9月8日(金)〜10日(日)にかけて、北海道帯広市を拠点として2023年シーズン全日本ラリー選手権(JRC)第7戦「RALLY HOKKAIDO」が開催され、スポット参戦したTGR-WRTのヤリ‐マティ・ラトバラ代表(GR YARIS JP4-RALLY2)が優勝を飾りました。勝田範彦/木村裕介組(GR YARIS JP4-RALLY2)は2位表彰台を獲得、TOYOTA GAZOO Racingは1-2フィニッシュを飾りました。
「人材育成」と「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の実践を目的に、全日本ラリー選手権に参戦するTGR。GRヤリスをベースとする「GR YARIS GR4 Rally」の2シーズンにおよぶ参戦を経て、2023年からは、勝田/木村組がGR YARIS JP4-RALLY2、眞貝/安藤組がGR YARIS GR4 RALLY DATでそれぞれ参戦を続けてきました。
勝田選手がGR YARIS JP4-RALLY2で初優勝を達成した第6戦カムイから約2カ月のインターバルを挟み、チームはシーズン2戦目のグラベル(未舗装路)ラリーとなる「ラリー北海道」を迎えました。このラリーは、世界ラリー選手権(WRC)やアジア・パシフィックラリー選手権(APRC)としての開催実績を持ち、スペシャルステージ(SS・タイムアタック区間であり、タイムが計測されるコース)は狭くハイスピードな区間や、20kmを越える長距離SSなど、バラエティに富んだルート構成が大きな特徴となります。
今回のラリー北海道には、WRCに参戦するTGR-WRTから、ラトバラ代表がGR YARIS JP4-RALLY2でスポット参戦。ラトバラ代表は、かつて帯広・十勝で開催されたWRCラリージャパンに参戦した経験を持ち、同じくドライバーとしてラリージャパンに参戦経験をもつユホ・ハンニネン選手とコンビを組み出走しました。また、モリゾウ選手とレジェンドドライバーのユハ・カンクネンさんが9日(土)、10日(日)の両日でデモンストレーション走行を披露しています。
チームは前戦のカムイで得た知見を活かし、GR YARIS JP4-RALLY2のセッティングを調整。ラトバラ代表も勝田選手とともにテストを実施し、ハイスピードかつ走行距離の長いラリー北海道に向けた準備を進めました。一方、眞貝選手はDAT車両をグラベルラリーに初投入。ラリー北海道では、初めて車両側に変速を任せる「Dレンジ」での走行にトライしています。
ラリーウィーク中に降雨があったため、レッキ(コース試走)の段階では荒れた路面となりましたが、9日(土)になると路面コンディションが回復。ラトバラ代表はスタートから抜群のペースで走行を続け、この日行われたすべてSSでトップタイムを記録し、総合2番手の勝田選手に1分52秒7差をつけて初日を終えました。勝田選手はSS2で総合2番手に浮上すると、その後も安定して好タイムを並べ、ライバルとの差を拡大。一方、眞貝選手はSS2でコースアウトを喫し、その影響によってリタイアを決めています。
ラリー最終日の10日(日)に残された距離は4SS、13.24kmのみとなります。9日(土)の夕方から開催エリアに降り続いた雨は上がったものの、路面には濡れた部分が残る難しい状況に。ラトバラ代表は、ぬかるんだコンディションのSS10イケダこそトップタイムを逃したものの、そのほかのSSを制するスピードを披露、2位の勝田選手に2分16秒4差をつけて、全日本ラリー選手権での初勝利を獲得しました。勝田選手が2位に入ったことで、TGRはシーズン初の1-2フィニッシュを達成しました。
■豊岡悟志(TGR-WRJチーム監督)
ラリー全体を振り返って、ラトバラ代表のすごさにあらためて驚きました。スピードはもちろん、ラトバラ代表とハンニネン選手のラリーに取り組む姿勢ですね。チームメンバーにも丁寧に声をかけてくれますし、ファンサービスの振る舞いなど、その人柄に魅了され、とても勉強になりました。勝田選手はラトバラ代表のペースに追いつこうと一生懸命走ってくれました。多くのプレッシャーがあるなか、しっかりと完走を果たす姿はさすがだなと。一方でリタイアをしてしまった眞貝選手には申し訳なく思っています。ラリーでは日常茶飯事とも言える程度のダメージで走れなくなってしまうようではいけません。あらためて詳細を検証し、解決すべき部分だと思っています。また、今回はモリゾウさんの全日本ラリーを盛り上げようという想いで特別なラリーになったと思います。ラリーショーやデモランなど、全体の雰囲気が盛り上がりましたし、来ていただいた皆さんにもモリゾウさんの想いが伝わったのではないでしょうか。
■ヤリ-マティ・ラトバラ(ドライバー/TGR-WRT代表)
