著:レーシングドライバー 木下隆之
『大阪オートメッセ』が開幕するその日、2月11日の空には寒冷前線が張り出し、全国を雪雲に包んでいた。
ボクたち出演者のために用意してくれていた会場に隣接するホテルの窓をうかがうと、あたりは一面の雪景色、シンシンと雪が降り注いて、大きな溜め息をボクに誘ったのだ。
「雪じゃ、お客さんも大変だぁ」
ガクっと、膝から崩れ落ちるように落胆した。一年に一度だけの、せっかくの華やかなショーだというのに、あいにくの雪模様だなんて。出演予定だったメンバーと前夜、「今年は三連休だから、恵まれているね」、なんて喜んだばかり。「入場者記録を更新するかもね」とも期待していたのに。冷や水を浴びせかけない降雪に、チェッと小さく舌打ちした。
大阪オートメッセを楽しみに来場してくださるファンの多くはやはり、自慢の愛車でやってくることが多いわけで、雪はその足元を不安定にする。彼らの愛車は、ともすれば”ラッセル車”と勘違いされそうに、大きなチンスポが張り出した仕様が大半である。降雪は足枷となるのだ。
ただし…。
会場に向かっていると、負の思いがスーッと霧が晴れるように開けていった。まだ開場前だというのに、すでに近隣の駐車場には長い列ができていた。ラッセル車仕様のド派手なクルマが、亀の子覚悟でやってきていたのだ。「雪ごときでやめられるか!」とばかりに。それすらも楽しむような陽気なノリで。降雪という悪条件を、クルマスキの行動力が圧倒していたのである。実に頼もしい。
そんなだから、会場は熱気の渦にかく乱され、パワーに押しつぶされそうになった。我々GAZOOが持ち込んだ数々のコンセプトモデルには、黒山の人だかりができていたし、イベントを盛り上げるために企画したステージショーも大盛況。
最前列を確保しようとする観客達の、開演前からの陣取りが始まっていた、というほどの熱気。その光景を楽屋から覗き見ては、嬉しさを実感したのだ。
「凄いノリだぞ。まだ開演まで30分もあるというのに…」
バックステージで出演準備をしていたボク達は、すでに興奮させられてしまっていた。
「東京オートサロン」が開催されたのは先月のことだ。あれからほぼ一ヶ月のインターバルをおいて、この「大阪オートメッセ」の開催となったのだが、
東京からそのまま流れてくる全国区の名物チューナーも多く、熱気という点では遜色はない。
自動車メーカー系の参加がGAZOO Racingだけに限られたことは残念だったが、それだけに目立っていたように感じられたのはひいき目か?
もっとも、出展ブースがひしめく建家を取り囲むようにメインステージが設けられており、そこでは様々なイベントが続く。会場レイアウトの良さもあり、イベントが強烈な凝縮感に包まれていたのも事実。むしろ押し寄せるようなパワー感では上回っていたようにも感じたのだ。
GAZOO Racingブースから会場を順番に巡ろうと歩きはじめれば、まずは、月刊自動車雑誌の『XaCAR(ザッカー)』が持ち込んだ『2011年インプレッサSTIニュルブルクリンク24時間仕様』がボクを驚かせた。
「もう完成していたのか?」
共に日本を代表して現地に赴く同士でもある。
さらに足を進めれば、『UP GARAGE(アップガレージ)』のAE86ドリフト仕様が鎮座まします。不自然なほど大きく張り出したボンネットには、強力なユニットが収まるという。思わず笑えた。
歩きはじめて数歩ですでにそんななのだから、気になるクルマをじっくり眺めてなどいると、会場を隅々廻るまでに、なんども足止めを喰らうことになる。
東京オートサロンで、エコカー部門の最優秀賞を受賞した『ケースぺックCR-Z』などは、あらためて眺めても惚れ惚れする。エコとスポーツを融合させたCR-Zの志の高さには感動させられるのだ。
今年のスーパー耐久には、レクサスIS350が出場する。そのマシンも会場にやってきていた。もちろんGT-Rのチューニングモデルも少なくないし、VIPカーもおいそれとは近づきたくはならないほどの独特の凄みを発散していた。
そんな魅惑の展示車両の隙間を埋めるように、美女達が怪しく微笑む。彼女らを被写体に、多くのファンがシャッターを切る。眩いぐらいに焚かれるフラッシュの閃光に、目が幻惑された。
それにしても、大阪オートメッセを包み込む独特の凄みには、一歩後ずさりしたくなるようなパワーを感じる。
東京オートサロンと大阪オートメッセの違いを地域性や気質で説明するのであれば、それはそのまま東京と大阪の違いとなる。
あえていうならば、「洗練度の東京」に対して「パワー感の大阪」、あるいは「魅せるショーの東京」と「商人の大阪」とも感じられるような個性の対比が興味をそそられた。
三日間開催された『大阪オートメッセ』。最終日の空は、抜けるように青く清々しい空気に満たされていた。
そんな中、派手なチンスポイラーで武装した愛すべきチューニングモデル達が、駐車場を賑わしていた。
「やっぱりクルマは、晴れた日が良く似合う…」
熱気がたぐり寄せた青空を眺めながら大きく深呼吸をしたら、心地良い冷気が体の隅々までを巡ったように感じられた。