第14戦 ベルギーGP 2004
2004年09月02日(木)
オリビエ・パニス - ベルギーGPを終えて
F1ドライバーのほとんどと同じく、僕にとってスパ・フランコルシャンのコースは大のお気に入りコースで、再びここでレースできるというのは本当に嬉しいことだった。レーシングドライバーというのは、ハイスピードコーナーが好きだし、オールージュやブランシュモンといったすばらしく、そして攻め甲斐のあるセクションは走っていても最高なんだ。
オールージュを初めて見る人は、誰でも最初はとても驚くんだ。コース図ではなんら特別なセクションには見えないのに、実際に目にしたときに、その信じられないほどの方向変化と勾配に目を丸くする。オールージュへは下りで進入していき、そこにさしかかった途端が急な上り坂、そして出口はブライドコーナーになっている、という構造だ。このブライドコーナーの出口については、昔からは少しだけ変更になっているし、今はタイヤの開発が進んでグリップ力が増しているので、このセクションをアクセル全開で攻めることも昔ほど難しいことではなくなった。でも、今でもここへ全開で突っ込んで行くのには自ら勇気を奮い起こさなくてはならないんだ。頭の中では、全開で入っていくことができる、とわかっているのに、スロットルを踏む右足は、確実にセクションを抜けられるように勝手にアクセルをゆるめようとするんだ!初めて全開でセクションを走り抜けたとき、自分のことを感心してしまうほどの快感なんだ。
チームとしては、素晴らしいベルギーGPだったし、われわれの戦略は正しかったと思う。固めのミシュランタイヤを選択したのも正しかったと思っている。妥協点というのは、いつも考慮しなくてはならない。固めのタイヤはレースのパフォーマンスという点ではとても良いが、予選でのワンラップを考えれば、最良の選択とはいえない。しかし、特に不安定なアルデンヌの天候では、快調なレースペースにメリットがある方が良いと判断したんだ。メテオ・フランスから得た天気予報は、土曜日が雨、だが決勝は晴れてドライになる、というものだった。このような状況では、当然のことながらFIAは、チームが予選でウエット用のタイヤを使っても、決勝でドライ用タイヤに変更することを許可する。だから、この固めのタイヤにすることで予測される不利な点が、予選で発生しないことを願っていたんだ。結果としては、戦略は完璧に的中した。
僕らは決勝の最初のスティントをかなり長く走るため、燃料は多く積んで予選に臨んでいた。土曜日の午前中に予定されていた練習走行は、霧と雨のためにほとんど走ることができなかったので、そうなると予選結果は賭けになってくる。予選の第1セッションにコースインしたら、クルマがかなりアンダーステアーだった。そのため、次のセッションまでにチームが改良を加えてくれた。コースは依然として朝からの雨でかなり濡れていたので、ミシュランのレイン用タイヤを装着して出走した。走行には満足していたけれど、まさか9番手グリッドを獲得できるとは思っていなかった。他のドライバーのミスや不運もあったこともあって獲得したポジションだったけれど、われわれの戦略で9番手からスタートできれば決勝はかなり行けそうだと楽観的だった。
9番手からとても良いスタートを切った。スパの第1コーナーのラ・ソースヘアピンは一気に狭くなるセクションだが、そこへ進入していったら、ザウバーの1台がコースの真ん中で思ったよりも遅く走行しており、そこへ突っ込んでしまった。ノーズとフロントタイヤが破損してしまったので、修理のためにそのままピットへ向かわなくてはならなかった。
そのコーナーの後、同じ1周目でもっと大きなアクシデントが発生したため、セイフティカーがコースインした。だから、僕はピットインしなくてはならなかったけれど、タイムロスがそれほど大きくならなかった。予測していたような上位で走ることはできていなかったけれど、僕にはまだ自信があった。1周目が終了してリカルドは10位まで順位を上げていたので、2台揃ってポイントを獲得できるだろうと考えていたんだ。
レース中にタイヤのトラブルがいろいろと発生してしまったけれど、ドライバーとしてはそんなことを心配していられない。金曜日にライアンがパンクしたが、データからバスストップシケインの縁石にタイヤをヒットした直後に、エアーがすでに抜け始めていたのが分かっていた。だから、僕としてはミシュランが準備してくれたタイヤを心配することはなかったし、実際のところ、ミシュランのスパでのパフォーマンスは素晴らしかった。
僕は、最終ラップにポイント獲得圏内まで順位を挽回、リカルドは最後尾から4位まで順位を上げていた。3回目のセイフティカーがコースから退去した後、2台揃ってポイント獲得という、待ち望んだ結果が出せると思っていた。だから、リカルドがリタイヤしたのを見たときは、本当に信じられなかった。今シーズン、われわれのクルマではエンジンが最も信頼性のある仕上がりになっていたから、エンジンの故障が原因で4位を失うというのは、われわれが今シーズン何度か経験している運の悪さの象徴だとしか考えられなかった。
僕自身も、レース終盤は容易なわけではなかった。クリエンを攻略することもできなければ、クルサードに抜かれるのにも為す術がなかった。セイフティカーの先導走行が終わっての再スタートは、固めのタイヤを選択している場合には厳しい。というのも、固めのタイヤは温度が上がるまで時間がかかるため、セイフティカーの後についてゆっくり走っている間に落ちてしまったタイヤの温度が再び上がってくるまでは、グリップ力が落ちてしまっている。僕らはミシュランユーザーの中で唯一固めのタイヤを使っていたので、前のクリエンにプレッシャーをかけなければいけないときに、後から来るクルサードに追われて大変だった。
ポイント獲得は喜ぶべきことなのだろうけれど、われわれの働きは、チームとしてベルギーGPで1ポイント以上を獲得できるはずだったと考えている。僕らの判断は週末通して正しかったし、チーム全体がとてもプロフェッショナルな働きをした。だから、1ポイントの獲得というのは、僕にとって慰めにもなっていない、というのが正直なところだ。
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