また北海道に戻ってくることができ、優勝できて最高の気分です。2006年に帯広で行われたラリージャパンでは、グループNクラスで優勝争いをしていたけれど、最終日にコースオフをしてしまいましたし、07年は勝利に向けて戦っていたところで、コースオフしてしまいました。今回、3度目にして優勝できたことは非常にうれしいですね。車両の全体的な感触は、かなりポジティブです。来年、この車両をラリー2として正式投入することに向けて、自信を深めることができました。カスタマーにとっては非常に素晴らしいクルマになるはずです。モリゾウさんがWRCの雰囲気を北海道に持ってきたかったという想いは、とても理解できますし、デモランも含め多くの方に楽しんでいただけたと思います。
■勝田範彦(ドライバー)
ラリーの前に、ラトバラ代表と合同でテストをしました。お互いの横に乗って色々と教わったのですが、実際に乗ってみると、ドライビングが自分のイメージに残るので、とても良かったと思います。ラリーでは、どんな路面でもしっかりとタイムを出してくるので、世界の壁は非常に厚いなと。そういう部分で“世界”を感じながら走っていた気がします。もちろんプレッシャーはありましたが、ラトバラ代表と1-2フィニッシュを達成できたのは非常に嬉しかったですね。モリゾウさんも、表彰式のギャラリーの中から一番高いところで旗を振ってくれていて、すごく嬉しかったです。ラトバラ代表と一緒に走れたことは大きな刺激になりましたし、参考になりました。また来年も来てほしいなと思います(笑)。
■眞貝知志(ドライバー)
今回、DATを初めてグラベルラリーでの実戦に投入しました。SS1は自動で変速作業をするDレンジで、SS2は途中までドライバーが操作するMレンジで走り、それぞれの走り味の違い、クルマの挙動の違いを確認することができました。Dレンジのままでも気持ち良く走れることが分かりましたし、一方で、“もう少しこういうタイミングでギヤが変わってほしい”という課題も見えました。リタイアとなってしまいましたが、今後に活かせるデータが少しは得られたかと思います。次戦はまたターマックラリーに戻りますが、今回見えた課題はターマックラリーの仕様にも織り込めると思っています。トランスミッションの制御がとても進み、楽しく走れるようになっていますので、次戦もDレンジで走りたいと思います。
■行木宏(GRヤリス Rally2 プロジェクトリード)
Rally2車両の開発にあたり、フィンランドのTGR-WRTに赴任し、開発、生産、事業計画などプロジェクト全般を担当しています。私たちは普段ヨーロッパを中心にテストをしているので、走らせ方が違う色々なドライバーに乗っていただけることはとても貴重な機会です。今回、ラトバラ代表と勝田選手が同じ道で、しかも実戦の場で走るということは、貴重なデータを得られる機会となりました。もう少し使いやすさを改善できるのではないかという部分もありましたし、日本の道に合わせたセットアップについても大きな成果を得られたと思います。開発の段階としては後半に差し掛かっていますが、Rally2車両をお客様にお届けする時には、さらにいいクルマにできるように、引き続き努力していきます。
■ルイス・アレン(TGR-WRTラリーエンジニア)
TGR-WRTで、Rally2車両の競争力を高めるための開発に携わっています。現状、全日本ラリー選手権でライバルを相手に自分たちのクルマをテストできていることは、非常に重要です。通常の開発工程でもテストは行いますが、実戦はテストとまったく異なります。実際のラリーではロードセクション、パルクフェルメ、時間制限のあるサービスなどがありますから。将来、私たちのクルマを選んでくださるカスタマーのために、様々な国のあらゆる路面で機能し、いかなる季節でもドライブできるクルマを作ることに挑戦しています。勝田選手やラトバラ代表から得た情報すべてが、クルマをさらに良くするために重要なものです。今回の素晴らしい結果は、このプロジェクトにとって追い風と言えるでしょう。
■山下直人(勝田号エンジニア)
今回のラリーも勝田選手のラリーエンジニアとして、勝田選手自身がベストを尽くせるようサポートをしています。前戦から2カ月が空きましたが、その間にテストを行い、車両のセットアップを詰めてラリーに臨みました。勝田選手にはテストで試したセットアップから大きな変更をせずに走っていただきましたが、攻めるところは攻めて、カムイの段階と比べるとタイムも詰められていると思います。ドライバーが乗りやすく、タイムも出るというようなセットアップの方向性が徐々に決まってきたという手応えを感じます。次戦はターマックラリーですが、同じようなセットアップ、ドライビングの方向性を狙うことで、さらに良いタイムを出せるのではないかなと思っています。
■坂本祐樹(眞貝号エンジニア)
