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WRC 2017 第6戦 ラリー・ポルトガル

サマリーレポート

WRC Rd.6 ポルトガル  サマリーレポート

初の3台体制で臨んだポルトガルで強い光を放った
「エサペッカ・ラッピ」という名のダイヤの原石

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「この瞬間が訪れるのを、半年間待っていた」
 フィンランド出身、26才のエサペッカ・ラッピは、きらきらと顔を輝かせながら、ヤリスWRCに乗り込んだ。2016年にWRC2王者となったラッピは、去年末から開発ドライバーのひとりとしてヤリスWRCのパフォーマンス向上に貢献してきた。そして、第6戦ラリー・ポルトガルで、いよいよ実戦の場でヤリスWRCを駆る最初のチャンスを手にした。

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 TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamは、第5戦までヤリ-マティ・ラトバラと、ユホ・ハンニネンの2台体制でシリーズを戦ってきたが、ラリー・ポルトガルで初めて3台体制を展開し、ラッピにヤリスWRCのステアリングを委ねた。その最大の目的は、より多くの走行データを収集し、クルマの開発を加速するため。ラリーでは実戦参加に勝る開発はなく、限られた条件のテストでは発見できなかったセッティングのヒントや、問題点がラリー本番では浮き彫りとなる。そして、出場台数が2台から3台に増えれば、単純計算として得られるデータは1・5倍になる。しかし、そのためには設定されたステージをきちんと走りきらなければならない。それも、上位のスピードで。それゆえラッピは、今回がワールドラリーカー(WRカー)デビューながら、多くのタスクを抱えての出場だった。プレッシャーに押しつぶされてもおかしくない状況ではあったが、ラリーのスタートを前にラッピは終始落ち着いていた。「自分がすべき事は理解している。その上で、パフォーマンスを発揮したい」と、極めて冷静に初挑戦の日を迎えた。


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WRカーでの初戦ながら、ラッピは経験豊かなトップドライバーに匹敵する速さを示した。

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 序盤、ラッピはクルマに慣れることを最優先し、やや抑え気味の、しかし安定したペースでステージを重ねた。「中、低速のコーナーはうまく走れている。しかし、高速コーナーではまだ確信が持てないので少し安全に走っている」というラッピは、11番手前後のタイムでSSを重ねていった。しかし、次第にクルマに慣れてきたラッピは、競技3日目に入ると本来のスピードを開放。SS12で6番手タイムを刻んだのを始めに、SS13で7番手、SS14では5番手タイムを記録するなど、WRカーでの経験が豊かなトップドライバーに匹敵する速さを披露した。

 ラッピのドライビングは非常にスムースで、クルマをあまりスライドさせず前に進む力を重視した効率的な走りを好む。それは、同国の先輩であるハンニネンと似たスタイルで、そのハンニネンが基礎開発を担当したヤリスWRCだからこそ、ラッピはいきなり上位のタイムを刻むことができたのかもしれない。「クルマはとても乗りやすい。安心してアタックできる」と、ラッピは自信をもって走り、ヤリスWRCを終始コントロール下に置いていた。



痛恨のドライビングミスでポジションダウン。しかし、それも成長に必要な経験の一部。

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 しかし、SS5番手タイムを刻んだその次のステージで、ラッピは滑りやすいルーズグラベルで走行ラインを乱し、クルマの右リヤをコース脇の壁にヒット。足まわりとブレーキに大きなダメージを受けてしまった。スロー走行を余儀なくされたラッピは、後続の他の選手に迷惑をかけないように、コース上で何度か止まりながら走行を続けフィニッシュラインを通過。1日の最後のSSだったことにも救われ、そのままサービスパークへと帰還した。

「彼のミスは、ラリーではよく起こり得るものだ。エサペッカを責めるつもりはまったくない。それよりも、彼がみせた速さのほうが印象的だ」と、チーム代表のトミ・マキネンはトップドライバーの視点でラッピの走りを冷静に評価した。マキネン自身、現役時代は何度もミスを冒し、そこから多くを学び4度世界王者となったのだ。ラリーではコースオフやクラッシュも、成長過程では必ず経験する要素。時に限界を超えてアタックしない限り、スピードは伸びていかない。そしてラッピは翌日、はやくも前日の貴重な経験を成長の糧に変えたのである。


