• モタスポコラム その31-ライバルは?尊敬するドライバーは? ~坪井翔選手インタビュー~
    (写真 トヨタ自動車)

ライバルは?尊敬するドライバーは? ~坪井翔選手インタビュー~

モタスポコラム その31 2022.1.28

みなさまこんにちは!昨シーズン、優勝だけを目指して臨んだ最終戦で関口雄飛選手と共にSUPER GTチャンピオンを獲得した若きエース坪井翔選手。レースシーンを思い起こすと、2年連続でドラマチックな結末となりました。切なさも喜びも味わったGR陣営ですが、これがレースの醍醐味なのかもしれません。

今回は、チャンピオンとなった36号車au TOM’S GR Supra坪井選手(今季はゼッケン1かな?正式エントリーはまだですが)をクローズアップ。インタビューをして参りました(コロナ禍ですので、残念ながらリモート取材です)。

3歳でカートに乗り、その時に足りなかった身長が届いた5歳から本格的にお父様とカートを始めました。頑張ってメーカー育成のスタートラインに立った18歳で一旦メーカーのドライバー育成の道が一度途絶えました。切られても這い上がって来た道程には、沢山の方の支援やあのいまはライバルとなったドライバーさんの手助けもありました。アルバイトをしても追いつかない莫大な参戦費用を工面し、レースを続けて来て、昨年SUPER GTチャンピオンに。現在26歳、レース人生は始まったばかりですが、質問攻めにして参りました。それでは、どうぞ!

※TOYOTA GAZOO Racing公式YouTube
【INSIDE GR】坪井翔、エースの重圧と葛藤 こちらもぜひご覧くださいね!
https://www.youtube.com/watch?v=v43227ZkmUk

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    (写真 トヨタ自動車 チェッカ―直後は実感がまだ沸いていなかったかも?)

—————まずはチャンピオンおめでとうございます!最終戦のレースの時のことを思い出していただきましょう。
坪井:ありがとうございます。決勝では、自分は後半のスティントを担当。関口選手がトップで戻って来たのですが、勝てるチャンスが広がったので自分もトップで戻らないと、という気持ちでいました。寒い時期なのでアウトラップをどれだけ頑張れるかが重要と考えていて、不安と緊張でいっぱいでしたね。ドライバー交代した時に、クルマの前で関口選手が熱いジェスチャーを送ってくれて、それを見た瞬間不安が一気に消え、“これは行くしかない!”という気持ちに切り替わりました。アウトラップは良かったのですが、14号車の山下健太選手が良いペースで来ていて、自分はGT300クラスとの巡り合わせが最初よくなく、富士はスリップが効くので(自分のクルマの後ろにつかれると抜かれてしまう)、後ろから来る山下選手に詰められ冷や冷やしていました。15周くらい走って(交代してから)状況が落ち着いたところで、少し14号車が離れたこともあって、そこからは比較的自分のペースで走れ、このまま行けば大丈夫なのかなと手ごたえも感じながら走っていました。

—————レース中はピットからどんな無線が飛んでいましたか?
坪井:1号車がアクシデントに見舞われピットに入った際には、特にチャンピオンになるという意識はなかったですが、“チャンピオンに近づいた”という無線はありました。それでもまず優勝をしないことには、そのタイトルを獲得することにならないので、勝つ事に集中しみんな冷静でした。

テレビでご覧になった方はおわかりになるかもしれませんが、チェッカー後。大逆転のタイトル獲得でピットは大喜びで胴上げ祭り開催中。そんな中ウィニングランを終えパルクフェルメに入って来た坪井選手。感動のみんなで抱き合うシーンをおさえる為にメディアの方々も待ち構えております。が、肝心の坪井選手のところへ、ピットクルーがなかなか行きません…。テレビでも“ぼっちチャンピオン”の坪井選手がしばらく映し出されていました。トップ画像がそれになります。

—————あの、チェッカー後の事ですが…
坪井:はい、あれは結構「根」に持っています(笑)。せっかく涙を流したのに…。自分の中では、チェッカーで涙して、ウィニングランをしてパルクフェルメに戻るまでに少しおさまり、みんなが自分のところへ駆け寄って来る頃にまた涙がわーっと出る流れだと思っていたのですが(意外に冷静…)、みんながなかなか来なくて、涙が引き切ってしまいました(苦笑)。隣では、GT300クラスのチャンピオンのスバルのみなさんがめちゃくちゃ大喜びをしていて…。ようやく吉武さん(トラックエンジニア)が来てくれて顔を見た瞬間、涙が出ましたね。

