362LAP2024.04.24
「日本初開催の公道レース」
日本のモータースポーツ人にとって悲願だった公道レースは、首都東京の中でも中心的な台場で開催されましたね。駅から徒歩圏内でレース観戦なんて、夢のようです。実際に足を運んだ木下隆之の感想を聞いてみましょう。
レース観戦の帰り道に渋滞に見舞われることには、もう慣れっこになっています。
というのも道理で、サーキットはほぼ例外なく、人気の少ない山の中にありますね。したがってアクセス路は限られています。クルマで訪れた大観衆が、勝者を見届けた後、一斉にサーキットから脱出するのですから、渋滞しないわけはない。
こうしたビッグイベントは、休日に開催されるのが常です。サーキットのあるエリアはたいがい自然豊かな場所だから観光地に近接してもいます。観光客が作るクルマの列と、サーキット帰りのクルマの列が合流するのですから、渋滞はなかなか刺激的な密度に達するのです。
関東のモータースポーツの聖地富士スピードウェイを例にとれば、西と東のゲートから脱出したのに東名高速に乗れば箱根や富士山での余暇を楽しんだ人達のクルマの列に合流しなければなりません。
大渋滞から逃れようと国道246号に迂回しても、そこには同様の魂胆で東名高速から逃れてきた同胞の列が続きます。
中央高速に逃れようとしても、風光明媚な山中湖を掠めなければならず、そもそも富士五湖が近い。中央高速河口湖料金所は富士急ハイランドの真横だから、どう逃れようとしても、渋滞は避けられないのです。
これはもはや、モータースポーツの宿命だと思っていました。
だが、東京・台場で開催された「フォーミュラE」にはそんな渋滞のストレスがなく、それは嬉しい誤算でしたね。
電気自動車のF1と呼ばれる世界選手権でありながら、まだ知名度は低いようです。事前のプロモーションが希薄だったこともあり、日本で初めての公道レースであるにもかかわらず、観客はそれほど訪れなかったと聞きます。
もちろん実際に足を運んだのですが、メインゲートに愛車を横づけできたことには腰を抜かしかけました。鈴鹿F1では、遠い駐車場から30分は歩かなければゲートインできません。品川あたりの駐車場に駐めてから電車で国際展示場駅に向かわなければならないのだろうと覚悟していたので、たいそう拍子抜けしたのです。
とはいうものの、認知度がまだそれほど高くないないという事情があるにせよ、世界選手権がこんな身近に観戦できるのはありがたいことです。
そもそも、コースが観光地に隣接しているわけではなく、都会のど真ん中での開催ですから、アクセス路は豊富です。関係部署の緻密な交通規制が機能したとも思えますが、こうして気軽にレース観戦ができるのは大いなる喜びですね。
都会の真ん中での公道レースを可能にしたのは、フォーミュラEが電気モーターで駆動するからに他なりません。つまり、エンジンを音源とした爆音がない。東京・台場は観光地化してはいるものの、無数の高層マンションが建てられています。特設コースは東京湾に面しており、住宅密集地ではないことも功を奏したのですが、サイレントレースであることで近隣住民からの苦情もなかったに違いないのです。
僕が特設コースに到着した頃、すでにフォーミュラEの予選が始まっていました。ですが、台場に到着しても、特設コースのその場所を探すのに道をさまよったのです。ゲートインのための長い列がなかったことも迷った理由ですが、マシンの走行音がしない。事前に特設コースの場所を下調べしていたものの、拍子抜けするほど静かだったのは意外でしたね。
なぜ東京都で開催できたのか…
走行中にCO2を排出しない電気フォーミュラは、SDGs時代との親和性があります。これまで、多くのモータースポーツファンがモナコやマカオのような公道レースを期待してきました。だが実現に至らなかったのは、「モータースポーツ=環境破壊」という誤解が強かったからです。ガソリンを無駄に消費し、騒音を撒き散らす。そんな誤解を持つ人たちが少なくないのですね。
レーシングカーは驚くほど燃費がいいですし、環境破壊の元凶ではありません。F1やWECでさえ、電気モーターと内燃機関を合体させたハイブリッドマシンです。TOYOTA GAZOO Racingが水素を燃料としたレーシングカーを走らせているように、環境への配慮は並々ならぬものがあります。
そもそもモータースポーツは走る実験室でもあり、ここでの技術が巷の環境車へフィードバックされています。遠隔的にいうならば、レースが環境技術を高めているのです。だというのに、誤解がなかなか解けないのは寂しい限りです。
それでも公道レースが東京で開催可能になったのは、時代が良かったことも理由の一つでしょう。環境維持の意識が進んでおり、とくに東京都は環境に対して前向きです。
東京台場の特設コースには、岸田文雄総理大臣や小池百合子東京都知事も顔を見せていました。
将来性はある
かつてEVが普及しはじめた頃、EVレースの将来性をこのコラムで語ったことがあります。EVの特性上、それこそデパートの屋上や公園の片隅でEVカートを楽しむ時代が来るであろうと予測しています。仕事の帰りにEVカートを楽しんでから居酒屋で一杯…というように、モータースポーツを身近にする起爆剤になるのではないかと期待していたのです。
今回、フォーミュラEがその可能性を証明してくれました。日本初開催の公道レースがきっかけとなり、モータースポーツが生活の一部に組み込まれる可能性が垣間見られたのも事実なのです。
キノシタの近況
NLSニュルブルクリンクへ全戦シリーズ参戦を始めました。開幕4連戦が終了し、7位、5位、2位、2位と上り調子です。応援よろしくお願いします。