第8戦 カナダGP 2004
2004年06月13日(日)
高橋敬三DTCに聞く:決勝
非常に残念な結果。ただし、レース自体の作戦はうまく働いた
スターティンググリッド前方にこだわらず、レースを重視したセットアップで予選に臨む。セットアップは、予選のタイムアタックで効果を発揮するタイヤではなく、レースで長い周回を走った際に性能低下しにくいタイヤを選ぶ。モナコ、ヨーロッパと続いたパナソニック・トヨタ・レーシングの戦い方はカナダGPではうまく展開し、クリスチアーノ・ダ・マッタが8位入賞を果たした。
「決勝重視の戦略を採るということで、ロングランでのタイムを安定させるためのセットアップをこの週末ずっとやりました。タイヤの選択にしても、セットアップにしても、それから予選の燃料(積載量)にしても、決勝を見据えた作戦を採りました。それが今日はうまく働いて、なんとかポイントを獲れたことは良かったと思います」
高橋敬三技術コーディネーション担当ディレクター(DTC)は、こうレースを振り返った。「いつもそうですが、ポイントを獲るのはなかなか難しいですね」と苦笑いをする。スタートからフィニッシュまで、気の抜けない展開が続いた。
前戦ヨーロッパGPでは、スタート直後のアクシデントに巻き込まれてダ・マッタがリタイア。オリビエ・パニスが期待を一身に背負って走行を続けたが、ラップタイムのペースが安定せずにじりじりと後退し、完走は果たしたもののポイント圏外でレースを終えた。ところが、今回のレースでは度重なる苦難を乗り越えて貴重なポイント獲得にこぎつけた。
「1コーナーの混乱を切り抜けられたのは大きかったですね」と高橋DTC。前回のニュルブルクリンクでは巻き込まれましたけど、今回は幸運にも2台ともうまく切り抜けました。運が向いてきたかなと思います。運だけでは勝てないんですが、こういうことも大事ですから」
ピットストップの予定は各ドライバーともに2回。ダ・マッタが17周目、パニスは21周目に1回目のピットストップを行った。ということはつまり、パニスはダ・マッタよりも4周分余計に燃料を積んだ状態で予選に臨んだことを意味する。予選タイムはダ・マッタがパニスのそれを上回ったが、その差はわずか0・04秒差だった。これについて、高橋DTCが興味深いエピソードを披露した。
「昨日オリビエが『(燃料積載量の差を考慮すれば、実質的に)オレのほうが速いのになぁ』と言いたそうにしていたんです。もちろん、(作戦の機密保持上)そんなこと言えませんが」
2回目のピットストップはそれぞれ44周目、45周目と揃えて行った。これは「レース後半は等分に刻んだほうが効果的だから」と説明する。
「2回ピットストップと3回ピットストップで迷いましたが、レースの結果を見ると、両者ともに接近していました。どちらが正解と断定できるほどの差はありませんでしたが、2回を選んだほうが渋滞には引っかからなかった。そのぶん安定したタイムが出せたので、我々にとっては2回で良かったのかなと思っています」
渋滞にひっかからず、前方が開けた状態で走ることができたこと。さらに、タイヤ選択がうまくいったこと、タイヤに合ったセットアップを見つけたことで、レース中、安定したラップタイムを重ねることができた。
「今回は、ハードめのタイヤを選択したんですが、それがうまく働きました。前回のニュルブルクリンクでは土曜日と日曜日で、なぜかタイヤの状態が変わってしまったんですが、今回はそういうこともなく、ラップタイムも2ストップ勢の中では非常に安定していました。3日間を通じ、現在持つポテンシャルを最大限引き出せたと思います」
事前に予想したとおり、レース終盤にブレーキが音を上げそうになったが、慌てず騒がず、落ち着いた対処で切り抜けた。
「予想通り、一番きつかったのはブレーキですね。ずっとモニターしていたのですが、何とかドライバーに負担をかけない方法で摩耗を抑えるようなトライをして、最後までもたせました」
ブレーキの温度や摩耗をモニターしていたエンジニアが、ドライバーに無線で指示を出し、指示を受けたドライバーがブレーキバランスやエンジンブレーキの調整を行う。こうして、ブレーキを上手に使い切ったという。そのため、ドライバーはブレーキに関する違和感を覚えることなく、レースを最後まで走りきることができた。
「ポイントを獲ることができました。今度は連続ポイントとダブルポイントを狙います。昨年のインディアナポリスは予選が良かったので、今度もそれを再現し、北米2連戦をいい結果で締めくくりたいですね」
こう前向きなコメントを残した高橋DTCだが、レース終了4時間後、苦渋に満ちた表情で口を開くことになる。トヨタの2台が、ウイリアムズの2台とともに、レギュレーション違反で失格となったのだ。4台とも、フロントブレーキに冷却風を送るダクトが規定外と見なされたためだ。
「我々は解釈の違いを主張しているんですが、それが認められなかったということですね」と重い口を開く。「残念としか言いようがありません。確かにブレーキに厳しいカナダに向けて大型のダクトを取り付けましたが、それは今回が初めてではありません。我々はレギュレーションの範囲内で最大限の効果を発揮するクルマを作ろうとしただけで、意図してやったわけではありません。今回の結果は非常に残念です。でも、そういう解釈であれば、解釈に合わせて作り直すしかないですね」
次のレース、アメリカGPはカナダほどブレーキにきつくないため、カナダよりも小型のブレーキダクトを取り付けることになっている。そのため、製造日程上の問題はないという。次戦アメリカGPでの雪辱を期待したい。
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