• モタスポコラム その9-スーパーGT第8戦(最終戦)富士スピードウェイ
(写真 トヨタ自動車)

スーパーGT第8戦(最終戦)富士スピードウェイ

モタスポコラム その9 2020.12.10

コロナ禍で、7月に始まったシーズン、何もかも異例の短いシーズンでした。そして、GRスープラデビューイヤーは戴冠ならず…、これもレースですね。ファイナルラップの最終コーナーを過ぎたところで掴みかけたタイトルは露と消えました。最後まで何が起こるかわからないと長年現場で見て来ているので頭でわかっていても、慣用句のようにこの言葉を使って来ました。たぶん、そんな事が起こらないで欲しい意味も込めて使っていたかもしれません。しかし、まさにその言葉を地で行く現実を目の当たりにしました。人生の勉強にもなったかも。衝撃の結末で終えたレースウィークを振り返ります。

〇その瞬間

(ピット内の写真もあるのですが、いつかチャンピオンを獲得した時に出そうかなと思っております…)
(表彰式直前、けん引されていく37号車 無念…頑張ったけど残酷な結末が待っていた…。こんなこともあるんだね)

レースウィーク時系列最後の事ですが、こちらから。誰があのような勝者にとっても敗者にとっても劇的なシナリオを書いたのでしょうね。Jスポーツさんのライブ中継は、いつも決勝のファイナルラップは優勝車をチェッカーまで追ってくれます。まして今回は、シリーズチャンピオンも決まりますので、チェッカーまでの花道は、いつもの倍、素晴らしい映像になるはず。それが、素晴らしさに加え、近年稀に見る劇的なシーンを配信することとなりましたね。

37号車KeePer TOM'S GR Supraのサインガードにはテレビカメラと山下健太選手がスタンバイ。36号車au TOM'S GR Supraのサッシャ・フェネストラズ選手も出て来て、その瞬間を待つ態勢になっていました。
残り10周くらいになると、わたしは優勝する可能性の高いチームのピットに向かうようにしています。まさに、追い上げ中の100号車RAYBRIG NSX-GT山本尚貴選手がかなり差を詰めている状況でTOM'Sのピットに向かいました。そこは、思いのほか緊迫感に包まれていました。ほどなくガス欠症状が出た様子で、ピット内の空気は張り詰め、無線を聞いていない私でも異変に気付きました。あれ?…。盤石な時は、誰かが大丈夫という表情を“一瞬”でもこちらに向けてくれ様子がわかるのですが今回は違いました。モニターにみんな釘付け…。何か様子が変。ここは空気を読んで見守ることに…。
エンジニアの無線での指示、頭を抱えるTCDのスタッフ、祈るチームクルーの姿と暗雲立ち込めるピット。サインガードは、チャンピオンのボードをスタンバイ、ぎりぎりまで見届け走って勝者を迎えに行こうとする者もいましたが、サインガード手前で足が止まりました。クルマがスローダウンした為です。

その瞬間ピットは悲哀に包まれました。泣いている者、天を仰ぐ者、うなだれ意気消沈する者、仲間の肩に手をやり気持ちの行き場を探す者。伝える側として冷静になるのが正しいかもしれませんが、泣いているマネージャーの肩を抱きました。それだけ…。百戦錬磨のチームのそんな時は一瞬。それぞれがすぐ自分の持ち場に就いていました。慰める時間もナシ。自分も慌ただしく頭の中で取材構成を組み立て動きました。これは勝ったチームでもそうなんですよ。現場での“おめでとう”は最大限の喜びの中で一瞬。チームスタッフは、レース後も仕事が盛りだくさんですからね。もちろん、喜びに包まれた撤収作業は気分良いはずだけどね。こちらもバタバタだから、現場では、“おめでとう”が一言でも言えたらいい感じです。

レースそのものはバトルがいっぱいでしたが、身内のバトルも多く…、ライバルなら良いのかと揚げ足取らないでください。何かとても良くない流れにも正直感じました。そして、予選でトップ4がGRスープラ。前2列を固めたにも関わらず、タイトルを獲れなかった…。これは、勝てばタイトルという可能性があったチームが複数で大接戦だったからですよね。それも非常に理解できます。でも、これだけ優位に予選をクリアした上で取れなかった、うーん…GRスープラ陣営の逃がした魚はとてもとても大きかったと思います。

リザルトを見ると、今季富士で開幕戦以降活躍したライバルたちも上位でしっかりフィニッシュ。GRスープラが5位まで独占した開幕戦から、他メーカーもこんな屈辱を味わったら引き下がるわけがないのは、最終戦のリザルトを見ると納得できます。 トップをひたすら駆け抜けレースを最後までリードした37号車。スロー走行ながらも幸い5.6秒遅れてチェッカーを受けることはでき、ランキング2位で今シーズンを終了する事となりました。

