Interview Driver
HISASHI YABUKI
Japan
二ュルブルクリンク24時間レースは
精神面を鍛える事を目的としている
- Q.TOYOTAにとってニュルブルクリンク24時間レースはどのようなレースになるのでしょうか?
- ニュルブルクリンク24時間レースと聞くと、競争の世界をイメージされると思うのですが、TOYOTAでは「人材育成」を目的に活動しています。クルマを鍛え、ドライバーを鍛え、メカニックを鍛える、しかも精神面を鍛えることを目的として活動していますね。
- Q.なぜ他のレースではなくニュルブルクリンク24時間レースなのでしょうか?他のレースではいけないのでしょうか?
-
国内のサーキットはフラットなところが多いのですが、ニュルブルクリンクのコースは高低差が300mくらいあってアップダウンが激しく、途中にはジャンピングスポットや、すり鉢状のコーナーがあったりと非常に過酷なコース環境が特徴です。ここでは通常のサーキットでは得られないような負担が車体にかかります。こういうサーキットは世界中を探してもなかなかないと思いますね。このコースをある程度走ることができれば、世界中どの道を走ったとしても十分走れるようなクルマが開発できるだろうと。だから、この24時間レースでなければならないのです。
また、過酷な状況下のレースに参加していると、当然クルマはダメージを受けて不具合が起きます。その時々のアクシデントに合った対応をしていく中で、メカニックも鍛えることができる。通常のルーティン作業ではない世界がここにはある、という感じですね。
- Q.矢吹さんにとって、ニュルブルクリンク24時間レースというのはどんなレースなのでしょうか?
- 私はレーサーではなく開発担当で、TOYOTAのクルマをほとんど見ています。ここでは200台近くのクルマが走るのですが、いろんなメーカーがいるし、プライベートチームもあればワークスチームもいる。そういう中で一緒に走っていると、我々のクルマの勝っている面と劣っている面がその場で感じることができ、今後の開発にも活かせます。加速でも、ブレーキングでも、コーナーリングでも、そのポテンシャルが肌身でわかる。で、やっぱり負けているのであれば、何か理由があるのです。
旧スープラとの違いは「質感」
- Q.かなりの距離を走られたと思うのですが、いかがでしたか?
-
新型GRスープラは今回ある意味シェイクダウンという感じでしたが、思っていたよりはバランスは取れていたと思います。クルマ自体が2月4日に日本から到着し、そこからホワイトボディにして、色々とセッティングを行いました。サスペンション自体も前回のテスト時から全部一新していましたので、そういう意味である意味シェイクダウンだったという事です。
多少走りながらセッティングはしていたものの、最終的には非常に走りやすくなりましたね。本番の24時間レースまで、少しでも安全に走れるようにセッティングを続けようと思います。
- Q.ドイツ人の撮影アシスタントが新型GRスープラに乗ったことがあるそうなのですが、「すごく曲がりやすい」と言っていました。
- 今回の新型GRスープラは5月から発売されて一般ユーザーにも届くようになるのですが、旧スープラと今回発売される新型GRスープラとの違いは一言で言うと「乗り心地」だとか「質感」なんですね。旧スープラは確かにはその当時にしては良かったのですが今となってはやっぱり静粛性や質感が古いということで、今回開発としてもその辺を狙ってやってきました。乗り心地もいいですし質感も良く、今までとは一新していると感じていただけるはずです。
- Q.スープラはファンが多いイメージがあるので、今回発表したときに反響があったのではと思いましたが、実際はどうでしたか?
-
反響はありましたね。スープラはTOYOTAのスポーツカーとして、ある程度知名度があるので、「20年ぶりにTOYOTAが新型GRスープラを出した!」というのは話題性があるのだと思います。
例えばLFAやレクサスのGSF、SPCSなどは値段が新型GRスープラの倍以上しますよね。それらの車の半値で300馬力以上のパワーが手に入るのは魅力的なのだと思います。
- Q.今回販売された新型GRスープラの魅力は?
-
1番の魅力は低速で走り出すときの質感。きちんとサスペンションがストロークして乗り心地もいいし、かといって柔らかいわけではなく、しっかりとした走りを感じられると思います。
開発の中でスイスやイタリア、フランスの山、ドイツの田舎道を走り込みながら作っているので、どんな道でも気持ちよく曲がれるようになっていますし、なおかつアウトバーンで200km出して走っても安定しています。
つまり、低速時の乗り心地と質感、そして高速時の安定性、あとワインディングロードでの軽快感もあるので、全て兼ね備えていると思います。
今回の新型GRスープラはボディ剛性が高いのでサスペンションを固めなくても、きちんとストロークするんですよ。ボディが柔らかいとショックアブアブソーバーとか、一概に何が起こるかは具体的に言えないですけど、固めにしておかないとバランスがとれない。しかし剛性が高いと骨格が安定するので、サスペンションを固めなくてもしっかりと動く。よくできているところですね。
- Q.その乗り心地は一般の人でも感じることができるのでしょうか?
