レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム

301LAP2021.10.13

氷上水素燃料カートの可能性

朝日新聞に、スケートリンクで「EVカートレース」が開催されたとの記事が踊っていた。一般社団法人日本EVクラブが主催したイベントである。今年で2回目だという。実は木下隆之も、かつて「氷上カートレース」を企画運営したことがある。それはガソリンエンジンを搭載するカートであり、北海道の屋外だった。EVではなかったが、むしろEVにこそ可能性があると木下は考えている。その思いを語る。

氷上カートレース開催

かつてレクサスのブランドアドバイザーとしてイベントの企画、ディレクションをしていた時、「ふと思い浮かんだのが氷上カートレース」である。
参加者に、クルマを滑らせる喜びを経験してもらいたく、そしてそれがマシンコントロールスキルの向上に直結し、ひいては安全運転能力を高めることになると確信していた。そんなこともあり、安全が保証されている環境でスライド感覚を身につけるには、氷上カートレースは都合が良かった。
限界が低いから、安全な速度域でスライドが堪能できる。参加者が素人でも、速度に対する恐怖心はない。実際にレクサスイベントに参加したほとんどの方がモータースポーツ初心者であったにもかかわらず、初めてのカート体験に心を躍らせていた。
たとえスピンしたとしても被害はない。そもそもドライビングスキル上達の近道は、限界を超えること。つまり極度のアンダーステアに陥ることだったり、クルリとスピンすることなのだ。速度に対する恐怖心がなく、超限界に挑めることのメリットは大きい。
体に損傷を負うほどの事故にならなくて済む。コスト的にも優しい。スピンしてもパウダースノーでこしらえた土手に突っ込めば、笑ってすませられる。つまり、笑顔に満ち溢れるのである。

一方で、EVレースの可能性を本コラムで語ったことがある。バッテリーを搭載し、電気モーターで駆動するEVモデルは、走行中に一切の排気ガスを撒き散らさない。しかも、爆音もない…と環境に対する利点が満載である。という理由で、デパートの屋上でも、市街地の公園でも、もちろん今回のEV氷上カートレースのように、日ごろはスケーターで賑わっているスケートリンクでも開催可能なのだ。
昼間は仕事に励み、定時で退社してからカートレースを楽しむ。数時間で汗ダクだろうから、サウナでカート談議に花を咲かせてもいい。そのまま居酒屋に足を伸ばして盛り上がるのも一興だ。ゴルフ好きが仕事帰りに練習場でクラブを振るような手軽な感覚でモータースポーツに触れられることは、競技人口を増やすことにもつながる。
幸か不幸か、サーキットは郊外にある。広大な敷地が必要であり、爆音が気にならない山奥に建設されることが多い。だがそれでは日常のモータースポーツにはならない。時間的にも金銭的にも、市街地から近いことは都合がいいのである。という理由で、アマチュアの娯楽として、EV競技を広めてはどうかと提案していたのだ。

スポーツ施設との相性がいい

幸いにして、街に寄り添うスケートリンクは閑散としているという。スケート人口も決して多くはない。スケートリンクの閑散期をカートレースに活用することは、スケートリンク経営側にとっても渡りに船であろう。
日本EVクラブ代表理事の舘内端さんによると、グリップを高めるためにカートのタイヤにスパイクを打っても、スケーターがスケートのエッジを効かせてスピンしたりターンしたりするより、氷盤の損傷は軽微だという。
それは意外だった。それほど損傷がないのだったら、スケートリンク側も大歓迎に違いない。そう、氷上とEVという魅力的な要素を組み合わせたのがこの「氷上EVレース」なのである。

だとしたら、たとえば陸上競技場のトラックでのオーバルカートレース開催はいかがだろうか。路面損傷との兼ね合いになるのだろうが、スリックタイヤであれば攻撃性は低いような気がする。スケート靴よりもスパイクタイヤの方が優しいというのだから、実際に走らせてみれば、陸上のスパイクシューズよりも、ツルツルのスリックタイヤの方が都合がよさそうだ。

近隣のテニスコートではいかがだろうか。かつてのテニスブームが過ぎ去ったいま、観光地の片隅に閑散と朽ち果てたテニスコートを目にすることがある。そこを有効利用する手もある。

今こそ水素燃料カートの普及を…

水素燃料自動車でのモータースポーツにも可能性がある。EVカートが走行中に一切のCO2を排出しないのとほぼ同様に、水素を燃料として熱エネルギーを発生させる水素燃料カートも環境負荷が低い。
爆音など、マフラー次第で如何様にも消音できる。つまり、EVカートレースがスケートリンクで可能ならば、水素燃料カートもスケートリンクでバトル可能なのである。
そもそも内燃機関の躍動感あるエンジン特性は、ある意味ではEVよりも楽しい。EVカートレースの新聞記事を読み進めながら、水素燃料カートの可能性を感じてワクワクしてしまったのである。

トヨタ自動車の豊田章男社長が日頃から口にしているように、乗り物の動力源には一長一短があり、全方位的に理想を考える必要がある。とすると、俄然水素燃料モータースボーツが浮上してくるのである。

キノシタの近況

ランボルギーニ・ウラカンSTOの試乗をしてきました。レース用ウラカンGT3に最低限の保安部品を装着し、公道走行を可能にするためにナンバーを取得してしまっただけと思われるマシンなので、その性能たるや突き抜けている。富士のストレートで300km/h、やっつけておきました。笑

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