GR86/BRZ Cup 2026 スペシャルコンテンツ Vol.4
Team Takutyと
ディーラーメカニックの奮闘
全国のSUBARUディーラーと共闘する
チームの目的と目標
GR86/BRZ Cupのプロフェッショナルシリーズに唯一のSUBARUチームとして参戦している「Team Takuty」。チーム代表はレーシングドライバーの井口卓人が務め、久保凜太郎、奥本隼士との3台体制で存在感を示している。3名のマシンは関東圏のディーラーがそれぞれ支援し、さらには全国の販売店からディーラーメカニックを迎えてチームは運営されている。
SUBARUは古くからディーラーメカニックをモータースポーツの現場へ派遣し、実践経験を通じた人材育成に取り組んできた。現在も世界最高峰の耐久レースであるニュルブルクリンク24時間レースをはじめ、全日本ラリー選手権、そしてGR86/BRZ Cupが活動の場となり、全国の販売店から選抜されたメカニックが経験を積んでいる。
Team Takutyでは、レースごとにディーラーメカニックを対象とした実践研修を実施する。サーキットのピットは、設備や工具が揃った販売店の工場とは異なり、限られたツールだけで短時間のうちに確実な作業を行なわなければならない。一方で、求められる整備の精度は一般整備よりもシビアで、細かな確認やわずかな違和感も見逃さない観察力が求められる。
またレースでは、一人で一台を整備する販売店とは異なり、複数のメカニックが役割を分担し、一台のマシンを仕上げていく。作業スピードを高めるためには、一人ひとりの技術だけではなく、正確な情報共有や状況判断、そしてチームワークが欠かせない。こうした経験はレースの現場だけで終わるものではなく、それぞれの販売店へ持ち帰られ、日々のお客様への対応や整備品質の向上へと還元されていく。
Team Takutyが目指しているのは、レースで勝つことだけではない。モータースポーツを通じて人を育て、その経験を全国の販売店へ広げていくことも、このチームが担う使命である。今回の特集ではTeam Takutyの代表となる井口卓人をはじめ、レースエンジニア、そしてディーラーメカニックの活躍やそれぞれの想いをひも解いていく。
兼Team Takuty代表
井口卓人
Team Takuty代表・井口卓人が描く
SUBARUディーラーメカニックの育成とチームの未来
GR86/BRZ Cupのパドックには数多くのレースチームが並ぶ。その中でもTeam Takutyは少し異なる存在だ。プロフェッショナルシリーズで唯一のSUBARU系チームであり、全国の販売会社から志願したディーラーメカニックが毎戦サーキットへ集まる。彼らはレースを戦うだけではなく、現場で技術や判断力、チームワークを学び、それぞれの販売店へ持ち帰っている。
その取り組みの原点は2022年に遡る。当時、井口卓人と久保凜太郎の2人は所属していたチームの事情によって、シーズン終盤の2大会を戦えなくなってしまう。そこで、何とかレースを続けたいという想いから、急遽立ち上げたのが「Team Takuty」だった。車両やスタッフは従来の体制を借りながらも、自分たちでスポンサーを募り、新たなチームとして参戦したことが現在へとつながっている。
翌2023年からは東京スバル、千葉スバルとの取り組みが本格化した。しかし、その目的はスポンサーシップを受けることではなかった。
「スポンサーという関係だけではなく、もっと意味のある活動をしたいと思っていました。そこで東京スバルさん、千葉スバルさんと相談し、ディーラーメカニックにレースの現場を経験してもらうチームを作ろうという話になったんです」
こうしてTeam Takutyでは、プロのレースメカニックから学びながら、ディーラーメカニックが実践経験を積む育成プログラムがスタートした。現在ではSUBARUやブリヂストン、さらに活動に賛同した多くのスポンサーの協力も加わり、レース活動を軸にして、人材育成を目的としたプロジェクトへと発展している。
井口自身も、このチームを率いるようになって大きく考え方が変わったという。ドライバーのみのときは「速く走ること」「長く続けられること」が目的となっていた。しかし代表となった今は、チーム全体を見る立場になった。
「以前は自分のことだけを考えれば良かったのですが、今はチームの雰囲気づくりやスタッフのこと、予算の管理まで考えるようになりました。メンバーがやりたいことはできるだけ実現してあげたい。その一方で、削れるところは削る。タイヤの使い方や遠征費など細かなところまで考えるようになりました」
プレイングマネージャーとして戦うことは簡単ではない。それでも井口が最も大切にしているのは、チーム全員が気持ち良くレースに取り組める環境づくりだ。
チームを運営するなかで、井口の価値観にも変化が生まれた。自分自身が勝つこと以上に、若いドライバーやディーラーメカニックが成長し、新たなステージへ羽ばたいていく姿に大きなやりがいを感じるようになったという。
「僕も40歳が近くなってきたことやチームを立ち上げてからは、若いドライバーが速くなったり、ディーラーメカニックが成長していくことに興味を持つようになりました。そして、その活躍が他のカテゴリーへつながっていくことが嬉しいです」
実際にTeam Takutyで経験を積んだ東京スバル、千葉スバルのメカニックは、その後ニュルブルクリンク24時間レースのメンバーにも選ばれている。
「経験を積んだ人をさらに育てることも大事ですが、それ以上に一人でも多くの人にレースを経験してもらいたいと思っています。以前はチーフエンジニアのガレージで行なう研修に、来年以降で参加したい若手も受け入れていましたが、今は体制が大きくなり難しくなっています。今年はそういう入口になる『ディーラーメカニック研修会』を復活させたいですね」
