崖っぷちから掴み取った頂点 中編(1/2)
「最終戦に巻き返せるという自信」
2016年の開幕戦で2位表彰台に上がった国本雄資選手は、チームにモノコックを換えることを要望しました。開幕戦で結果が出たにも関わらず、どうしてなのか? そして立川監督らチームはどう答えたのでしょうか? 厳しいレースが続いたシーズン中盤戦を国本選手はじめ、石浦宏明選手、立川祐路監督、浜島裕英総監督の4人が振り返ります。中編では、国本選手の真意に加え、彼らの走りをバックアップしたトヨタのエンジン"RI4A"についても語っていただきます。
昨年から感じていたモノコックの不具合。
結果を出せなければ言えなかった
―― 国本選手はシーズン途中で「モノコックを換えてほしい」とチームに要望したということですが、どういう経緯でしたか?
国本 昨年から、僕の使うモノコックに問題があると感じていたので「モノコックを換えてください」と言おうと思っていたんです。ですが、昨年の成績でそれを言っても聞いてくれないだろうし、そのためには今の道具でベストを尽くして、その上で「これではチャンピオンが獲れないから、もっといい状態で戦いたい」と言おうと心に決めていたんです。
ドライバーが乗り込む部分であるモノコックの交換は、コストも掛かるためチームにとって大きな決断となる。
石浦 1年前の11月のテストでは、僕も(自分と国本の)2台乗り比べて違いを確かめました。実際、モノコック自体にへこんでいる場所があって、それが原因ではないかとかいろんな仮説を立ててはいたんです。でも、最後は今シーズン途中で国本が自分で主張したことから、モノコックを換えることになったんです。
浜島 難しいところでしたよね。国本君は、昨年のクルマのまま今年の開幕戦で2位に入るような成績を出してしまったから「本当にモノコックに問題あるのかなあ」ということにもなりますからね。
国本
鈴鹿の開幕戦で2位、岡山の第2戦で6位だったんですけど、ずっとモノコックの問題は感じていました。このままではチャンピオンは獲れないと思ったので、第2戦が終わった後でお願いすることにしました。
モノコックを換えてダメだったら、それが(自分の)実力だということで"辞めるしかない"と覚悟しました。それくらい(今季に)賭けていました。だから、自分の納得いかない状況でやりたくなかった。クルマも自分もベストな状況でやってチャンピオンを獲りたいと思ったんです。
立川
国本の、今年に賭ける意気込みは感じていました。国本はストイックなので、僕とか石浦以上にすべてそこに賭けていたように思います。それを感じているからこそ、モノコックを換える方向に、みんなの気持ちも動かされていったんでしょうね。
それ以外も、今年は国本にみんなの気持ちが動かされたと思う。昨年すごく悔しい思いをして、やはり変わったんでしょうね。
シーズン後半のエンジンは
パワーもドライバビリティもより向上した
―― モノコック、車体の方は新たになってパフォーマンスが上がったわけですが、トヨタエンジンの方はいかがでしたか?
国本 1年間を通してすごくパワーがあったし、第4戦もてぎから出た新しいエンジンもそれにプラスアルファでドライバビリティ(※1)が向上して、パワーも上がって。ライバルのエンジンに対してはアドバンテージがあったと思います。
(※1)・・・ドライビングへの追随性能。パワーがこれだけ欲しいとアクセルを踏んだ量に合わせて速やかにそのパワーを出すこと。
石浦 今年の2基目のエンジン(※2)のベースモデルを一番にテストしたのが、国本だったんだよね。
(※2)・・・スーパーフォーミュラでは原則年間2基のエンジンが使用でき、折り返しの第4戦より新しいエンジンが投入される。
国本
その段階ではけっこうまだ問題があって...。パワーは1基目よりあると感じました。でも、ドライバビリティが良くなかったんです。そこからトヨタの人たちがすごくがんばってくれて、合わせ込んでくれました。
そこを改善してくれたおかげで、実際にレースで使うときは、パワーと同時に低回転からトルクが出て、本当にドライバビリティも良くなっていました。
石浦 最初国本がテストして「ドライバビリティがもう少しだった」と聞いていたんだけど、実戦投入したときにはものすごく良くなっていましたね。 今使っている"RI4A"はターボエンジンですが、以前のNAエンジンよりもフラットトルクで、アクセル操作に対してリニアに回ってくれてパワーが出るんですよ(※3)。ドライバーの好みにも幅広く対応できるし、単純なパワーだけではなくて実際にタイムにつながるドライバビリティが実現しているよね。
(※3)・・・ターボエンジンは排気ガスの力を利用しているため、アクセルの開閉に対してターボラグという遅れが出てしまう。そのため、どの回転域でも均等(フラット)にトルクが出ることや回転の上がり方がアクセルにリニア(比例)なることが技術課題になる。