レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム

232LAP2018.11.21

トヨタ対白い恋人。激闘の裏側が透けて見える

 夜中にJリーグを自宅で観戦していた木下隆之は、ピッチを駆け回る選手のユニフォームに目が釘付けになった。そこでは、世界のトヨタと白い恋人がボールを奪い合っていたのである。数々のスポンサーロゴを身に纏うJリーグとモータースポーツは収益構造的に近似性があるのではないかと想像したら、好奇心が抑えきれなくなったというのだ。日本のメジャースポーツである野球とサッカーと、そしてモータースポーツはどこか似ているようで似ていないようで…。

フクロウがシャチを喰う

 Jリーグも終盤戦に突入し、チャンピオンフラッグの行方や残留昇格の争いが激しさを増している。モータースポーツでなくとも、スポーツと名のつく競技にはただならぬ興味を持つ性分だから、この夜も、ウイスキーとソーダの瓶を傍らに並べて、テレビモニターにかじりついていた。サーディンを肴にしての観戦だから、試合終了まで意識があるのか自信がなかった。しかし、第18節第5日の「名古屋グランパスとコンサドーレ札幌」戦はなかなか見応えがあったから眠気どころではない。「コンサドーレって、ドサンコの逆さ読みでしょ? ウケる〜」なんて笑っていたのは序盤だけで、いつしか真剣にのめり込み、ゲーム観戦に没頭していった。
 勝負は、コンサドーレ札幌が名古屋グランパスを2対1で退けた。一点を争う攻防は、最後まで眠らせてくれない。90分がアッという間に過ぎていった。終了のホイッスルをしかと耳にすることができたのは、ゲーム展開が白熱していたからだろう。

 それにしても、”小が大を食う”とはこのことだ。名古屋グランパスのマスコットキャラクターは「鯱」。しゃちほこは名古屋城の金の鯱が由来で、頭が虎で体が魚の想像上の動物だ。伝説や神話で生きる動物こそ圧倒的に強いというのが相場である。一方のコンサドーレ札幌は、今風にいうのならばモフモフの羽が愛らしい「シマフクロウ」がイメージキャラクターだ。穏やかな「フクロウ」が獰猛な「シャチ」を喰ったのだから勝負とは面白い。

 しかも、ユニフォームに描かれているスポンサーを見れば、クラブチームの経済的事情が想像できる。名古屋グランパスはトヨタ自動車サッカー部が母体だ。トヨタが全面的に裏に控えている。

 胸の一等地には「TOYOTA」のロゴが輝かしい。右胸には「東海東京証券」、後ろ姿も圧巻で「AISIN」と「豊田通商」が全面支援する。我らが「TOYOTA GAZOO Racing」も後方支援している。いわば、30兆円を売り上げるトヨタを中心に、圧倒的な経済力を誇るトヨタグループが熱く応援しているというわけだ。

 一方のコンサドーレ札幌は、どちらかといえば慎ましい。胸の一等地を飾るのは「白い恋人」だ。左胸の「トーホウリゾート」は登別や函館を中心に展開する旅館。左胸の「F-Power」は、札幌の電力会社「エゾデン」のブランド名。グランパスでは「AISIN」が飾っていたバックには、北海道の冠婚葬祭を請け負う「あいプラン」と、札幌に支社を構えるファッションサイト制作の「ダイヤモンドヘッド」のロゴがプリントされている。これがコンサドーレ札幌を支えているオフィシャルトップパートナーである。
 けしてディスる気持ちではないことは理解してほしいが、圧倒的な経済力がある企業の支援を受けたクラブと、それと比較すれば小規模の企業が支えるクラブとが激しいつばぜり合いをし、そして資金力とは真逆の結果をというのだからスポーツというのはわからないものだ。

  • 名古屋グランパスとコンサドーレ札幌戦は、クラブの規模を超えて白熱した。
  • 名古屋グランパス、玉田圭司選手。元日本代表。TOYOTA GAZOO Racingのロゴ。つまり僕とはチームメイトなのである。
  • コンサドーレ札幌のエースストライカー「ジェイ」は、元イングランド
    代表だ。いまでは白い恋人を抱き戦う。
  • トヨタグルーブが全面的にサポートする。広告収益は桁外れだ。
  • 全身がトヨタ愛に包まれている。全身が北海道の愛で支えられているコンサドーレ札幌とは、趣が異なる。
  • 資金的な不安から解放されてプレーする爽快感はこの上ないものだろう。
  • ひとたびプレーが始まれば、そこからは個の戦いにもなる。
  • 資金力だけで成績が決まるわけではないのがスポーツの面白みである。とはいえ、資金力が勝敗に影響するのも事実。

