レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム

212LAP2018.1.31

昭和のスター健在。東京オートサロンはこうでなくちゃ!!

毎年恒例の東京オートサロンに足を運んだ木下隆之は、年々本格的な自動車ショーへと進化することを喜びつつも、時代に流されぬクルマ好きの熱い想いを大切にするべきだと言う。昭和を彩ったモデルの展示が嬉しかったと…。

「東モと東オ…」

 カスタムカーの祭典である「東京オートサロン」が、変わりつつある。正月気分も抜け切らぬ1月の幕張メッセに足を運んで、その感覚をさらに強くした。
 国内で最も華やかで格式高い自動車ショーは「東京モーターショー」であろう。国内外の自動車メーカーが積極的に参加する。最新のモデルだけでなく、近未来を創造するコンセプトモデルがブースを彩り、夢の車がステージでスポットライトを浴びる。そのショーに注がれる資金も人員も、開催日数も観客動員数も頭抜けている。各メーカーの社長が登壇し、新車の発表に力を込めることもお約束のコンテンツだ。いわゆるメーカーの晴れの舞台である。
 その一方で東京オートサロンは、市販車を改造することを楽しみ、レーシングカーの展示で胸踊らせることが趣旨。レーシングドライバーの姿も珍しくはない。実はこの前身は、チューニングカーマガジン「OPTION」誌初代編集長が、カスタムカー文化が広がることを願って企画した「東京エキサイティングカーショー」が起源なのだ。
「市販車の発表は東京モーターショーに任せて、東京オートサロンはもっと身近なことで楽しもうぜ」
 僕らは口々にそう囁き合ってきたわけだ。
 実際に客層も違った。東京モーターショーはどちらかといえば紺のスーツにネクタイ姿のサラリーマン風が多いのに対して東京オートサロンは、派手な腰パン風の茶髪君達が目立つ。厳格なメーカー資本とライトなショップ主体の違いがある。

メーカー系としてTOYOTA GAZOO Racingは最大規模のブースで華やかさを演出する。

観客動員は30万人とも…。幕張メッセは熱気に包まれた。ホンダのブースも、メーカー系ならではの力の入れようだった。

観客動員は30万人とも…。幕張メッセは熱気に包まれた。ホンダのブースも、メーカー系ならではの力の入れようだった。

色香漂う美女の姿も、東京オートサロンには欠かせない。

色香漂う美女の姿も、東京オートサロンには欠かせない。

「VIP来場で時代が動いた」

 様子が変わりだしたのは数年前。TOYOTA GAZOO Racingの代表として豊田章男社長が顔を出し始めたことがきっかけだったと思う。TOYOTA GAZOO Racingはレーシングチームだからレーシングカーの祭典に出展するのは道理だが、まさかと思われる世界のトップが姿を見せたことで雰囲気が変わった。国内の他メーカーにもその情報が伝わり、足並みが揃い始めた。
「そんなVIPにわざわざお越しいただくほど格調高いショーではありませんよ」って思っていたのに、自動車メーカーが本気を入れ始めた。きっかけは豊田章男社長の現場を思う気持ちや、クルマ好きならではの行動力なのだが、ともあれ、それが発端となり東京オートサロンの人気に火がついたのは事実だ。
 日本市場の縮小や中国マーケットの急拡大などによって、東京モーターショーの元気が薄らいでいる。アジアのハブとして日本を認識していた海外メーカーは、中国をハブモーターショーとして乗り換えつつある。ということもあり、海外メーカーの注目度が薄れ、その一方で東京オートサロンの急拡大が、曲線が交差するようにチェンジオーバーしつつある。その反動で東京オートサロンが本格化しつつある。それを喜ぶ声は多い。

まさかこんなクルマが公道を走ることなど想像できない。そんな夢の世界がここにはある。

まさかこんなクルマが公道を走ることなど想像できない。そんな夢の世界がここにはある。

派手なエアロでは飽き足らず、手の込んだ塗装もショーを惹き立てる。

派手なエアロでは飽き足らず、手の込んだ塗装もショーを惹き立てる。

「手の届く自動車ショーであって欲しい」

 ただその一方で、本格化を憂う声も耳に届く。資金的に余裕のある自動車メーカーが勢いを増す中で、予算の限られているショップが影に追いやられていると悲しむ人達もいるのだ。
 クルマ好きの感覚に寄り添い、自らの豊かな発想でこしらえた小さな改造パーツを発表するのに、スタッフの愛車を借用して展示する小規模のショップは、実はオートサロンの趣旨であり多くのお客さんの琴線に響くのだが、幕張メッセの会場の中では影の存在になりやすい。巨大化だけが正義ではないというのだ。
 だからというわけではないが、身の丈にあったカスタマイズが僕の目に止まった。自動車メーカーが大仰なモデルを展示するのも大賛成だが、一方で手の届く遊び方をするショップが多いことも嬉しかったのだ。
 軽トラの車高を上げて、巨大なビックフット風に改造しているのを見ると嬉しくなる。逆に、ミニバンの車高をベタベタに下げたりしてね。それでどうするのってことは聞いたらやぼだ。おそらく「面白いから」という答えが返ってくるのだろう。