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    (36号車担当 吉武聡エンジニア)
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所属するチーム「トムス」は、SUPER GTでは東條力チーフエンジニア(今季はルーキーレーシングへ移籍)、36号車は、吉武聡さんがトラックエンジニアを担当しています。輝かしい戦績を上げるトップチームとして君臨していますが、他にもスーパーフォーミュラ、スーパーフォーミュラ・ライツ(旧、全日本F3選手権)、スーパーフォーミュラ・リージョナルと手がけるカテゴリーがたくさんあって層が厚いという特徴があります。

坪井選手は、2018年、全日本F3選手権のシリーズチャンピオンを獲得しました。

—————担当の吉武エンジニアとはF3時代と2回目のタイトルですね
坪井:吉武さんとは何か相性が良いと思っています。特別に何かしている訳ではないのですが、F3でも一緒にチャンピオンを獲りました。今回は、自分がトムスGT1年目でチャンピオンも獲れたし、何か不思議な縁を感じます。それに、とても話しやすいんですよね。エンジニアのみなさん、プライドももちろんありますし、自分に自信を持ってやっていて自分にもとても厳しい方ばかり。年齢の離れている方もたくさんいらっしゃいます。吉武さんは、割と自分のレベルまで下げてフラットに話してくれるから、身近に感じます。しかし、坪井~と普段話すのに、レースウィークになれば、坪井さんという感じになって、オンオフをしっかり分けてくれるんです。もしかするとその切り替えが自分のやりやすい環境に自然となっている、言いたいことを言える環境なのかもしれませんね。

2021年開幕戦は、14号車山下健太選手との熱いバトルの末、惜しくも2位。その時のこと振り返ります。先般のテレビ番組「スーパーGTプラス」で、開幕戦で激しいトップ争いをしていたシーンを取り上げていました。14号車に抜かれてしまったのですが、頑張った坪井選手に伊藤監督がしょうがないと無線で励ましたら、坪井選手「しょうがなくない!」とお返事されたところがオンエア。熱かったのですが…。

—————テレビで拝見しましたが、無線で伊藤大輔監督に反論するような返事をされていましたが
坪井:レース中は、基本的に伊藤監督がドライバーへのインフォメーションを無線でしてくれるのですが、あの時は頭に血がのぼっていて…、逆ギレしていましたね。あの状況なら誰に対してでもキレていたと思います(笑)。普段はフツーですが、走っている時は結構人格変わっているっぽいです(笑)。

大人し目に見えて、突如変わる人って結構いますが、どうも坪井選手もそう?らしい?あんな激しいバトル…アドレナリンのせいですね。レースあるあるです! さて少しまた遡ります。前述のF3時代。2018年の参戦3年目でタイトルを獲得したシーズンですが、なんと21戦中19戦優勝という戦績でチャンピオンに輝きました。ちょっとプロチームで戦う若手の心境を伺いましょう。とっても優等生に見えたんですよね…。

—————プロの道を歩み始めたF3時代、プロチームはどんな風に映りましたか?
坪井:F4からステップアップしてチームに加入した当初は、チームが怖かったです(笑)。自分が若かったこともありますが、緊張感がすごくて何も言えなかったですね。クルマのセットアップなどもトップチームですからある意味完成していて、自分がこのクルマをどうやって速く走らせるかを考えれば良く、シンプルなスタイルで参戦していました。緊張からあまりしゃべらなかったから、だから優等生に見えたのかもしれませんね(笑)。

なるほど~。緊張したかもしれないけれど、命を預ける訳ですから完璧じゃなくちゃね~。さて、私から当時の思い出を少々。2018年のマカオグランプリから。チームは、F3の世界戦マカオグランプリに毎年参戦しています。この年はこんな感じ。

この写真の中の日本人ドライバー、わかります?SUPER GTに参戦するドライバーが8人もいます。他のカテゴリーにステップアップしたドライバーを入れると9人。今をときめくトップドライバーばかりです。関口雄飛選手も、チームメイトで一緒に参戦した宮田莉朋選手、今季も同じチームで戦うサッシャ・フェネストラズ選手もいますね。ミハエル・シューマッハさんのご子息で現F1ドライバーのミック・シューマッハ選手も参戦していました。こんなに日本人ドライバーが参戦する年、ありましたっけ。マカオグランプリは世界の有力な若手ドライバーが集まって来るので、ちょっと楽しみで以前は良く行ってましたね。小林可夢偉選手は中嶋一貴さんや当時の育成ドライバーが若い頃、もちろん見に行きましたよ。

