AE86レストア、4A-GE構成部品復刻プロジェクト
ブームを超えて文化になったAE86レビン/トレノ
「カローラ」「スプリンター」の“ファミリー系”モデルは、5代目からFF方式を採用したが、スポーツ系のモデルは、FRならではのスポーティな走りを楽しんでもらえるように後輪駆動(FR)を継続した。このモデルチェンジを機に、従来DOHCエンジン搭載車だけに用いていた「レビン」「トレノ」をクーペ系全車の名前とし、DOHCエンジン搭載車には“GT”バッジを付けた。
ボデータイプは、2ドアノッチバッククーペと3ドアハッチバッククーペの2種類で、エンジンは1.5リッター(3A-U)と新開発の1.6リッターDOHC16バルブ(4A-GEU)の2タイプ。GT系のトランスミッションは5速MTでスタートしたが、1985年5月に電子制御4速ATのECT-Sを追加した。サスペンションはストラットに4リンク+ラテラルロッドの組合せ。この世代の「カローラ レビン」はFRの走行特性を好むファンに支持され、特に生産終了後は「ハチロク(AE86)」の名で人気を博している。
クルマ好きを全方位でカバーする方針のもと29の部品が復刻
GR 2代目の専用車である『GR86』の開発と並行して、AE86のパーツ復刻に着手。お客様や、これまでお客様と向き合ってくださったサードパーティー様の困りごとやご要望をお伺いしながら、サプライヤーの皆さまへご相談を繰り返し、GR86の発売と時を同じくして、2021年11月にAE86のGRヘリテージパーツの発売を開始。
最初はリヤブレーキキャリパーとステアリングナックルアーム、続いてリヤドライブシャフトを発売。その後もホームページやイベント会場でリクエストを募るなど、オーナー様との密なコミュニケーションを続け、2026年2月現在29品番のGRヘリテージパーツを復刻している。復刻に際し、現代の技術と工法、材料を用いたり、今の設備で生産できるようにして、一時的な供給ではなく、この先もAE86に乗り続けたいお客様へ部品供給を継続するため、日々サプライヤー様にご協力いただきながら邁進している。発表後、SNSでは「クルマ好きがこれほど喜ぶことはない」「すごくありがたいプロジェクト」「サプライヤー様を賞賛したい」といったコメントをいただき、期待の大きさをあらためて実感することとなった。
2021年11月にリヤブレーキキャリパー、ステアリングナックルアーム。12月にリヤドライブシャフトを発売。2026年2月現在29品番のGRヘリテージパーツを復刻
ヘリテージパーツを使用してエンジンを含むAE86を丸々レストア
GRヘリテージパーツを使ってGR傘下の販売店であるGR Garageにて施工するレストアプロジェクト第2弾、「AE86レストアプロジェクト」。GAZOO Racingが取り組んでいるGRヘリテージパーツプロジェクトの活動と、GR Garageの整備技術を知っていただくために始めた企画だ。倉庫の片隅で眠っていた1986年式AE86(スプリンタートレノGTV)を一からレストア。エンジン(4A-GE)はトヨタ、車体のレストアは茨城トヨタが運営するGR Garage水戸けやき台が担当した。
倉庫の片隅で眠っていた1986年式AE86と4A-GE
「初めてAE86を見た時、あらゆるところがサビだらけ。これ直せるの? というぐらいひどかったです」(GR Garage水戸けやき台 店長 田中宏紀氏)。
レストアした車両は、1986年式のスプリンタートレノGTV。ある倉庫に5年間眠っていた不動車だ。全体的に錆が酷く一部の床は穴が開いており、リアのドアやムーンルーフなど、可動箇所は取り外されていた。別々に保管されていたものを組み合わせたら、幸いにも外装部品で不足している箇所はなく、外されていたシートも汚れは酷かったが破れている箇所は無く、程度は良かった。社外品が付いていたホイール、ステアリング、エキゾーストマニホールドは、レストアに際し中古の純正品に取り替えた。
取り外されていたリアのドア、ムーンルーフ
車体のレストア作業はGR Garage水戸けやき台のエンジニア3名と茨城トヨタTHセンターの匠2名が担当。工程は現状確認、分解、必要なパーツの手配、外装の塗装、足まわり&エンジンの組み付けと多岐にわたり、慎重に作業が進められた。
車両本体からパーツを取り外し確認