(写真 トヨタ自動車)

2017年、23号車 MOTUL AUTECH GT-Rと2ポイント差で、37号車平川亮選手、ニック・キャシディ選手は最年少コンビでタイトルを獲得。翌2018年は、最終戦の3位争いを100号車 RAYBRIG NSX-GTのジェンソン・バトン選手、山本尚貴選手のコンビと繰り広げ、ピットのタイミングで最終的に先に入った100号車に軍配が上がり3ポイント差でランキング2位。バトン選手はやっぱりスキがなかった…。

(写真 トヨタ自動車)

そして、昨年は同じレクサス陣営の6号車WAKO'S 4CR LC500 大嶋和也選手、山下健太選手との闘い。37号車は最終戦決勝で2番手の6号車に12秒もの大差をつけ勝利するも、2ポイント差ドライバーランキング2位、チームランキング1位でした。やれることを全部やっての負け、平川選手の落胆する姿は目に焼き付いていますね。山田淳監督が、頭を撫でているシーンが忘れられません。昨年の2台の戦いぶりは、特にウェイトを積んでからの後半戦の攻防が素晴らしかった(文字数足りないので割愛)。

(来年いる前提で来年の相棒は誰かな…)

毎年最後までタイトル争いをしている37号車。本当にこのコンビは速いしレースに強い。また新たなスタートラインにつくことになりますが、来季、どんな布陣かわかりませんが、敗者となって新たに挑む者の雄姿と闘志は、きっと沢山の方に届くと思っています。毎年2位…小枝エンジニア、大立データエンジニアの二人は搬入日に言っていましたが、またタイトルを獲得する日は近いでしょう。

〇予選2位となった39号車 DENSO KOBELCO SARD GR Supra

(搬入日、遅くまで作業する39号車のメカニックたち)
(スマホ写真…現場での朝礼。ドライバー二人も常に参加)
(タイヤのチョイスは、どうしようのピットでよく見られる光景)

新しい体制になって心配と書いて来た39号車。今シーズン優勝もしましたし、右肩上がりの成長ぶりに驚愕です。今回は予選で2位を獲得しました。決勝は36号車との接触があり、レース早々にピットにマシンに戻り厳しい流れで14位という…、残念すぎました。

(チームとの対話が多いですね、脇阪寿一監督)

脇阪寿一監督に、このチームの変化を聞かないと!と思っていたので訊ねてみました。 「毎レース毎レース、結果が出て線が引かれる中で、チームは人が人を信用する、その信頼関係を育て成長していく。それが今カタチになっている。自分は、ただ単に進むべき方向性を示しているだけで、それを聞く彼らの努力と普段からの勉強、そしてコミュニケーション、それらを自由にできる環境がこのチーム、サードにある」と一言に凝縮。
雑談レベルで話かけたら残しておきたい言葉が沢山返ってきて、慌てて録音。もう一回話してもらったら端的にまとめてくれました。今更ながら、現場では、全身全霊、監督だったと。彼の言葉のチョイスには本当に関心します(上からじゃないよ)。表現したい言葉の羅列に惹きこまれるんですよね。勉強になる…。サード監督1年目、お疲れさまでした!

〇ヤマケンのコースレコード1'26.386

(ヤマケンがポールを獲ると信じてプレッシャーをかける山田淳監督。速さを認めているからですね。厳しいけど優しさもある、F3時代をトムスで過ごした山下健太選手のことを良く知る淳さんだからこその動き)

シーズン終盤の2戦を欠場するニック・キャシディ選手の代わりに昨年のチャンピオンの山下健太選手が出走。スーパー助っ人がちょいちょい登場しましたが、乗れてるヤマケン大活躍のシーズン。平川選手は、最後までリモートなチームメイト、ニックと連絡を取っていて一緒に戦いました。ニックのステッカーをドアに貼りたいと言ったのは、平川選手だったそうです。信頼の置けるチームメイトの将来を考えると、きっと他のカテゴリーへのステップアップはタイトルがかかっていたけれど、行け!と言ったでしょう。確認するのを忘れましたが、聞かなくてもわかることですね。
でもって代役を見事に果たした山下選手も称えたいです。予選では、コースレコードを出してのポールポジションでした。Q1をトップタイムで平川選手が戻って来ると、ピットの雰囲気はガラリと変わり。いきなり笑顔に包まれました。このみんなの笑顔はさぞかしプレッシャーになったことでしょう。緊張した事ないと以前言っていたヤマケン。顔がこわばり、その緊張する顔を見て平川選手が逆に笑顔になり…。見ている側は良い時間でしたね。あんな貴重なシーンを見られて…。
めちゃくちゃ寒い時期の開催となった最終戦、何か起こらない限り当分ないでしょうから、この記録はしばらく破られないんじゃないかと。富士ラウンドは、ラウンド順で行くとウェイトハンデがありますしね。ですので、名前を残したヤマケン、お見事!記憶に残るレースでしたから、忘れられないと思います。ちなみに、今季の開幕戦では、1'26.550のコースレコードを平川亮選手が出しています。コースレコードに関して山下健太選手曰く、クルマは毎年速くなるのですぐに破られますよ…との事です。