市街地コースで行われるマカオグランプリは、レースが荒れることで有名です。この年も大クラッシュ発生です。カーブのきついリスボアという有名な1コーナーがあるのですが、なんとそこにマシンが宙を飛んで行ってしまいました。坪井選手のマシンの上を飛んで行ったんです。当初は事態が把握できず。長時間に渡りレースが中断しました。とても心配だったのですが、ドライバー2人の命は無事。お一人オフィシャルの方が残念ながら亡くなられたのですが、これまでに経験したことのない現場となりました。マシンが刺さった先には日本人のカメラマンもいたんですよね。無事でしたが、そんな事がありましたね。そして、若い若いと思っていた坪井選手ですが…。

—————今季は、びっくりの26歳にしてチーム所属のドライバーの最年長となりましたね
坪井:もうちょっと下でやっていたかったですね。最年長…、もっと経験値をあげて30歳くらいで最年長が良かったかなあと思います。22歳が3人もいるとなると、オジサン感しかないです…(笑)。4つ年齢が違うと結構感覚が違いますね。ただ、最年長だからとかAドラだからとか、それを意識することなくやりたいとは思っています。昨年、スーパーフォーミュラでチームメイトに阪口晴南選手が入って来て、チームを引っ張らなくてはという気負いでうまく行かなかったので、今年そういう立場になったからと言っても昨年の流れのままが良いのかなと思います。昨年チャンピオンを獲りましたから何かを変えることなく、これまでの延長上で行きたいですね。チームメイトとなるジュリア―ノ(アレジ選手)は、初めてのGT500クラスなのでカバーして行きたいと考えています。

—————では、今季のチームメイト、ジュリアーノ・アレジ選手について。どんなドライバーですか?
坪井:外国人気質というんでしょうか。細かな質問をたくさんして来ます。そうすることでコミュニケーションを積極的に取ろうとするところが日本人と違いますね。外国人は、もっとユニークかと思っていたら、結構彼は真面目です。自分の足りないところへの探求心がスゴイです。まだ若いのに…と思います。動画を細かく見て自分のドライビングにすぐアジャストして来る、シミュレーターで能力の高さを感じました。実車に乗ったらとても速いんじゃないかなという気がしています。楽しみです。

ちまたで話題の名物エンジニア移籍の件。今季はスタッフが若干変わる?層の厚いチームだからこそ、その件についても質問。

—————東條力エンジニアがルーキーレーシングへ移籍されましたね
坪井:東條さんは、チーフエンジニアとして、レース中はタイヤの温度をしっかり管理してくれて先を読むアドバイスをくださいました。また、みんなが悩んだ時にズバッと的確な指示も出してくれました。そんなレースの司令塔がいなくなるのは、かなりの痛手です。ですので、チームもスタッフの新しい配置を考えていると思います。自分も経験を活かし、悩んだ時などにしっかりとした決断をし積極的に取り組んで行こうと思っています。

坪井選手がジュニア・フォーミュラFCJ、F4時代に一緒に戦ったドライバーの方々は、とても才能ある方々がいっぱいで豊作の時期だと私は考えていて、世界に出た方、タイトルを既に獲った方など、とても刺激になるメンバーばかり。そこで興味津々の質問をしてみました。

—————ライバルは誰でしょう?それと現在の目標は?
坪井:誰かひとりに特定できませんね。若手もポっと乗って速いですし、みんな速いので全員「敵」です。同じチームのドライバーたちも含めてみんな速すぎるので“必死”です。そして、その状況に負けないように自分をコントロールするのも必死ですね。今の目標は、スーパーフォーミュラとSUPER GTのダブルタイトルです。両カテゴリーにステップアップして3年、レースの難しさを痛感しているので、この目標はかなりハードルの高いものになります。一生に一度出来るかできないかの大きな目標となるダブルタイトル、いつか成し遂げたいですね。そういう成績を残すことが出来れば、いつか世界に出るチャンスも巡って来るかもしれません。そう信じています。

  • モタスポコラム その31-ライバルは?尊敬するドライバーは? ~坪井翔選手インタビュー~
    (2019年スーパーフォーミュラ参戦初年度のスナップ)
  • モタスポコラム その31-ライバルは?尊敬するドライバーは? ~坪井翔選手インタビュー~
    (2020年スーパーフォーミュラ2年目は、2勝を挙げた)

