第15戦 アメリカGP 2003
2003年09月28日(日)
高橋敬三GMに聞く:決勝
天候に翻弄されたレース
この悔しさは鈴鹿で晴らす
日曜日の朝が開けた。空一面に灰色の雲。午前9時の気温は10度で、吐く息がかすかに白い。「レースが始まる頃(午後1時)もこのくらいの気温みたいです」とトヨタの赤いセーターを身にまとった高橋敬三ゼネラルマネージャーは言った。「これ着ていてもまだ寒いですよ」。
「このサーキットはアウト側とイン側で路面のコンディションはだいぶ違うんですか」という質問に高橋GMは、「ハンガロリンクほどではないですが、イン側はだいぶほこりがのっていますね。でも、オリビエは3番手なのでアウト側です。前回からトラクションコントロールが良くなりましたから、オープニングラップを終えて一番最初に戻ってくるのはオリビエかもしれませんよ」
1番にはならなかったが、スタートダッシュを決めたパニスはフェラーリのルーベンス・バリチェロをかわし、2番手でオープニングラップを終える。3周目のホームストレート上でウイリアムズのラルフ・シューマッハー、5周目の同じ場所でフェラーリのミハエル・シューマッハーに抜かれるが、トヨタはストレート上の最高速を犠牲にしてテクニカルなインフィールドを重視したセットアップのため、「あれは仕方ない」と高橋GMは冷静に振り返る。
冷静でいられないのはそれからだ。5周目に入ることから強い雨が降り出した。「まとまった雨が降る」と判断したトヨタ陣営は上位陣を尻目に早めにウエットタイヤに交換する作戦に出た。
「ギャンブルではありません。雲は来ていたんです。レーダーを見ても雨雲が近づいているのがわかりました。実際に雨が降り出したので、2台ともピットに入れてウエットに履き替えることにしたんです。ところが、風向きが変わって雨雲がかすめて行ってしまったため、路面が思ったほど濡れなかった」
パニスが6周目、ダ・マッタは7周目にピットには入り、それぞれウエットタイヤに交換したが、路面が乾くやいなや、チームは2台のTF103をピットに呼び戻した。パニスが10周目、ダ・マッタが11周目のことだった。
「路面が濡れなかったので、レインタイヤが減ってきてしまった。それで仕方なくドライに変えることにしたんです。そのあとはもうぐちゃぐちゃですね。あのとき選択肢は2つあったと思うんです。トップ集団がピットに入っていないから、そのままドライで我慢するパターンがひとつ。他車に先んじて入れるというパターンがひとつ。後者を採用したんですが、結果的にそれが敗因でした。結果論から言えば間違いだったんでしょうけど、なかなかその場で判断するのは難しいでしょう。雨がきていれば逆の結果で終わったかもしれない」
マネージメント側の混乱ぶりがドライバーにも伝わったのか、パニスの最初のピットストップでは「ギヤが入らなかったようで」少しもたつき、ダ・マッタと順位が逆転する要因にもなった。やんだと思った雨が今度は一度目よりも強く降りだし、再びウエットに交換する。そして最後は雨に足を取られてスピン。3番手の好ポジションからスタートしたパニスはリタイアに終わった。
「晴れていれば読み通りだったんですけどね。最初にピットストップして給油したときも、燃料はたくさん余っていたんです。予定では18~19周目に行うはずだったので、まわりよりも余計に周回するはずでした」
ダ・マッタもパニスと同じ筋道をたどった。ウエット~ドライ、ウエット~ドライと履き替えるうちにピットレーンの速度違反を犯し、ピットレーンのドライブスルーペナルティを科され、1回余計にピットレーンを通過。最終的に6回のピットインを経験ながらも9位完走を果たす。
「ダ・マッタに関しては可もなく不可もなしです。ふたりとも2回ストップでした。悔しいですね。ある意味で賭けに出て、それが外れたんだから仕方ない。でも、それと引き替えに、ザウバーがポイントを稼いだため、ランキングの5位を奪われてしまいました。ジョーダンも背後に迫っている。混戦です」
悔しさは「鈴鹿で晴らす」と高橋GMは約束してくれた。
「クルマ自体はパフォーマンスを引き出せるようになりました。ホームグランプリで今シーズンのベストリザルトを残したいと、チームのみんなが全力で頑張っています。エンジンは過去最高のパワーを達成した仕様を持ち込みます。鈴鹿はブレーキ、メカニカルグリップ、空力とあらゆる要素が要求される厳しいサーキットです。空力とひとことで言っても、ダウンフォースも欲しいし、かといってダウンフォースをつけすぎるとドラッグが増え、それはそれで困る。要するに効率が求められるんです。だから非常に難しい。そのあたりをうまくバランスさせたウイングを開発しました。究極の仕様と言っていいでしょう。チャンピオンシップも厳しい戦いになってきましたが、ここでちょっと何かを加えれば混戦を抜け出せると思っています。鈴鹿に向かう前にTMGで何が準備できるかしっかり打ち合わせをし、集大成を持ち込みたいと思います」
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