第5戦 スペインGP 2003
2003年05月03日(土)
高橋敬三GMに聞く:予選
TF103に大幅な改良を施して臨んだ予選
その効果はパニスの6位グリッド獲得へと
すぐさま結果となって表れたのだった
ヨーロッパ・ラウンドに突入して2戦目、パナソニック・トヨタ・レーシングは第5戦スペインGPに臨むにあたり、トヨタTF103に大幅な改良を施した。「開幕から3戦の遠征戦を終え、ヨーロッパ・ラウンドが始まるサンマリノで最初のアップデートを行うのが一般的ですが、トヨタとしては多岐に渡る改良を施し、ここから実戦に投入します」と高橋GMは語る。改良のポイントは4つ。空力、エンジン、トラクションコントロール、ブレーキである。空力の改良点はアンダーフロア、ディフューザー、リヤアンダーウィング、バージボードと、フロントウィングにこそ手を入れていないものの、変更は広範囲に及ぶ。
「かなり全体的なアップデートです。ダウンフォースの向上が狙いですね。バルセロナは空力がラップタイムに与える影響が大きいので、空力効率を向上させた効果がダイレクトに現れる。最高速を殺さずに、効率向上を図ることができたと思います」
ふたつめのポイントとなるエンジンは、開発の方向をパワーよりも燃費に振った。「もちろん、パワーも上がっていますが、それよりも燃費とドライバビリティを重視しました。昨シーズンまでは燃費を改善しても予選のラップタイムに結びつくことはありませんでしたが、今シーズンは燃費を改善すると予選アタック時の燃料積載量を少なく抑えられるため、ラップタイムに跳ね返る。これが、パワーよりも燃費に振った理由です。主に燃焼面とフリクションの低減で燃費の向上を図りました」
トラクションコントロールの改良は、タイヤをうまく使い切るためだ。「ミシュランユーザーの中では、まだタイヤをうまく使い切れていないという認識がありました。燃費と同様、レースで結果を出すためにはタイヤをうまく使い切ることが重要になります。過去2回のテストで手応えがありましたので、ここで投入することに決めました」
ブレーキの改良はパニスの車両にのみ施す。「オリビエがブレーキを踏んだ際のイニシャルの立ち上がりを改良してほしいと要望を出してきたのです。彼の要求を満足させるため、踏み始めのストッピングパワーを増大させるべく、油圧システムの改良を行っています」
これら4項目に及ぶ大幅な改良は、スペインGPだけでなく、今後のレースを戦っていく上でも効果があると高橋GMは強調する。「バルセロナにもぴったり合いますが、今後のレースまでも視野に入れた全体のレベルアップです」
効果はすぐに現れた。パニスがオーバーステア、ダ・マッタがアンダーステアに悩む場面があったが、順調にセッティングの煮詰めが進み、金曜日午前中のプラクティスを5番手(パニス)、9番手(ダ・マッタ)で終える。午後2時から始まる予選が行われる頃には、路面温度がさらに上昇すると予測したチームは、予選に向けて2台のセットアップを大幅に変更する決断を下した。この決断にはドイツ・ケルンに本拠を置くTMGとの間で交わされたテレビ会議が役に立ったという。
「このサーキットは風向きや路面温度の違いでセッティングが大きく違ってくるんです。わずかな環境の変化で大きく読みを外す可能性がある」。リスクを覚悟で賭けに出たわけだが、TMGとの密な連係プレーが効果を発揮し、予選ではふたりのドライバーが冴えた走りを見せた。15番目にタイムアタックを行ったパニスが6番手、続く16番目にアタックを行ったダ・マッタが4番手のタイムをたたき出した。
「上位のポジションを期待していたことは確かですが、正直、期待以上です」と高橋GMは満足げな表情で語った。ウィングやメカニカルな調整で2台ともセッティングを変更したのですが、2台ともいい方向に行きました。基本的には、空力のパッケージ変更が大きくタイムに結びついたと思います。明日はまた路面コンディションが変化することが予想されます。レースではリヤタイヤの摩耗がきつく、この点がポイントになる。このあたりを見極めたセッティングとタイヤ選択をしたいと思います」
土曜日の天候も晴れ。午前中のフリープラクティスでパニスは5番手、ダ・マッタは11番手と、ポジションが割れた。レースのストラテジーは2台でそんなに大きく変えていないという。ということは、燃料の積載量に大きな違いはない。予選のポジションはパニス6番手、ダ・マッタは13番手だった。ポジションの差はどこで現れただろう。
「まず、オリビエから行きましょう。昨日はクリスチアーノの調子が良かったのですが、今日はオリビエの調子が良かった。午前中のプラクティスから順調で、バランスがばっちり決まっていました。ほぼ、予選の結果は期待どおりです。一方で、クリスチアーノははまりこんでしまいました。昨日のセッティングのまま走り出したらまったくダメ。午前中の走行でアンダーステア傾向が出ていたので予選に向けて調整を行ったところ、今度はオーバーステア傾向に振れてしまったんです。風向きが変わったことによる影響を受けたのかもしれません」
満足のいかない状態で予選アタックに臨んだダ・マッタは、バックストレートエンドのターン11で大きくスライドし、タイムをロス。「ここで0.3秒はロスした」というから、これが13番手に沈む最大の要因となった。
「タイヤは、オリビエがプライム、クリスチアーノはオプションを選択しました。これはデグラデーション(摩耗の進行具合)の少なさを基準にした結果です。どういうわけか、オリビエにはプライムが合い、クリスチアーノにはオプションが合いました。クリスチアーノのオーバーステア傾向は、フロントウィングの角度調整とタイヤの空気圧で修正を施すつもりです」
最後に高橋GMは「今年のラウンチコントロールは自信があります」と意味深長なコメントを残した。起死回生のリザルトが期待される明日の決勝に注目したい。
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