崖っぷちから掴み取った頂点 前編(1/2)
「今年ダメだったら"レースを辞めるしかない"」
昨年は石浦宏明をチャンピオンに押し上げたP.MU/CERUMO・INGING。もちろん、2016年シーズンはドライバーズの連覇と初のチームチャンピオン獲得を目指します。その意気挙がるチームの中、"崖っぷち"で開幕を迎えたのが、国本雄資でした。昨年チームタイトルを逃したのは、自分がポイントを獲れなかったから。今季結果が出なければ「辞める覚悟をしていた」と言います。前編では、2人に加え、立川監督、浜島総監督にシーズン前から、開幕戦の後までを振り返ってもらいます。
チーム全体の実力がついた結果が
チャンピオンの連覇に繋がる
―― 今季は国本雄資選手がドライバーズチャンピオンを、P.MU/CERUMO・INGINGはチームチャンピオンを獲得しました。シーズンが終わった今、どんなお気持ちですか?
国本雄資(以下、国本) 長いシーズンが終わってほっとしています。でも、もう来シーズンに向けて準備をしないといけないので、不安な気持ちもあります。今年はスーパーフォーミュラで念願のシリーズチャンピオンになりましたけど、心境は特に変わりません。喜んでいられたのはレースが終わって3日間くらいでした。
立川祐路監督(以下、立川) 昨年は石浦がタイトルを獲って、今年は国本が獲って、P.MU/CERUMO・INGINGとしては良いシーズンでした。監督という立場からすれば、チーム全体としての力がついてきたなと。「たまたま」では2年連続タイトルはありえない。チーム全体の実力がついた結果だと思います。
―― 石浦宏明選手は今年をチャンピオンとして迎えたわけですが、タイヤが変わるなど大きな変化もありましたね。
石浦宏明(以下、石浦)
ヨコハマタイヤに代わるので、特性はどう変わるのか予想をたててテスト項目を国本と2台で共同していろんなことを試しました。でもちゃんとひとつずつクリアして迷うことなく2台で正しい方向へ持って行けたと思います。
決して最初から完璧だったわけではないけど、シーズンを通して理解を深めて行けました。ぼくと国本は、レースが始まったらお互い(ライバルとして)戦うけれど、その手前の段階ではしっかり情報を共有している。そうすることでチームの実力が発揮できたと思います。
仲の良い非体育会系のP.MU/CERUMO・INGINGを
浜島総監督が引き締める
―― 今年は浜島総監督がチームに加入して、よりチーム体制が充実しましたね。
浜島裕英総監督(以下、浜島)
以前からセルモの佐藤正幸代表に誘われていて、今年チームに加入したんです。でも、チャンピオンを獲ったチームに加わるのは一番嫌な状況ですよね(笑)。これは(成績下げたら)えらいことだと思いました。
加入して感じたのは、まず石浦選手がチームを引っ張っていること。それから今年、国本選手が少しずつ「自分はこういう風にしたいんだ」という意思、方向性をしっかり自分で出すようになってきたことです。開幕当初はパートナーがチャンピオンを獲っていたのに、自分は昨年あまり成績がよくなかったということもあって、追い詰められた気持ちだったんでしょう。そこから彼には"自分が何をしなくちゃいけないか"、"チームに何を要求していかなければいけないか"をクリアにするようしてもらいました。とにかくP.MU/CERUMO・INGINGは、若くて明るくて前向きなチームだなと思いました。さらに昨年石浦選手がチャンピオンを獲って、自分たちでしっかりやれば勝てるという自信を持っているようでしたね。
チームの平均年齢は若く、みんなが仲間として一緒に戦っているという雰囲気を大切にしている
立川 確かにチームの平均年齢は若いでしょうね。でも優秀な人間がそろっています。若くて年齢がみんな近いので、仲が良くてそれが強みになっていると思うんです。レース界は基本、体育会系の世界ですけど、うちのチームはそういう上下関係に縛られる縦社会ではなく、横でつながっている感じ。みんなが仲間として一緒に戦っているという雰囲気ですね。メカニックというのは休みも少なくて夜遅くまで仕事があるし、つらい仕事環境です。それを続けるためには、やっていて楽しくなければいけないと思っているんです。
浜島 今年最初にメカニックたちに取り組んでもらったのは、ピットストップの練習でした。これは徹底してやってもらいました。選手をレースに送り出してしまったあと、ガレージサイドでできることはピットストップで時間を稼ぐことくらいしかないですし。ドライバーがコースでコンマ1秒を稼ぐのは大変だけど、ピットで1秒ロスするのは簡単です。それで冬の間から、しっかり練習をしてもらいました。
―― ドライバーとしてもピット作業を速くしてもらいたいという要望をしたのですか?
石浦
チームに力がついて、徐々に僕と国本が表彰台に上がるのが当たり前になると、これに加えてもう少しピット作業が速かったらという気持ちが生まれてきました。それで「僕らもがんばりますから、ピットでもがんばってください」とお願いすることにしました。うちのチームは、ドライバーが速く走れなかったときにもドライバーのせいだけにせず「なぜ速く走れなかったか?」ということをピット側からも一緒に考えてくれるんです。
昨年国本が速く走れなかったとき、実際にクルマ側で問題が見つかって、みんなで解決することができた。そういう環境はドライバーにとってもありがたいです。もしドライバーが「ピット作業を速くしてくれ」と言ったとき、もしメカニック側が「それ以前にお前が速く走れ」となったら悪循環になってしまう。でも、うちはそうならなかったんです。