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ヨーロッパGP レースの舞台裏
2008年8月24日(日)

●レースの舞台裏

極東とブラジルでF1シーズンがクライマックスを迎える前にヨーロッパで3連戦が行われますが、 その皮切りのレースの舞台となったのが今回初開催のバレンシアのストリートコースです。

レースは夏休み明けに行われましたが、この休暇中、ヤルノ・トゥルーリはアメリカへと向かいました。 もちろん今年のF1カレンダーにアメリカGPはありませんが、現地にてヤルノは元F1ドライバーのファン‐パブロ・モントーヤと合流したのです。

「妻をアメリカに連れて行けたのは最高だった。ファン‐パブロと落ち合って、マイアミとビーチで休暇を過ごしたんだ」と話すヤルノ。(マイアミは)港に集う豪華なボートはもちろん、センスの良い町の雰囲気を感じられる素晴らしい場所です。
バレンシアのコースでティモと合流したヤルノはすぐさま自分の仕事に取りかかりました。水曜日にまずは新しいサーキットを覚える作業から開始です。二人はいずれもスクーターに乗って全長5.419キロメートルのコースに出て行きました。途中、コースの細かな部分を確認するため、立ち止まったりもしました。

F1で12年の経験を持つヤルノだけに、新しいレイアウトに何も不安に感じていないのも当然ではあるのですが、ただし準備の際に利用したのはキャリアの初期の頃のカートの経験でした。
「私はカート出身で、当時はストリートサーキットを数多く走ったものさ」とヤルノ。「5~10周以内にサーキットを覚えてしまうんだ。それはここでも同じだったね」
ヤルノは難なく新しいコースを把握し、最初の3周のフライングアップでは3秒以上もタイムを更新してみせました。

●ライバルチーム周辺で見つけたニュース

ハンガリーGPでは残り僅か3周でエンジンブローに見舞われ、大きな落胆を味わったフェリペ・マッサでしたが、今回のバレンシアでは今シーズン4勝目を達成し、その埋め合わせができました。これでタイトル争いではトップのルイス・ハミルトンまで6点差に迫っています。
今シーズン4回目のポールポジションを獲得したマッサは、優勝を目指して周回を重ねている際にファステストラップも記録しています。一方で、今回メカニカルトラブルに見舞われたのはワールドチャンピオンのキミ・ライコネンの方でした。

4月のスペインGP以降、優勝から遠ざかっているライコネンは5位のヤルノを追撃中にエンジンブローに見舞われました。この結果、タイトル争いで彼は57ポイントの3位に後退しました。マッサは64ポイントで2位、トップのハミルトンは70ポイントです。
BMWザウバーのロバート・クビサはバレンシアで今シーズン5回目となる表彰台を獲得し、ワールドチャンピオンのライコネンまで2ポイント差と迫っています。クビサは優勝したマッサから37秒遅れでしたが、4位のマクラーレンのコバライネンには2.3秒差をつけて逃げ切りました。

マッサはレース中の2回目のピットストップの際、フォースインディアのエイドリアン・スーティルとピットレーンで危うく接触しそうになり、スチュワードはこの一件への対応をレース後に協議しました。スチュワードはレギュレション違反を確認したものの(ピットストップから安全な形でレースに復帰しなかった)、レースではマッサが何もアドバンテージを得ていなかったため、優勝という結果はそのままとなりました。ただしマッサには1万ユーロの罰金が課されました。

●レースリポート

バレンシアのドラマチックな新設ストリートサーキットで初開催となったヨーロッパGPにて、パナソニック・トヨタ・レーシングの2台は揃ってポイントを獲得しました。ヤルノ・トゥルーリは5位、ティモ・グロックは7位でゴール。これにより残り6戦となった現時点で、チームはコンストラクターズ選手権4位の座を一層強固にしています。

フリー走行1日目のヤルノは自分のクルマのバランスに完全には満足していませんでしたし、続く土曜日の午前中のフリー走行ではギアボックスのオイルポンプの問題のためほとんど周回できませんでした。ところが予選になるとヤルノは素晴らしい走りを披露し、第1セッションでは全車中トップとなります。続く第2セッションの最速タイムからもわずか0.08秒しか遅れていませんでした。燃料を重めにした状態で練習走行ができなかったため、第3セッションのパフォーマンスがやや犠牲になってしまいましたが、それでもヤルノは予選7番手を獲得しました。

路面がきれいな側のグリッドからスタートしたヤルノは好ダッシュを決め、その後は2回ストップ戦略だったため19周目と41周目にピットストップ。1回目のピットストップではセバスチャン・ベッテルの前に出ることに成功し、また、2回目の際にはフェラーリのキミ・ライコネンのピットストップの混乱に乗じて順位を上げました。

「この結果は、我々がどれほど良くなってきたのかを示している」とヤルノ。「そして競争力のあるクルマで毎週末レースすることがどれほど良いものであるのかもね。今年のトヨタは非常に良い仕事をしているし、どのサーキットでも以前より競争力が高く、手強そうな感じだ。チームは現在も開発作業を続行しているし、今後のレースでもこの調子を維持してポイント獲得を続けていける自信がある」
前戦のハンガロリンクにてF1で初めての表彰台を獲得したティモは、その勢いのままバレンシア入りし、初日のフリー走行でも好調な走りを見せていました。ところが、予選では第3セッションに進むことができず、13番手グリッドというやや期待はずれの結果となります。

実はこの週末の彼はひどい風邪をひいていたため体調が万全ではなかったのですが、それでもティモはレースで見事なスタートを決め、1周目に3台も追い越して10番手に浮上しました。
チームはティモをポイント圏内に送り込むべく、最善の策である1回ストップ作戦を敢行。結果、これが実を結びました。ティモは燃料が重い状態にも関わらず、最初のスティントを硬めのプライムタイヤで上手く走り抜きます。自分より燃料が軽いマシンを抑え込みながら走っていた彼は、ライバルたちが1回目のピットストップを行うと同時に順位を上げていきました。

その後、ブリヂストンのスーパーソフトタイヤで長いスティントを走ることになったティモですが、風邪にも関わらず、ここでも手応えのある周回を重ねていきます。レース終盤、ライコネンのフェラーリがリタイヤすると、ティモは7位に浮上し、そのままチェッカーフラッグまで速いペースで周回を続けていきました。

「これまでで一番きついレースだった」と話すティモ。「この2日間、酷い風邪をひいていたからね。でも良いクルマを手にしていたし、戦略も良かった。7位というのは今日の我々が手にできる最高の結果だったと思う。だからとてもハッピーな気持ちだよ。予選結果と自分の状態を考えると、この結果は満足だ。コンストラクターズ選手権のために2台そろってポイントを獲得できたのはチームにとっても良かったと思う」

再び大量ポイントを獲得でき、チームはこのまま昇り調子でシーズンを終えることを目指しています。「今回も最終的に良い週末の一つとなった」と話すTMG会長兼チーム代表の山科忠。「予選後はみんなやや落胆していたが、今日は素晴らしいチームワークのお陰で遥かに良い流れになった。自分たちの速さを発揮できたことをとても嬉しく思う。特にシーズン後半の日本GPを睨みつつ、今後もこうした結果を得られるよう努力を続けていく」

トヨタはコンストラクターズ選手権でライバルのルノーに対し10ポイントの差をつけ、4位の座を維持しています。