２００２年５月２０日（月）

チームドクター リカルド・チェカレリに聞く

パナソニック・トヨタ・レーシングでのチェカレリ先生の仕事内容を教えて下さい｡

大きく分けますと、３つの分野があります。ドライバーの健康管理、チームメンバーの健康管理、そして、ヤング・ドライバーの身体検査・テストなどです。私自身の主要業務としては、サーキットで働く人々を診ることです。グランプリ毎戦、またテストへも、いつもドクターと理学療法士を同行させるのは、パナソニック・トヨタ・レーシングだけではないかと私は思っています。また、ケルンにあるチームのファクトリーにジムが開設されたのですが、ここはチーム従業員のみなさんへも開放されていまして、私たちはここでも、健康管理等の仕事に携わっています。

今までに指導したレーシングドライバーには、どんな人がいますか？

パナソニック・トヨタ・レーシングで仕事をはじめてからは、ミカとアラン以外の他チームのＦ１ドライバーは担当していないのですが、今まで診てきたＦ１ドライバーで、今シーズン走っているドライバーでは、ヤルノ・トゥルーリ、ジャンカルロ・フィジケラ、エンリケ・ベルノルディ、そして、フェリペ・マッサがいます。ドライバーには総合的なコンディションづくりを指導しています。各種健康診断からはじまり、さらに詳しく身体能力を分析するために、ジムへも入ってもらいます。そして、食事療法も含めたフィットネス・プログラムを作成します。

ミカとアランと仕事することは大変ですか？

二人と仕事をするのはとても楽ですよ。彼らくらい経験のあるドライバーともなると、すでに、自分自身をどのように訓練していけばいいか分かっていますから。私は、習慣になっていることをすべてやめさせることは出来ませんし、時には、好きなことをすることも精神的な面にとってもいいことです。けれども、二人には、何が重要かということに集中してもらうように指導をしていきます。

ミカとアランの健康状態は良いですか？

そうですね。二人とも健康管理には大変積極的に取り組んでいますね。トレーニングもしっかりしていますし、私が進めている、ビタミン補給プログラムに関しても、その重要性を理解してもらっています。

レーシングドライバーがクルマの中でどのような経験をしているのか、どれくらい分かるものですか？

引退ドライバーがフィットネスコーチになることはあまりないもので、私は自分自身が体験していないことを教えていることになります。しかし、しっかりとした研究をしている限り、問題はありません。

さまざまなデータから、どういったことが分かるのでしょうか？

体内の循環から、緊張の度合いや、レースカーを運転することによってどれくらい筋肉に影響を及ぼすかが分かります。体力的・精神的エネルギーについて言いますと、レース中、たくさんの「燃料」を使ってしまう「燃費の悪い」エンジンのようなドライバーもいれば、そうではないドライバーもいます。トレーニングの方法は二人それぞれのタイプに合わせて、違うものにしなければならないのです。

レースで速いドライバーにすることは出来ますか？

それはちょっと無理です。速く走れるようになるというのは、もっと根本的な問題だからです。しかし、レースの間、そのドライバーが持つ本来の可能性を引き出す手伝いをすることはできます。ときどき、本当はそうではないのに、限界の力を出し切ったと思い込んでしまうドライバーがいます。医学を通して、そのようなことを分析することができるのです。

グランプリのサーキットに合わせてプログラムを組むことはできるのですか？

もちろんです。そして、実際やっています。多少難しいのは、ドライバーはレース以外でもテストやミーティングがあるので、そのライフスタイルに合わせていくことですね。

ダイエットはドライバーのパフォーマンスにとって、どれくらい大切なのでしょうか？

食事内容に気を付けるということは、レーシングドライバーに限らず、人の健康にとって重要なことで、また、ドライバーにとっては、何を食べるかということだけではなく、食事を摂る時間帯に気をつけることも重要なのです。レースの１時間前にステーキなど食べてしまったら、レースの時間になっても消化が終わりません。すると、１００％の力が出せないのです。以前担当したＦ１ドライバーに、血液検査の結果をふまえて、バナナとコーヒーは摂らないほうがいいと指導した例があります。実際、そうさせてみたところ、彼の体調が改善されたのです。

モータースポーツと類似点のある他のスポーツはありますか？

モータースポーツと共通点があるスポーツは、ボクシングだと思います。ボクシングは試合時間が長いので、耐久力を必要としますし、機敏で的確な反射神経も必要とされます。極度の集中力も、もちろんそうですし、そして、アグレッシブでなければならないからです。