GR86/BRZ Cup 2025 シーズン中間レポート

2013年にスタートしたTOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Raceは、2022年にマシンをGR86(ZN8)と新型BRZ(ZD8)にスイッチし、大会名も「GR86/BRZ Cup」へ移行した。新たなシリーズとなって2025年で4年目となり、プロフェッショナルシリーズとクラブマンシリーズともにより緻密な熱戦が繰り広げられている。
ここでは、2025年シーズンの第4戦までを振り返り、シリーズチャンピオンを掛けた残り3戦の展望をひも解いていきたい。

プロフェッショナルシリーズ

チャンピオン候補は実質的に上位5選手に絞られている

7月12日-13日に十勝スピードウェイで開催された第4戦を終了した時点のポイントランキングは、プロフェッショナルシリーズ1位が#7堤優威選手で64点、2位が#88井口卓人選手で46点、3位が#1菅波冬悟選手で34点、4位が#293岡本大地選手で28点、5位が#504冨林勇佑選手で27点、6位が#97高橋知己選手で21点、7位タイが#121蒲生尚弥選手と#160吉田広樹選手で15点、9位タイが#18中山雄一選手と#186佐藤凌音選手、#98元嶋佑弥選手、#87久保凜太郎で10点が現時点のトップ10になる。
1戦で獲得できる最大ポイントは22点(優勝20点、ポールポジション1点、ファステストラップ1点)のため、まだ全員にシリーズチャンピオンの可能性は残されている。ただ、実質的には上位5選手くらいまでがチャンピオンシップの権利を有しているはずだ。

順位 No. ドライバー 合計ポイント
17堤 優威64-
288井口 卓人46-18
31菅波 冬悟34-30
4293岡本 大地28-36
5504冨林 勇佑27-37
697高橋 知己21-43
7121蒲生 尚弥15-49
7160吉田 広樹15-49
9186佐藤 凌音10-54
918中山 雄一10-54
998元嶋 佑弥10-54
987久保 凜太郎10-54
プロフェッショナルシリーズ(第4大会終了時点 1位~10位抜粋)
ランキングトップ#7堤優威選手
ランキングトップ#7堤優威選手

タイヤメーカーとのマッチングが勝敗を分けるのか

昨シーズンは菅波選手が8戦中6勝と驚異的な勝率で2度目のシリーズチャンピオンを獲得。近年では最終戦までもつれていたシリーズチャンピオン争いだが、ライバルを圧倒した菅波選手は7戦目で王者に輝いた。これほどまで完勝でシリーズチャンピオンに輝いたのは、4回のチャンピオン経験をもつ#17谷口信輝選手以来だった。勝因はドライバーもチームもさまざまな積み重ねがあるが、装着するダンロップDIREZZA β06のパフォーマンスを菅波選手が、うまく引き出してマッチングに成功したことも挙げられる。
プロフェッショナルシリーズはクラス別けされた2015年から、複数のタイヤメーカーを選択できるマルチメイクで競われてきた。GR86/BRZ Cupに移行した2022年以降も「ブリヂストン」「ダンロップ」をはじめとした複数メーカーが参画し、ドライバーやチームとともに別次元での戦いが繰り広げられてきた。ここ3シーズンはダンロップユーザーが2回、ブリヂストンユーザーが1回と、1年ごとに異なるタイヤメーカーがチャンピオンを獲得していることは興味深い。この法則に照らし合わせると、2025年はブリヂストンイヤーとなるのだが、実際はどうなっているのか。

2025シーズンはブリヂストンイヤーとなるか

4月にオートポリスで行なわれた2025年シーズンの開幕戦は、昨年の勢いのままに菅波選手が堤選手をオープニングラップでかわして優勝。第2戦のモビリティリゾートもてぎでもダンロップユーザーの冨林選手が制して、今季もダンロップが有利かと思われた。ただ、第3戦のスポーツランドSUGOでは8位までをブリヂストンユーザーが占め、アップグレードしたPOTENZA RE-10Dの性能を発揮した。第4戦でもブリヂストンユーザーの高橋選手が優勝し、シリーズランキングは上位2名がブリヂストンを履く選手となっている。
タイヤの性能は単にグリップ力が高いから優れているという訳ではなく、予選での速さと決勝レースでの性能維持、あらゆる舗装とのマッチングなどさまざまな要素が複雑に絡み合っている。市販のラジアルタイヤで競われるGR86/BRZ Cupなので、もちろんレインタイヤの用意はない。そのためウエットコンディションでの性能も求められる。サーキットの路面によっても得手不得手があるので、ひとことでどのモデルの性能が高いとは言いづらい。

第5戦 富士は誰がビックポイントを手にするか

シリーズチャンピオンを取るうえで重要なのはポイントの“取りこぼしをしない”ことになる。今シーズンの現状では、総合的な性能がやや抜きん出ているブリヂストンに分があるといえる。
また、優勝したドライバーが4戦ともに異なるのも今シーズンの特徴といえる。前述のように優勝者をみると、ダンロップ2勝、ブリヂストン2勝で、第4戦の十勝スピードウェイでは高橋選手がポールトゥウィンで初優勝を遂げた。所属するDTEC TEAM MASTER ONE(神奈川トヨタ)に、2016年以来の実に9年ぶりの勝利をプレゼントすることとなった。ただ、ポイントスタンディングでは優勝がないものの井口選手が2番手につけ、虎視眈々と2年ぶりのシリーズチャンピオンを狙っている。1勝も重要だが、やはりポイントの取りこぼしなく高得点を積み重ねることが重要だといえる。

