第17戦 日本GP 2004
2004年10月10日(日)
高橋敬三DTCに聞く:予選
クルマのバランスに問題なし。2台で違った戦略を採用
日本にやってきたパナソニック・トヨタ・レーシングの面々。しかし、いつもの顔ぶれとは少し違っていた。すでにテストでTF104Bを走らせているヤルノ・トゥルーリが、リカルド・ゾンタに変わって鈴鹿を走ることになったからだ。今年、ルノーでモナコGPに初優勝した実力派ドライバーのトゥルーリは来年からラルフ・シューマッハーとともにトヨタのレギュラードライバーに起用されることは発表されていた。しかし、後半戦のドライバー再編のあおりを受けて、ルノーを放出されたため、残り2戦トヨタから参戦することが急遽決定したのだ。さらにパニスはここ鈴鹿が最後のレースとなり、最終戦ブラジルはブラジル人のゾンタにシートを譲ることとなった。また、今回はトヨタがF1に参戦して50戦目の区切りのレースでもあった。
前の週の日曜日にお台場のメガウェブでのイベントに参加した一行は、水曜日には鈴鹿入りした。木曜日、翌日からの走行の準備にかかるスタッフだったが、サーキットで一番の話題は台風22号のことだった。今年一番といわれる勢力を持つ台風22号はその時点では沖縄あたりにいたが、進路は紀伊半島、東海地方の方向に向いていた。
「日曜日は大丈夫そうなんですが。土曜日にはこの辺を直撃しそうですね。」と高橋敬三技術コーディネーション担当ディレクター(DTC)も心配そうに語っていた。
金曜日には台風の影響で早朝から雨が降り始める。午前中の走行から完全なウエット状態でセッションは行われた。その雨の中、トヨタチームはトゥルーリが午前中10周、午後7周走ったのみで、パニスは午前も午後も1周だけ。3台目のテストカーを運転するライアンはコースインすることはなかった。
「今日は雨も激しく、走ってもセッティングの上であまり意味がないということで、パニスもライアン(・ブリスコ)も走りませんでした。鈴鹿に関してはいままでの豊富なデータがありますから、無理して走らなくてもいいですから。ただ、トゥルーリはTF104Bで鈴鹿を走るのも、雨を走るのも初めてだったので走らせました」と高橋氏。そのトゥルーリに関して、高橋氏の評価は非常に高かった。
「まだ、本格的にTF104Bに乗ったのはテストでの1回のみですが、非常にスムーズな走り方をするドライバーですね。パニスに比べるとハンドルを切る量も少なく、非常にゆっくりと丁寧です」
雨は時間が経つにつれ激しくなっていき、台風が近づいてくるのが感じられた。午後6時過ぎ、急遽ドライバーズミーティングが開かれ、そこで翌日のスケジュールが全てキャンセルになってしまう。台風直撃に備えての前代未聞の特別処置だった。そのため、予選は日曜日の朝9時から、そして午後2時30分に決勝レースがスタートするという変則的なスケジュールとなった。
土曜日は朝から激しく雨が降り続けていたが、台風は予想と反して鈴鹿の辺りをそれていった。そのため、午後には雨は徐々に収まりかけて、3時ごろには完全に上がっていた。休日となった土曜日、高橋DTCはホテルでゆっくりと朝を迎えた。そして、午前中にはテクニカルスタッフと明日の予選、決勝に向けてのミーティングを行った。
「時間はたっぷりあったので、いろいろな状況を想定してセッティングのシミュレーションをしました。決勝もウエットの場合、ドライの場合など、いろいろと考えて戦略を練ってあります」と、日曜日の予選前、高橋氏は自信たっぷりに語った。予選ではその自信が嘘でなかったことを見事に証明した。
午前9時から行われた予備予選。雨は完全に上がっていたが、路面は濡れていたためインターミディエイトタイヤを装着してコースインする。
「予備予選は、路面の濡れた状態から乾いていく状態だったので、両方のドライバーともそれほどプッシュしていませんでしたが、後半は条件が良かったので、ああいうタイムになりました。予備予選は非常にいい結果だったため、予選は非常にいい順番でアタックできました」と高橋DTC。
予備予選で何とトゥルーリはトップタイムをマークする。パニスも5番手と幸先良い結果にチームの面々は素直に喜んでいた。
10時からの予選は路面が乾き始める非常に難しいコンディションで行われた。そんななか、トヨタの2台は素晴らしい走りを見せてトゥルーリが6番手、パニスが10番手の予選タイムをマークした。
「予選の結果には、非常に我々としては満足しています。路面も乾いてきていたので2台ともドライタイヤで行けました。2回目は、そんなに大きく条件が変わることはなかったと思います。クルマのバランス自体は全然問題ありませんでした。オリビエは第1セクターは良かったけど、途中タイヤの温度が濡れたところを通った時に下がったみたいで、ちょっとスリッピーになったようです。第2セクターで少しロスした感じですね。トゥルーリの方は、初めてのレースで、こんな条件のなかなのに非常にそつなくまとめてくれました。ただ、第1セクターでタイヤがまだ温まりきっていない状態で、少しロスしたと言っていました」
予選終了後、いつものようにパークフェルメに車両は保管されたが、午後2時半のスタートに向けて、スタッフはすぐに準備へととりかかる。いつもとは違い、非常に慌しい日曜日となっていた。予選で好ポジションを獲得し、レースに向けてチーム内の雰囲気も明るかった。レースへ向けての自信もあるようで、高橋DTCは戦略について自信たっぷりにこう語った。
「今回は二人のドライバーで、ちょっと違ったストラテジーをとっています。レースはこれからどんどん乾いてくると思うんですけど、それを見越してちょっと2台で変えています。予選でもその差が多少出ていると思いますが。ただ、他のチームを見るとピット戦略が2回か3回なのかは、計算上は難しいですね。ドライタイヤでのデータがまったくありませんので、ある程度のデータは推定でやるしかない。両方ありそうな感じの予選結果でしたね。タイヤの選択は、テストの結果を踏まえてミシュランと相談して決めました。結構悩みましたね。多分、みんな悩んだと思います。どれくらい乾くかが未知ですから。今回の2種類のタイヤがテストのときにどういう挙動を示したか。挙動というのは一発のタイムがどうか、レースでのラップタイムの安定性がどうかとか、グレーニングがどうかとか、いろいろなデータがあるので、それを今回のコースコンディションに当てはめて、どっちがいいかという議論をして決めました」
予選までの結果を見れば、変則的なスケジュールがトヨタにとっては味方した格好になった。このチャンスを決勝ではどうものにできるのだろうか。
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