広告収入の差は歴然としていた

 じつは、前半終了後のハーフタイムに、2017年のJ1リーグクラブ決算情報を検索した。すると想像通りの回答が得られた。営業利益でダントツなのは浦和レッズで約5億6600万円。名古屋グランパスもなかなかの人気球団だから、営業利益は約5億円だと公表されている。コンサドーレ札幌の営業利益は残念ながら-900万円。赤字なのである。
 広告収入を調べてみると、さらにわかりやすい。浦和レッズの営業収益79億7100万円のうち40.1%が広告収で約31億9630万円。名古屋グランパスの広告収入は営業収入約45億9000万円のうちの62.2%だから約28億5490万円である。コンサドーレ札幌の広告収入を調べてみると、営業収益約26億7600万円のうちの40%だから約10億7040万円であることがわかった。大きな差だ。
 そんな数字を知ったうえで、ユニフォームを見てあらためて感じるのは、サッカーとモータースポーツは収益構造がどこかで似ているということだ。クラブチームは、活動資金を得るために懸命にスポンサー活動をしている。モータースポーツも同様で、日々協賛企業へのアプローチに明け暮れている。営業担当者がせっせと企画書を作り、足を棒にして企業を回り、その多くは断られ、それでも時には心温まる支援に出会う。その瞬間の気持ちは僕にも痛いほど理解できる。ユニフォームに描かれているスポンサーロゴの数から、そんな涙ぐましい努力をする姿を想像してしまう。
 一方の、日本の二大球技といっていいプロ野球は、球団丸抱えの企業一社が母体であり、それ以外のスポンサーは少ない。読売ジャイアンツは「読売グループ」であり、中日ドラゴンズは「中日新聞」が支える。うらやましいことに、小さなスポンサーをかき集める必要はないのである。僕がサッカークラブチームになぜか肩入れしたくなるのは、どこかでモータースポーツとの近似性を感じているからなのだろう。

地域性がリーグの基本精神である

 ただ、モータースポーツと違うのは、Jリーグは地域性を強く意識しているのに対して、モータースポーツはローカライズ性がないことである。コンサドーレ札幌は北海道代表の誇りを胸に、選手権を戦っている。それを応援する企業が支える。
 コンサドーレ札幌を支えるトップパートナーには、すでに紹介した企業の他に、ビールの「サッポロクラシック」、北海道新聞、JAグループ北海道が加わる。「札幌ドーム」に「札幌ハートセンター」、「北洋銀行」、「札幌市交通局」までが名を連ねるのだ。コンサドーレ札幌のホームスタジアムは、「宮の沢白い恋人サッカー場」である。ネーミングライツをしてまで協賛している。どこか心温まる。

 僕はこれまで何度か、モータースポーツにおいてもローカライズ性を提案している。プログラムやレーシングスーツに、ドライバーの出身地を記してはいかがだろうかと。チームの本拠地をアピールするのはあまり現実的ではない。そのほとんどが静岡県・御殿場か三重県・鈴鹿に集中するからだ。だが、ドライバーの出身地は地方に分散しているはずだ。だから可能性はある。

「へ~〜、この選手は僕の地元出身なんだね」
それを知るだけでも親近感が湧くだろう。それがきっかけで良好な関係が構築できればお互いにハッピーである。
 地元代表として全国区で活躍したあかつきには、日本を飛び出して世界で戦う道が開けるのは誇らしいことだ。そしてやがて世界の舞台で日の丸をあげる。僕らのレーシングスーツには国旗が貼ってある。レーシングマシンに記されたネーミングにも国旗が描かれている。僕らはどこまでも日本人であり、地元が支えてくれているのだ。数々の協賛企業を胸に戦うコンサドーレ札幌の奮闘を観戦しながら、自らの活動と重ね合わせてみた。
 Jリーグは、各球団の権利関係を一括で握りコントロールしているという。一方のモータースポーツは、基本的にはチームごとの営業努力で成り立っている。だがユニフォームに記される夥しい数のスポンサーロゴはどこか似ている。営業担当者の擦り切れた革靴が目に浮かぶようだ。
 
 いつしかウイスキーの小瓶が空になっていた。

 写真提供:名古屋グランパスエイト
 http://nagoya-grampus.jp/

  • パーソナルスポンサーの数では、井口卓人はレース業界でトップクラス。しかも地元柳川市をまとって走る。とりもなおさず彼の人柄にサポート企業が集まるのだ。

キノシタの近況

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新型レクサスESの国内試乗会は、山口県のあたらしい観光名所「角島大橋」を経由する行程だった。角島は日本海に浮かぶ小さな島なのだが、大橋がインスタ映えするってことで観光客が押し寄せる。道の駅は大盛況で、地元の方々も戸惑うやら嬉しいやらだという。ESを添えてみるとさらに映える。