どのような展開になるにしても9月6日-7日に富士スピードウェイで開催される第5戦は天王山といえる。ランキングトップに立つ堤選手がリードを保つのか、それとも井口選手に加えダンロップ勢の菅波選手、冨林選手、そして今季好調な岡本選手や高橋選手がビッグポイントを手にして上位に肉迫するか目が離せない戦いとなる。

クラブマンシリーズ

クラブマンシリーズは、ニューヒーローが誕生したと年と言える。
WING HIN MOTORSPORTS×MOTY’Sからエントリーしている#338 Naquib Azlan(ナキブ・アズラン)選手は開幕戦から関係者やファンに大きなインパクトを与えた。チームメイトの#339 AMER HARRIS JEFRY(アメー・ハリス)選手とともにマレーシアから参戦していて、ほとんどの国内サーキットは走行経験がない。開幕戦の舞台となったオートポリスのレースウィークで初走行となった。だが、ナキブ・アズラン選手は練習走行でコースの特性を掴むと、予選ではクラブマンシリーズに複数年の参戦経験を持つライバル達を退けポールポジションを獲得。決勝レースも独走で逃げ切り、初参戦でポールトゥウィンを達成した。第2戦のモビリティリゾートもてぎは欠場したが、第3戦のスポーツランドSUGO、第4戦の十勝スピードウェイと連勝を重ね、出場した3戦ともに優勝するという完璧なシーズンを過ごしている。オートポリスとスポーツランドSUGOはともにポールトゥウィンだったが、十勝スピードウェイでは抜きにくいコースながら5番手からトップに立っていて、決勝レースでの強さも十分に備えていることを示した。同胞のアメー・ハリス選手も4戦中2戦で表彰台に登り、シリーズランキング3位に付けている。

順位 No. ドライバー 合計ポイント
1338NAQUIB AZLAN64-
2990竹村 寛成43-21
3707箕輪 卓也39-25
3339AMER HARRIS JEFRY39-25
5311塙 瞬佑23-41
6703池島 実紅22-42
763松原 亮二18-46
7522大森 和也18-46
9557大西 隆生14-50
1037大田 優希12-52
クラブマンシリーズ(第4大会終了時点 1位~10位抜粋)
第3戦SUGO表彰台でのナキブ・アズラン選手とアメー・ハリス選手 、3位の太田優希選手
第3戦SUGO表彰台でのナキブ・アズラン選手とアメー・ハリス選手 、3位の太田優希選手

レーシングシミュレーターからプロフェッショナルへのステップアップ

ナキブ・アズラン選手はレーシングシミュレーターのドライバーとしても知られていて、10代のころから活躍。20歳のときにはマレーシアでGAZOO Racingのサポート受けVIOS CHALLENGEなどで腕を磨いてきた。そして、今シーズンから満を持してGR86/BRZ Cupへのシリーズ参戦した。チームとしてはまず国内のレースに慣れ、文化を含めてさまざまなことを吸収してもらうためにもクラブマンシリーズへのエントリーを決めたという。結果からわかるようにプロフェッショナルシリーズでも競える実力はあるはずなので、将来的なステップアップが期待される。

残り3戦、後半に向けて

さて、第4戦を終了した時点でのポイントスタンディングだが、ナキブ・アズラン選手が64点とトップ、2位は43点で#990竹村寛成選手、3位タイは39点でアメー・ハリス選手と#707箕輪卓也選手、5位は23点で#311塙瞬佑選手、6位は22点で#703池島実紅選手、7位タイは18点で#63松原亮二選手と#522大森和也選手、9位は14点で#557大西隆生選手、10位は12点で#37大田優希選手という並びになっている。

前半戦の結果やレース内容を見てもわかるようにナキブ・アズラン選手が一歩抜きん出ているのは事実。それでも2位に付ける竹村選手や4位の箕輪選手、5位の塙選手、6位の池島選手などの上位選手は状況によってはマレーシア勢を上回っていることもある。予選と決勝レースでいかに持っているパフォーマンスを最大限に引き出すかが鍵となるはず。プロフェッショナルシリーズとは異なり、クラブマンシリーズはダンロップDIREZZA ZⅢ CUPのワンメイクで競われている。そのため、マシンも含めてワンメイクレースであり、後半戦もタイヤの特性を引き出すためにセットアップに長けた選手やチームが躍進してくると思われる。

残り3戦には富士スピードウェイ、鈴鹿サーキットといった国際的なレーシングコースが含まれていて、ナキブ・アズラン選手やアメー・ハリス選手もシミュレーターで走り込んでいる。どのドライバーが“ニューヒーロー”に先着するのか、それとも独走を続けて早々にシリーズチャンピオンを決めるのかシーズン後半も見届けていきたい。