前後バンパー、灯火類、エンジン、ミッション、ディファレンシャル、足まわり、内装、窓ガラスを取り外し、ボディを裸の状態にしたら、隅々まで確認。腐食している箇所は補修した。腐食により欠けてしまったインナーフェンダーは、ハイエースの部品を流用し造形。ドアパネル下端部やBピラーなど、部品のないところは、鉄板の形状を整えて溶接するなど、困難な状況下を職人技で切り抜けた。また内装は、トヨタの高品質Car洗浄「まるまるクリン」で本格に洗浄。非常にきれいな状態にすることができた。さらに塗装工程ではまず、ボディ下側をブラックで塗り、上側をホワイトで塗装。サスペンションやブレーキを構成する部品のサビ落としを徹底的に行い、GRヘリテージパーツを含む、供給されている純正部品は新しいものへ交換した。
「必要なヘリテージパーツは前もって取り寄せておりました。レストアしている人にとって、パーツリストを見て部品を探す時間も楽しい時間だと思います」(茨城トヨタTHセンター 富安猛氏)。
新たな付加価値を与えて復刻したシリンダーヘッドとシリンダーブロックを使用
搭載されていたエンジン(4A-GE)は、トヨタ社内でオーバーホールを実施。骨格となるシリンダーヘッドとシリンダーブロックは、2026年2月に受注が始まった「シリンダーヘッドSUB-ASSY」と「シリンダーブロックSUB-ASSY」の試作品を使用した。当時の基本的な設計・スペックはそのままに、最新のシミュレーション技術や工法、材料を取り入れて現代化した渾身の一品である。
「東京オートサロンに出展してお客様にヒアリングしたところ『ここが壊れます』と、いろいろな声をいただきました。これだけ困っているお客様がいるなら4A-GEを復刻できないかと考えました」(ICE開発部 主幹 大嶋智也氏)。
当時の技術者は退職し、図面が残されているのみだったため、ICE開発部をはじめとしたトヨタの技術者が当時の部品を3Dスキャンで精密に採寸し、イベント等のヒアリングでお客様の要望の多かったAE92用をベースに、CADを使ってデジタル図面を作成した。吸気ポートの凹凸低減やシリンダーのホーニング処理、カムキャップのノックピン追加などのリファインに加え、吸排気ポートの一部肉厚を増量してチューニングできる余地をあえて残すといった、お客様からいただいたご要望をできる限り詰め込んだシリンダーヘッド/ブロックとなっている。
「お客様は部品に対して熱い想いを持っていると感じたので、今風の付加価値をつけながら、少しでも良い物を出したいと思いました。40年前の手書きの図面しか残っていなかったので、そこから3DのCADを作成。寸法がなかなか合わないとか、数字と数字を足しても合わないとか、CADは全部計算で出てしまうので、そこが苦労したところです。どうしたら良いのか、悩みながら作り上げました。10年20年、AE86に乗り続けて楽しんでいただけたらと思います」(同)。
エンジンに火が入った瞬間に拍手が湧きあがった
トヨタ社内で再利用できる部品の見極めを行い、先達たちのアイデアと工夫にリスペクトの念を抱きながら、ワンチームで部品の洗浄から組付け、試験までを実施。シール性能とフリクション性能が向上したピストンリング、樹脂コートを塗布してフリクション性能が向上したクランクベアリング、材料と構造を変更することでシール性能の向上と圧痕低減を実現したヘッドガスケットなど、各部品の現代化も実施した。愛好家に負けじとも劣らないトヨタの熱量が込められており、エンジンに火が入った瞬間は制御室内に拍手が湧きあがったほど。
新ヘッド/ブロックを使って組みあげた4A-GEをGR Garage水戸けやき台へ持ち込み、エンジニアの手でレストアされたAE86へ搭載し、エンジン始動。ピカピカのマフラーが4A-GE特有の乾いたエキゾーストノートを奏でたが、それは当時のAE86の音そのものだった。
「昔のクルマがきれいになっていくのを見ていると、スポーツカーやクルマはいいなあと。とても感激しました!」(GR Garage水戸けやき台 GRコンサルタント 田村 優)。
このAE86は2025年9月に行われた「FUJI 86/BRZ STYLE 2025 with頭文字D」でお披露目。水素、BEVに続くAE86のあるべき姿を示し、国内外から大きな注目を集めた。GAZOO Racingは今後も最新技術を用いてヘリテージパーツの復刻に力を入れていく。すべてのクルマ好きが不安を感じることなく愛車の走りを楽しめ、笑顔になれるように。