今回、DAT車でグラベルラリーに初めて参戦するにあたり、ある程度の時間をかけてテストと検証を行い、ラリー北海道に挑みました。DATのメリットは、駆動をかけ続けられる点にあります。MT車がクラッチを切って変速操作を行っている分のロスがなくなり、どなたでもアクセルを踏めば同じようなスピードで加速することができます。今回は残念ながらリタイアという結果となってしまいましたが、眞貝選手からは、変速操作が不要のDレンジ、ドライバーが変速操作を行うMレンジともに好評をいただきました。次戦は久しぶりのターマックラリーとなりますが、ひとつでも上の順位を目指して取り組みたいと思います。
■タパニ・ブオリネン(ラトバラ号チーフメカニック)
今大会では、ラトバラ代表のクルマのチーフメカニックを務めています。普段はラリー1車両に携わっていますが、今年は日本で勝田選手のラリー2車両の作業に多く携わっています。来週はラリー1のテストもあるので、忙しいですね(笑)。車両開発には色々な手法がありますが、全日本ラリー選手権への参戦もその一環です。ラリー北海道は滑り出しから好調で、ラリーの中でもすでに進化を続けています。ラトバラ代表は非常にフレンドリーで、同じフィンランド人として誇らしく思います。誰もが彼のことを好きですよ。今回、ラトバラ代表と勝田選手が素晴らしい結果を残してくれたことで、車両開発が正しい方向へ、正しく進んでいることが裏付けられました。長年のキャリアを持つふたりの経験があればこそ、素晴らしいフィードバックが得られていると感じます。
■藤井亮輔(ラトバラ号/勝田号メカニック)
今シーズンは勝田選手のクルマをメインで担当しておりますが、今回はラトバラ代表のクルマの右リヤと勝田選手のクルマの左リヤを両方担当しました。大きく変化する路面コンディションの中、ラトバラ代表の優勝、勝田選手の2位表彰台に貢献出来、大変嬉しく思います。今回、2台の車両を経験させて頂き、TGR-WRTのサービスに対する事前のアクションの違いを肌で感じ、本当に勉強になりました。例えば、ホイールのナット部分にテープを貼って、泥が入らないように工夫することで、サービスでナットの泥を落とす時間のロスをなくすことができます。こうした点は、勝田選手のクルマを整備する際にも採り入れていきたいと思いました。また、事前のテストでも、ラトバラ代表と勝田選手のクルマではダメージが入る箇所が異なるなど、ドライバーによる違いというものも勉強になりました。
■升田孝輔(眞貝号メカニックリーダー)
前戦のカムイではMT車での参戦でしたが、今回はDAT車両での参戦です。差をしっかり見比べるべく、テストなどを経て取り組みを行ってきました。DAT車両は初めてのグラベルラリー実戦ということもあり、眞貝選手とも話をして序盤は落ち着いたペースで入ってもらったのですが、スムーズにラリーをスタートできた点では手応えを感じました。SS2でリタイアということになり、眞貝選手には申し訳なく思っています。このクルマはまだまだ実戦でのデータ蓄積が浅く、弱点や“ここを補わなくてはいけない”という部分がまだまだ洗い出せていない、予想できていなかったということが今回の大きな反省点です。次戦のハイランドマスターズに向けてしっかりと対策を取って臨みたいと思います。
■千葉智文(GRガレージ札幌厚別通)
この度初めてラリーメカニックとして、眞貝選手の左リヤの足まわり担当させて頂きました。今回残念ながらリタイアになってしまいましたが、普段触ることがないラリー車両の整備に携わることができ良い経験になりました。車両トラブルの為サービス整備を行うことはありませんでしたが、チームでトラブルの原因究明に対する姿はまさにモータースポーツを通じたクルマづくりのワンシーンを見れ貴重な体験をすることができました。Rally2車両のサポートにも携わることができ、ヤリマティ・ラトバラ選手のフィンランドメカニックのサービスを間近で拝見することができました。今回ラリーメカニックを経験させていただき、コミュニケーションの大切さや効率的な作業、トラブルに対する姿勢を店舗に戻ってからの業務に活かし、他スタッフにフィードバックしていきたいです。
全日本ラリー選手権第7戦RALLY HOKKAIDO
JN1クラス最終結果
1 ヤリ-マティ・ラトバラ/ユホ・ハンニネン(GR YARIS JP4-RALLY2)
1:15:51.0
2 勝田 範彦/木村 裕介(GR YARIS JP4-RALLY2)
+2:16.4
3 ヘイキ・コバライネン/北川 紗衣(シュコダ・ファビア・ラリー2 Evo)
+3:06.8
4 新井 敏弘/保井 隆宏(スバルWRX S4)
+4:32.7
5 金岡 義樹/フラビアン・ビダル(シュコダ・ファビアR5)
+18:15.7
R 眞貝 知志/安藤 裕一(GR YARIS GR4 RALLY DAT)
参戦9台、完走5台
TOYOTA GAZOO Racingは、「もっといいクルマづくり」のために「人を鍛え、クルマを鍛える」活動の一環としてGRヤリスで全日本ラリー選手権に参戦し、将来の車両開発に活かします。
TOYOTA GAZOO Racingの全日本ラリー選手権(JRC)における活動は、パートナー企業の皆さまによって支えられています。