第7戦 モナコGP 2003

2003年05月31日(土)

高橋敬三GMに聞く:予選

予期せぬバッドスタートから一転、ダ・マッタが予選10位獲得
セッティングに課題は残るが、好転の兆しが見えてきた

 今年で第61回を迎えるモナコGPは、歴史ある伝統的なイベントだ。モナコ市街地に作られる1周3.340kmのコースは、今年コースレイアウトの一部が変更され、最終コーナー手前のプールサイドシケインの形状が手直しされた。それによってコース距離は40m短くなったが、コース幅も広くなり、ドライバーたちは口々に従来よりも攻めやすくなったと語っており、コース改修はとても好意的に受け入れられた。もうひとつ、改修されたのはピットロード出口。従来よりも長くイエローラインが伸ばされ、1コーナーの先でコースに合流する形になった。「このため、従来よりもピットインの際のロスは大きくなりましたね。1コーナーをイン側で小さく回らなければならないため、スピードが殺されてしまうからです」と高橋敬三GMは語る。

 また、このモナコGPはタイムスケジュールも特殊だ。公道が閉鎖されて行われるレースのため、金曜日は午前中にF3000の予選などがあるだけで、F1は一切走らない。そのため、木曜日にフリー走行と予選1回目が行われる。通常のグランプリは3日間のスケジュールで行われるが、ここでは計4日間と普段よりも1日多いグランプリとなるのだ。

 コース改修のために短くなり、走りやすくなったこともあり、木曜日午前中のフリー走行から、昨年のポールポジションタイムである1分16秒676を上回るタイムがマークされた。トップタイムはジャガーのマーク・ウエーバーの1分16秒373だった。路面のグリップレベルがまだ低い状態でのこのタイムは、今年のモナコが以前よりもハイスピードでの戦いになることを予感させた。しかし、この状態の中でトヨタの2台はタイムが伸びず、苦戦を強いられていた。パニスが1分17秒811で13位、モナコを初めて走るダ・マッタは1分19秒956で最下位の20位だった。

「クルマのバランスはそんなに悪くない。走り始めは路面も悪かったので、全体的にグリップがなかったようですね。それで、最初はセットを変えなかった。でも、路面が良くなっても、思ったほどグリップが良くなりませんでした」と高橋GM。ダ・マッタに関しては、初めてのコースということで、まずはコースを覚えるために29周を走ったが、マシンのグリップが足りないこともあってか、タイムアタックをする段階に来ていないようだった。

 午後の1回目の予選に向けて、リヤのグリップを上げるセットアップの変更を試みたが、予選では2台ともオーバーステアとなってしまい、結局タイムを伸ばすことはできなかった。パニスはシケインでリヤをスライドさせて1秒近くタイムロスするミスを犯して、18位。ダ・マッタも19位と、その後ろにはトラブルでタイム計測できなかったザウバーのフレンツェンだけ。ミナルディにも抜かれ、事実上の最下位に2台が並ぶ結果となってしまった。

 この深刻な結果に、予選後、テクニカルスタッフは長いミーティングに入る。予定されていた記者会見を1時間も遅らせ、ミーティングから出てきた高橋GMはいつもにも増して神妙な面持ちでモーターホームに姿を現わした。

「A1リンクでも同じような症状に悩まされ、その後のポールリカールでテストしたのですが、改善しきれてなかったようです」と重い口をようやく開きながら、高橋GMは語り始めた。「ブレーキングでのスタビリティにも問題があったようで、ドライバーは思い切り攻めきれなかったようですね。特にダ・マッタはコースに慣れていないこともあり、クルマに自信がないと思い切りプッシュできなかったようです」

 F1の走行はなく、休日となるはずの金曜日もトヨタのスタッフはケルンとのミーティングに長い時間を割いていた。前日のデータをよく分析し、セッティングの方向性を決める。そうして臨んだ土曜日のフリー走行では多少改善した兆しはあったものの、それでもダ・マッタ15番手、パニス17番手と下位に沈んでいた。

「木曜日とは違うセッティングで走り始めましたが、最初は改善された様子はありませんでした。しかし、徐々に路面が良くなってきたため、セッティング自体をいじらなくても、グリップが上がってきました。結局、最初とほとんど変わらない状態で午後の予選に臨むこととなりました」と高橋GMは説明する。

 しかし、午後の予選ではダ・マッタが10位に食い込む健闘をみせた。燃料の量の違いもあり、パニスは17位に終わったが、木曜日の状況と比べると事態はいい方向へ向かっているように見えた。

「今回はふたりの作戦を変えたため、予選のタイムに差が出ました。セッティングはほとんど同じです。ダ・マッタはかなりハードに攻めたと思います。今のクルマではベストのタイムが出たと思ってます。パニスは燃料の割にはタイム的に悪くなかったと思います。ドライバーはベストを尽くしたけれど、クルマとしては全体的なグリップを上げないといけないと思います」と高橋GM。木曜日の最悪の状態から比べれば、予選10位という結果に安堵の表情を見せながらも、オーストリアGPから続くグリップ不足に悩まされていた。

 明日の決勝に向けて、クルマのセッティング不足を補うため、2台の作戦を変えるなど、さまざまな工夫をするトヨタチームだが、スペインでのポイントゲットで見えたと思われた光明は、今の段階ではまだ確実に見えてきてはいないようだった。しかし、レースは長い。日曜日の決勝レースでの健闘に期待したいところだ。