第13戦 ハンガリーGP 2004

2004年08月15日(日)

高橋敬三DTCに聞く:決勝

リスクを承知で、ロケットスタートの秘策にかけたがかなわず。

コース幅が狭くてストレートが短く、小さいコーナーが連続するハンガロリンクは、抜けないコースであることが十分に分かっていた。予選で上位につけるのがポイント獲得の近道で、そこを狙ったパナソニック・トヨタ・レーシングだったが、不本意にも狙った予選トップ10圏内は実現せず、オリビエ・パニスが13番手、リカルド・ゾンタが15番手からレースを迎えることになった。この結果を受けて、チームはある作戦を決行する。

「予選の結果を受けて、スタートはアグレッシブに行くことにしました」と高橋敬三技術コーディネーション担当ディレクター(DTC)は説明する。「クラッチの特性をある方向に振りました」

特異なコース特性から、コース上で前を走る車両を抜くのは困難。チャンスはスタート直後にあると踏んだチームは、リスクを承知で、スタート直後の追い抜きに懸けた。

「クラッチは、特性を変化させることで安全方向に振る(ミートの確実性は増すが、駆動力の伝達効率は落ちる)こともできるし、ガツンと行く特性(ミートは難しくなるが、伝達効率は高まる)に振ることもできます」。トヨタは、ガツンと行く特性を選んだ。

「ロケットスタートタイプとでも言えばいいのでしょうか。ストールするなど、リスクは高くなりますが、タイムが出るセットアップにしたということです。ドライバーには、『なんとか集中して1コーナーまでに抜いてくれ』という話をブリーフィングでしました」

パニスもゾンタも、狙い通りのスタートを切った。思惑どおり前方グリッドの車両に並びかけるが、1コーナーで行く手をふさがれる。ゾンタは後続の車両に追突されてスピン。他車との接触を避けたものの、パニスはコーナーを大きく回り込む羽目になり、ポジションを落としてしまう。

「途中までうまくいったんですけど、集団の中に入り込んで行き場を失ってしまいました。リカルドは誰かに追突されたようだったので、ピットに入れて調べる準備をしました。ところが、問題ないというコメントがありましたので、そのまま走らせることにしました。オリビエは外側を大きく回ったので、順位を落としてしまいました。そこからあとはいつものパターンです。前を走るクルマに抑えられて、ペースを上げることができませんでした」

ゾンタは11周目、パニスは12周目にピットストップを行った。これは予定通り。パニスは2回目のピットストップを当初の予定通り31周目に行ったが、ゾンタは予期せぬ現象に見舞われて、予定より早い24周目にピットに入った。

「リカルドの2回目はちょっと早めです。右リアタイヤにブリスターが発生したので、早めに入れて交換することにしました。40度ちょっとくらいの路面温度でブリスターが出るとは、予想していませんでした。走りにはそれほど影響しなかったのですが、やや動きがナーバスになってきましたので、早めに交換することにしました」

タイヤを履き替えて不安要素を取り除いたゾンタだが、32周目の1コーナーを通過したところで突然スローダウン。コースサイドに車両を止めた。

「電気系が原因だと思われます。ショートしたのか何なのか、正確な原因は分かっていませんが、現象としては、スロットルが突然動かなくなったということです。完走できなかったのは残念ですが、リカルドは終始落ち着いていました。無線で話をするときも落ち着いていましたし、挙動もしっかり伝えてくれました。スタートもピットストップもミスなくこなしてくれました」

高橋DTCは、トヨタでの初レースを終えたゾンタの手腕を評価した。パニスは予定通り、51周目に3回目のピットストップを行った。ただし、ペースの遅い車両に行く手をふさがれた状態が続いたため、さしたるドラマを作り出すことはできず、11位でレースを終えた。

「前にスペースができたケースで1分21秒台で走ることができました。本当はそのペースをずっとキープする予定でしたが、前を抜くことができず、ペースを上げることができませんでした」

トヨタの2台は厳しい条件下でレースを強いられたが、そのなかでドライバーもチームも最善を尽くし、収穫を得た。

「予選で上位を得られなかったことが、レース結果につながってしまいました。ですが、パフォーマンス自体は土曜日の午前中までで確認できましたし、ロングランでのタイムも安定していました。このあと何とかテストしたい、という気持ちがありますが、それはレギュレーションで禁止されていますからできません。前回と今回のレースのデータをしっかりと分析し、準備できる部品は準備します。次のスパ(ベルギーGP)は抜きどころもあり、パワーサーキットでもありますから、ウチに合ったコースだと思います。ガツンと行きたいですね」