224LAP2018.7.25
若獅子のバトルに厳しい裁定がくだる
5月の連休に行われたFIA-F4選手権で、ゴール後にペナルティを受けたドライバーがいた。バトルはクリーンに思えたし、けして暴力的なドライビングではなかったのに、将来を夢見るそのドライバーは大きく順位を落とすことになった。ジャッジはジャッジだからそこには異論はない。そのジャッジを見越したドライビングを学ぶ必要性もある。一度もペナルティを受けたことのないという木下隆之はそう思うのだ。
オートスポーツの記事に賛同
オートスポーツ6/8号の連載コラムに、思わず膝を打ちたくなるような記事が展開されていた。「全日本MS会議」というタイトルのそのコラムは、「みんなで考えるモータースポーツ」とサブタイトルにあるように、モータースポーツのあれやこれやを綴っている。
「全日本MS会議」は6/8号で205回目を迎える。僕もかつてはオートスポーツでコラムを連載していたのだが、お休みをいただいてから入れ替わりで始めた本コラム「クルマ・スキ・トモニ」が224回目だから、どこか親近感がある。どんなんかなぁ〜なんていつも楽しみにしてきたのだ。
執筆者は、モータースポーツジャーナリストの大串信氏だ。この業界の重鎮でありご意見番である。いつも本質をついた論評に唸ることが多いし、歯に衣着せぬ語り口が清々しい。今回も、大串氏と同じ感想だったことを知って、嬉しくなった。
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モータースポーツ専門誌の雄「オートスポーツ」には興味深い記事が連載されている。
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大串氏の連載コラムには、思わず膝を打ちたくなる論調が多い。
激しくクリーンなバトル
5月に富士スピードウェイで開催されたFIA-F4選手権第4戦で、ある選手のドライビングが規則第15条1.2抵触、つまり他車にコースアウトを強いるものとしてレース後に40秒のペナルティが科されたのである。平たく言えば、押し出しちゃダメよってわけだ。
だが、多くの人がそのバトルは素晴らしかったと意見している。そのひとりは僕であり、大串氏も同意見のような気がする。そのジャッジは正しかったのか…という思いである。
ジャッジはそれが答えだから、判定を否定することはできない。だが、そんなのでもペナルティなんて可哀想って僕は感じた。
もうちょっと詳しく伝えるとこうなる。
レースは4台が団子状態で2位争いをしていて、残り4周。最近では珍しいほど、終盤での4台バトルだった。ストレートではスリップストリームの応酬があり、ブレーキングゾーンでワイドに弾け、4ワイドの展開となった。
1コーナーに4台がほぼ同時に飛び込んだが、意地の張り合いの結果だから、そのうちの3台がオーバースピード気味でラインを外しかけた。そのイン側を、のちにペナルティを受けることになるドライバーがスルスルと潜り込み、結果として立ち上がりでアウト側のマシンがコース外に飛び出したというわけである。
そりゃそうだよね。富士スピードウェイの1コーナーに4台のフォーミュラマシンが、お遊戯するように仲良く並んだまま通過するとは思えない。そんな呑気なレースでもあるまい。
だが、少なくとも僕の目には、クリーンなレースだった。テレビ解説していた岡田秀樹さんも「いいバトルですねぇ」と言っていたし、僕も久しぶりに爽やかな若武者のバトルに気分が良かった。だがレース後には、イン側にいたドライバーが規則違反でペナルティ、結果として40秒が上乗せされ、17位という記録に沈んだのである。
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最終コーナーを立ち上がった4台は、超接近戦のままスリップストリーム合戦に突入した。
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残り4週。4台が団子状態になってストレートを通過。ここでのポジショニングがのちに勝負を決める。
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スリップから抜け出したマシンが4ワイドに、ワクワクドキドキするシーンだ。
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ブレーキング合戦が始まった。ここで譲る気のあるドライバーはいない。
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アウト側にいれば押し出されるリスクもあるだろう。イン側に優先権がある。
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一旦は勝負がついたかに見えたが、のちに酷な裁定が下った。
海外レースはオウンリスクの世界でもある
まあ、僕が戦っているニュルブルクリンクやブランパンGTアジアなどかなり激しい。コース外に葬り去るような悪質な幅寄せにはペナルティが科せられるが、優先権のあるものがラインをキープした結果として、アウトから被せてきたものが接触によって姿勢を乱しても罪は問われない。レーシングアクシデントとしての許容範囲が広いのだ。
抜きたければオウンリスクで抜きなさいという基本ルールがある。というか、ドライバーの国籍がバラバラだから、宗教も育った環境も異なる。だから基本ルールも曖昧なのだ。その瞬間の相手のドライビングパターンを読み取って対応しなければ生き残れないのである。
本来ならば、厳格にルールやマナーを統一し納得させる必要があるのだろうが、そもそもバラバラの寄せ集めだから、かなりの部分で喧嘩レースになる。日本とは環境が異なるのである。
じつは今年、僕はブランパンGTアジアで2度、ライバルとの接触によってバトルを有利に展開させることに成功した。
