未来を担う5人の若手ドライバー 中編(1/2)
「レースとラリー、怖いのはどっち!?」
ようやく5人のエンジンも温まったようで、ここからトークもアクセル全開です。第2回のテーマは『レースとラリー』。TDPの平川選手、山下選手、坪井選手の主戦場はサーキット。一方、TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジプログラムの勝田選手、新井選手は一般道が舞台の中心です。それぞれのおもしろさや難しさなど、思う存分語り合ってもらいます。どうやら、今回のキーマンは全日本F3選手権にも参戦していた勝田選手のようですね。
ラリーの難しさは視覚と聴覚をフルに使うことにあり
―― 勝田選手はフォーミュラレースからラリーへ転向したと聞いていますが、現在の課題はどういうところにありますか?
勝田貴元(以下、勝田) 実は父親がラリーをやっていたので、子供の頃はラリーを見ていました。でも、自分でやったのはフォーミュラレースで、逆にラリーの経験はまったくなかったんです。 だから取り組み方を切り替えると言うよりは、新しいことに挑戦している感じです。でも、速く走ること、クルマとグリップに合わせた走り方をするという意味では、基本的にラリーカーもフォーミュラカーも同じだと思うんです。 ただラリーでは、ペースノート(※)に従って走るという、レースにはない要素があります。ここが今の自分の課題になっています。
※ ラリーではコースの状況を記載したメモを助手席に乗るコ・ドライバーが読み上げ、ドライバーはそれを聞いて次のコース状況を理解して走る。このメモをペースノートという。
ラリーで使われるペースノート
新井大輝(以下、新井) ペースノートは難しいんです。ラリーは、目で見ながら、耳でペースノートの指示を聞いて走るという競技です。日本人の場合、英語で聞いて日本語に変換して理解すると思うんですが、僕の場合は(子供の頃の海外生活から)英語のまま頭に入ってきたのでその点はまだ楽でした。 それに、その指示を耳で聞いて、自分の頭の中で自分の目で見た情報とつなぎ合わせて走らないといけないんです。たとえば、目で見ると緩いコーナーでもペースノートでは曲がり込んでいるということがあります。目には錯覚がありますからね。 さらに、海外では国によって道が違うし、同じ国の中でも地方によって道の作り方が違ったりもします。だからペースノートがあるんですが、視覚と聴覚をすりあわせるので、慣れないと頭がオーバーヒートしてぼーっとしてしまいますね。
勝田 僕はまだ、ペースノートの問題だとか経験不足の問題があって結果を出しに行くとリスクが高いんです。ラリーの場合はレースと違って、コースアウトしてもランオフから戻ってこられるというものではなくて、大クラッシュしてしまいます。だから、しっかり走って経験を重ねようと心がけています。 それでも今年、何回かクラッシュしてしまいました。ラリーは『同じミスをしない』と言っても、(基本、周回コースではないから)同じコーナーがないので簡単ではないんです。走るコーナー全部が異なるので、さっきのコーナーはこれくらいの曲がり方でグリップレベルはこれくらいだったから、と思って入っても条件が違ったりする。そこが難しいんです。
ヨーロッパラリー選手権(ラリーエストニア)に参戦中の勝田貴元
―― ラリーでがんばっている2人の話を聞いて、サーキットを走っている皆さんはどんなことを感じますか?
坪井翔(以下、坪井) ラリーは、まったく想像ができない世界です。たまにシミュレーターで試してみることがあるんですけど、走るだけでもすごいですよね。しかもペースノートに沿って走るなんて。僕なんかF3で、ちょっと無線が入るだけでわけわかんなくなっちゃうのに。
勝田 わけわかんなくなっちゃうのは淳さん(山田淳トムスF3エンジニア)が怖いからでしょ?(笑)
坪井 そこはちょっと(苦笑)。でもほんと、想像できない世界で戦っているんだなあと驚いています。ちょっと無線が入るだけで動揺してしまうのに、それが毎コーナー毎コーナーというのはね。どこに集中すればいいのか想像もつかないですね。 サーキットだったら自分が見たままの視野で100%そこに力を注げるので楽だけど、ラリーは大変ですよね。僕には考えられません。
全日本F3選手権に参戦する坪井翔
山下健太(以下、山下) ラリーのオンボード映像を見ると、ほんとうにこの人たち頭おかしいなあと思いますね(笑)。
新井 マカオのF3も同じようなものじゃないの(笑)。
山下 いやいやいや。マカオは毎周同じところを走るじゃないですか。
新井 コース幅と速度を考えたら、同じだよ。
山下 だって、ラリーははみ出たらケガしちゃいますよ。
新井 マカオだって、飛び出せばケガしますって。
山下 でも、本当にラリーはすごいなと思うんですよ。