- 他の車よりも、かなり滑らかに走るので誰でも実感できると思います。サスペンションが固い車は田舎道走った時にヒョコヒョコ動くような固さを感じます。新型GRスープラはサスペンションを固めなくてもうまくストロークするので、どしっとした走りでしっとりとした質感を感じられるんです。
- Q.その乗り心地は24時間戦う上で、結構大事なことですよね?
- そうですね。ドライバーに負担をかけないので疲れにくいと思います。実際に24時間レースで走る車は、一般道で走る市販車とは少し違って、スリックタイヤにあわせる関係でサスペンションを固めにしてあります。と、言いながらもそんなに固さは感じずに、気持ちよく走れていますね。
- Q.レーサーにとって、24時間レースを新型GRスープラで走る楽しみは何かありますか?
- 今回のレースで新型GRスープラは結構注目されるはず。その状況でハンドル握っているだけでもワクワクすると思います。それに、注目が集まる中で失敗できないというプレッシャーが選手もスタッフもあるので、いい緊張感を持って戦えるのは良い経験になるはず。このレースの本来の目的は「車を鍛える」「人を鍛える」というもので、勝ち負けではありません。見ている人達は勝ち負けに注目すると思うのですが。チーム一丸となって車を1分1秒でも長くコース上に走らせるのが我々の目的です。
- Q.TOYOTA唯一のスポーツカーであるスープラが、ニュルブルクリンクという過酷なコースを24時間戦う意味は何でしょうか?
- ニュルブルクリンクほど過酷なコースは世界中どこを見ても無いと思います。スポーツカーは、お客様がそれぞれいろんな乗り方をするんですよね。それを踏まえてニュルブルクリンクで追い込んで、悪さを出して改善していく。24時間走ることで良いフィードバックを得られるので、意味があると思います。今回販売した新型GRスープラで開発を終えるわけではなく、さらに進化させる必要があるので、今回得たフィードバックを次のモデルにも反映させて、より安全で安心な車にしていきたいです。
- Q.24時間走り切ることは、そんなに難しいのでしょうか?
- 24時間走る間に様々なところに疲労が溜まっていきます。過去を思い返してみても、VNLでテストを繰り返して良い状態でも24時間レースでリタイアすることだってある。想定外のところで負荷がかかって、思いがけないところが壊れたりする場合もあるので、最後までわからないのですよね。
「自分の意思通りに動く」
のがいい車の定義
- Q.レースが車を鍛えるとおっしゃっていましたが、鍛える必要性はあるのでしょうか?
- 世の中に走っている車すべてが、キレイな路面を走っているわけではない。みんな同じような使い方をしているわけではなく、世界中様々な条件で使われていますよね。一般道で時間をかけてテストをすればいいのかもしれませんが、悪いところが出るまで10年、20年かかってしまう。でも24時間レースを走ることによって、一般道を走る数年分の負担が凝縮されるのです。例えばF1レースでも、そのレースの中で得られた知見が一般車にフィードバックされますよね。耐久性やその他の要素のテストをして製品が完成していくので、そのテストが短時間で行われるがレースの世界ですね。
- Q.スープラを鍛えた結果、どういう車にするのが理想でしょうか?
- 「いい車」の定義は人それぞれだと思うのですが、私は「自分の意思通りに動く」のがいい車だと思っています。ハンドルをきったときに遅れて曲がったり、止まりたいところから伸びてしまったり、100kmまで出したい時に全然でなかったり、もしくは出すぎたり。そういう不満なく意思通りに動く車がいいですよね。人間の動きの法則はだいたい同じなので、そのリズム通りに動ける車が一番いいかなと。現状はかなり近づいていると思います。でもまだやり残していることはある。次のモデルでは今回できていないことをやりたいですね。
- Q.24時間、完走できそうですか?
- 走り切ります。今の状況だと問題ないと思うので、安全第一を心掛けて24時間コース上にいれるようにしたいですね。でも過去に様々なトラブルを経験しているので、完走できるかどうかは何とも言えないです。たくさんテストをして万全だったのに、24時間レースが始まって2時間で壊れたこともあったので。(笑)今のうちに悪いところを出し切っておくように頑張ります。
- Q.24時間走りきる乗り切るために、チームとして大切なことがあれば教えてください。
- チームとして一番大切なのは、ある目標に向けてベクトルが揃うことだと思うので、車を作るところからチーム一丸になって、24時間を完走することを目指していくことが重要だと思っています。チームワークがあれば互いにフォローして協力しながらできるので、新型GRスープラで24時間完走することに近づけるはず。チーフやドライバー、メカニックも一丸となって、新型GRスープラを最後の最後までコース上に居させて、最終的には完走することが目標です。その結果、できれば上位に食い込みたいなと思っています。しっかり走って悪さを出して、不具合が出たら直して、ゴールのフラッグを通過することを目指しています。24時間チームワークを発揮できれば間違いなく結果は出ると思います。その中で新型GRスープラという車のよさを見ていただければ嬉しいです。実際に走っている姿を見ていただければ車の良さが十分わかると思います。ぜひ、応援よろしくお願いします。