レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム

228LAP2018.9.26

GT4世界一決定戦開催

 木下隆之が今シーズン戦っているブランパンGTアジアには、アジア選手権だけに多彩な国籍のドライバーが集う。その数なんと17カ国に及ぶという。となれば、どの国籍のドライバーがもっとも速く強いのかを知りたくなるのは道理。というわけで、世界一決定戦が開催されることになったのだ。果たしてそのステージに木下隆之は挑むのか…!(◎_◎;)

アジア転戦4カ国、全12戦の激闘

 アジア4カ国を転戦するブランパンGTアジアも、早いもので最終戦を残すのみとなった。
 開幕戦はマレーシア・セパン。続く第2戦はタイ・ブリーラム。SUPER GT唯一の海外戦が行われているから、日本のファンの皆様にも馴染みが深いことだろう。そこからステージを日本に移す。鈴鹿と富士をこなしてF1グランプリサーキットの上海を戦い、中国・寧波でファイナルを迎えるのだ。
 開催地は4カ国。マレーシア、タイ、日本、中国。ひとつのサーキットで2レース開催だから全12となるのだが、イベント数だと6大会。モータースポーツに熱いアジア4カ国で華やかに選手権が競われるのである。

 僕が国際レースに好んで参戦するのは、ドメスティックなシリーズ戦とは違った刺激があるからだ。日産契約時代にイギリスやベルギーや、もちろんドイツで異国レース詣でを続けてきたけれど、心機一転臨んだ今シーズンのアジア転戦は刺激に溢れていた。慣れた日本でのレースとは違って、常識やマナーが異なるから、ドライビングスキルだけでなく順応性が求められる。それが刺激になるのである。

17もの国から精鋭が集結する

 アジア4カ国を転戦することで、ドライバーラインナップも豪華になっていった。じつはかつては、アジアの一部でアマチュアのレースフリークが手弁当で始めた愛好家のイベントだった。それがプロの主催者団体であるSROが音頭をとるようになったことで華やかな度合いを高めていく。それは、参戦ドライバーの国籍がバラエティ豊かになっていったことにも表れている。
 プランパンGTヨーロッパは31国籍のドライバーが集結する。ブランパンGTシリーズは41カ国にも増えた。プランパンGTアジアはまだまだ17カ国に過ぎないが、それでも年々国際化しているという。将来性は高いのである。
 国籍の内訳をみると、日本勢の活躍が際立っている。

日本 11名
香港 8名
オーストラリア 6名
台湾 4名
中国 4名
シンガポール 4名
マレーシア 3名
フランス 3名
イタリア 3名
ドイツ 3名
韓国 2名
USA 1名
デンマーク 1名
エストニア 1名
インド 1名
タイランド 1名
オランダ 1名


 日本がもっとも多い理由は、アジアの中ではもっとも経済的に豊かであり、モータースポーツ先進国だからであろう。自動車産業が抜きん出て発展しているのが日本だし、日本人レーシングドライバーにとってアジア圏であれば、環境的にも参戦しやすい。
 意外なのは、セパン戦がシリーズに組み込まれているのにマレーシアのドライバーが3名と少ないことと、あれほどブリーラムは熱狂に包まれるのにタイランドからは1名しか参戦していないということである。マレーシアはF1開催の経験もあるし、SUPER GTが長年遠征してきた地でもある。タイランドも同様で、日本のSUPER GTにはわざわざタイランドのアルトチームが参戦して来ているのというのに、もっと身近なブランパンGTアジアに1名だけというのはちょっと寂しい。マレーシアもタイランドもモータースポーツ熱は高いはず。近い将来に期待したいところだ。

 イタリアやドイツが3名というのは、多いのか少ないのか判断に迷うところだ。というのも、参戦するマシンの多くはフェラーリやランボルキーニのイタリア車と、AMGやポルシェのドイツ車である。つまり、メーカーとのコネクションを持つドライバーや、メーカーの息のかかったワークスドライバーが送り込まれていることもあるからだ。これから増えてくることは明白だ。

