新居レポート - 2009 第17戦 アブダビGP
アブダビGP 新居レポート
2009年11月2日
いつもご声援ありがとうございます。早いもので3月にスタートした09年のF1も最終戦を迎えました。最終戦の舞台はアラブ首長国連邦の首都アブダビ。それではバーレーンに続いて中東での2度目のF1開催となるアブダビGPの報告をいたしましょう。
初開催のヤス・マリーナはロングストレートに超低速コーナーと空力セットアップが難しいコース
アブダビはTF109の空力的に相性の悪くないと思えるコース。予選、決勝とも夕方に行われるため、細かいセットアップは同じ時間のフリー走行2回目で行った。
前戦ブラジルGP後、再び脊髄損傷の診断をした結果を元に、ティモ(グロック)と彼のマネージャーと話し合いを行い、ブラジルに続いてアブダビへの出場も見送ることにしました。最終戦を共に戦えないのはチームとしても残念でしたが、完治する前にまた事故に見舞われた場合のリスクを考慮した苦渋の決断でした。
さて、ブラジルGP同様、ヤルノ(トゥルーリ)と小林可夢偉という布陣で臨むこととなった最終戦アブダビGP。ヤス・マリーナ・サーキットに到着しての第一印象は、「非常に美しく、良くできているな」というものでした。舗装されたばかりの路面はなめらかで、ランオフエリアとの境界には排水対策用の溝が施されているなど、隅々まで整備が行き届いているという印象でした。
またヘアピンである7コーナーは60数km/hの超低速コーナーであるのに対して、その直後には約1200mのロングストレートが控えているため、空力の設定をはじめ、セットアップは簡単ではないだろうと予想していました。ただ、予想していたよりもダウンフォースレベルは高くないため、我々のクルマとの相性は悪くないのではないか考えていました。
表彰台の頂点に立つことを最大の目標として臨んだ09年。まだその目標を果たしていなかったので、最終戦ではチーム一丸となって、目標達成を目指して戦いました。
フリー走行1回目は空力パーツの比較に専念、走行2回目で可夢偉が速さを証明
「最初の数周はグリップがなく難しかったが、時間を追うごとに状況は改善した」とヤルノ。フリー走行1回目は空力比較などデータ重視の走行とした。
アブダビGPは日没前にフリー走行1回目を行い、日没後にフリー走行2回目を行うという予定だったため、ふたつのセッションのコンディションが大きく異なるという珍しいグランプリとなりました。
ただし、ブラジルGPのように雨が降ったり止んだりしたわけではなく、1日を通してずっとドライコンディションだったので予定していたプログラムは順調にこなすことができました。ただ、砂漠地帯にできたばかりのサーキットということと、周辺で工事が続いていたために路面はホコリっぽく、フリー走行1回目の開始時はとても滑りやすいという悪いコンディションでした。そのため、フリー走行1回目ではクルマのセットアップを進めることをあきらめ、持ち込んだ空力パーツの比較テストを行いました。
予選と決勝レースのスタート時間に合わせて、夕方の5時に開始されたフリー走行2回目。今週末のアブダビの日没は午後6時頃となったために、ドライバーにとっては同じスケジュールで行われたオーストラリアGPやマレーシアGPとは、視覚的な面で違ったグランプリとなりました。そんな難しいコンディションだったにもかかわらず、可夢偉が5番手のタイムを記録。ウエット(ブラジルGPの金曜と土曜)だけでなく、ドライでも速いことを証明してくれたことは我々にとっても自信を深める結果でした。
ヤルノは14番手に終わりましたが、可夢偉と異なるセットアップを試していたことと、アタックラップ中に渋滞があったので、心配はしていませんでした。
ミディアムタイヤの方が速い特殊なサーキットで、ヤルノが6番手を獲得
Q1、Q2を余裕で突破。Q3ではトップ3争いを繰り広げた。最後の数秒でポジションを落とすも、「どのセッションも上手くいったので6番手には満足」とヤルノ。
結果だけを見れば、もう少し上のポジションを狙えたと思うだけに残念ですが、今回の予選は難しいコンディションだったことを考えれば、ふたりともよく頑張ったと思います。
このヤス・マリーナ・サーキットはほかのサーキットとは異なり、軟らかいタイヤであるソフトよりも、硬いミディアムタイヤのほうが、タイムが速いという傾向があったからです。ただしミディアムはタイヤが温まるのに2周から3周の走行を要したので、多くのクルマが連続アタックを行い、コース上は等間隔にクルマがひしめき合うという珍しい状況となりました。
そのようなコンディションだったことを考えれば、ヤルノも可夢偉もよくやったと思います。特に可夢偉は今回初めてドライコンディションでの予選となりましたが、2戦続けてQ2に進出し、あらためて能力の高さを披露してくれました。
一方、ヤルノはQ1とQ2をともにトップ5内で通過。Q3でも同じような結果を予想していたのですが、最後のアタックの1コーナーでわずかにミスを犯してセクター1で自己ベストを更新できなかったため、燃料をセーブするためにアタックをあきらめることにしました。あのミスがなければ、ブラウンGP勢の前には行けたと思います。
いずれにしても、日曜日のレースは今季最終戦。悔いのないレースをしたいと思っていました。
可偉夢が1ストップ戦略で6位初ポイント獲得。最終戦はダブル入賞を果たす
燃料を多く積み、1ストップ作戦で果敢に攻めた可夢偉は、中盤に新王者のバトンを抜いた。「戦略とピットストップで良い仕事をしてくれたチームに感謝」と初入賞を喜ぶ。
スタートからファイナルラップまで、手に汗握る素晴らしいレースとなりました。残念ながら、表彰台に上がることはできませんでしたが、満足のいくレースを最終戦で披露できたと思っています。
まず2戦目で6位入賞を果たした可夢偉に関していえば、スタートでキミ・ライコネン(フェラーリ)をパスしたことが大きなポイントだったと思います。KERS(運動エネルギー回生システム)を搭載しながら、金曜日と土曜日の走行でタイヤの温まりに苦労していたライコネンに前をふさがれると、我々のレースは厳しくなると予想していました。したがって、スタート直後に彼をかわして、前がオープンな状態で自分のペースで走ることができたことが、その後の可夢偉のレース展開を楽にしました。
次のポイントは2ストップ作戦を採用したジェンソン・バトン(ブラウンGP)が、1回目のピットストップ直後に可夢偉の前でコースに復帰したとき、タイヤが冷えた状態でペースが上がらないバトンを抜いたことです。あそこで躊躇せずに一発でオーバーテイクしたことで、ポイント獲得はほぼ確実となりました。
一方ヤルノは周りと比べるとスタート自体は悪くなかったのですが、タイヤがうまく温まっておらず、1周目はコーナーの立ち上がりでかなり苦戦してしまい、ポジションを下げてしまいました。それでも、最終戦をしっかりと走りきり、可夢偉に続いて7位でフィニッシュ。ハンガリーGP以来、今季6回目のダブル入賞を果たしてくれました。
近年稀に見る大接戦となった09年シーズンで、昨年のコンストラクターズポイントを上回る成績で締めくくることができたことは、私たちが続けてきた方向性に間違いはなかったと自負しています。とはいえ、目標だった優勝を達成することはできなかったことに関しては、もちろん残念な気持ちでいっぱいです。そんな我々を、これまで応援してくだった多くの皆さんには、本当に感謝しています。ありがとうございました。