平川亮の挑戦
欧州ル・マン シリーズ参戦記
第3回:待ちに待ったル・マン24時間レース
ル・マン24時間レース
サルト・サーキット(1周13.629km)
テストデー:6/5(日)、公開車検1日目:6/12(日)、公開車検2日目:6/13(月)
オートグラフセッション:6/14(火)、予選1日目:6/15(水)、予選2日目:6/16(木)
ドライバーズパレード:6/17(金)、決勝:6/18(土)〜19(日)
6/2(木)移動日
ル・マンに向けて出発
こんにちは、平川亮です。今回はいよいよル・マン24時間レースです。
今年参戦する中で一番大きな大会ですし、伝統あるレースなのでとてもワクワクして臨みました。
でも、ル・マン24時間レースって2週間前から走行があるんですね。これにもビックリ。
しっかり準備したいと思いました。
まずは、日本からフランス ル・マンまで移動です。
いつも通り飛行機の中は爆睡で、あっという間のフライトでした。
夕方にシャルル・ド・ゴール空港に着き、レンタカーを借りてル・マン市内の宿泊先まで向かいました。
3時間半ほど走り、ナビにセットした住所に着いたのですが、どうにもホテルが見つかりません。
15分ほど辺りを探しましたが、やはり見つからず・・・チームマネージャーに連絡しました。
するとル・マンでの宿泊先はホテルではなく民家だという事が分かりました。
ル・マン市内はホテルの数が少なく、ル・マン24時間レースの期間中はホームステイのような感じで民家に泊まることがよくあるみたいです。
初日で時差ボケも酷く、21時頃にカーテンを閉め切って(日没が22時ぐらいなので)早く寝ました。
6/3(金)サーキット入り
まずはテストデーに向けての準備開始
ル・マンはコースの3/4くらい公道を使うため、事前にテストができません。
そのため、決勝の2週間前にテストデーというのが1日だけ設けられていて、車の最終確認や、僕のようなルーキードライバーの慣熟走行が行われます。
そのテストデーに向けて、今日からル・マン24時間レースの舞台となるサルト・サーキット入りです。
サーキットに着くとピットは、2週間後の24時間レースに向けすでに設営されていて、60台分のピットやその裏の設備が並んでいるのを見ると、本当にル・マンに来たんだなあと実感しました。
今日の目的は、新しいシート作り。
ところが、シート作りは3時間くらいで終わってしまい、その後やることなく本当に暇でした(笑)
夕方にチームメイトのマティアス(・ベシェ)と合流し、コースの公道部分をレンタカーで下見。
実際にコースになる部分を見てみると「本当にここを300キロ以上で走るのか・・・」と、少しビビり気味でした(笑)
6/4(土)テストデー前日
明日の走行に備えて入念なコースチェック
今日午前中はコースの常設サーキット部分をランニング。
午後はチームメイトのマティアスや、TOYOTA GAZOO Racingのチームアドバイザー兼アンバサダーであるアレックス(・ブルツ)と一緒に、自転車でコース全部を下見しました。
マティアス、アレックスともにル・マンの経験が多く、コースの走り方や危ない部分を念入りに教えてもらいました。
ル・マンに向けてはシミュレーターでたくさん練習をして来ましたが、実際に自転車で走ってみると、コースの雰囲気・・・特に路面の凸凹や縁石などがシミュレーターで感じたものと全く違いました。
走るのがとても楽しみになりました。
コースチェックの後は、明日の走行に向けてブリーフィングを行いました。
6/5(日)テストデー
待ちに待った初ル・マン
ようやく待ちに待ったル・マン初走行です。
テストデーは1日だけですが、走行は9:00~13:00と14:00~18:00の計8時間あり、通常の耐久レース以上に走ります。
レギュレーションで「(ル・マンに初めて参戦する)ルーキードライバーは10周以上走らなければならない」という決まりがあるため、僕は2回に分けて10周以上走りました。
初走行の感想は「危ない箇所を抑えれば、普通のサーキットのように走れる」でした。
しかし、走行中にふと横を見るとガードレールの高さが1mしかなかったり、路面の凸凹でハンドルを取られたりと、普通のサーキットとは違うところもかなりありました。
特に路面の凸凹はすごく、オンボードやテレビの映像では全く分からない「凸凹レーン」がある程です。
特に、ユーノディエールのストレートとミュルサンヌからインディアナポリスにかけてはひどく、左と右の2箇所に凸凹レーンがありました。
そこを横切る際には一気に渡らなければいけませんし、オーバーテイクする/されるときはしっかりとレーンを選ぶ必要がありました。
午前のセッションは15周ほど走りましたが、かなり神経を使ったみたいで、いつもより疲れました(笑)
昼寝をして心身をリフレッシュし、午後のセッションは少し攻めてみました。
路面コンディションも、朝からどんどん良くなっていくのが分かりましたし、攻めてみて、とても面白いコースだなあと思いました。
午後も10周ほど出来、それなりのタイムが出ましたが、まだまだタイムアップ出来る感覚があったので、正直もっと走りたかったです。
でも、次に走るのは1週間後です(笑)
<結果>
