- Round5
- スーパー耐久 第5戦 岡山
レポート
レースの神様が与えた試練。無念の接触により優勝を逃す
岡山県の岡山国際サーキットで行なわれた、スーパー耐久シリーズ2016第5戦「スーパー耐久レースin OKAYAMA」。第4戦の富士の9時間に対して3時間と、S耐としては短めのレースである。今回は第2戦(菅生)と同じく、ST-X、ST1~ST3クラスの「グループ1」、ST4/5クラスの「グループ2」に分けての2レース開催。ただし、今回は決勝がどちらも日曜日で、グループ2は午前、グループ1は午後の開催となった。
マシンは前戦の反省を元に、ウィークポイントの一つであるブレーキ周りの改良や新型86用の吸気系の採用、更に細かいアップデートを実施。その効果は木/金曜日の練習走行から表れ、ドライバーからも「悩んでいたことがほぼ解消された」、とポジティブなコメントはもちろん、フリー走行ではトップタイムを記録。セットアップも満足できる結果となった。
22日(土曜日)、13時から行なわれたAドライバー予選は松井孝允選手が1分42秒378で1位。Bドライバーの井口卓人選手も1分42秒436と、総合トップの41号車(TAKUMI ×HERO’S SSR ings S2000)と0.115秒差で2位。合計タイムにより、今年4回目となるポールポジションを獲得した。今年は予選が速いが、ドライバーはもちろんチームの頑張りの結果だ。つまり“チーム力”の成果である。
23日(日曜日)の決勝。1日2レース開催のため、普段のレースよりも大幅に早い8時35分。スタートドライバーの松井選手は1周目から2位以下を引き離してトップを走行。スタートから約1時間20分、LAP41で井口卓人選手へドライバーチェンジ。一旦4位に落ちるものの、着実に順位を上げLAP51にトップに。10時39分、LAP66で蒲生尚弥選手へドライバーチェンジ。この時タイヤ交換も行なったが、ピット作業時間を若干ロス。2位でコースに戻った。トップの13号車(エンドレス)との差は約4秒。ここから蒲生選手の追い上げが始まり、LAP84のコーナーで逆転。トップに返り咲いたが、バックストレート先のヘアピンで何と2台が接触。右側ホイールにダメージを追ってしまい緊急ピットイン。タイヤ交換のみでピットアウトするが順位を大きく落としてしまった。その後、追い上げを試みるが、レコードラインにオイルが撒かれたことでセーフティカーが導入、そのままレース終了となり、86号車は8位でゴールとなった。
13号車ENDLESS ADVAN 86はトップでゴールしたものの、86号車TOYOTA Team TOM’S SPIRIT 86との接触に対してペナルティが課せられ、決勝結果に30秒が加算され3位。シリーズポイントは13号車が110ポイントに対し、86号車は89ポイントと21ポイント差。しかし、最終戦で86号車がポールトゥウインを決め、13号車がリタイヤならシリーズタイトル獲得の可能性が残されている。もちろん、首の皮一枚繋がった僅かなチャンスだが、負けたままでは終われない!!
松井孝允選手
「接触してしまったのは残念ですが、勝てなかったことも事実。それを受け止める必要もあります」
井口卓人選手
「言葉がありません。予選のノルマは達成できましたが、決勝は達成することができませんでした」
蒲生尚弥選手
「接触に関しては相手の言い分もあると思いますが、結果が全てなので…。残念です」
影山正彦監督
「練習走行から予選、決勝も途中までは順調だったのですが…、今回の結果は『残念です』としか言いようがありません」
ライバルチームピックアップ
インタビュー「86で競い合うライバルたち」
●13号車 ENDLESS SPORTS
村田 信博 選手/小河 諒 選手/元嶋 佑弥 選手
-残り2戦、どのように戦うのか?
