レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム

373LAP2024.10.09

「ギネス記録のレース」

マツダが35年にわたり継続しているレースがあります。その長年の功績を讃えてギネス申請され、このたび認定されました。そのレースには、創設以来ほぼ全戦参戦している木下隆之が思いを語ります。

メーカーの情熱

マツダが主催する「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」は今年、記念すべき大会になりました。
今年で開催35回目を迎えました。年に一度の祭典ですから、35年間も連続してこの大会を続けてきたことになります。そして今年、この大会が「ギネス記録」に認定されたのです。その歴史的な快挙に携われたことを心から感謝したいですね。並大抵の情熱では続けることはできません。

企業にとって35年という歳月は、けして短くありません。企画担当者も部門を離れているはずです。人事異動により人が入れ替わります。一人の情熱だけでは続けることはできません。企業としての情熱なのです。
それがどれほど長い期間であったのか、歴代の社長に思いを馳せてみても想像に難くありません。ロードスターがデビューしたのは1989年です。日本がバブル経済に浮き足立っていた頃であり、その最中に「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」が発足しました。
当時の社長は7代目の古田徳昌氏です。その後、8代目は和田淑弘氏になり、9代目がH・ウォレス氏、それから12代目まで外国人社長が歴任しました。13代目に井巻久一氏になり、現在の毛籠勝弘氏は17代目です。「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」が始まってから、じつに10名も社長が代わっています。
トップの交代により経営戦略が変わることは珍しくはありません。それでもこのレースを継続させているのは、もはや社是で定められているかのようなプロジェクトともいえるわけです。
ちなみに、バブル期には好調だったマツダの経営も、1996年には低迷し、フォードが株式の33.4%を取得、日本の自動車メーカーとして初めて外国人社長が誕生し、それが4代も続きました。そんな紆余曲折を乗り越えながら「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」は途切れることなく続いてきたのです。とても素晴らしいことですね。
今年の「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」では、現社長である毛籠勝弘氏もステアリング握っていました。驚くばかりです。

業界関係者の祭典

そもそも「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」は、その名から想像できるように、自動車媒体がチームを構成し競う耐久レースです。今年は20媒体が参加しました。かつてはトヨタイムズもメディア枠として参戦しています。メーカーの垣根を越えたイベントなのです。
ドライバーは基本的に編集部に属する編集者が中心であり、そのメディアで執筆するライターやドライバーが参画します。総勢5名までエントリーが認められており、プロのレーシングドライバーを招聘するチームもあります。
ただし、プロドライバーを組み入れた場合には、ピットストップ等のハンディキャップが科せられます。勝負権を失いかねない。ですから、基本的には編集者とライターで構成されるのです。

ステージは筑波サーキットです。ガソリンの使用量が定められており、エコラン形式のレースになります。ガソリンを満タンにしてスタート、レース中のどこかで20リッターの給油が認められます。予選アタックでは1分11秒5がポールタイムでしたが、レース中のラップタイムは平均して1分16秒ほどでした。
もちろんレースですからチームそれぞれに戦略があります。ハイペースを刻みつつ、最終スティントで帳尻を合わせようとするチームがあるかと思えば、スロースタートで燃料消費を抑え、後半の追い上げを企てるチームなどさまざまです。
例年のことですが、レース終了前の1分から3分ほどでバタバタとガス欠ストップするマシンが現れます。最後の数周は各チームともハラハラなのです。チェッカーフラッグが振り下ろされる頃には陽が落ちています。薄暮のゴールは感動的でもあります。

ルールが絶妙な点も、このレースが飽きられない理由だと思います。
アドバイザーにはレースに精通している鈴木俊治氏が加わっています。ドライバーチェンジのためのピットストップでは1分の停止が義務付けられ、給油のピットストップは3分です。前年の上位入賞チームには、それぞれの実力に見合ったハンディキャップが与えられます。3分間のピットストップなどが科せられたチームが、スタート直後にそれを消化する、あるいは後半までに残しておくなど、さまざまなのです。

戦略性が魅力です

ドライビングスキルもさまざまです。僕のような現役レーシングドライバーがいるかと思えば、レース未経験の編集者も少なくありません。今年はマツダの毛籠勝弘社長も自らステアリングを握りました。
僕は長年このレースに参戦していますが、鈴木俊治氏の組み立てたルールは、絶妙に複雑であり、しかもスキルの高低に関わらず誰もが楽しめるように工夫されていることに驚かされます。
ロードスターのガソリンタンク容量は40リッターです。レース中に給油可能な量は20リッター、つまり、4時間を60リッターで走り切らなければなりません。
仮にラップタイムが1分16秒だとすると、4時間でおよそ180ラップを周回することになります。筑波サーキットは1周2kmですから、360kmが優勝ターゲット。平均燃費6km/lが目安になりますね。ですが、トップが179ラップだったら…?
戦略性が高い点も、このレースの魅力かもしれません。メディアの編集者は偏差値が高い傾向にありますね。計算が複雑であればあるほど燃えるというわけです。

たいがいレースは、速いドライバーがヒーローになり、それほどではないドライバーは裏方になる傾向があります。ですがこのレースでは、すべてのドライバーが戦力でありヒーローになり得るのです。
ギネスに名を刻むほど長く支持されてきたのは、ロードスターが誰でもドライブすることが可能で軽快なハンドリングを秘めていることも影響しています。さらにそのドライビングが楽しめることも重要な要素です。ドライビングが怖いとしたら、エントラントは減ってしまいますからね。

二度目の快挙です

今年は、カーボンニュートラル燃料を使用しています。サーキットの給油所には、わざわざカーボンニュートラル燃料用の給油タワーが新設されていました。環境負荷低減など、時代に合わせた施策の数々が長寿の秘訣かもしれません。

ちなみに、マツダロードスターにとってギネス記録樹立は2度目になります。ロードスターは2000年に「2名定員の小型オープンスポーツカー生産累計世界一」としてギネス記録が認定されているのです。ロードスターは二つ目の快挙を達成したというわけです。
おめでとうございます。

キノシタの近況

NLSニュルブルクリンク第7戦が終わり、次戦まではしばしのサマーブレイクです。今回もマシントラブルに泣かされましたが、このオフの時間を利用して、対策してほしいものですね。我々のGRスープラGT4は耐久性だけが取り柄ですので、それさえ確立すれば勝負権はあると思っています。

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