233LAP2018.12.12
日本語禁止の、日本のポルシェカレラカップ
2001年、ハイソサエティのモータースポーツとして日本に上陸した「ポルシェカレラカップジャパン」は、一切のスポンサーロゴに日本語が禁止されていた。その理由は? だが今ではそれも解禁したという。その理由は? かつて「ポルシェカレラカップジャパン」にゲスト出演した経験のある木下隆之が、笑いながらかつてを懐かしむ。
日本語は野暮でダサい
「ポルシェカレラカップジャパン」が「日本語解禁に」なっていたことに気がついたのは最近のことである。
2001年から開催され続けてきたこのシリーズは、世界で最も高度なワンメイクレースと言われてきた。マシンはイコールに保たれた911GT3カップで開催され、毎レース毎に白熱したバトルが展開している。
セレブ感が漂う運営スタイルも特徴の一つ。レース毎に上質なホスピタリティが提供され、ドライバーだけでなく家族や応援団を手厚く迎える。シーズン後に開催される年間表彰式が、まるでモナコで開催されるFIA世界選手権表彰式・・といったら大袈裟かもしれないが、レーシングスーツを脱ぎ捨てたオフ姿のレーシングドライバーが、ドレスアップした淑女とパーティを彩る雰囲気は、日本では唯一無二の存在であり、ポルシェがモータースポーツを通じてプレミアムブランド力を確立させていることが伝わってくる。
そう、そんな「ポルシェカレラカップジャパン」は当初、日本語表記をボディに貼ることを禁じていたのだ。ボディには欧文以外を描くことが禁止されていたのである。
その理由?
欧州テイストを漂わせるためだ。平たく言えば、その方がカッコ良かったからなのである。
実は2007年からは日本語表記のマシンが走っているから(2006年に特例もあった)、もう随分と昔に解禁になっているのに、それとは気づかせずに「ポルシェカレラカップジャパン」が洗練の道を進んできたのだから、当初の日本語禁止の戦略は効果的だったのだろう。
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ポルシェカレラカップは、F1グランプリのサポートイベントとしても開催される。ここから世界を夢見るドライバーも少なくない。
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一方でジェントルマンドライバーの頂点でもある。プロを目指すドライバーと、レースを楽しむドライバーが頃合いよく混在する。
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スポンサーとの板挟みで…
実は僕も過去に何度か、「ポルシェカレラカップジャパン」に賞典外のゲストドライバーとして参戦したことがある。予選アタックには同様に挑むのだが、タイムにかかわらずスターティンググリッドは最後尾からだ。ゲストとは言え、僕にはスポンサーがあるから、契約上それを貼付する必要があった。だが、そのスポンサーロゴがたまたま漢字表記だったことで混乱があった。結果的には双方平和のまま解決したものの、「へぇ〜」そんな規則があるんだねと感心するやら困惑するやら。
それによってたしかに雰囲気はヨーロッパナイズドしたかもしれないけれど、僕の例のようにスポンサーとの板挟みという弊害を生んだのも事実。
漢字と欧文両表記のロゴなら解決は早いが、漢字が売りのスポンサーだと交渉が難しい。実際に、スポンサーを納得させるのに苦労したという話も耳にした。
だがそれも過去のこと。いまでは「ポルシェカレラカップジャパン」でも日本語表記解禁なのだという。
いまでは漢字こそCool!(◎_◎;)
それも道理で、もはや日本語はドメスティックなものではなく世界でたいそう人気がある。巷を歩いていても、多くの外国人が漢字がプリントされたTシャツを着て歩く姿を目にする。日本語がワールドワイドになった今、日本語を制限することの方がドメスティックに成り下がる。
「諸行無常」
「神様」
「大和」
このあたりはいわば「COOL!(◎_◎;)」なのである。
「浅草」
「最高」
「頑張る」
外国人がこのむ漢字を挙げればきりがない。
そればかりか、意味不明な漢字の羅列もウケている。
「極度乾燥しなさい」
「手は最製造所」
「野の球前」
もはや何のこっちゃわからない。
「最た高準も度」
「劇な上達所」
ここまで行くと果たして何を伝えたいのかメッセージが理解不能だ。
もはや何でもいいのである。漢字を意味としてではなく、アートデザインとして捉えているわけだ。そんな時代なのだから、「ポルシェカレラカップジャパン」が日本字解禁なのは時代の要請なのである。
外国人には漢字はウケがいいのは今に始まった事ではない。海外メカニックが嬉々として日本語表記のハチマキをしている姿を見たことがあるだろう。
何を隠そうこの僕も、欧州のチームでレースするときには必ず、成田空港で調達した日の丸に「根性」と和文字でプリントした初巻きを買って空輸したものだ。現地で配るとウケるのである。
「So COOL!」
屈強なメカニックから歓声が上がるのだ。
勘違いにご注意を(爆笑)
漢字がCOOLなのだから、Tシャツだけでなくタトゥーでも珍しくはない。
「台所」
「鍋」
それを二の腕に彫り込むのだから、日本語はそうとうにCOOLなのである。
「背中」という文字をに二の腕に見たときには、思わず目をそらしかけた。漢字はもはや意味ではなく絵なのだ。
先日、残念な女性の話を耳にした。
そのアメリカ人女性は、たいそう肥満気味の大女だった。丸太のような二の腕には「象」とタトゥーが彫り込まれていた。
怪訝に思ったある日本人がその漢字の意味を尋ねた。
「それはどう意味ですか?」
「ああ、これ? これはね。日本語で『エレガント』という意味なのよ…」
チーン。
話が脱線してしまったが、かつて「ポルシェカレラカップジャパン」は日本語表記が禁じられていた。だからこそ、もっとも権威あるプレミアムワンメイクレースとして日本に根付いた。それがいま、日本語がとってもCOOLになったいま、すばやく解禁された。その柔軟な仕掛けこそが、プレミアムというものなのだろうと思う。
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フロントフェンダーには漢字やカタカナやひらがなが記載されている。日本語規制が撤廃されたことで多くのスポンサーが参入しやすくなった。
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王設計の文字がボンネットに記されている。2006年以前は認められなかった。
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ヘルメットにも日本語のロゴが。いまでは日本語こそクールなのかもしれない。
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キノシタの近況
今年のTGRFに呼んでいただいた喜びを噛み締めて、富士スピードウエイで暴れました。ファンのみんなとの交流の場は楽しいですね。ただね、最近ステージをご無沙汰していたから、トークにキレがなかった。頻繁にボケてないとあかんね。レギュラー出演しないと腕が錆びますわ(笑)。