第14戦 ベルギーGP 2004
2004年08月29日(日)
高橋敬三DTCに聞く:決勝
うまくいったタイヤ選択。しかし、上位入賞を目前にまさかのエンジントラブル。
「アルデンヌの森には魔物が棲む」。毎回のように荒れたレースが繰り広げられるスパ・フランコルシャンでのベルギーGPを指して、レース関係者はそんなふうに言う。そして魔物は今回も、その威力を存分に揮った。スタート直後の多重クラッシュ。上位陣の重なるリタイヤ。3回に及ぶ、セーフティカーの導入。そして右リヤタイヤのバーストが、3台のマシンに立て続けに発生する……。それらの障害をすべて避け、レギュラードライバー昇格後2戦目のリカルド・ゾンタが、レース後半4番手を快走した。このまま行けば5ポイント獲得。しかし、チェッカーまでわずか3周となった41周目、ゾンタのエンジンは白煙を吹いて息絶えてしまう。
レース後、モーターホームに戻って来た高橋敬三技術コーディネーション担当ディレクター(DTC)は、さすがにガックリした表情だったが、気を持ち直してスタートからのレース展開を振り返った。
「とにかく、むちゃくちゃ悔しいです。今日のレースは、波乱ぶくみでした。いろんなことがありましたけど、最後に好結果が手からスルリと、逃げて行ってしまいましたからね。(オリビエ・)パニスはスタート直後の1コーナーで追突されて、フロントウイングを破損し、フロントタイヤにフラットスポットを作ってしまった。それで緊急ピットインして、ノーズとタイヤを交換して、コースに復帰しました。その時に、交換の時間分だけ燃料を足しました。一方のゾンタは、その混乱をうまく切り抜けていい位置をキープしました。安定して、なおかつ攻める姿勢を失わずに走ってくれた。それだけに、ゾンタには本当には申し訳ないことをしてしまいました」
トヨタのF1エンジンは、信頼性パフォーマンスともにきわめて高いレベルにある。それがどうして、今回壊れてしまったのだろう。
「エンジントラブルは、動弁系の破損だと思います。直前に油圧が低下していましたが、問題になるほどではない。その意味では、原因は今のところ不明です。もちろん今年初めてのエンジントラブルでした。テストを通じても、ほとんどトラブルフリーだった。それがどうして、ああいう肝心なところで起きてしまうのか」。そう言って、高橋DTCは天を仰いだ。
今回トヨタは、かなり早い段階でタイヤを選び、それをもとにクルマの煮詰めを行なってきた。「タイヤ選択は、うまく行ったと自負しています。全ミシュランユーザーが硬めのプライムスペックを選択したんですが、その中でもうちは一番硬いタイヤを選んだ。一発の速さは劣りますが、耐久性はまったく問題がない。ですから戦略としては最初から2回ストップ作戦。3回の可能性は、最初から排除していました。一つのタイヤセットで14周前後周回して、それを3セットという、ほぼ均等割りの作戦でした。金曜日にタイヤ選択について話し合った時は、土曜日が雨になるから、路面のゴムは流されてしまう。そうすると決勝レースでは、グレーニング(ささくれ磨耗)が出るだろうと予想していました。しかし、結果的にそれはなかった。ただその代わり、レースが進行するにつれてどんどんグリップが良くなると思ったのが、それもあまり変わらなかった。路面温度が終始低かったとか、そういうことが関係したのかもしれません」
優勝争いに目を転じても、今回のレースはまさにタイヤ性能が明暗を分けた。事前の予想では、フェラーリがぶっちぎりの強さを発揮すると思われた。ところがスタート直後から、ペースが伸びない。さらにセーフティカーの後ろで周回した後では、スタートダッシュが効かず、トップのキミ・ライコネンを脅かすことはなかった。そんな温まりの悪さは、ブリヂストンタイヤ固有の弱点といえるもの。しかしミシュランの場合も「硬いコンパウンドでは、やはり同じような症状は出る」と、高橋DTCは言う。
「うちも選択したコンパウンドがかなり硬かったために、やはりタイヤは温まりにくかったですね。特に今回は、レース中に3回もセーフティカーが出た。そのたびにどうしても、タイヤが冷えてしまう。オリビエが特にその影響を受けたようです。まあオリビエは、1コーナーの追突がすべてでしたね。あそこで出遅れて、それが最後まで響いてしまった」
チームは前戦ハンガリーGPの直前に、大幅な組織変更を行なった。ドライバーを代わり、担当エンジニアやメカニックも、顔ぶれが大きく変わった。さらにBスペックも、今回がドイツGPでのデビュー以来3戦目となる。
「組織が変わったことに関しては、もうまったく違和感ないですね。まるで以前からずっと、このメンバーで仕事しているような感じですよ。非常にスムーズに、ミスもなく作業が進みました。リカルドにしても、すぐにレースチームに溶け込んだし。まあ、第3ドライバーとして、グランプリの金曜日に走っていたことも大きいですが。でもレース勘も鈍っていないし、努力を怠らないし、とにかくひたむきに頑張ってくれてます。Bスペックは、もちろん良くなっていると言いたいんですが、まあ結果がすべてですからね。ぜひポイントを取りたかった。今回はホントに、上位入賞のチャンスだったんですけどね」
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