インプレッサの定番は、ラリー仕様であったりストリートチューンが王道だが、派手なカラーリングも少なくない。個性が光る。

インプレッサの定番は、ラリー仕様であったりストリートチューンが王道だが、派手なカラーリングも少なくない。個性が光る。

 一方で、昭和の高度成長期を彩ったモデルがたくさん展示されていたのも嬉しかった。第一世代の日産スカイラインGT-R(KPGC10)やトヨタセリカリフトバックGTや、あるいはマツダコスモスポーツ。はたまた日野コンテッサが展示されていたのには、昭和世代の僕のハートを鷲掴みにしたのだ。
 KPGC10型スカイラインGT-Rは1969年に誕生した。打倒ポルシェを旗印に直列6気筒4バルブDOHCエンジンを搭載、オーバーフェンダーをまとって圧倒的な速さを披露した。日本の自動車史に欠かせない不滅の名車である。会場内でのエンジン始動は禁止されているけれど、今にも金属質なエキゾーストノートが聞こえそうに思えた。
 若い世代には、今でこそトラックメーカーの日野自動車が魅力的な乗用車などを作っていたことなど知らないかもしれない。1964年にデビューした第三世代の日野コンテッサはイタリアの鬼才ミケロッティのデザインになる。空冷エンジンをリアに搭載、リアタイヤを駆動させるという特異な構造とした。フロントグリルを持たないのはそれが理由だ。古き良き名車。
 マツダコスモスポーツは、世界で初めて実用化されたロータリーエンジンを搭載する2シータースポーツである。そのスタイルに多くの日本人が惹きつけられた。ボンネットが低いのは、搭載するロータリーエンジンが軽量コンパクトだからこそ可能になったシルエットである。今回のショーではロータリーで名を馳せたRE雨宮が、最新のロータリーを搭載させて蘇らせたモデルである。
 昭和の高度成長期は、日本の自動車産業の成長期でもある。技術的にはまだ未成熟だった。だが、気持ちは熱かった。マツダはレシプロエンジンだけではなくロータリーエンジンに可能性を求めていたし、パワーユニット搭載位置もフロントでもミッドでもなく、リアマウントに挑んだり空冷に挑戦したりした。技術者の試行錯誤が魅力的なモデルを生み出した時代である。

不滅の名車は、世代を超えて人気が高い。

不滅の名車は、世代を超えて人気が高い。

これほど綺麗に保たれているコンテッサは、世界で数台に違いない。当時のエンジニアの発想に豊かさを知るのも楽しみだった。

これほど綺麗に保たれているコンテッサは、世界で数台に違いない。当時のエンジニアの発想に豊かさを知るのも楽しみだった。

現役NBoxは、どんな個性にも似合う。ホンダの車は昔から七変化だ。

現役NBoxは、どんな個性にも似合う。ホンダの車は昔から七変化だ。

踏める国アメリカのマスタングを模したと言われているトヨタ・セリカ・リフトバック。いま眺めてもその美しさに惚れ惚れする。

踏める国アメリカのマスタングを模したと言われているトヨタ・セリカ・リフトバック。いま眺めてもその美しさに惚れ惚れする。

S30型フェアレディZは、サーキットだけでなくラリーシーンでも大活躍した。

S30型フェアレディZは、サーキットだけでなくラリーシーンでも大活躍した。

「TSバトル再燃」

 ハートにビンビンと響いたのは、サーキットがヒートアップしていたTS仕様が並んだことだ。ゼッケン84が懐かしい東名自動車のB110サニーが展示されるそばには、トムス館信秀会長が操り活躍したKP47スターレットが復刻されていた。両モデルとも実際にサーキット走行可能なコンディションに保たれている。というより、実際にノスタルジックレースに参戦している現役モデルなのである。今にも1万回転を許容する高回転のエキゾーストノートが聞こえてきそうな躍動感があった。

84番はもはや永久欠番であろう。A12型エンジンの唸りが聞こえてきそうだ。

84番はもはや永久欠番であろう。A12型エンジンの唸りが聞こえてきそうだ。

昨年末に復活させたトムス舘義秀会長のスターレットも、富士スピードウエイのストレートを疾走した。

昨年末に復活させたトムス舘義秀会長のスターレットも、富士スピードウエイのストレートを疾走した。

 東京オートサロンのステージには、最新のモデルがスポットライトを浴びている。TOYOTA GAZOO Racingは、近未来のスーパーカー「GRスーパースポーツコンセプト」を展示して注目を浴びた。その一方で、観客を熱狂させたサニーやスターレットが勇姿を披露していた。昭和と平成が一つのベクトルで結び付いていたのである。
 これをもって、ますます若返るシニア世代への迎合ではまったくない。古き良き時代を誇ることで、若年層への気持ちを喚起させる意味がある。最新のモデルとノスタルジックなマシンをベクトルで結ぶことは、シニアと若者を繋ぐことでもあるのだ。

 やはり東京オートサロンは、あくまで僕らの琴線に響くモデルで埋め尽くされていてほしいと思う。将来の自動車社会のあり方の創造は東京モーターショーに任せ、手に触れてドキドキするようなモデルの晴れやかな場所であってほしい。
「なんだか楽しいぜ」
 東京オートサロンには、開催の意義も展示の理由も一切必要ない。
 ただ楽しければそれでいいのだ。

©️TOKYO AUTO SALON

キノシタの近況

キノシタの近況 キノシタの近況

 日産広報部が主催する「氷上試乗会」は、なかなかエキサイティングである。最新のリーフやXトレイルのドライブはもちろんだけど、GT-RやフェアレディZを限界まで攻めさせてくれるのだ。だからご覧のような熱い走りにも挑める。国内最強のスポーツカーをここまで自由にさせてくれたことに感謝。