Interview Driver
HERWIG DAENENS
Belgium

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24時間レースで
TOYOTAの哲学を体現する

Q.ニュルブルクリンク24時間レースはTOYOTAにとってどのようなレースですか?
私たちドライバーやエンジニアが一丸となってクルマ開発に取り組むことができる、特別なレースです。
何がそうさせているのかというと、24時間レースを取り巻く過酷なコース環境です。特にドライバーとクルマに大きな負荷のかかるノルトシュライフェはその代表的なものであります。
Q.24時間レースに参加するTOYOTAの目的は何ですか?
もっと良いクルマづくりを追求するためであり、GAZOO Racingのストーリーを繋いでいくということでもあります。TOYOTAの哲学を体現するとも言えるでしょう。これは、レース上の話だけではなく、開発メンバーや従業員、エンジニアや技術者にとっても同様です。この一連の流れの中で、私自身は与えられたドライバーという職務を全うする、メンバーであると自分自身を捉えています。
Q.TOYOTAにとって24時間レースは「クルマづくり」だけでなく、そのクルマを走らせる「人づくり」にも寄与していると伺っていますが、もっと詳しく教えていただけますか?
走りにこだわるだけでなく、極限の環境の中でこそ得られる成長がありますよね。
Q.レースの順位は重要視していないということですか?
もちろん、順位も重要視していますよ。単にコースを走るだけだと目的がないですからね。目的はレースで上位に入ることだけではなく、チームの全員が自分自身の役割を良く理解し、それに集中すること。これが大きな成長機会に繋がります。ただレースをするために参加するだけでは、いい結果を出すことはできません。だから、順位も同じように重要です。
Q.新型GRスープラを運転してみていかがでしたか?
私は、開発初期からスープラの開発に取り組んできたので、ある程度想像通りでした。とはいえ、想像よりも高いレベルに仕上がっていますけどね。ニュル24時間レース参戦を通じて、レース用のスリックタイヤでの走行や、レース用にサスペンションやブレーキを最適化したりして、クルマ全体をより高いレベルに仕上げてきています。
Q.新型GRスープラは運転しやすいのですか?
そうですね、運転しやすいです。運転しやすいクルマにすることは常に開発チームの目標でした。運転しやすく、遠くまで走っていけるようなスポーツカーを作りたかったのです。15分運転しただけでも乗りこなせ、日常的に使えるスポーツカーを目指していました。
Q.日常的に使えるスポーツカーとはいえ、プロ・ドライバー向きのクルマですよね?
このクルマはファミリーカーと言うより、運転好きの方に向けたクルマです。運転好きな人がエキサイティングなドライブや、夕方に愛する人をレストランへ連れていくようなシーンを想定しています。ほんの1時間半厳しい路面を運転するだけで、休日にフランスの南の方までいけるようなクルマであるべきだと思っています。
Q.数年前から開発を始めたとおっしゃいましたが、ダーネンスさんはどのような形で参加したのでしょうか?
私は、開発の初期から関わっています。新型GRスープラは、BMWと協力して作られたということはご存知ですよね。我々はまず最初に、基本になる構造について、ギアボックスをエンジンに固定するのか、それとも後部にギアボックスを入れるべきなのか、エンジンを前面に配置するか、それとも後部に配置するかなどを話し合いました。
成功させるためには、このような長いディスカッションが設計の段階で必要でした。最初はBMWと我々の目的が少し違うと感じました。彼らはスポーティなものを作ることに目指していましたが、我々はスポーツカーを作りたかったのです。小さな違いかもしれませんが、アプローチの違いにつながります。認識を合わせるのに少し時間がかかりましたが、最終的には同じ目線で、車高、重心の高さ、ボディの敏捷性など、重要な構造上の決定を下すことができました。このような決定は初期のコンセプトに関する方向性が決定に大きく影響します。
Q.今回開発した新型GRスープラに満足していますか?
もちろん、本当に満足していますし、最初から開発に関われてとても嬉しいです。
コンセプトに関するディスカッションから参加し、ここで物事を決めていきました。これらが一度決まったら、変更することはできません。なので、スタート段階は非常に重要な部分です。チーフエンジニアの多田さんは個々の仕様決定に非常に熱心であり、目標に向かって走り続け、BMWと認識を合わせるのに長い時間を要しましたね。

