210LAP2017.12.27
TOYOTA GAZOO Racing感謝の集いでメルセデスドライバーが表彰される!?
TOYOTA GAZOO Racing(以下「TGR」と表記)の年末感謝の集いで、不思議だと思われることが起こった。トヨタ、もしくはレクサスで戦ったドライバーの表彰に続いて、メルセデスやスバルで活躍したドライバーも登壇が促されたのだ。一般的には異例なこんなことも、TGRにとっては不思議でもなんでもないという。なんでだ!?木下隆之がそのカラクリを暴露する。
「師走の風物詩」
「今年のモータースポーツシーズンが終わりを告げた。ドライバーやチーム、それに携わる関係者それぞれが悲喜こもごものシーズンを送ったことだろう。
12月13日。師走のその日に開催された「TGR感謝の会2017」は、とても盛大だった。好成績を挙げられたドライバーは華々しく表彰され、あるいは惜しくも涙を飲んだドライバーも招待されて、華を添えた。
それぞれが、様々なカテゴリーでトヨタあるいはレクサスの看板を背負い戦った。いわば同志が、カテゴリーを超えて集まることは滅多にいることではない。見慣れぬ顔のドライバーとのひと時は、いつもとは異なる興奮に包まれる。
会場には25卓の大テーブルが並べられた。ドライバーはもちろんのこと、チーム関係者やサプライヤーや、今年のTGRを支えた仲間が一同に集った。もちろんぼくは、一番目立つ位置をキープ。先陣争いのテクニックでは負けていない。
今年からTGRは、GRカンパニーとして組織が巨大化した。これによってスタッフが増え、参戦カテゴリーも世界各地に及んだ。ドライバーやそれに携わるチームも一気に増えた。東京都内の一流ホテルの、その中でも広いコンべンションホールは、日頃はあまり見ることのないフォーマルな装いを纏ったドライバーが集結しており、彼らの、あるいは彼女らの熱気で包まれたのだ。寒さを忘れるような熱い夜を過ごしたのである。
TGRで最も忙しかったのは、ルーキーちゃんとモリゾウ君と、そしてくま吉くんだったのかもしれない。くま吉くんは、別の公務を終えてから、遅れて参加するという多忙ぶりだ(笑)
「サプライズが次々と…」
司会進行役はモータースポーツMCの今井優杏と、そしてなんと、GRマーケティング部部長の北澤氏。部長がマイクを握るというサプライズも、いかにも親しみやすさを強調するTGRらしい。いたずらに華美ではなく、どこか手作り感の残る会が、招待された我々の心を和ませてくれた。
豊田章男社長の登壇は式次第にはなかったのだが、公務を終え、慌ただしくも駆けつけてくれてもいた。もてなしとサプライズが好きな豊田社長らしい登場に、会場も興奮の坩堝に包まれる。会が進むと、次第にみんなの笑顔で溢れていったのだ。
司会進行は、モータースポーツMC の今井優杏ちゃんと、モータースポーツMC見習いの北澤部長(笑)。部長なのだからって、VIP席で偉そうにしていないのがTGRなのだ。
そして、それからはお約束のコンテンツが続く。今年、トヨタもしくはレクサスのマシンを駆ってチャンピオンを獲得したドライバーの名が次々と発表され祝福された。祝辞とともに特製シャンパンがプレゼントされる。好成績を残したドライバーやチームの面々の誇しい笑顔を眺めていると、やはりコンペティションの世界で生きるドライバーは勝利することが大切なのだなぁと実感したのである。久しぶりのお酒と盛り上がりで、いつも以上に酔いが回っていた。周りを見ると、頬をあかめたドライバーが、楽しそうに談笑していた。
惜しくもル・マン24時間優勝は逃したけれど、WECで健闘した日本人ドライバーも登壇。来年の抱負を述べた。
最終戦が雨で中止、逃げ切りで2度目のスーパーフォーミュラーチャンピオンに輝いた石浦宏明も表彰された。「実は、中止になってくれって祈ってました」と笑いを誘った。
「異例なメンバーが登壇すると…」
その後も様々な祝福が続き、トヨタ系ドライバーやチームのスピーチがほぼ終わりかけた頃に、ちょっと驚くべきことが起こった。トヨタとレクサスで戦ったドライバーだけでなく、他メーカーで戦い、王冠を獲得したチームとドライバーの登壇が促されたのである。