 言葉の通じないドライバーが群雄割拠するカテゴリーならではの珍道中も、楽しみのひとつ。言語がバラバラだから、基本的には英語が公用語となる。異国籍だから細かいニュアンスまでは通じなくとも、サーキットではレースという共通の言語があるからなんとかなるってところが面白い。言葉が通じない分、表情やジェスチャーが豊かになる。お互いに尊重し合う関係になれるのも、多国籍レースの醍醐味である。僕が海外のレース詣でを続けてきた理由はそこにある。

  • 国籍は多彩だ。マシンもバラエティに富んでいる。それぞれがナショナルフラッグを背負って戦っている。
  • 世界各地から集結する。だから国際レースは面白い。

異国籍ドライバーワールドカップ開催

 ブランパンGTアジアには、世界各国からドライバーが集結するからこそ開催可能な魅力的なコンテンツが、もうひとつ準備されている。「ツーリングカーのワールドカップ」と言ってもいい「FIAGT ネイションカップ」がそれだ。
 開催日は11月30日〜12月1日。舞台はバーレーン。シーズン終了後の上位入賞者の中から各国1チームだけが選抜される。ドライバーも国籍混成は許されず、共通の国籍を持つドライバーに限定されるのだ。
 現段階で予定されているレース形式は、トーナメント方式に準じる。2回の予選レースが行われ、そこで勝ち残った上位チームが決勝戦に駒を進めるという具合だ。世界一決定戦に相応しい緊張感が、今からフツフツと湧き上がってくる。マシンのボンネットには、それぞれの国旗がデザインされるという趣向だ。せっかくだから、レーシングスーツにも国旗を背負いたいものだね。

 実は僕がニュルブルクリンク24時間レースに参戦を続けているのは、ナショナリティを強く意識するからである。ツーリングカーの聖地ニュルブルクリンクでは、地元のドイツ勢が圧倒的な強さをみせる。まさに多勢に無勢である。彼らはドイツのマシンに誇りと自信を持っている。それもそのはず、ポルシェやBMWを生み出した国なのである。ドライバースキルにも自信を持っている。それはそうだ。F1チャンピオンをたくさん増産しているのだから、それも納得する。
 だが、それをポディウムの下から見上げて満足できるほど僕はヤワじゃない。日本にも肝っ玉のでかいドライバーがいることを証明するために、これまで挑んできたのである。心の中には日の丸がはためいている。そんな僕にとって世界一決定戦ともいえる「FIAGT ネイションカップ」は、絶対に挑むべきレースなのだ。
 現段階で我々が日本代表権を得ているのかは不明である。だが、もし許されるのならこの憧れのステージに駒を進め、世界の猛者たちと競い合いたいものだ。ポディウムに日の丸を掲げるために、である。
 ブランパンGTアジアは、アジア最高峰の多国籍レースに昇華した。そのステージでは、ナショナリズムの強いドライバーそれぞれの国旗を背負って世界の頂点を目指すのである。

  • 代表に選ばれれば、チーム国籍の国旗を貼って走るのがルールだ。
  • 世界の主要メディアを通じて報道される。数十億人の目にレースが届けられるのだ。
  • 世界で最も速く強いチームはどこだ。ドライバーは誰なのだ。
  • 世界一決定戦の開催地はパーレーン。フェスティバル最大の目玉コンテンツとして組み込まれる。
  • 潤沢なオイルマネーによって開催される。

キノシタの近況

  • キノシタの近況

 ブランパンGTアジア・中国上海ラウンドは、第9戦が2位。第10戦を優勝で終えることができた。これでシリーズトップとのポイント差11に接近。優勝すると25ポイントが稼げるシリーズだから、最終戦での大逆転は余裕ですね。最後の最後まで応援よろしくお願いします。