—————では、尊敬するドライバーは誰でしょう
坪井:立川祐路選手です!今はSUPER GTしか乗っていませんよね。他のカテゴリーも乗らない、SNSもやらない(現在は少し状況が変わりTwitterを頑張っています)。あのスタンスで一本で頑張っている、開発ドライバーも担当していますよね、憧れますね。どうしても、いろいろ乗って成績を出したいと思ってしまうのがドライバーだと思うし、あのスタイルと価値観は勇気がいる事だと思います。そして、46歳でGT500クラスであれだけの速さがまだあって、凄すぎます。あんな風になりたいですね。また、ここまででお世話になった方は沢山いるのですが、気づけば近くにいたのが石浦宏明選手でした。若い頃、レースを続けるにあたり参戦費用を捻出するのが大変でした。自分で飛び込み営業にも行ったこともありますが、石浦選手がスポンサーを紹介してくださったこともありました。講師としてもお世話になったりもして、僕の近いところにいつも居ましたね。おかげさまでレースも続けて来られましたが、スーパーフォーミュラは38のゼッケンを自分が引き継ぎましたし、何か縁を感じますね。

—————では、もっと若い頃のことを…。カートをやられていた子ども時代、どんなお子様でしたか?
坪井:かなり生意気な子どもでした。カートをやっている少年たちの中でもかなり勝気で2位以下はビリと一緒。1位以外はギャンギャン泣いていました。優勝したらオレ様だし、そこら辺のカート少年よりもさらに生意気でした。親から言わせるとある時から人が変わったらしいです。思春期に入ったくらいからですかね。それまでは気づけば誰かと話しているような外交的な性格で誰かとすぐ仲良くなってどこ行ったかわからないくらい、いろんな人と話していました。しかし、ある時から人見知りで内気な性格に変わりました。

いきなり大人になってしまったのかな。ガチガチになってしまうところ、緊張しているシーンをサーキットで良く見かけます。クラッシュした時は、申し訳ないという気持ちがカラダからにじみ出ていて、お母さんとしては心配になります。プロなので、良い意味で図々しくなれば良いとも思いますが、彼はそんな優しい性格なんですよね。これは変わらないと思います。では、最後にゆるい質問を。

—————宝物はありますか?
坪井:特にないですが、捨てられない性格です。ぼろぼろになった洋服とかため込むタイプです(笑)。

—————食べ物の好き嫌いはありますか?
坪井:ラーメンが大好きです。こだわりは特になく好きです。パスタとか…、麺類全般が好きですね。嫌いな食べ物はトマトです。生のトマトがダメですね。

—————休日は何をしていますか?
坪井:自宅で映画を見るとかインドア派で、家の中でじっとしていることが多いですね。

—————愛車は何ですか?
坪井:GRヤリスです(愛車については詳しく聞きたい所ですが今回はここまで)。

ありがとうございました!坪井選手、勝気なインドア派という凹凸の多いキャラでしたが、いかがでしたでしょうか?あなたの知らない坪井選手を吟味していただき、応援していただきたいと思います。今季はチームメイトが変わり新たにまたチャンピオンを目指します。今季も若さを武器に頑張ってくださいね。

大谷幸子の近況

つくづく思うのが、モータースポーツは費用がかかるということ。「若い頃の苦労は買ってでもせよ」と言いますが、レーシングドライバーを目指す段階でぶち当たるのが参戦費用の壁。この苦労は買いたくないけれど、みなさんご自身の努力と併せ才能を開花させているドライバーさんが沢山います。坪井選手もそのひとりでした。そして、彼のような才能を持つ若手の発掘を担う役割のひとつにメーカーのドライバー育成プログラムがあります。トヨタ自動車で言えば、まだ20年ほどの歴史。気づけば私一期生からなんとなく見て来ているかも(笑)。坪井選手も沢山の方に助けられ、おばあちゃまも助けてくれたそうですが、プロの道に辿りついてタイトル。SUPER GTのタイトルは、獲れていない方がたくさんいます。引退した中嶋一貴さんもそのひとり。これを獲ってから引退して欲しかったな。そうすると参戦全カテゴリータイトル獲得になりますからね。ま、いつでも戻って来て(笑)。

ドライバー育成は、歩み始めてからもしっかりサポートをしていますね。そのレールに乗ることが全てではないですが、道を開くきっかけになりますね。話を戻しますが、レーシングドライバーの人となり(お人柄)を、この職業に憧れを抱く方々に少しでも届けたいです。身近に感じることで彼らを目指して欲しいので、これからも取材も続けて行きたいなあと思います。コロナ禍でオフシーズンの活動など興味深い取材ができませんが、少しずつ進めますね。お楽しみに!