その瞬間、会場はざわめいた。あくまでトヨタ系ドライバーの一年を振り返り、労をねぎらい感謝する会なのに、他メーカーのチームとドライバーに対しての表彰も行われたのである。これははっきり言って異例である。
スバル・インプレッサを駆り全日本ラリーチャンピオンを獲得した勝田範彦と、AMGメルセデスでSUPER GTのGT300王者に輝いた片岡龍也。フェラーリを王者に導いたST-Xチャンピオンを奪った、永井宏明/佐々木孝太組が、壇上でスポットライトを浴びたのである。こんなことは古今東西、初めてのことだと思う。
トヨタとレクサスのチャンピオンを、メルセデスを駆り阻んだ片岡龍也も表彰されるというのだから、TGRも懐が大きい。メーカー問わず車好きを応援するというメッセージである。
スバルで王者に輝いた勝田範彦も登壇。表向きはスバルの選手だが、日向になり影なりTGRを支えているドライバーだ。
彼らは別のカテゴリーではTGRドライバーとして活動する。だから、精神的にはライバルではなく仲間なのだ。たまたま、そのカテゴリーでは他メーカーのマシンで戦ったに過ぎない。だから、表彰されたのだ。言葉にすればしごくもっともであり、簡単なことかもしれない。だが、実際に表彰されるとは驚きなのである。
全日本のオーバーオールクラスには、トヨタ車は出場していない。だから、勝田選手の表彰は、トヨタの憎き敵ではなく、同志だと言えるのかもしれない。ただ、片岡龍也に至っては、トヨタ86を抜き去り、最終戦までチャンピオン争いをしていたレクサスRCFを抑えて、チャンピオンを獲得してしまったのである。本来なら、まさに敵。そして、倒すべき敵。そのドライバーが表彰されたのだから面白い。
章男社長が会場で、ひとりひとりに声を掛けて回った。トヨタ自動車の代表であり、雲の上の存在だから皆の表情は硬いはずなのだが、ニュルブルクリンクチームではご覧の通り無礼講で…。
僕らのテーブルに回って来て一言。「おっ、来てたのか!?」「はい、招待されなくても押しかけます」心温まる一言です。
無理やり握手を求めると…。「何の意味があるの!?この握手に」「WECドライバーに木下と契約したとでもしてください」「そっか、じゃあ明日の新聞で発表しよう」まだ発表がありませんが、社長。(汗)
それぞれにマイクが渡され、感謝に言葉が求められた。TGRに感謝しつつも、登壇した居心地の良さを語り、笑いを誘っていた。スバルやメルセデス、あるいはフェラーリへの感謝を表しつつも、TGRへの賛辞を苦しげに口にする姿が会を盛り上げた。
これこそ、TGRの精神だと思う。メーカーを問わず、モータースポーツの隆盛に貢献したドライバーを祝福する姿勢こそ、TGRの根底に宿る精神なのである。
そして、それはすなわち豊田章男社長の考えでもある。さすがに国内外で活動する全ドライバーを招待するわけにもいかず、TGRに影になり、日向になり支えたドライバーに限っての招待ではあったものの、他メーカーのマシンに乗ったから敵だとは考えないのがTGRなのである。
僕は今年TGRタイランドに単身所属して、ニュルブルクリンク24時間に参戦した。正真正銘TGRドライバーといってもいいだろう。だが、チャンピオンを獲得することはできなかった。だから僕の表彰はなかった。
僕は片岡龍也を呼んで、嫌味を言ってやった。
「まさか来年もメルセデスでトヨタの覇を抑えるつもりか!?」
すると、彼はこう答えた。
「もちろんです。そしてまた表彰されに来ようかと…」
ラグビーは90分のプレーが終わるとノーサイドのホイッスルが吹かれる。ゲームセットではなく敵味方がなくなるとの思いだ。
笑顔に包まれたTGR感謝の会は、ノーサイドのホイッスルで終わりを告げたのだった。
御勇退される嵯峨チェアマンにも花束が贈呈された。これまでモータースポーツを支えてくださった方に感謝の気持ちを告げた。
感謝の会2017は、サービス精神溢れる豊田章男社長らしく、アットホームな雰囲気に包まれた。
キノシタの近況
TGRタイランドを応援するためのタイ遠征で立ち寄ったスワンナプーム国際空港で、カムリを発見。乗客を運ぶ空港内カートが、先代のカムリそのまま。細部まで改造されていたビックリ。タイヤは太いしアルミホイール装着。スプリングまで黄色に染められていた。トランジットの数時間が飽きませんでしたね。