成瀬さん(かつてのトヨタのマスタードライバー)から、
開発過程において多くのことを学びました

Q.ダーネンスさんは古いスープラにも精通していますよね。それらとの違いは何でしょうか?
古いスープラに比べて、すべての機能がレベルアップしています。古いスープラは今でも有能なクルマですが、今回のスープラは、使いやすさ、パワー、そしてハンドリングなど、すべての面において高いレベルになっています。20年経って、すべてが進化しました。
私は古いスープラにも思い入れがあります。TOYOTAの前マスタードライバーである成瀬さんは、スープラを開発していく過程において私に多くのことを教えてくれました。運転特性を変更するためにサスペンション、部品の剛性、クルマのセットアップに加えることができる変更など、様々なことを学びました。
Q.ニュルブルクリンクでは、いつから仕事をしているのですか?
2000年からTOYOTAで働き始め、毎週ニュルブルクリンクでクルマをテストしていた成瀬さんと出会い、一緒に働くこととなりました。彼は会社で重要な役割を担うような存在で、明確なビジョンを持っている人でした。時にはクルマの方向性やある特定のチューニングについて、話し合うこともありましたが、最終的には常にお互い納得することができました。私は成瀬さんの下で働いていたので、彼からたくさん学ぶことができました。
Q.成瀬さんから学んだことで特に印象的なことはありますか?
私は今でも心に残っている言葉があります。成瀬さんは私に「道がクルマを作る」と言いました。これはTOYOTAがニュルブルクリンクでクルマを開発する理由のひとつです。(ニュルブルクリンクの)グランプリ・コースのように滑らかで平らな路面用のサスペンションのセットアップだけで、ニュルブルクリンクを運転すると、クルマの性能が十分に発揮できません。「道がクルマを作る」という言葉は彼から学んだ大きな心得です。
Q.ダーネンスさんにとって成瀬さんからの言葉は大切ということですか?
そうですね。彼の言葉は非常にシンプルなものですが、これにはサスペンションセットアップ、またはクルマを開発するのに叡智が必要であるという意味が込められています。
Q.成瀬さんの言葉は、新型GRスープラに反映されていると思いますか?
はい。もちろんです。顧客のニーズにあわせるために約90%の開発を公道で行いました。我々は顧客が運転するところでテストすべきだと思ったからです。顧客が運転するであろう道路だけではなく、運転する条件も試しました。例えば、荷物を積んだり、人を乗せたり。このような状況を想定して開発中にすべて試しました。そしてもちろん、ニュルブルクリンクでもテストをしています。
Q.新型GRスープラを完成させるために、ニュルブルクリンクでは何回テストしましたか?
私たちが開発を始めたのは数年前で、以来毎年おこなっています。開発段階では、最終段階一つ手前の車体や、決定版の車体から始めることもあります。振り返ると、作業は50週間以上あったと思います。その50週間は月曜日から金曜日までテスト。その期間は様々な観点でクルマをチェックします。ほかにも、設定したサスペンションだけではなく差動制御システムやパワートレインもテストするなど、様々な観点のチェックとコンポーネントはニュルブルクリンクで開発、及び微調整をしていますね。
Q.50週間というのは多いほうですか?普通ですか?
かなり多いと思います。ニュルブルクリンクでのテストは年間16週間することができます。これをいくつかの部署でシェアするので、一年間平均5〜6週間でも多い方ですね。すべてのクルマに同じだけテスト期間を要するわけではなく、スポーツカーは比較的多くなりますが、普通車だとおそらく1年に2〜4週間くらいです。つまり通常の2倍程度テストしたということですね。スープラという名前が付いているので、期待に応える必要があります。市場だけではなく、会社にとっても大事な存在で、TOYOTAを象徴するクルマです。私たちはニュルブルクリンクで多くの時間をスープラの開発に費やしました。

24時間レースは第一段階の終わりであり、
次の段階の始まり

Q.スープラにとって、24時間レースは開発の最終段階と考えられていますか?それとも卒業のようなものですか?
両方ですね。開発の最終段階ではありますが、我々は常に開発を続けます。常に改善点を探していますね。スープラのための開発の第一段階が終わったのは確かですが、同時に次の段階の始まりです。開発は継続するものなので、終わることはないのです。
Q.今回の24時間レースで新型GRスープラが走っているとき、視聴者にはどこに注目して欲しいですか?
視聴者には、完璧なディメンジョンとアーキテクチャーを見て欲しいです。車高が低く、車体が広く、ホイールベースも広いクルマを見ることができるでしょう。コンパクトで力強い印象を受けると思います。
Q.新型GRスープラの魅力がわかるのはレーサーだけでしょうか?それとも視聴者でも感じることができますか?
もちろん視聴者でもわかります。スープラは目立ちますしね。ここ数年、スープラと似たようなクルマを作っているメーカーは多くありません。多くのレースカーはロードカーや2シーターから派生したものですが、スープラはスポーツカーとしてのコンセプトがあります。例えば、ポルシェは911というクルマがありますよね。しかしこれは長い間、市場にあるので、多くの人が慣れてしまっています。我々は同様のものを開発していますが、スポーツカーらしいスタイリングと構造を兼ね備えています。
Q.「いいクルマ」とは、どんなものだと思いますか?
それは、どういうクルマが欲しいかによって違うと思います。いいスポーツカーはスープラのように、長い時間走っていたくなるような気持ちさせるもの。普通のクルマだと「いつもの最短コースで家に帰ろう」と思うのですが、いいクルマは「今日は別の道で帰ろう」と思わせる。平らな道ではなく、山の道を選ばせるんです。AからBへ行くだけでなく、時々AからBからCへ、長い道のりを選びたくなるのが「いいクルマ」ですね。
Q.24時間レースは将来GT4に参入するためのテストでもあるとお伺いしました。実際どのような効果を想定していますか?
いくつかの設定をチェックしたり、特定の部品や設定、コンポーネントのパフォーマンスを確認したりするには良い機会だと思っています。つまり、将来GT4に参入するためにも非常に重要なレースです。
Q.最後に24時間レースへの意気込みを聞かせてください。なにを成し遂げたいですか。
まずは自分の役割を果たし、貢献したいと思います。私の役割はスープラを故障させずにできる限り速く走らせるということ。これは開発チームにおいての私の責任でもあります。そして、レースを無事に終えることも果たさなければなりません。最速のラップタイムをとるという個人的な目的は簡単ですが、これは目標ではありません。目標は24時間を走り切ること。完走することは絶対です。クルマを故障させずに、できるだけ速く走らなければなりません。私は責任を果たし、誰もがっかりさせないつもりです。