LEXUS GAZOO Racing

SUPER GTを伝える仕事を担う女性たち 前編(2/2)

「きっかけはそれぞれでも、レースに魅せられて」

SUPER GTを伝える仕事を担う女性たち 前編(2/2)「きっかけはそれぞれでも、レースに魅せられて」
PRナビゲーターの仕事について話す渡辺順子さん

「チームのものづくりに感激して、レースを伝える仕事がしたいって思いました」
PRナビゲーター 
渡辺 順子(わたなべ・じゅんこ)さん

渡辺順子さん(以下、渡辺) 細田さんのお話を聞いてびっくりしたんですけど、私、前職がファッションデザイナーだったんです。デザイナーを辞めたときに、モデルの友人に誘われて事務所に入り、クレインズ(富士スピードウェイのイメージガール)に。 富士スピードウェイでのお仕事は、いろんなレースを見せていただけたし、モータースポーツ初心者の私にとってはとても幸いなことでした。喋るお仕事もありましたし、すごくいい経験でした。でも、レースを見ているうちに、「レースをもっと近くで味わいたい!」「勝ったらみんなで泣いたりしたい!」と思って、チームのレースクイーンになったんです。 実際にチームに入ったら、とにかくメカニックさんに目が釘付けになって...。私もデザイナーとしてものづくりに携わっていたので、徹夜でクルマを直したりする姿に感激してしまいました。 その経験を経て、現在はZFモータースポーツアンバサダーをしています。

ZFアンバサダーとしてZF AWARDを手渡す渡辺順子さん

今井 木戸さんのキッカケ、面白いですね!反骨精神!(笑)

細田 レースはレギュレーションも細かいから、こっちが理解していないとちゃんと伝えられないのよね。それが難しい。

今井 細田さんは現在、SUPER GTのレクサスブースで通訳もしていただいています。苦労はよくお判りになるのではないですか?

細田 トークショーならまだしも、レースでは言葉をきちんとドライバーに伝えないと、彼らがペナルティーを食らったりミスをしたり、チームに怒られたりしてしまうから、まず私たちが120%理解していないといけない。レギュレーションブックは英語版もあるけど、やっぱり日本独特のルールもあるしね。例えば四輪脱輪※3の解釈なんていうことにも海外レースとは違いがあるから。

※3 四輪脱輪:走路外走行とも言う。レーシングカーはサーキットのコースである道路部分(走路)を走らなければいけない。走路からクルマの4輪すべてがはみ出した場合(四輪脱輪)、走路外を走ったとしてペナルティ(罰則)が科される。コーナーの縁石(2色で塗り分けられた部分)は走路外に当たるが、ここへのタイヤの掛かり具合はオフィシャルや審査委員会の判断となる。この解釈や判定で該当のドライバーやチームが意見を申し立てが希にあるのだが、判定は審判の権限であるため判定が覆ることはない。

木戸 モータースポーツでは、私がもし間違えてしまったらダメージが大きい。だから間違って伝えたと思ったら(選手を)追っかけてでも訂正しにいくの。

今井 ペナルティーだけではなくて、時に人命にも影響しますものね。

木戸 そう、大会の運営に関わる、ということだけではなく、違った認識でコースを走るということ自体が危険行為にあたるときもあるから。

  • 木戸敦子さん
  • 渡辺順子さん
モータースポーツMC/自動車ジャーナリストの仕事について話す今井優杏さん モータースポーツMC/自動車ジャーナリスト 今井優杏さん

「レースのMCをしたいと言う中高生に最低でも英語は話せるようにと言っている」
モータースポーツMC/自動車ジャーナリスト 
今井 優杏(いまい・ゆうき)さん

今井 国内のレースでも英語の必然性は年々高まっていますね。私のところには最近、どうやったらMCになれますか、という中高生からの問い合わせがとても多いんです。そのたびに、「最低でも英語は話せるようになっておきなさい」と言っています。もし、私にトークショーレベルで完璧に英語を話せるような語学スキルがあったら、もっとやれることがたくさんあったなと、そこだけは後悔しているから。

木戸 ただ、言語というのはツールだから、釘を打つのにトンカチが必要なのと同じことで、要は釘が打てればいいのよ。トンカチがなかったらレンガで叩いてもいい。だけど、きれいに釘を打ちたかったらいいトンカチが必要ですよ、ということよね。

今井 レンガとトンカチの違いがプロとアマの差というわけですね。

細田 そうね、もしレース業界を目指すなら、エンジニアでもメカニックでもMCでも、どんな職であれまずできるだけ若いうちに海外に出たほうがいい。それは言葉だけじゃなくて、外国人の価値観を知るという意味でもね。

木戸 でもね、ドライバーによっては「バーっ!」とか「ガーっ!」とかいうクルマの表現をする人がいて、そういうのはもう何語にも訳せないのよね(笑)

一同 (爆笑)

渡辺 そういうのこそ一番難しそう! ニュアンスですもん!

木戸 実は擬音語のバリエーションって、日本が一番豊かなんですって。例えば「ドアをバタンと閉める」の「バタン」という言葉は英語にはないのね。「Slam the door」と言うんだけど、それは「バタン」じゃないわけ。

今井 では外国人ドライバーは、クルマの挙動をどう表すんですか? たとえば、路面やステアリングからのインフォメーション※4に対して「コツコツする」なんて言うときは?

※4 インフォメーション:ドライバーは走行中に路面やクルマの状況を、身体全体で感じ取っている。この時に判断の元となる振動や感触などが、インフォメーション(情報)である。

細田 「Bumpy」かしら。その辺はドライバーも伝えようという努力はするのよ。だけど、日本語のきめ細やかな表現は難しい。だから私は、自分がマネージメントしているドライバーと、サーキット以外の時間であってもなるべく多く一緒に過ごすことも大事にしているの。会話して、お互いの理解を深めるっていうことの積み重ねが、いずれ勝ち負けにもつながると思う。国籍が違っても人間同士だからね。

記念撮影をする今井優杏さん、細田真美子さん、木戸敦子さん、渡辺順子さん

<前編 あとがき>
一言で「伝える」と言ってもそのバックボーンは様々で、特にルールや状況がシビアなモータースポーツでは大変な苦労と努力があったようですね。 後編では、彼女たちのお仕事の内容を掘り下げてお聞きしたいと思います。そこには、裏話と言うよりも、プロのプライドも見え隠れして......。特に、レースのお仕事をしたいという夢を持っている女の子には必読かも知れませんよ。