村田 信博(以下、村田):86でチャレンジして4年目、最初は苦しい時期もありましたが、今年はマシンもかなり仕上がってきています。このチャンスを逃すことはできません。当然狙うはシリーズタイトル。86号車は強敵ですが、胸を借りるつもりで頑張っています。
小河 諒(以下、小河):予選の速さは86号車が上ですが、我々は(ブレーキメーカーが母体のチームで)ブレーキには強みがあるので勝負ができている状態です。ただ、S耐は速さだけでなくチーム力も大事なので、毎戦接戦でいいレースができていると思います。まだ、どちらに軍配が上がるか解らないので、我々も常にプッシュしています。
元嶋 佑弥(以下、元嶋):(部品を供給して頂いている)色々なメーカーの力に支えられているので負けらない…と言う想いが強いですね。これが前回(富士)の逆転優勝に結びついています。今年はマシンも進化していますが、当然トムススピリットさんも努力されているので、それ以上に努力しないとダメですね。
-86号車 TOYOTA Team TOM’S SPIRITをどう見ている?
元嶋:強敵です。ドライバー3人はパーフェクトで速いし、チームもほとんどミスもない。だから、我々もミスができないし、逆にギャンブルにでなければいけない事も。その駆け引きも面白いですが。
小河:憧れもありますよ。僕はワークスドライバーに選ばれなかったので、彼らを実力でやっつけたい…と言う想いはあります。
村田:ST4にもプラチナドライバーを作って欲しいと思うくらい、ドライバーのレベルは高いと思います。
●52号車 埼玉トヨペットGreenBrave
脇阪 寿一 選手/脇阪 薫一 選手/松田 晃司 選手
-残り2戦、どのように戦うのか?
脇阪 寿一(以下、寿一):去年シリーズタイトルを獲得していますが、今年は苦戦している状態です。もちろん常に勝ちを狙っていますが、我々はディーラーチームなので、モータースポーツでの経験を販売店業務に役立たせることも重要。そういう意味では、成績以上に結果は出ていると思っています。
脇阪 薫一(以下、薫一):他の86チームのレベルアップが凄いので我々も気を抜けません。ST4クラスも本気でやらないと上位を目指せない、それくらいレベルが上がっていると思います。
松田 晃司(以下、松田):僕らは常に本気で戦っていますが、なかなか上手くいかない部分もあるのも事実です。ただ、そんな中でもマシンもメカニックも短期間で物凄い成長を感じています。
-86号車 TOYOTA Team TOM’S SPIRITをどう見ている?
寿一:86号車しか見ていません(笑)。どんどんクルマを速くしてレベルを上げすぎです。最終戦、面と向かって行けないと判断した場合には、3人のドライバーにプレッシャーをかけたいと思います。ただ、監督は影山先輩なので何も言えませんが。
薫一:いい意味で意識しています。前戦(富士)では、レース終盤の86号車とエンドレスのトップ争いが白熱しましたが、チームから無線で『絶対に邪魔をするな』と。なので、我々ほど86号車にコースを譲ったチームはありません。なので、逆の立場になったらよろしくお願いします。
松田:井口選手とはプライベートでは仲もいいですし、松井選手にはこの前ゴルフをみっちり教えるなど、レース以外でも駆け引きしていますが、コース上では真剣勝負、負けるわけには行きませんね。
●55号車 AUTOFACTORY
たしろ じゅん 選手/伊藤 毅 選手/小野田 貴俊 選手
-残り2戦、どのように戦うのか?
たしろ じゅん(以下、たしろ):実は意気込みはありません(笑)。現在のランキングは、プライベーターとしての自分たちが行けるポジションとしてはトップだと思っていて、ちょっと出来すぎな部分もあるかな…と。なので、更に上を目指すのではなく、今のポジションを守りたい…と言う想いのほうが強いですね。『打倒ワークスチーム!!』と周りはよく言いますが、それをやっていたらお金がいくらあっても足りません(汗)。それよりも、プライベーターの中でトップになるほうが名誉。なので、残り2戦は他のプライベーターに追いつかれないように、前を見ずに後ろを見ています。
伊藤 毅(以下、伊藤):今年で2年目のチームなのでこの順位になる事は開幕戦では予想もしていませんでした。今年はどこかのコースで表彰台に乗れれば幸い!くらいな話をテストの時にしていたかと思います。でもその中で、第2戦の菅生と最終戦のオートポリスが候補に上がっていましたね!開幕のもてぎも終わった矢先に熊本の震災があり、オートポリスでの開催が不安視されていましたが無事に開催が出来ることが決まり、私達の中で表彰台候補に挙がったコースで今季最後のワクワクするレースをしたいと思っています。
小野田 貴俊(以下、小野田):たしろさんは『意気込みはない』と言っていますが、僕はそんな事はありませんよ(笑)。ただ、シリーズタイトル云々よりも、1戦1戦を大事にしているのは事実です。相手のレベルが上がれば当然ついていく、追いつけ追い越せの考えです。そういう意味で言うと、現時点ではある程度目標は達成できている部分もあります。
-86号車 TOYOTA Team TOM’S SPIRITをどう見ている?