公式テスト:総合16位(LMP2クラス7位) #46 ピエール・ティリエ/マティアス・ベシェ/平川亮 3:38.581
6/6(月)〜11(土)
つかの間のリラックス
テストデーから公開車検日まで日にちがありますが、僕は日本には戻らずチームメイトのピエール(・ティリエ)の地元であるルミルモン(フランス東部の町。パリから東に約400km程)に移動し、チームメイトやフィジオセラピストと一緒にトレーニングをして過ごしました。
6/12(日)公開車検1日目
ル・マン24時間レースウィークの始まり
いよいよル・マン24時間レースウィークの始まりです。
これから1週間、サーキットやル・マン市内でいろいろなイベントが開催され、本当に市を挙げてのお祭りのようです。
その始まりがル・マン市内での公開車検です。
普通のレースでは、サーキットで車検が行われますが、ル・マンでは、わざわざレース車両を市内の広場に運び、たくさんのファンの前で車検が行われます。
レースまでまだ1週間あるというのにすごい数の人が車検を見に来ていました。
レース車両や装備品のチェックを行った後に、ティリエ・バイ・TDSレーシングの集合写真撮影やトークショーを行い、今日は終わりです。
6/13(月)公開車検2日目
公開車検2日目でしたが・・・
今日は公開車検の2日目ですが、僕らのチームは昨日車検を終えたので、夕方のコースチェックしかやる事がありません(笑)
午前中は宿泊先でゆっくりし、お昼頃サーキットに入りました。
ティリエ・バイ・TDSレーシングのチームケータリングで食事をしたりしてリラックスした時間を過ごし、ようやく夕方になったので、チームメイトの2人とコースを下見に行きました。
いつもは歩いてコースを確認しますが、さすがに1周13.629kmは長く、先週もテストで走っているので、バイクでのチェックとなりました。
最初は天気が良かったのですが、ユーノディエールのストレートに入った所から雨がポツポツ・・・ミュルサンヌに着く頃には本降りの雨に(笑)
その時点でまだコースの半分地点でしたが、下見ということを忘れ、とにかく急いでパドックを目指しました。
15分以上雨に打たれ、パドックに着く頃には全身ずぶ濡れ状態・・・最悪なコースチェックでした(苦笑)
今年のル・マンは例年以上に雨が多いみたいです。
6/14(火)オートグラフセッション
明日からの走行に備えて
明日からの公式練習・予選に備えて、今日は朝から今年のル・マン24時間レースに参加するドライバー全員によるブリーフィングがありました。
急に早起きをしなければならず、体もビックリです(笑)
ブリーフィングの後に、恒例のドライバー集合写真をコース上で撮りました。
180人のドライバーをちゃんと並べるのは大変だろうなあと思いながら、待っていました。
その後はチームとミーティングを行い、夕方からオートグラフセッション(日本で言うピットウォーク)を迎えました。
何と1時間半もありましたが、雨にもかかわらずファンの列はずっと途絶えることがなく、あっという間に終わりました。
6/15(水)予選1日目
いよいよ本番、走行1日目
今日は朝にプレスカンファレンスがあり、夕方になってようやく走行開始です。
16:00~20:00に公式練習、22:00~0:00に1回目の予選です。
朝から走ればいいのになあと思いながら、これもル・マンの伝統の一つなんだろうなあと思いました。
公式練習ではテストデーから大きくセットアップを変えたので、まずその確認を行ってから、さらに細かいセットアップの変更をしていきました。
予選1回目では「ルーキードライバーは夜のセッションで5周以上しなければいけない」という決まりのため、早速僕が走行を担当。
初めてル・マンの夜を走りましたが、意外と明るいなという印象でした。
途中、暗くて見えづらい所もありましたが、特に問題はなさそうです。
予選アタックは今回もマティアスが担当しますが、予選1回目はトラフィックなどで思うようにタイムを出せなかったようです。
<結果>
公式練習:総合14位(LMP2クラス5位) #46 ピエール・ティリエ/マティアス・ベシェ/平川亮 3:40.455
予選1回目:総合15位(LMP2クラス7位)#46 ピエール・ティリエ/マティアス・ベシェ/平川亮 3:39.375
6/16(木)予選2日目
雨の予選2日目
今日は19:00~21:00に予選2回目、22:00~0:00に予選3回目です。
昨日の予選が不本意だったので、今日に期待・・・というところでしたが2回とも雨でした。
雨量が多くあまり走ることができませんでしたが、3回目の予選でレインタイヤを履き、車のチェックやコースの感触を掴みました。
雨のためタイムも更新することができず、決勝はLMP2クラスの7番手スタートに。
ポテンシャル的にはまだ前を狙えた感触があったので悔しい結果でしたが、ル・マンのスタート順位はあまり重要ではないので、レースでの挽回が楽しみです。
<結果>
予選2回目:総合12位(LMP2クラス4位)#46 ピエール・ティリエ/マティアス・ベシェ/平川亮 3:40.611
予選3回目:総合11位(LMP2クラス4位)#46 ピエール・ティリエ/マティアス・ベシェ/平川亮 4:16.988
