第9戦 ヨーロッパGP 2003
2003年06月28日(土)
高橋敬三GMに聞く:予選
2日連続で、パニスがフリー走行でトップタイムをマーク
波に乗るトヨタは、前戦に続き2台揃って予選トップ10入り
TMGのあるケルンから約80km、クルマで1時間程度と、ファクトリーから一番近いサーキット、ニュルブルクリンクで行われる「ヨーロッパGP」。トヨタにとってはホームGPともいえるレースだ。ニュルブルクリンクは1周が5.418km。低中速コーナーが主体のテクニカルコースだ。
「パーマネントサーキットの中では最も低ミューのサーキットです。今年我々が苦しんだオーストリアや、モナコに近いタイプと言えます。タイムを稼ぐには、立ち上がりのトラクションをうまく使うこと。追い抜きがほとんどできないサーキットなので、予選での順位も大切になるでしょう」と高橋敬三GM。
前戦カナダGPでは、エンジン、空力パーツを大幅に変えてきたパナソニック・トヨタ・レーシングは見事にポイントゲット。オーストリア、モナコと続いた不調を一気に払拭した。そして、いい状態で地元と言えるここニュルブルクリンクでのヨーロッパGPを迎えることができた。
ファクトリーから近いということもあって、高橋GMは木曜日の朝、ユニフォームを着たままの姿で、デュッセルドルフの自宅を出た。
「ここは(TMGから)近いということがみんな頭にあるから、ちょっとのんびりとしている。前の日にパーツが出来たら持って行けるという頭があるからね。間に合うから、ぎりぎりまでいろいろやろうとするんですよ。いつもなら、もうとっくに準備できているのに」
さらにこのニュルブルクリンクには、TMGからは大挙して応援団がやってくる。TMG社員600人全員が、金、土、日の3日間に分かれて、それぞれ200名ずつバスでケルンから毎日到着するのだ。
その応援の賜物なのか、金曜日の午前中のフリー走行で、オリビエ・パニスが1分31秒197という好タイムで、セッションのトップタイムをマークした。カナダに続く快挙に、チーム内は大喜び。クリスチアーノ・ダ・マッタもスピンを喫しながらも9位につけていた。
「クルマもバランスが決まっていて、走り始めからよかった。今回はカナダの時ほどではないけど、エンジンも空力も変えてきました。エンジンは全域でのトルクアップ、空力は挙動によるダウンフォースの変化を少なくする方向で改良しました。タイヤはパニスがプライム、ダ・マッタがオプションです。オプションはブレーニングの出方が早いので、レースではプライムを使うでしょう」
午後の第1回目の予選に向けて、いい感じの仕上がりを見せるパニスとダ・マッタ。しかし、午後の予選では思わぬ落とし穴が待ち受けていた。ダ・マッタがコースインしようとした頃から、雨がパラパラと降り始めてきたのだ。アタックする頃には雨は本降りとなり、ドライタイヤでコースインしたダ・マッタは、3コーナーで思わずスピンしてしまう。再度、走り始めたダ・マッタだったが、そのままアタックを止めてピットに戻ってしまった。これを見たチームはパニスのクルマのタイヤをレインタイヤに換えたが、パニスがアタックする頃には雨は一番激しくなり、とてもアタックするどころではなかった。「2コーナーはまるで湖のようだった」とパニス。運に見放された感じだったが、それでもチーム内は明るい雰囲気を失っていなかった。「クルマの調子がいいためか、ドライバーの2人はいたってご機嫌ですね」と語る高橋GMの表情にも落胆の色はなかった。
土曜日、朝にはまだ雨雲が残っていたが、雨は止み、路面もほとんど乾いていた。天気予報では、午後に向けて快方に向かっているという。午前中のフリー走行で、パニスはまたもやトップタイムをマークする。午後の予選に向けて、チームの士気も高まっていた。
昨日の予選でノータイムとなったダ・マッタと、強い雨でタイムなど望めなかったパニスの2人は、予選序盤でのアタックとなってしまう。ダ・マッタは2番目、パニスは4番目という出走順だ。まだラバーグリップも出ていない路面状態にもかかわらず、2人は好タイムをマークする。予選前半を終えた段階で、パニス、ダ・マッタが1、2位の順位を占めた。後半、トップチームが出て路面状況もよくなってくると、さすがにタイムを更新されてしまったが、それでもパニスが7番手、ダ・マッタ10番手位と2人ともトップ10入りすることができた。
「アタックの順番が最初の方だったのを考えれば、上出来だったと思います。パニスは最終セッションでタイムをロスして、コンマ2秒くらい損をしていたから、それがなければあとひとつか、ふたつはポジションを上げられていたかもしれませんね」と高橋GM。パニスとダ・マッタでは、決勝の戦略も変えてきたらしく、それがタイム差に出たようだった。
今回、日本からやってきた長野英次モータースポーツ推進室長も、この結果にはご満悦だった。モータースポーツ推進室は、日本でF1のマーケティングを担当する部署だ。
「多少調子が悪くても、周りは『まだ2年目だからしょうがない』と言ってくれる。でも、それでは駄目だと思っています。昨年は勉強の年、今年は挑戦の年と我々は考えているのです。その考えでいくと、いままでの成績では満足できない。確かにカナダではポイントを取ることができた。しかし、常にそのくらいのポジションにいてくれないと」と口では厳しいことを言いながらも、その表情はにこやかで、今回の結果に満足しているようだった。
「今年のF1のスローガンは“WATCH US!” いままでの成績では見てくれとは言えないですからね。昨年のトヨタのF1活動をTVや雑誌などの露出などを考えて広告換算するとだいたい100億円くらいの効果があった。それ以上に、モータースポーツ=トヨタというイメージがあったことは大きいけれど、まだまだ足りないと思ってます。やはりきちんとした結果が出て、効果は倍増すると思ってますから」
今回のクルマの好調ぶりを見た限りでは、トヨタ=F1のイメージが定着するのもそう遠い日ではないように思えるのだが。まずは、明日の決勝でダブル入賞してくれることを期待しよう。
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