前日の失敗を推進力に変え、ラッピは全開勝負のパワーステージで4番手タイムを記録。

 競技最終日のデイ4には4本のSSが設定され、その最終ステージ「ファフェ2」はボーナスポイントがかかるパワーステージに指定された。上位争いは差が開いていたこともあり、多くの選手がポジションアップを断念し、選手権ポイント獲得を狙ってパワーステージに照準を合わせていた。同じステージを1回目に走行した際に足まわりのセッティングを吟味し、そしてボーナスポイントの対象となる2回目の走行に向けてタイヤを温存。レースで例えるならば、予選アタックのような1発勝負に、ベテランドライバーたちは全力で臨んだ。

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 ラッピは、パワーステージの1本前のSS18では自己最高の4番手タイムを記録。そして、完全なスピード勝負となった最終のパワーステージで、ラッピはチーム内最上位となる4番手タイムを刻み、ボーナスポイントの加算に成功した。「狙ってはいたけれど、まさかボーナスポイントをとれるとは思わなかったから、驚いた」と、ラッピ。前日の失敗を推進力に変え、WRカーでの初挑戦で10位フィニッシュと、ポイント獲得を実現するなど収穫の多い1戦となった。
「彼はダイヤモンドの原石だ。ヤリスWRCと同様にね」と、マキネンは言う。チームは来年実力でトップを競えるクルマに仕上げるべくヤリスWRCを鍛えているが、ラッピもまたクルマと同じように日々成長し、今後さらに速さと強さを身につけていくことだろう。

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任務をきっちり果たしたハンニネンと、体調不良を乗り越えポイントを獲得したラトバラ。

 TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamの最上位は、7位のハンニネンだった。ハンニネンはラリーをきちんと最後まで走り抜くことを目標に掲げ、それを見事に実践した。途中何度も光る走りを見せ、ベテランでありながら依然として進化していることを彼は証明した。SS14ではマシントラブルにより1分程度タイムを失ったが、それがなければさらに上の順位でのフィニッシュも可能だったはずだ。

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 ラトバラは、今シーズン初のロールオーバーによって大幅なタイムロスを余儀なくされたが、それでもリタイアすることなく最後まで走り、9位で完走を果たした。実は今回、ラトバラはラリー期間中常に体調不良に悩まされていたのだ。ラリー開始前は背中の痛みを訴え、それが遠因となったのだろうか高熱を発し、競技中は極度の胃痛に悩まされた。極度の体調不良に十分な睡眠をとることもできなかったが、それでもラトバラは気力でステアリングを握り続けた。そして、最終日の前の晩は、脱水症状のため入院し、点滴を受けて朝を迎えるなど、身体の限界を超えての戦いだった。そのような困難な状況で彼がつかみ取った2ポイントは、その数字以上に大きな価値を持っている。

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RESULT
WRC 2017年 第6戦 ラリー・ポルトガル

順位ドライバーコ・ドライバー車両タイム
1セバスチャン・オジエジュリアン・イングラシアフォード フィエスタ WRC3h 42m55.7s
2ティエリー・ヌービルニコラス・ジルソーヒュンダイ i20 クーペ WRC+15.6s
3ダニ・ソルドマルク・マルティヒュンダイ i20 クーペ WRC+1m01.7s
4オット・タナックマルティン・ヤルヴェオヤフォード フィエスタ WRC+1m30.2s
5クレイグ・ブリーンスコット・マーティンシトロエン C3 WRC+1m57.4s
6エルフィン・エバンスダニエル・バリットフォード フィエスタ WRC+3m10.6s
7ユホ・ハンニネンカイ・リンドストロームトヨタ ヤリス WRC+3m48.9s
8マッズ・オストベルグオーラ・フローネフォード フィエスタ WRC+5m29.7s
9ヤリ-マティ・ラトバラミーカ・アンティラトヨタ ヤリス WRC+5m43.6s
10エサペッカ・ラッピヤンネ・フェルムトヨタ ヤリス WRC+8m13.3s