臨んだ。しかし、過去にこのラリーで優勝経験があるヤリ-マティ・ラトバラは、ハンドリングが彼のドライビングに完全にはマッチせず、SS5〜7番手タイムに留まるなど苦しいスタートとなった。さらに、SS1ではハンニネンが路面の変わり目でタイヤのグリップレベルを見誤り、オーバースピードでコーナーに進入しクラッシュ。競技初日デイ1を、チームは納得できない結果で終える事になった。

テストと実際のラリーコースでは、異なるクルマのセッティングが必要となる事をチームは実感した

テストでは良いと感じられたセッティングが、なぜかラリー本番ではうまく機能しない。走行距離が短く路面の状態を把握しやすいテストと実際のラリーコースでは、時に異なるセッティングが必要となる事をチームは実感した。ラリーの現場でクルマを抜本的に変える事は難しいが、きっと何かができるはず。チーム代表のトミ・マキネンは、エンジニアや選手と解決策を検討し、やや大掛かりなセッティング変更を、リタイア後再出走に向けて修復していたハンニネンのクルマに施すことにした。もしかしたら策は裏目に出るかもしれないが、今シーズンは多くの事を学ぶための年。リスクを恐れて新しいトライをしないのはチームの思想に反する。チームはハンニネンと彼のヤリスWRCに望みを託し、デイ2のコースへと送り出した。

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思い切ったセッティング変更により、ラトバラはヤリスWRCから本来の速さを引き出すことに成功した

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デイ2のSSは、前日以上にツイスティで難易度が高かったが、そこでハンニネンは2番手タイムを記録し、続くSSでも3番手タイムをマーク。チームの試みは上手く機能した。そこで、30分という作業時間が設定されるデイタイムサービスで、チームはラトバラのクルマにも同様のセッティング変更を実施する事を決めた。作業時間は短く困難なミッションではあったが、TOYOTA GAZOO Racing WRTのメカニックたちは迅速かつ確実にセッティングの変更作業を行ない、きっちりと時間内にヤリスWRCを仕上げた。

午前中の段階ではまだハンドリングに満足していなかったラトバラだが、新たなセッティングが施されたヤリスWRC で、ラトバラはクルマから本来のスピードを引き出す事に成功する。デイ2午後の2本のSSで、ラトバラは2番手と3番手のタイムを記録し、総合順位を4位に上げてデイ2を走破。「自分の思うようにクルマが動くようになった。運転が一気に楽しくなったよ。チームの素晴らしい判断と完璧な作業に感謝したい」と、ラトバラは会心の笑顔でサービスパークへと戻ってきた。彼を迎えたマキネンは「我々はチャレンジャーだ。新しい事に挑む気持ちを忘れるべきではない。今日は、それが証明された1日となった」と、課せられたタスクを完璧に遂行した4 人の選手、そしてエンジニアとメカニックの労をねぎらった。

ヤリスWRCと完全に一体となったラトバラは、ボーナスポイントがかかるパワーステージを誰よりも速く駆け抜けた

ラリー最終日、2本のSSのうち最初のロングステージで、ラトバラはなぜかペースが上がらず、ポジションを5位に落としてしまう。そしてハンニネンは、フィニッシュまであと5kmというところでコースオフ、リタイアとなった。終盤に突入し、チームはツール・ド・コルスの奥深さと難しさを改めて知る事になった。しかしラトバラは、最後のショートステージで渾身のマキシマムアタックを実行し、ヤリスWRCが現時点で備える力をすべて引き出した。クルマと選手が完全に一体となったその走りは鬼気迫り、コースサイドで走りを見ていた観客たちは、ラトバラの限界ギリギリの走りに圧倒された。そしてラトバラは、今大会最初のベストタイムを最後のSS、それも選手権を戦う上で非常に重要なボーナスポイントがかかる、パワーステージで記録したのである。「どうしても4位を取り返したかった。だから、攻めきるしかないと思ったんだ」と、ラトバラ。クルマに全幅の信頼を寄せられなければ、マキシマムアタックはできない。ラトバラの圧巻の走りは、限られた短い時間で「攻めきれるクルマ」にヤリスWRC を仕上げた、エンジニアの知見と献身を体現したものだった。

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ドライバーが道との会話で感じたクルマへの違和感を、メカニックやエンジニアが即座に改善し、また道に戻して走り続ける

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今年初めてWRCの現場を訪れ、チームと共に戦った、豊田章男チーム総代表は「ドライバーが道との会話で感じたクルマへの違和感を、メカニックやエンジニアが即座に改善し、また道に戻して走り続ける。ドライバー視点の開発とその改善を繰り返していくマキネンのチームの姿は、まさに私たちが目指す「もっといいクルマづくり」そのものだと感じました」と、トミ・マキネンチーム代表のチームづくり、そしてクルマづくりの方向性の正しさを再確認した。

初めての挑戦となったフルターマックラリー、ツール・ド・コルスでTOYOTA GAZOO Racing WRTは、表彰台にあと1歩届かなかった。そして、開幕から3戦連続で実現していた2台完走の記録も残念ながら途絶えた。しかし、過酷なターマックラリー、ツール・ド・コルスを経験し戦い抜いたことで、チームは結果以上に多くのものを吸収し、基礎体力をさらに高める事ができた。次なるターマックラリーは、8月の第10戦ラリー・ドイチェランド。ツール・ド・コルスとはまた違う難しさがある舗装ラリーだが、チームは今回のラリーで得た経験を生かし、さらに力強い走りをドイツの道で実践する事を胸に誓った。