崖っぷちから掴み取った頂点 後編(1/2)「もっと強くて速いチャンピオンになる」

崖っぷちから掴み取った頂点 後編(1/2)
「もっと強くて速いチャンピオンになる」

ドライバー2人ともに下位に沈んだ第6戦SUGO。最終戦を前に苦境に陥ったP.MU/CERUMO・INGINGだったが、鈴鹿でのレースには自信を持っていたと立川祐路監督は言います。そして、チームがクルマに施した策とはなんだったのでしょうか? チャンピオンを巡ってチームメイトで争う国本雄資選手と石浦宏明選手、それを見守る立川監督、浜島裕英総監督、それぞれの胸中はいかに。最終回となる後編では、最終戦鈴鹿の戦いと来季へ向けてのメッセージを語っていただきました。

SUGOで苦しんだからといって
鈴鹿に向けてやたらとクルマはいじらない

―― 大苦戦のSUGOの後、国本、石浦両選手は最終戦鈴鹿でチャンピオンを争ったわけですが、チームの状況はいかがでしたか?

立川 SUGOは悲惨な状態でしたが、実は鈴鹿へ向けては特別な対応は何もしませんでした。もし焦ってクルマを変えてしまったら、鈴鹿でもいい結果は出せなかったと思います。うちのチームは、そこをきっちり判断ができたんです。

石浦 SUGOで速かったITOCHU ENEX TEAM IMPUL とうちのタイヤに対するコンセプトが、実はまったく違うんですよ。だから「鈴鹿へはSUGOのまま持って行った方がいい」と、ちゃんと考えて、敢えてそのままにしました。 実は僕も国本も「このままで最終戦大丈夫なのか?」と心の中で焦っていたんですよ(苦笑)。でもチームがきちんと考えて「鈴鹿へ行けば大丈夫!」と判断してくれた。最後に国本がチャンピオンを獲った大きな要因は、そこにあったと思います。

石浦宏明と国本雄資

立川 タイヤが(ヨコハマに)代わってから、コンディションやセットに合っている合っていないがシビアに出る感じですね。

浜島 今年のタイヤはスイートスポットが狭いから、そこを外したクルマは苦労するし当たるとすごく速くなる。おそらくタイヤの状況管理が非常にセンシティブなところにあるので、そうなっているんだろうと理解しています。
それでもテストを何度もすれば、SUGOでも速く走らせることができるでしょう。しかし、現状ではテストはほとんどできないので、むやみやたらにクルマをいじるとかえってむちゃくちゃになってしまう危険性があるわけです。

立川 わけもなくSUGOで苦戦したのではなくて、セットのコンセプトが違うということはわかっていました。それで鈴鹿へ向けて、慌てないで済んだのだと思います。その点で、他のチームよりちょっと良かった点かもしれないですね。

ダブルポールを獲得したP.MU/CERUMO・INGING 1号車の石浦宏明

石浦が貫禄のダブルポール。
監督としても見ていておもしろかった最終戦

国本 でも僕自身は、鈴鹿の予選の直後には、石浦さんがダブルポール(※1)を獲っていたので、「ああ、90%くらいは終わったな」と思いましたね。

(※1)・・・最終戦鈴鹿は2レース制で、予選Q1でレース1の、最終結果でレース2のポールポジションが決まり、それぞれポールポジションのポイント1点が与えられる。

石浦 めっちゃ悔しがっていたもんね(笑)。

国本 でも「スタートで抜くしか、もうチャンスはない」と思って、逆にふっきれました。だから変なプレッシャーもなくなった。いつものレースなら周囲の状況を考えながらスタートするんだけど、レース1は「もうスタートで前に行くしかない」と集中して、気合いだけでスタートできたんです。
それがうまくいった。実は前日、スタート練習をしたとき少し問題があったので、トヨタのエンジニアに相談したんです。それで、いくつかパーツを換えてもらったりして、完璧な状態にして日曜日の朝を迎えました。

最終戦鈴鹿に挑む国本雄資
国本は前日にトヨタのエンジニアに相談してパーツ交換をするなど、入念に準備して決勝日を迎えた

石浦 僕はスタートした瞬間、体感で悪くないなと思ったんですが、自分が操作してからクルマが動き出すまでに若干タイムラグがあった。後で、少しクルマ側に問題があったということがわかりました。
国本はスタートに向けてパーツを換えましたよね。そこまで追求して、それでスタートはうまくいったということを考えると、僕ももっと早く訴えていたら何か変わっていたかもしれない。そういう部分で国本に負けたという面はあったのかなと思っています。

立川祐路監督

立川 2人の戦いを見ていると、監督としては"おもしろいレース"でした。すごくシビアなレースを2人ともしていた。予選ダブルポールを獲ったときには、チャンピオンに一番近かったのが石浦だったと思う。厳しい立場で最終戦に来てそこでダブルポールを獲るんだから「さすが貫禄がついたな」と思いましたよ(笑)。
レース1のスターティンググリッドでは、カメラマンはみんな石浦のところへ行っていましたよね。ところがスタートで国本がトップに立って、1周目トップで帰ってきた。国本は無線で「よっしゃぁ〜!」って叫んでいたよね。それだけ国本はスタートに賭けていたんだね。手が上がりかけてて、半分ガッツポーズ出ちゃってた(笑)。

レース1のスタートで国本雄資が見事にトップに立った
レース1のスタートで国本雄資がトップに立ち、見事に優勝を飾った

国本 出ちゃっていましたね(笑)。

石浦 まだ1周目なのに(笑)。

立川 それで国本がポイントでリードして、レース2のグリッドでは今度は石浦のところから人がいなくなって、国本のところへ集まっていました(笑)。2人の戦いはチーム内から見ていてもおもしろかったよ。

鈴鹿戦を振り返る立川祐路監督、石浦宏明、国本雄資、浜島裕英総監督