第8戦 第41回M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズ2013
勝田範彦選手がランキングトップに浮上 GAZOOラック86がJN3クラスチャンピオンに輝く!
今年は全9戦が組まれている全日本ラリー選手権は、その天王山となる第8戦を迎えた。
江戸時代の町屋が街の中心部に残り、情緒豊かな古都の雰囲気を残す岐阜県高山市を舞台に戦われるこのラリーは、今年で41回目の開催を迎えるという全日本ラリーの中で最も歴史の古い伝統の一戦だ。かつてはグラベル(未舗装路)で戦われていたラリーは、2008年以降ターマック(舗装路)で戦われるようになり、今年も2日間にわたって82.52kmのターマック林道に10本のスペシャルステージ(SS)が用意された。
初日は6.16kmの「駄吉下り」、5.54kmの「大山線」、8.52kmの「牛牧上り」をそれぞれ2回ずつの合計6本のSSを走り、2日目は6.41kmの「鳥屋」、14.63kmの「牛牧→無数河」を2回ずつの合計4本のSSで勝負が繰り広げられる。山の頂上から一気に下るダウンヒルや、深い森の中を縫うように走るテクニカルステージなど、それぞれの特徴が異なるステージが多いのが特徴だ。例年0.1秒を争うスプリント勝負となることが多く、今年もクラスによっては最終SSまで誰が勝つのか分からないという激戦が繰り広げられた。
シリーズランキングトップで第8戦を迎えた奴田原文雄/佐藤忠宜組(三菱ランサーエボリューションX)が、このラリーで優勝するとともに1日ごとの順位により与えられるデイポイントもすべて1位(フルポイント)を奪えばチャンピオンが決定するJN4クラス。その奴田原がSS1の2.3km地点の濡れた路面にステアリングを取られクラッシュするという波乱の幕開けとなった。
奴田原がリタイアしたためライバル不在となった勝田範彦/足立さやか組(スバル・インプレッサ)は、初日すべてのSSでベストタイムをマーク。2日目に入ってもその勢いは衰えずに次々とベストタイムを重ね、結果的には2位に1分以上の差をつけるという圧巻の走りで今季4勝目を挙げた。
2位には若手期待の高山仁/竹藪英樹組(スバル・インプレッサ)が入賞、3位には2012年のJAF中部近畿ラリー選手権チャンピオンの横嶋良/木村裕介組(スバル・インプレッサ)が入賞した。シリーズポイントでも奴田原を抜きトップに立った勝田は、最終戦で奴田原がフルポイントを獲得しない限り、4年連続でシリーズチャンピオン獲得となる。
SS1で奴田原が痛恨のリタイア
まさに一瞬の出来事だった。「前日のレッキの時点で路面が濡れていたのは分かっていたが、今日SS1をスタートしたら前日に濡れていた路面が乾いていたので、次のコーナーも乾いているはずだと思ったら、そこだけが濡れている状態だった。その濡れている部分で滑ってしまい、あっという間にコントロール不能になってしまった……」と奴田原。一方、「SS1は難しい路面コンディションだった。ヌタ(奴田原)さんのリタイア現場を見た時、『次は自分の番だ』と思うほど動揺してしまい、速く走ろうというモチベーションを保つのが難しかった。その後は昨年のこのラリーのタイムをターゲットタイムに想定して集中を切らさないように走ったことが、結果的に全SS制覇に繋がったと思う」と勝田。JN4クラスは、一瞬の判断が明暗を分ける結果となった。
横尾芳則がチャンピオンを決める4勝目
今回のラリーで、シリーズランキング2位につける香川秀樹/浦雅史組(ホンダ・インテグラ)に1.5点以上のポイント差をつければシリーズチャンピオンが決まるという横尾芳則/永山総一郎組(トヨタ86)は、初日6本のSS中5本のSSでベストタイムをマークし、2番手の山口清司/島津雅彦組(トヨタ・カローラレビン)に22.8秒の差をつけてトップで初日を折り返す。2日目、初日のマージンを活かして安定したペースで走った横尾は、トップの座を一度も脅かされることなくフィニッシュし、今季4勝目をマーク。チャンピオンを争う香川が4位に終わったため、横尾がトヨタ86としては初となるJN3クラスのチャンピオンを獲得した。また、2位には山口が、そして3位には一時は2位を走る快走を見せていた曽根崇仁/桝谷知彦組(トヨタ86)が入賞した。
天野智之が最終SSで石田雅之を逆転