予選総合:総合16位(LMP2クラス7位)#46 ピエール・ティリエ/マティアス・ベシェ/平川亮 3:39.375
6/17(金)ドライバーズパレード
伝統のドライバーズパレード
今日の最大のイベントは、ドライバーズパレードです。
サーキットから再びル・マン市内に戻り、夕方から出場全ドライバーがチーム毎にクラッシックカーに乗り、市内をパレードします。
パレードの道の両側には、とにかくすごい数の人が詰めかけ、レース前日という事もあり大盛り上がりでした。
本当に伝統のある大きなレースなんだなと実感しました。
ついに明日レースが始まります。
6/18(土)〜19(日)決勝
いよいよル・マン決勝
いよいよ待ちに待ったレース日です。
2週間前のテストデーからあっという間にこの日が来たような気がします。
まず、朝9時から45分間のウォームアップ走行があり、マティアスが車の最終チェックを行いました。
15時がレーススタートなのに、なんで朝から走行するのかなあと思いましたが、13時にはコース上に車を並べてグリッドウォークが始まり、本当にものすごい数の人たちで身動きがとれないくらいになりました。
スタート1時間前の14時からは、スタートセレモニーが行われました。
出場する全てのドライバーの国の国歌が演奏されたり、グリッド上にドライバー、エンジニア、メカニックが整列したりと、これがル・マンなんだなあとつくづく思いました。
15時からいよいよレース開始です。
しかしスタートセレモニーの途中から雨が降り出し、レースはセーフティーカースタートになってしまいました。
スタートはマティアスが担当。
1時間近くセーフティーカー先導の後、雨が上がりようやくレースが始まりました。
マティアスが3時間半以上走行し、LMP2クラス2番手まで順位を上げたところで、いよいよ僕に交代です。
交代する直前にエンジニアから3、4スティント走ると言われましたが、恐らく4スティント(約3時間の連続走)だろうなと思いながら乗り込んだのを覚えています(笑)
初めて連続4スティントを走りましたが、途中69周目にLMP2クラストップに上がりましたし、73周目にはその時点でのファステストラップ(3:37.990)も記録したようでまずまずでした。
しかし、最後のスティント(20:55~21:40)は日没の時間とばっちり重なり、前が全く見えないコーナーもあり、かなり大変な思いをしました(笑)。
バトンをピエールに渡した後は、チームのケータリングで軽く食事をとり仮眠室に向かいました。
3時間ぐらい仮眠出来る時間がありましたが、走行後でアドレナリンが出ていたり、耳栓をしているのにエンジン音が聞こえてきたので、中々寝付けませんでした。
でも気が付いてみると、1時間ぐらいはしっかりと寝られたようです。
そこで次の走行に備えて、パドックに向かいました。
2回目のマティアスの走行中にステアリングトラブルがありましたが、チームの完璧な対処で2~3分のロスで済んだようです。
栄養補給のためにパンをかじりながら、データエンジニアと色々と話しをしながら自分のスティントを待ちました。
次は、いよいよ初めての夜の4スティント(AM3:00~5:46)です。
最初の1周は暗さに目を慣らす為、少し慎重に走りましたがすぐに慣れました。
LMP2クラス2位でバトンを受け継いでから特に大きな出来事はなく、坦々とLMP2クラス2位を維持しながら4スティントを走り終えました。
個人的には夜のスティントは明かりなどの雰囲気が良く、好きでした。
ピエールにバトンを渡した後、軽食をとって仮眠室に向かいました。
朝なので流石に眠気もあり、最初よりは寝られそうだなと思いました。
ところが丁度寝るか寝ないかのところで、チームの人が起こしに来ました。
爆睡しすぎて「もう起きる時間?」と思いきや、ピエールがクラッシュしたとの情報でした。
車はフロントカウルを完全に失った状態でピットに戻ってきて修復。
再度コースに出ましたが、フロントサスペンションが完全に壊れていて治らないという事で、241周(AM7:30)で残念ながらリタイヤとなりました。
僕らは優勝争いをしていましたし、車も速かったのでこの結果は非常に悔しいです。
でも今回のル・マンで、いろいろな経験をさせてもらいました。
昼と夜の連続4スティント走行
速い車、遅い車が混走している中でいかにリスクをおかさず安定したペースで長時間走るか
・・・などです。
そして何より、ル・マンではドライバーもチームの一員として、24時間後のゴールに向けてしっかりバトンをつなぐことの大切さを知りました。
通常のレースではリタイヤするようなトラブルでも、ピットまで戻って来れれば、メカニックが必死になって修理し、再びコースに復帰し戦うことができます。
エンジニアも24時間ずっと車のデータを監視し、ドライバーに適切な指示をしてくれます。
ル・マンって本当にチームとして戦っているんだなということを学びました。
来年も絶対に、このル・マンに戻ってくるぞ!と思いました。
たくさんの応援、ありがとうございました。
さて、次のレースは7/16(土)〜17(日)にオーストリア・レッドブルリンクで行われるELMS 第3戦です。
<結果>
決勝:241周にてリタイヤ #46 ピエール・ティリエ/マティアス・ベシェ/平川亮