たしろ:速さと言う意味でも参考にしていますし、上位でゴールできれば嬉しいですけど、全然気にしていません。彼らは表彰台で優勝以外は笑いませんよね。でも、僕らは3位でも嬉しい。それを見て『我々と目指している物が違うんだ』と思いました。
伊藤:トヨタ直々のチーム、トップクラスのドライバー&裏方の皆様、どう見ても我々とは全てが懸け離れたチームだと思っていますね!ですので私達がガムシャラになってレースを楽しめる良い刺激的なチームだと思いますよ。皆が完璧な事をすれば結果が出る!当たり前の事が常に要求される、プロですから簡単でしょう。職業としている方々は他のチームの見本となっていただきたいですね!どんな事でも。
小野田:意識はしていませんね。それよりも他のプライベーターに追いつかれないかどうかのほうが気になります。
●77号車 CUSCO RACING
山田 英二 選手/木下 隆之 選手
-残り2戦、どのように戦うのか?
山田 英二(以下、山田):他のチームと違って我々は1年目の挑戦です。まだクルマが出来上がっていないので、パフォーマンスもまだまだな状態ですが、短い期間でのデータの積み重ねやエンジンの進化などを含めて、少しは横に並べる状態になったかなと。いいポジションにいたいと言う想いは強いですが、現状ではまだ勝てるとは思っていません。そういう意味では、今年の経験を元に来年に繋げていくことが大事だと思っています。
木下 隆之(以下、木下):ワークス(86号車)が4年掛かっても熟成できないと言う意味では、参戦3戦目でトップタイムを出せるようになったのは、チームの力の強さと“オレ”の実力ですね(笑)。もちろん目指すは頂点、そんなに甘くはないのはよく解っていますが、すぐに結果を出すつもりはないので、今年はトラブルが出ても暗い気持ちではないですね。
-86号車 TOYOTA Team TOM’S SPIRITをどう見ている?
山田:速さと言う意味では、エンドレスも速いので、86号車だから意識しているわけではないですね。ただ、兄貴(木下選手)が情報収集するとワークスらしくフェアに色々教えてくれるので、そこに対しては感謝する部分もあります。
木下:オレはバリバリ意識しています。最強チーム86号車の1つでも前を目指して、とにかく奴らの前にいることが大事だと。ただ、彼らはシリーズタイトルを目指しているので、それに勝つには来年に向けてもっと頑張る必要があるのも事実ですね。
ジェントルマンドライバーピックアップ
●100号車 amuse & SPV Racing
鵜飼 龍太 選手
今シーズン、86で戦うプライベーター「アミューズSPV 86」チームに鵜飼龍太選手と言うドライバーが参戦している。実は彼、トヨタ自動車の技術部で車両開発関係の仕事を担当しているサラリーマン。S耐への参戦は、もちろん業務ではなくあくまでもプライベートの活動。なぜ、彼がS耐に参戦しているのか? その理由を聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
-トヨタ自動車の社員だと聞きましたが…。
鵜飼龍太選手(以下、鵜飼) 技術部で評価ドライバーの1人として業務を行なっています。
-S耐参戦は仕事ではないですよね?
鵜飼 もちろん完全なプライベートです。昔からクルマが好き、レースが好き、走る事が大好きで、20歳前後の時カートに乗り、様々なレースにも挑戦してきました。
-クルマ好きになったキッカケは?
鵜飼 父親もトヨタに勤めていてトヨタ7などの開発に携わっていました。実はその中の1人である竹平素信(現在自動車ジャーナリスト)さんは自分の親戚で、彼の影響もかなり大きかったですね。
-そんなレース活動をやめた理由は?