第7戦・ラリー北海道でJN2クラスのチャンピオンを決めた川名賢(トヨタ・ヴィッツRS)が、SS1でドライブシャフトを折損してデイリタイアしてしまうという波乱のオープニングとなったJN2クラス。昨年まで3年連続チャンピオンを奪った天野智之/井上裕紀子組(トヨタ・ヴィッツRS G's)と、今年の第5戦・モントレーin 群馬で優勝した石田雅之/遠山裕美子組(トヨタ・ヴィッツRS)のベテラン同士が優勝を争う展開となった。初日は天野が石田に対し5.8秒のリードで折り返したが、2日目に入り石田が逆襲。最終SS手前のSS9を終えた時点で石田が天野に対し1.0秒差のトップに立ったが、天野が最終SSで再逆転に成功しトップを奪還。この最終SSだけで石田に11.6秒もの大差をつける激走をみせ、今季3勝目を獲得した。
伏兵・中村晃規が全日本初優勝
松岡竜也/縄田幸裕組と鷲尾俊一/安東貞敏組の2台のダイハツ・ストーリアX4がチャンピオンを争うJN1クラスは、松岡が3位に入賞、鷲尾が4位に入賞となったため、チャンピオン争いは最終戦・新城ラリーに持ち越された。優勝争いは、今季2勝を挙げている難波巧/石下谷美津雄組と、10年ぶりに全日本に出場してきた中村晃規/藤原直樹組のマツダRX-8同士の対決となったが、初日をトップで折り返した中村を、2日目のSS8で難波が逆転し2.3秒差のトップに浮上。だが、SS9で中村が再逆転に成功し、難波に対し0.8秒差のトップで最終SSを迎えた。注目の最終SSは、中村が難波との差をさらに18.9秒差まで引き離し、自身にとっては初となる全日本優勝を獲得した。
昨年、トヨタ86の発売日に全日本ラリー選手権デビューを果たしたGAZOOラック86が、全日本参戦2シーズン目となる今年、ついにJN3クラスのシリーズチャンピオンを獲得した。
今年、GAZOOラック86のドライバーを務めた横尾芳則は、ラリーデビュー2年目で全日本チャンピオンを獲得した経緯を持つという逸材のドライバーだ。その横尾が、GAZOOラック86でのタイトル決め、笑顔で次のように語った。「GAZOOラック86のステアリングを託された時に、ふたつの目標を持ちました。ひとつは、優勝すること。そしてもうひとつは、チャンピオンを獲ることです。今年は両方の目標を達成することができ、うれしいという気持ちとともに、安心したというかドライバーの役目を果たすことができて、ホッとしたという気持ちが強いですね。特にチャンピオンを獲るのは、ドライバーやコ・ドライバーの力だけでは達成できません。毎回しっかりとラリーの準備をしてくれたチームや、ラリー本番の走りを支えてくれたメカニックの皆さんのおかげだと思います。チーム一丸となって獲得できたタイトルだと思います」
その横尾に、チャンピオン獲得のターニングポイントを聞いてみた。
「やはり、GAZOOラック86に乗って初めて優勝できた第4戦のラリー洞爺が大きなターニングポイントだったと思います。第1戦から第3戦までは、ベストタイムを出していても、悪い時のタイム差も大きく、なかなか優勝するチャンスがなかった。要するに、まだセッティングの方向性やどのように走らせたら速いのかといった部分を煮詰めることができていなかったのです。それだけに、第4戦の優勝は努力してきたことが結果に結びついたという実感を強く感じることができましたね。トヨタ86はクルマのバランスが優れているので、その良さを崩さないようにセッティングを煮詰めていきました。その方向性が間違っていなかったという自信と確信にも繋がりました」と振り返る。
来シーズンのドライバーとしての活動はまだ未定だが、「個人的にはトヨタ86はまだまだ速くなると思います。今シーズンはトヨタ86の良さを最大限に伸ばし切れていない発展途上のなかでのタイトル獲得でもあるので、逆にどこまで速くなるんだろうという楽しみはありますね。来年は、出場台数ももっと増えてくると思いますよ」と横尾。全日本ラリーにおける86/BRZのさらなる可能性に夢が膨らむ。
※クラス区分の説明については、こちらを参照
クラス | 順位 | ドライバー/コ・ドライバー | 車名 |
---|---|---|---|
JN4 | 1 | 勝田 範彦/足立 さやか | スバル・インプレッサ |
2 | 高山 仁/竹藪 英樹 | スバル・インプレッサ | |
3 | 横嶋 良/木村 裕介 | スバル・インプレッサ | |
JN3 | 1 | 横尾 芳則/永山 聡一郎 | トヨタ86 |
2 | 山口 清司/島津 雅彦 | トヨタ・カローラレビン | |
3 | 曽根 崇仁/桝谷 知彦 | トヨタ86 | |
JN2 | 1 | 天野 智之/井上 裕紀子 | トヨタ・ヴィッツRS G's |
2 | 石田 雅之/遠山 裕美子 | トヨタ・ヴィッツRS | |
3 | 加藤 辰弥/西江 浩和 | マツダ・デミオ | |
JN1 | 1 | 中村 晃規/藤原 直樹 | マツダRX-8 |
2 | 難波 巧/石下谷 美津雄 | マツダRX-8 | |
3 | 松岡 竜也/縄田 幸裕 | ダイハツ・ストーリア X4 |