第15戦 イタリアGP 2002
2002年9月13日(金)
TMG 来栖副社長に聞く
パナソニック・トヨタ・レーシングでの来栖副社長の役割を教えてください。
私はTMG(Toyota Motorsport GmbH)の副社長として、トヨタF1プログラムのあらゆる分野に深く関わっています。
普段はどちらに勤務しているのですか。
ドイツ・ケルンにあるファクトリーを拠点としています。住まいはデュッセルドルフにあり、完全にTMG勤務です。
今回がトヨタでの初めてのモータースポーツ関連の仕事ですか。
20年位前、トヨタがグループBのラリーカー開発に着手することを決定した時に、私はシャシー・エンジニアとして携わりました。このラリーカーはトヨタ自動車にて製造、TTE(Toyota Team Europe - 現TMGの前身)によって開発されていました。そして、その時に、今のTMG社長、O. アンダーソン氏と共に働いていたのです。残念なことに、私が携わっていたほんの2年半の後に、レギュレーションが変更となりました。ラリーカーはグループAとなりましたが、これが、トヨタがF1プログラムに関わる前の、私のモータースポーツ業務経験です。
F1ファン歴は長いのですか。
若い頃からF1はよく見ていて、私のヒーローはクリス・エイモン(ニュージーランド人元F1ドライバー。'60年~'70年代に活躍)です。エイモンはとても「速い」ドライバーだったにもかかわらず、一度も優勝することができず、有名なジンクスを持つドライバーですね。当時のF1は現在よりもクルマ自体の能力が互角だったために、実力を持つドライバーなら誰にでも優勝するチャンスがあったことがおもしろかったです。
日本では、パナソニック・トヨタ・レーシングのこれまでの進歩について、どのように受け止められているのでしょうか。
トヨタはグローバル企業ですが、日本のトヨタ自動車は保守的な企業と見ている人もいます。私たちは実際、自動車関連の多くの新技術、例えば、ハイブリッドや、VSC(ビークル・スタビリティ・コントロール)などの技術などを発表してきていますが、そのような固いイメージがまだ持たれているようです。このF1プログラムは、トヨタ自動車にとって、現存のブランドイメージをさらに高め、広く展開していくための、絶好の機会となっています。モータースポーツは、若い世代の人々の心に訴えかけるものであり、トヨタがF1プログラムを開始することを発表して以来、たくさんの日本の人々からの応援の声を頂いています。
F1初参戦の今シーズンの、これまでの成果には満足していますか。
私たちは今年を、「学習の年」としています。緒戦から第3戦までの結果は、思ってもみなかったことですが、なんと2ポイントを獲得することができました。とても驚きでした。
このことから、当然、より高い期待がかかることとなるわけですが、私たちの目標は当初から変わりません - 予選を通過すること、そして、可能な限り多くのレースにおいて完走するということです。
パナソニック・トヨタ・レーシングには、高性能のエンジン、信頼性のあるシャシーがあり、そして、ミカ(サロ)とアラン(マクニッシュ)という、才能あるドライバーがいます。しかしながら、これらのすべての要素を効果的に組み合わせることは大変難しいことなのです。パフォーマンスという技術面の開発をする場合は、もちろん可能なことなのですが、それと同時に一つのチームをつくりあげるということを行うことは、困難なことなのです。成功を手中にする前には、私たちは技術と人材とを統合させることが必要であり、私は、必ず達成できることだと信じています。
トヨタが表彰台のトップに立つ日はいつになると思いますか。
前にもお話しました通り、今季、参戦の年はF1について学ぶ年であり、2年目には、ポイントを獲得すること、予選グリッドの順位を上げていくといった次の段階へのステップアップをするべき年となるでしょう。
トヨタ自動車と、TMGの間での技術協力はかなり行われているのでしょうか。
トヨタとTMGとの間の協力関係はより強くなってきています。TMGはすでに多くの若手日本人エンジニア達を迎え入れており、TF102のパフォーマンス関連の仕事に従事してもらっています。彼らは今、非常に貴重な体験をしており、再びトヨタに戻る時には、ケルンでの経験をもとに、より有能なエンジニアとなっていることでしょう。
このF1プログラムに、もっと多くの日本人の姿を見たいとは思いませんか。
TMGで働く日本人エンジニアはおよそ20名位です。しかし、日本のトヨタ自動車においても、このF1プログラムに関連する業務に携わっている人が約100名ほどいます。確かに、TMGとトヨタ自動車の関係をより強くしていくことはできます。将来、また新たな日本人エンジニアを呼ぶことも計画しています。
F1は多額の費用が必要だと思いますか。
トヨタはまだF1の世界では新人であり、コメントをする前には、さまざまな事柄をよく観察したいと思っています。しばらく、この世界に身を置いてみて初めて、このスポーツで何か変える必要があるかどうかが分かってくるのだと思います。
トヨタは日本人ドライバーを必要としていますか。
日本人ドライバーが、私たちのF1カーで走ることになれば、それはとても素晴らしいことですが、トヨタは国際的企業であり、世界各国で自動車を販売しています。それがゆえに、私たちはドライバーを国籍ではなく、彼らの能力で選ぶのです。しかし、私たちは日本有数の自動車メーカーとして、才能ある日本人ドライバーをチームの一員とすることはとても有益なことでしょう。
日本人若手ドライバーを育成するプログラムはありますか。
現在、日本におけるカート(KART)というカテゴリーは、大きな変革期へ来ています。近年までは、経験のあるドライバーがチャンピオンシップを獲得していました。しかし、今や大変若いチャンピオンも誕生しており、JAF(日本自動車連盟)もバックアップしています。JAFは、若いドライバーに特別ライセンスを適用することを定めています。とは言いましても、サーキットでレースができるのは、16才からですが。トヨタ自動車は、ドライバー育成プログラムを進めており、すでにモーターバイクの世界では見られるような、将来の優秀な日本人ドライバーを養成し、4輪レースの世界へと送り出していけることを、私は確信しています。
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