マレーシアでトップ争い中、僕はライバルの追撃を受けていた。その時僕はライン上を走行。後ろから迫ってきたライバルはアウト側から並びかけようとした。そこで接触が発生し、ライバルは姿勢を乱し、バックミラーの中で小さく消えていった。
僕に言わせれば、抜き去るスピードもないのにアウトから並びかけておいて自爆。それを僕のせいにされても困るという論理。実際にペナルティはなかったし、その気配さえもなかった。
それも道理で、僕はラインを正しく走行していただけだ。ライバルのスペースを塞いでもいない。僕はクリッピングポイントにいたのだからね。
鈴鹿での接触でもお咎めはなかった。ただし、モニターには審議中の文字が点灯していた。結局、タワーに呼ばれることもなく、ごく普通にリザルトを残したわけだ。
唯一の後悔は、レースではトップチェッカーを受け、チームスタッフは初優勝の歓喜に溢れていたのだが、僕とチームオーナーは、正式結果が発表されるまで、気が落ち着かなかったことだ。それは反省している。
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押されても回らない。押しても回さない。
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ライン上を走行していて何が悪い。無茶したものが損をする。
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バトルの醍醐味はポジョニングにある。将棋のように、はるか手前から先々の一手を打っていくのだ。
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すでに勝負あった、だね。
エンターテインメントと勝つか負けるか
F4は将来を夢見る若い獅子の育成カテゴリーである。ここでの順位は将来を左右する。F4から上に巣立つには、チャンピオンを獲得するしか道はない。だとしたらギリギリまで攻めるのは当然のドライビングである。
ここで苦言を呈したいのは、押し出されたドライバーも、押し出したとされてペナルティを受けたドライバーも損をしたわけで、つまり押し出されず、ペナルティも受けずにゴールしたドライバーがオイシイ思いをしたということだ。今回のバトルで浮かび上がったのは、損をせずにゴールできるか否かがドライバーの資質であるという点である。
じつはF4ドライバーには、厳格なルールとマナーが確認されている。イン側のドライバーはアウトのマシンと並走している場合、一台分のスペースを空けなければならないのだ。もし仮に半車身前に出ていれば空けなくてもいいのだが、この場合は並走状態だった。なのにイン側のドライバーはアウトにスペースを残さなかった。だからペナルティなのである。あの行為だけで40秒加算は酷だとは思うけれど、だがしかし、事前にそのルールは知らされていたペナルティなのである。
F4は勝つか負けるかの世界である。1センチでも前でゴールしたものが次のステージに進む権利が与えられる世界なのだ。弾き出されるかもしれないというラインにいたことはミスであり、イン側をとってブレーキングを制した件(くだん)のペナルティドライバーは、少なくともその段階では正しくポジショニングしたのだと拍手を送ってやりたかった。しかし、立ち上がりのスペースを、ルールに則って少しも残さなかったのはミスなのだ。
ともあれ、SUPER GTのような成熟したドライバーが多くの観客にプロのテクニックを披露するカテゴリーならば、モラルハザードが厳しくてもいいような気がする。寸止めバトルにはエンターテインメント性があるからだ。
だが、まだ未成熟なドライバーの真剣バトルは、寸止めではなく実践であってもいいと思うのは、僕が昭和の喧嘩レース時代を過ごしてきたからなのかもしれない。
プロ野球オールスター戦のように、直球勝負を宣言して挑むのがエンターテインメントかもしれない。だけど、高校野球のようなステップアップの世界では、スクイズでも振り逃げをしてでも勝利に貪欲になる必要がある。ヘッドギアで守られたボクシングでは、路地裏のストリートファイトでは勝てない。そんな思いに等しい。
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将来を夢見るドライバーに親獅子のような厳しさを伝えたいと思う。それが愛情だ。
ただし、レースは結果がすべてだ
ともあれ、これだけは言える。ペナルティを受けたものが損をするのだ。弾き出されたものも損をする。だから、ペナルティを受けないであろう走行をすればいいのである。弾き出されない走りをすればいい。ただそれだけ。仮に岡田秀樹さんが「汚いバトルだ」といい、仮に大串氏もそれに賛同したとしても、競技長に「レーシングアクシデント」だと判断させればいいのである。
正直に言おう。今この世界に残っているレーシングドライバーは、ここまでの過程でギリギリの世界で生き残ってきた猛者だ。損をしないレースをしてきた結果なのだ。
ちなみに僕は、ペナルティを受けた経験は一度もない。(たぶん)
【写真提供・協力】株式会社GTアソシエイション
FIA-F4公式動画(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=JcvGRKJC7rA
FIA-F4公式サイト
https://fiaf4.jp/
キノシタの近況
ブランパンGTアジア富士ラウンドは、ここ数十年で記憶にないほどに完勝だった。金曜日の走行開始から予選決勝を通じて、一度もトップを譲らなかった。1レースも2レースもポールtoウインだったのである。こんなパーフェクトゲームは、記憶を遡っても、スーパー耐久で全戦全勝した三菱ランサー時代以来だと思う。ということはあの時と同じで、BMWスタディ黄金期が始まるってことだな。