井口が目指しているのは、一部の優秀なメカニックだけを育てることではない。裾野を広げ、その中から新たな人材が育つ環境づくりだ。
「将来的にはプロのメカニックが付かなくても、レースを経験したディーラーメカニックだけで1台を任せられるようになれば理想です。各ディーラーが1台を担当してもいいですし、3社で1台を運営してもいい。その経験を積んだメカニックがラリーやニュルブルクリンク、そしてスーパー耐久へとステップアップできる流れを作りたいんです」
Team Takutyは、そのための“入口”として存在している。井口は、全国のSUBARU販売会社が主体となってレース活動を展開し、ディーラーメカニックが活躍できる環境を築くことが、この活動の目標のひとつだと語る。
最後に井口は、この活動を通じて最も伝えたいことを、こんな言葉で締めくくった。
「メーカーも販売会社も、メカニック一人ひとりをしっかりと育てようと考えてくれています。モータースポーツを経験することで、整備技術だけでなく判断力やチームワーク、それぞれの個性や強みも伸びていきます。SUBARUは他メーカーに先駆けてディーラーメカニックを育成してきました。Team Takutyもその流れを受け継ぎ、レースを通じて成長できる環境をつくっていきたい。そして、お客様から『あの人に任せたい』と思っていただけるメカニックを一人でも多く育てることが、この活動の一番の目的です」『あの人に任せたい』と思っていただけるメカニックを1人でも多く育てることが、この活動の一番の目的です」
結果にとらわれがちなレースだが、Team Takutyの活動に携わったメカニックをはじめ、多くのチームでも同様に、次世代を担う人材が育っていることにも注目してもらいたい。
レース現場で教えているのは
技術だけではなく“考え方”です
大山 望さん(88号車担当)
ディーラーメカニックの指導を担当する大山望さんは、「レースだからといって特別な整備をしているわけではありません」と話す。ブレーキやサスペンションの交換、アライメント調整など、基本となる作業は販売店で行なう一般整備と変わらない。ただ、決定的に違うのは「限られた時間と環境の中で、より高い精度を求められること」だという。
「作業内容は普段の整備と同じですが、求められるスピードや判断力、そして一つひとつの精度が違います。例えばブレーキのエア抜きでも、『ここまでやればタッチが変わる』というポイントがありますし、アライメントも現場で細かく調整することでクルマの動きは大きく変わります。そうした”もう一歩踏み込んだ整備”を経験してもらうことを意識しています」
また、Team Takutyの活動に複数回参加しているメカニックには、より責任のある仕事を任せるという。「経験者には少し難しい仕事をお願いしています。責任ある作業を経験することで、自分で考えて判断する力が身に付きます。レースで学んだ段取りや精度へのこだわりは、必ず販売店での仕事にも生きてきます。ここで得た知識や技術を持ち帰ってもらうことが、この活動で一番大切にしていることです」
Dealer Mechanic Voice
モータースポーツの現場経験は
日々の整備にも必ず生きてくる
柳 佑介さん
15年間ディーラーメカニックとして働いてきた柳佑介さんは、2024年にTeam Takutyの活動に参加し、2025年にはニュルブルクリンク24時間レースのメカニックも経験した。
「普段の整備も決して手を抜いているわけではありませんが、どうしてもルーティンワークになります。レースという目標があることで、仕事へのモチベーションは確実に上がります」
レース現場で最も印象に残ったのは、作業の段取りとチームワークだという。「一般整備もレースも『安全に走らせる』という目的は同じです。ただ、レースではスピードと判断力が求められます。どの工具が必要か、次に何をするかを常に先読みして動くことが重要です。また、販売店では一人で作業することが多いですが、レースでは複数人で一台を仕上げます。声を掛け合いながら効率良く作業を進める考え方は、店舗でも十分に活かせると感じています」
全国のSUBARU販売会社から集まったメカニックとの交流も大きな財産になったという。「工場ごとに仕事の進め方が違い、多くの刺激を受けました。若いメカニックにはぜひ一度経験してほしいですね」
チームで1台を整備していくという考え方を学んだ
遠藤 菜々美さん
メカニックになって2年目の遠藤菜々美さんにとって、Team Takutyへの参加は初めてのレース現場だった。「ディーラーメカニックの派遣プログラムの経験はありませんでしたが、『知らない世界に挑戦したい』という気持ちで応募しました。北海道ではBRZに触れる機会が少ないので、普段経験できないことを学びたいと思ったんです」。実際にサーキットへ来てみると、一般整備との共通点も多かった一方で、その精度とスピードには驚いたという。「思っていた以上にトルク管理がシビアでしたし、部品交換のスピードも早かったです。その中でも一番印象的だったのは、一人で作業するのではなく、チーム全員で一台を仕上げることでした。作業が終わるたびに声を掛け合い、確認しながら進めることで無駄な動きがなくなります。工具が足りなければ自然と誰かがサポートしてくれる。チームで整備することの大切さを実感しました」。
この経験を、これからの販売店での仕事にも活かしていきたいという。「レースで学んだ確認作業やコミュニケーションは、普段の整備でも必ず役立つと思います。今回の経験を自分の成長につなげていきたいです」