鵜飼 たくさんお金も使い、それなりの経験を積んできたので、厳しさも感じていたと同時に“やりきった感”もありました。なので、レースの世界からはキッパリ足を洗い、今の仕事を行なうようになりました。
-では、なぜ再びレースの世界に戻ることを決意されたのでしょうか?
鵜飼 今の仕事に生かせる事が沢山ありますし、やっぱり単純に走る事、車、モータースポーツが好きだったんでしょうね(笑)。あとは「もっと運転が上手くなりたい」、「シッカリ評価をしていいクルマを作りたい」と言う強い想いもあり、それらを習得するための自己研鑽活動として選んだのがやはりレースだったわけです。2013年からは86のN1レースを通じレーシングドライバーの土屋武士さんにお世話になりドライビングやセッティングについて色々と教わりました。その中でレースへの魅力、想いが更に加速、昔ガムシャラに走っていた時とは違う感覚ですが、もう一度チャンスが有るならレースに参戦し自分を磨き直したいと思い参戦を決意しました。
-通常の業務をやりながら、レース活動となると大変ではないですか?
鵜飼 お金もかかる上に、仕事も休まなければいけません。レース参戦に向け、沢山の方々に協力して頂いています。大変なんて言ってられない立場です。応援、協力して下さる方々の為にも結果と成長を求め頑張り続ける必要性が有ります。本当に感謝の気持ちしか有りません。
-ちなみに、社内にスキルアップができる環境はないのでしょうか?
鵜飼 社内には安全かつ正確に運転をする厳しい資格が定められています。その資格を取得する為のトレーニング等は行われています。しかし自分の中では、仕事とは別の観点で、いち車好きとして、このような場で違った目線からもう一度、運転・車について考えてみようと思いました。
「もっといいクルマを作ろう」、「レースがクルマ、人を鍛える」と言うキーワードは、自分が若い時にレース活動を行なっているので実感しています。その中でもS耐は量産車ベースで参加型の最高峰レース。ここで走って勉強したいとアクションを起こしました。
-レースの世界に戻ってどうですか?
鵜飼 それなりには走れるんじゃないかと思っていましたが甘過ぎました、恥ずかしいです。今年の4戦目までは、プロドライバーの織戸学さんとも同じチームでご一緒させて頂き、ドライビング、セッティング、レース、車に対する想いを熱く指導して頂き、まだまだですが成長を実感する事ができました。
車づくりに関しては各チーム個性、工夫があり、やはりレースは面白いですね。車好きがここにはたくさん集まっています。このような活動の中で得た経験を今後生かせて行けたらと思います。
-具体的にはどんな事でしょうか?
鵜飼 具体的な表現は難しいですが1番は、もっと車好き、負けず嫌いにならないと良い車はつくれないという事でしょうか。どのチームも真剣です。限られた時間、限られた物、限られた予算の中でベストを尽くす…と言う重要性は仕事と同じですが、ここの世界には仕事以上に情熱が勝っています。特にワークスチームと争うプライベーターチームからは学ぶべき事が多く、資金面も苦しい中、本当に挑戦をする為の努力を続けています。
そういう意味では“初心”に戻る気持ちですね。また、普段では知り合えない車好きな方々と情報交換できるのも非常に楽しく有意義な場だと感じております。このような環境で学ぶべき事は多く本当に勉強になっています。
-逆に本業がレースに役立つことは?
鵜飼 申し訳有りませんがプライベートの活動なので(笑)、ロジカルに物事を語れる部分はあると思います。ただ今は、いち車好きとして謙虚な気持ちで勉強させてもらっています。また少しでもチームに貢献できるよう頑張っています。
-今後の目標はありますか?
鵜飼 個人的には、やれる限りS耐も出たいし、レース活動は継続したいと思っています。あとはこの世界で吸収したこと、いち自動車ファン、車好きとして少しでも開発の現場に届け、良い車づくりに貢献できたらと密かに企んでおります(笑)。そのためにも、今は「挑戦」、「試練」だと思い頑張っています。
次戦予告
- スーパー耐久 第6戦
- 開催予定:2016.11.19 ~ 20
場所:オートポリス
※プレビューページは2016年11月上旬公開予定です。
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