〇レース全般振り返り

(写真 GTアソシエーション)

レース序盤、スピンしたクルマもありましたが、セーフティカー(以下SC)は導入されませんでしたね。このタイミングで他のラウンドではSCが入っていたなあと、今季のレースが頭の中に思い浮かびました。大事な役割のセーフティカーですが、最終戦は、速さのみの本来の姿で非常にワクワクしましたね。
100号車RAYBRIG NSX-GTの速さは、牧野任祐選手も若手ながら天晴れ。良いドライバーですよホント。そして、山本尚貴選手は先般のスーパーフォーミュラ第4戦オートポリスの鬼のような追い上げを思い出し脅威に感じました。記者会見では、ファイナルラップで平川選手のスローダウンを見た際、もうウィニングラン?と思ったそうです。GRスープラ同士のやり合いにも言及していました。とにかくトップを追う立場の山本選手にとっては会見での言葉を端的に表現すると、ライバルをいい意味で蹴散らして行き大逆転という理想のレース結果になったとのことです。完敗、おめでとうございました!御年80歳の高橋国光監督もおめでとうございます!

(グリッドにて)
(メディアセンターがピットの真上だったので、ガラス越しですが、ピット作業をパチリ)
(ピット作業は、トヨタチームの中でピカイチ19号車)

14号車は、タイヤ無交換をやって上位に上がって行ったものの、36号車との接触もありリタイア。予選2位に入った39号車も序盤に戦線離脱、予選4番手だった38号車も後半ポジションを落として行き、富士マイスター車が影を潜めた今回の最終戦。19号車WedsSport ADVAN GR Supraも一発の速さを見せることもありましたが、良い流れはつかめずシーズン通して苦しんだね。GRスープラの開幕の勢いは、最終戦でトムスの2台が表彰台にあがったものの、何か元気がない終わり方だったように思います。

(若干寒かったけど、冬晴れに恵まれたレースウィーク なかなかないです>怒られちゃうかしらね…。セーフティカーとイベント広場に展示されたGRスープラ)

シーズンが終わってしまいました。月に2回もスーパーGTが見られる贅沢を味わってしまったので、オフシーズンは少し辛いですが、少しだけ短くも感じることでしょう。
負けの辛さは人を強くします、そして優しくなれます。強い人はますます強くなる。そう思っています。応援する方々の流した悲しみの涙をいつか足りなかったガソリンの量以上の喜びの涙に変えてくださいな。モータースポーツからの感動をまた一つ味わった2020年スーパーGT最終戦でした…。

大谷幸子の近況

いつも長々すみません。取材しすぎて文字が足りません。能力の無さを感じますが、終わってしまいまして、まだ書き切れてないことも沢山あります。それは置いておいて、自分自身で感謝したいことがたくさんあるんです。現場では食指が動く方向へ思うがまま取材をするスタイルですが、今季は現場でタイムラインに追われないカタチとなり、取材に時間をかける環境をいただきました。そんな中でも、さらに私がやりやすい環境を作ってくださる関係者のみなさまに感謝してもしきれないんです。当たり前だと思ってはいけないと、いつも言い聞かせています。
現場では関係者のみなさんの「気遣い」を感じるんです。チームのみなさんが戦っているし、大変なんですよ私なんかより。私は自分で考えルールにのっとり取材すれば良いのです。どうぞという言葉に深く感謝する日々です。おやつもいっぱいいただきます。これ以上太ると命の危険があるので与えるのは控えてくださいませ(社交辞令です)。
取材そのものをひとりでこなすのには、体力もメンタルも強くないといけません。くじけそうになることもあります。夜、誰もいないような暗い駐車場にひとりで行くこともできないといけません。そこ?あれ?私だけ?お化け怖いの…。子どもなんですよ、この部分が…。いちいち怖がり。高所恐怖症とお化け怖いが今季も克服できそうにありませんが、最後の現場が目前。スーパーフォーミュラ最終戦で今季もいよいよ終わりです。とにかく頑張りますね。終わったらもう休むことなくクリスマスにお正月。わたしの引っ越し荷物の段ボールはまだ片付けていないのに、クリスマスツリーを新調しさっさと飾りました。ま、いっか!ほなまた!